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八月六日
ピロピロン、とケータイが鳴った。メールだ。急いで確認すると、
『元気にしてる?もう、まったく、透子は全然連絡してくれないんだから!心配するでしょ?たまには連絡しなさいよ!』
なんてことはない、お母さんからだった。なぁんだ、と気が抜けて、あくびをしながらかちかち、と適当に文面を打つ。今日も朝から忙しかったのでくたくただ。
『はろー。元気ですよ、体が元気なこと以外私には誇れることはありません。楽しくやってます。セロという八歳の子もなんか一緒に暮してて、いい感じです。そっちこそ体には気をつけた方がいいのでは?』
「送信」と呟きながらボタンを押し、気がつくと体操座りをしている私の上から、セロが覗きこんでいた。
「うわっ」
全く気付かなかったので思わずのけぞった。
「そんなに驚かなくっても」
やわらかそうな髪をタオルでごしごし拭きながらセロは不服そうだ。
「いつからいたの?」
「いい感じです、から」
つまりセロという~の部分も全部読んでいたのだろうか。変なことは書いていないが、なんだか焦った。
「ぼくがいて、いい感じなんでしょ」
「ああ、まぁ」
「それってぼくが好きってこと?」
「何でそうなんのよ」
「そうでしょ」
「・・嫌いじゃないけど」
「好きなの?」
「変な意味じゃないよ。弟みたいな感じ」
「そりゃそうでしょ。とーこおねーちゃんがぼくにレンアイカンジョウだったら変だよ」
レンアイカンジョウ、がロボットみたいな言い方だったので私は思わず笑った。
「まぁね、抱いてたらショ・・おっと」
純粋な子供にショタコンなんていう言葉を教えてはいけないと思い途中で止めた。
「ショ?何?」
「何でもないよ。でもセロは見た目がいいから、モテるんんじゃない?」
「ぼく見た目いいの?」
「それなりに」
「そうなの?」
「うるさいなぁ、女に見た目褒められたんだから喜んどけ」
「喜ぶものなの?」
「なんかしつこいなぁ。知らないよ、もっと大きくなったら分かるでしょ」
面倒臭くなって適当に言うと、セロは何故か下を向いて考え始めた。眉間にしわが寄っている。
「・・・どうした?」
何か気に障る事でも言ったかと心配になり思わず声をかける。すると途端こっちを向いて「何でもないよ」と元気そうに笑った。
「ねぇ、ところでさ、そっちこそ体には気をつけた方がいいのでは、って何?お母さん、体弱いの?」
「ううん。そうじゃなくて妊娠してるの」
そう言うとセロは首をかしげて「ニンシン?」と呟き、驚いたように
「赤ちゃんが生まれるってこと!」
と叫んだ。
「そうだよ」
反応の大げささにあきれて答える。私のお母さんは今妊娠八カ月。身重である。この前には胎動を聞かせてくれたりした。透子まで世話しきれないわ、行ってらっしゃいと言って貰えたのはその為でもある。私がいたって、お母さんの役に立つわけもないのだ。
妊娠でつわりが激しくなって、とうとう母さんは三月、長年勤めた会社を辞めてしまった。その後同じ職場だったお父さんたる橋田サンの異動が決まり、お母さんが昔働いていた、本社のある今住んでいる場所に家族で引っ越して来たというわけだ。
やめる必要なんてないのに、と言ったら、いいじゃない、専業主婦も楽しいわよと笑ったお母さんの顔を私はありありと思い出せる。
その幸せそうな顔は、私を不快にした。なぜだか分からないけど。
「じゃあ弟が出来るんだ。でも一六歳離れてるってことは弟が小学校卒業するころにはとーこおねーちゃん28?すごいね」
「弟って決まったわけじゃないでしょ、妹かもよ」
「なんかわかるんじゃないの、なんか見れるんでしょ」
「さぁ、知らない」
「ふうん。でも楽しみでしょ?」
「うーん、まぁまぁかな。」
「なんで?」
「別に・・小さい子供そんなに好きじゃないの」
「ぼくは?」
「セロはなんかしっかりしてるし。すぐに泣いてうるさい子供って大嫌い」
「ぼくだってうるさいよ。家ではね。泣いて怒ってばっかで、困らせてるけど止められないの」
「じゃあそれ外面な訳?」
「そうだよ。」
当然のように言うのでびっくりしてしまう。
「それに昔はとーこおねーちゃんもそんな感じだったんだし」
「だから嫌なの。」
その昔、お母さんの妹の子供がちょうど私がセロの歳だったときに生まれ、見に行った。最初は可愛かったけど、だんだん泣きわめきスカートは引っ張りおっしこは漏らしの最悪の悪魔に変わった。その思い出があって、私は今でも彼に会っていない。今は8歳だからセロぐらいにはなっているのだろうが、多分こんないい子じゃないだろう。
私もこんなんだったの、とお母さんに聞くと、ここまでじゃないけどねと笑ったので、なんだか12歳にして過去の自分への自己嫌悪に陥ってしまった私である。
いつの間にか黙り込んでいた私の眉間をセロがぐにぐにと押し始めた。
「何?」
「眉間にしわが」
「さっきセロも寄ってたよ」
笑って言うと、嫌そうな顔をして、
「うそ」
と叫んでおでこを抑えたので「ホント」と軽くそこを指ではじいてやった。
「むぅ」
セロが口をとがらせる。
ピロピロン、とケータイが鳴った。メールだ。急いで確認すると、
『元気にしてる?もう、まったく、透子は全然連絡してくれないんだから!心配するでしょ?たまには連絡しなさいよ!』
なんてことはない、お母さんからだった。なぁんだ、と気が抜けて、あくびをしながらかちかち、と適当に文面を打つ。今日も朝から忙しかったのでくたくただ。
『はろー。元気ですよ、体が元気なこと以外私には誇れることはありません。楽しくやってます。セロという八歳の子もなんか一緒に暮してて、いい感じです。そっちこそ体には気をつけた方がいいのでは?』
「送信」と呟きながらボタンを押し、気がつくと体操座りをしている私の上から、セロが覗きこんでいた。
「うわっ」
全く気付かなかったので思わずのけぞった。
「そんなに驚かなくっても」
やわらかそうな髪をタオルでごしごし拭きながらセロは不服そうだ。
「いつからいたの?」
「いい感じです、から」
つまりセロという~の部分も全部読んでいたのだろうか。変なことは書いていないが、なんだか焦った。
「ぼくがいて、いい感じなんでしょ」
「ああ、まぁ」
「それってぼくが好きってこと?」
「何でそうなんのよ」
「そうでしょ」
「・・嫌いじゃないけど」
「好きなの?」
「変な意味じゃないよ。弟みたいな感じ」
「そりゃそうでしょ。とーこおねーちゃんがぼくにレンアイカンジョウだったら変だよ」
レンアイカンジョウ、がロボットみたいな言い方だったので私は思わず笑った。
「まぁね、抱いてたらショ・・おっと」
純粋な子供にショタコンなんていう言葉を教えてはいけないと思い途中で止めた。
「ショ?何?」
「何でもないよ。でもセロは見た目がいいから、モテるんんじゃない?」
「ぼく見た目いいの?」
「それなりに」
「そうなの?」
「うるさいなぁ、女に見た目褒められたんだから喜んどけ」
「喜ぶものなの?」
「なんかしつこいなぁ。知らないよ、もっと大きくなったら分かるでしょ」
面倒臭くなって適当に言うと、セロは何故か下を向いて考え始めた。眉間にしわが寄っている。
「・・・どうした?」
何か気に障る事でも言ったかと心配になり思わず声をかける。すると途端こっちを向いて「何でもないよ」と元気そうに笑った。
「ねぇ、ところでさ、そっちこそ体には気をつけた方がいいのでは、って何?お母さん、体弱いの?」
「ううん。そうじゃなくて妊娠してるの」
そう言うとセロは首をかしげて「ニンシン?」と呟き、驚いたように
「赤ちゃんが生まれるってこと!」
と叫んだ。
「そうだよ」
反応の大げささにあきれて答える。私のお母さんは今妊娠八カ月。身重である。この前には胎動を聞かせてくれたりした。透子まで世話しきれないわ、行ってらっしゃいと言って貰えたのはその為でもある。私がいたって、お母さんの役に立つわけもないのだ。
妊娠でつわりが激しくなって、とうとう母さんは三月、長年勤めた会社を辞めてしまった。その後同じ職場だったお父さんたる橋田サンの異動が決まり、お母さんが昔働いていた、本社のある今住んでいる場所に家族で引っ越して来たというわけだ。
やめる必要なんてないのに、と言ったら、いいじゃない、専業主婦も楽しいわよと笑ったお母さんの顔を私はありありと思い出せる。
その幸せそうな顔は、私を不快にした。なぜだか分からないけど。
「じゃあ弟が出来るんだ。でも一六歳離れてるってことは弟が小学校卒業するころにはとーこおねーちゃん28?すごいね」
「弟って決まったわけじゃないでしょ、妹かもよ」
「なんかわかるんじゃないの、なんか見れるんでしょ」
「さぁ、知らない」
「ふうん。でも楽しみでしょ?」
「うーん、まぁまぁかな。」
「なんで?」
「別に・・小さい子供そんなに好きじゃないの」
「ぼくは?」
「セロはなんかしっかりしてるし。すぐに泣いてうるさい子供って大嫌い」
「ぼくだってうるさいよ。家ではね。泣いて怒ってばっかで、困らせてるけど止められないの」
「じゃあそれ外面な訳?」
「そうだよ。」
当然のように言うのでびっくりしてしまう。
「それに昔はとーこおねーちゃんもそんな感じだったんだし」
「だから嫌なの。」
その昔、お母さんの妹の子供がちょうど私がセロの歳だったときに生まれ、見に行った。最初は可愛かったけど、だんだん泣きわめきスカートは引っ張りおっしこは漏らしの最悪の悪魔に変わった。その思い出があって、私は今でも彼に会っていない。今は8歳だからセロぐらいにはなっているのだろうが、多分こんないい子じゃないだろう。
私もこんなんだったの、とお母さんに聞くと、ここまでじゃないけどねと笑ったので、なんだか12歳にして過去の自分への自己嫌悪に陥ってしまった私である。
いつの間にか黙り込んでいた私の眉間をセロがぐにぐにと押し始めた。
「何?」
「眉間にしわが」
「さっきセロも寄ってたよ」
笑って言うと、嫌そうな顔をして、
「うそ」
と叫んでおでこを抑えたので「ホント」と軽くそこを指ではじいてやった。
「むぅ」
セロが口をとがらせる。
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