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3章 本を旅する
3章 本を旅するー11
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「話の着想が元々『もし私だったら』なんだよ、私は。だから、全部そうなっちゃう」
「じゃあ、書店の世界にいた時は、本中さんは主人公だったんですか」
「そうだよ」
てっきり他の小説のように、旅人のように入り込んでいたのかと思っていました。
「じゃあ本中さんが出てきた今、本中さんの本の世界はどうなっているんでしょう」
「普通に主人公がいるんじゃないかなぁ」
「確認できないですもんね」
「そうなんだよ」
私はふと思います。いつも本中さんは私を連れてこの世界に戻ってきます。でも、もし置いて行かれたら? 私はどうなってしまうのでしょう。
本中さんは考え込む私を見て、「嫌だよ」と言いました。
「どうせ私が本の世界に置いて行ったらどうなるんだろうとか考えてるんでしょ」
「よく分かりましたね」
「出会った頃は分かりにくい奴だと思ってたけど、戸成さんは素直だから分かりやすいんだもん」
「そうですかねぇ」
でも確かに怖いので、私も無理に進んでやろうとは思いませんでした。
「戸成さん、覚えてる、あの他田さんだっけ、の小説に入った時のこと」
「覚えてますけど」
「あの時、私達和菓子屋でお金を払ったでしょ」
「ああ、そういえば」
「あのお金、小説の世界のことだし、戻って来るんじゃないかと思ってたんだ」
「私特に確認しませんでした」
「あのあとお金払うときに、見たら減ってた。あの時私所持金が元々2000円くらいしか無くて、あると思って買おうとしたらお菓子の分のお金が減ってたから驚いたんだ」
「そうだったんですか……」
「だからさ、思うんだけど、多分そのお金はまだあの小説の世界の中にあるんだよ。だから、もし戸成さんを置いてきなんかしたら」
「そこに閉じ込められる、というわけですか」
少しぞくりとしました。今まで全く怖いとも思わなかった小説世界が、なんだか恐ろしいものに思えてくるのです。
「よく考えたらこの能力って得体がしれないもんね」
不安げな私を見て、本中さんがため息をつきました。
「やっぱり、詳しく知った方がいい。私が詳しく知ったらこの能力が無くなるんじゃないかとか、他にも……いろいろ我がままで謎を放置してたけど、このまま本の中の世界を楽しみたいなら、それ相応に知らないといけない」
本中さんは途中言葉を濁らせながらも、強く言いました。
そう強く本中さんが言ったのとほぼ同じタイミングで、携帯が何かを受信したらしく点滅しました。
「なんだろ」
私の携帯も同じく光っていることに気付き、見ると重垣さんが私と本中さんに一斉に送信したのでした。あのコメントを送ってから、数日は経っています。
「ナイスタイミング」
見れば、「私には分からない、実は妻の小説をパソコンで代筆しているのです」と書いてあり、「この前のお前らが小説に入る前に出したメッセージの返信」と説明が書いてある。
「あの人、明子さん、旦那さんがいたんだね」
「なるほど、旦那さんが打ってるからウェブとか言ってもよく分からなかったんですかね」
「なんだか不思議だなあ」
そう話し合っていると、本中さんの部屋がノックされ、開けるとやはり重垣さんでした。
「なぁここ女子寮なんだろ、めちゃめちゃロック甘いぞ」
そう文句を言いつつ入ってきます。
「まぁ部屋に鍵ついてるし、まだ昼間だしね」
「じゃあ、書店の世界にいた時は、本中さんは主人公だったんですか」
「そうだよ」
てっきり他の小説のように、旅人のように入り込んでいたのかと思っていました。
「じゃあ本中さんが出てきた今、本中さんの本の世界はどうなっているんでしょう」
「普通に主人公がいるんじゃないかなぁ」
「確認できないですもんね」
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私はふと思います。いつも本中さんは私を連れてこの世界に戻ってきます。でも、もし置いて行かれたら? 私はどうなってしまうのでしょう。
本中さんは考え込む私を見て、「嫌だよ」と言いました。
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「よく分かりましたね」
「出会った頃は分かりにくい奴だと思ってたけど、戸成さんは素直だから分かりやすいんだもん」
「そうですかねぇ」
でも確かに怖いので、私も無理に進んでやろうとは思いませんでした。
「戸成さん、覚えてる、あの他田さんだっけ、の小説に入った時のこと」
「覚えてますけど」
「あの時、私達和菓子屋でお金を払ったでしょ」
「ああ、そういえば」
「あのお金、小説の世界のことだし、戻って来るんじゃないかと思ってたんだ」
「私特に確認しませんでした」
「あのあとお金払うときに、見たら減ってた。あの時私所持金が元々2000円くらいしか無くて、あると思って買おうとしたらお菓子の分のお金が減ってたから驚いたんだ」
「そうだったんですか……」
「だからさ、思うんだけど、多分そのお金はまだあの小説の世界の中にあるんだよ。だから、もし戸成さんを置いてきなんかしたら」
「そこに閉じ込められる、というわけですか」
少しぞくりとしました。今まで全く怖いとも思わなかった小説世界が、なんだか恐ろしいものに思えてくるのです。
「よく考えたらこの能力って得体がしれないもんね」
不安げな私を見て、本中さんがため息をつきました。
「やっぱり、詳しく知った方がいい。私が詳しく知ったらこの能力が無くなるんじゃないかとか、他にも……いろいろ我がままで謎を放置してたけど、このまま本の中の世界を楽しみたいなら、それ相応に知らないといけない」
本中さんは途中言葉を濁らせながらも、強く言いました。
そう強く本中さんが言ったのとほぼ同じタイミングで、携帯が何かを受信したらしく点滅しました。
「なんだろ」
私の携帯も同じく光っていることに気付き、見ると重垣さんが私と本中さんに一斉に送信したのでした。あのコメントを送ってから、数日は経っています。
「ナイスタイミング」
見れば、「私には分からない、実は妻の小説をパソコンで代筆しているのです」と書いてあり、「この前のお前らが小説に入る前に出したメッセージの返信」と説明が書いてある。
「あの人、明子さん、旦那さんがいたんだね」
「なるほど、旦那さんが打ってるからウェブとか言ってもよく分からなかったんですかね」
「なんだか不思議だなあ」
そう話し合っていると、本中さんの部屋がノックされ、開けるとやはり重垣さんでした。
「なぁここ女子寮なんだろ、めちゃめちゃロック甘いぞ」
そう文句を言いつつ入ってきます。
「まぁ部屋に鍵ついてるし、まだ昼間だしね」
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