死んだ竜を探しにいく

悠行

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死んだ竜を探しにいく3

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「意外ですね。昔から優等生だったのかと思っていました」
 やんちゃという言葉に驚いて言った。今の婦人はとても落ち着いた人であるし、婦人のことを調べるために読んだ別の雑誌の記事でも、そのような印象を受けていた。
「そんなことないのよ。今でも、夫といる時ははしゃいでしまって馬鹿なことをしているしね」
 笑った婦人の表情からは、確かにその面影のようなものが感じられた。
「たっちゃん……さんとは、他にどのようなお話を? 先程の恐竜にきっかけを持たれたお話も、彼からのようですが」
「そうね、彼はその他にもいろんな話を教えてくれた。彼にはお祖父さんしかいないから、昔話には詳しいんだって自分で言ってたわね」
 昔話が懐かしいからか、婦人は穏やかな表情である。私はメモを取るのに必死だった。
「竜伝説で言われているのは、確か、竜が水の中で生まれる、竜と結婚したら不老になるとかが有名ですよね」
「そうね、最近開発反対のために自治体が作った本を見せてもらったのだけれど、その話が竜伝説として主に載っていたわ」
「恐竜の話はあまり言われてませんよね」
「ええ、でも特に印象に残っているのは恐竜の話なのよ」
「詳しく聞いてもいいですか?」
 彼女は顔をほころばせた。しかし何故だか分からないが、目に力が入り真剣な眼差しになった気がして、私の方も、姿勢を思わず直した。やはり昔から興味がある話題だからなのだろうか?
「もちろんよ。彼によると昔は竜に決まりが無くて、よく仲違いしていてね。死んでも仲間が魂を天国に持って行かなくて、そんな竜の魂は漂流して、いずれ恐竜になっていったのね」
「でも魂を持って行ってもらえないってことは、竜にとってとても恐ろしいことですよ……きっと」
「そうよね。人間も死んだらそこで終わり、っていうのは怖いもの。それで決まりを作って、決まりを破った竜以外の魂は誰かが絶対に天国に持って行くようにしたんですって。元々竜は人間程悪さをしないということもあって決まりを破る竜はその後一匹も出なくて、だから今は恐竜がいないんだ、って。決まりってどんなのって聞いたらね、他の竜を殺したり、竜と人が必要以上に仲良くなったりしたら追放されるんだって言うの。竜が人に見られるのもいけないんだったかしら」
「なるほど」
 私はしっかりとメモを取りながら聞いた。婦人は話を続ける。声にも力が入ってきた。

竜と人間が仲良くなったらいけないっていう決まりがある、私はそれで少しがっかりしたの。竜と仲良くなれないんだなぁって思って。それで、その決まりが間違っていたりすることは無いのって聞いたことを覚えているわ。彼は、知らないけれど、その決まりは何億年も前に決めたから、そうは変わらないって言ってたわ。でも竜はそこらにいるから、きっと会えるって彼は続けた。ひょっとしたら、仲良くなれることもあるかもしれない、って。それを聞いて私はわくわくしたわ。
 放課後はいつも一緒に遊んでいたわ。二人の時も、友達大勢と一緒の時もあった。彼は暴れん坊だったけど、面白いことを思いつくからみんな一緒に遊びたがった。でも一度、彼がお金を盗んだんじゃないかと言われて、友達がみんな口をきかなくなったことがあったの。結局は濡れ衣で、謝って元に戻ったのだけれど。私はその時彼がそんなことするわけないって思っていたけれど、友達全員が怖く感じたわ。その時彼以上に気落ちしている私を彼は心配してたわね。畦道をとぼとぼ帰りながら、前に彼が言ったことを思い出して、竜も間違いで追放されたりしないのかなってぼそって言ったの。そしたら彼、竜はそんなことしないだろうって元気良く言うのよ。私もそうね、そうねなんて言って、二人で作った変な歌を歌いながら家まで駆けたわ。よく考えたら友達に疑われていたのに、呑気なものだったわね。とにかく底抜けな明るさがある子だったのよ。
 そんな彼が、ある日から、急に元気が無くなってしまったの。理由は明らかで、お祖父さんが亡くなったからだったわ。厳しい寒さで体調を崩したのね。今後彼はどうするのか見通しも立っていなかったし、落ち込んで当然。でも私は小さいからあまりその辺の事情がよく分からなかったの。とにかく友達を励ましたかった私は、山に行こうと誘ったわ。死んだ竜を探しに行こうって。

「竜に会ったというのはそこでですか?」
 私は思わず話をさえぎるように聞いてしまった。しかし婦人は気を悪くした様子もなく、真剣に頷きながら言った。
「ええ。彼と山に入って」
「でも、竜は様々なものに擬態しているんですよ。なんで会えると思ったんですか」
「死んでいたら、擬態できないと思ったの」
「それに、竜には人に見られたらいけないという決まりがあるのも知っていたのなら、その竜にとって不利益になるとは考えなかったんですか?」
我ながら、このような昔話を糾弾して、記者としておかしいと思ったが言ってしまった。
「幼い頃でそこまで頭が回らなかったというのもあるけれど……その決まりが間違っていると思っていたからかもしれないわ。竜がそんな馬鹿げた決まりで、仲間にひどいことをするわけが無いと信じていたの」
 大学教授という職業柄なのか、それは私に聞かせているというよりももっと他の誰か、大勢に聞かせているようだった。私は思わずペンを止め、顔をあげた。婦人と目が合った。続けるわね、と言い、また話し始めた。
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