58 / 108
第三章 『異形の行進』
57.『終戦』
しおりを挟む「だからさ、俺にとって神ってのは褒め言葉でもなんでもないの! むしろその逆だから! もっと素直に褒めてよ!」
「……素直ですが」
「……意味わかんないところで怒るのが、ヒスイ」
「違いますぅー! 意味わかんなくないですぅー!」
■
【神域結界陣】は、【対象A】から【対象B】への一切の攻撃を受け付けなくする魔法らしい。
この場合は、【魔王軍七星バエル】が【セドニーシティ】に危害を加えられなくなるといった感じだ。
それだけ聞くと、何が神域だよ、名前負けだろ、と思わなくもない。
しかしこの魔法の真骨頂は、その【対象】にありとあらゆるものを選べるというところだろう。
人だろうがモンスターだろうが街だろうが国だろうが、この魔法に選ばれたものは絶対的な鉄壁で無傷を約束されるのだ。
『守り』に重点を置いた場合、【神域結界陣】を越える魔法はない。
今この瞬間、バエルはただの無力な異物となったわけだ。
「――力に溺れる者は、破滅する運命にある! 魔王様に討ち滅ぼされるがいい!」
「同感だけど、お前に言われると釈然としないな」
ついには他力本願に叫び始めるバエル。
やっぱりわかる奴が見れば、俺はいきなり馬鹿げてるほどに強くなったように見えるのだろうか。
俺からしたら、使えなかった魔法やスキルが使えるようになっただけなのだが。
だけど、確かに魔力の向上は強く感じる。
よく考えてみたら当たり前の話で、『これから覚えるはずの魔法やスキルを奪う』という行為は明らかに魔力に作用しているのだ。
魔力の循環を妨げるとか、粗悪な魔力を流し込むとか――呪いの原理はわからないが、とにかく俺の魔力は封じられていたわけだ。
そりゃ、常日頃から俺にはレベルの暴力があるので、魔力が足りなくなるということはあまりない。
だけど、あの素体なんとか番と戦った時に思ったのだ。
レベルが200を超えていても、強力なスキルを連発すれば案外すぐに魔力切れを起こすんだな、と。
「今なら1000発撃っても大丈夫そうだ」
「――クソがぁあ!」
さて、かっこつけて「遊んでやるぜ!」的なことを口走ってしまったが、当然そんなつもりはない。
一刻も早くこいつを処理しないことには、機能を失っているセドニーシティに混乱が広がるだけだろう。
それに、自分より弱いものをいたぶって喜ぶ趣味は俺にはないし。
バエルをつま先からじわじわと炙り殺してキャッキャするような性格でもない。
ギルドマスターと話もしたいし、タマユラとの再会を喜びたいし、なにより疲れた。
今日だけで色々ありすぎたので、そろそろ休みたいものだ。
「だからさ、悪いんだけど……」
だからといって、俺の気が済むかは別の話だ。
ぶっちゃけ、この疲労の半分以上は精神的なものである。
まぁ、バエルだけが悪いわけじゃない――というか、俺からすればその後の方がストレス源になっているんだけども。
気にしないようにしよう。そう言い聞かせても、俺の腹の中のモヤモヤは晴れない。
「ちょっと八つ当たりさせてくれる?」
だから、バエルにはもうちょっとだけ付き合って貰おう。
■
「ひゅー……ひゅー……」
そういえば、かつてルリにかかった呪いを解いた時。
あの時は、【解呪】スキルではなく【呪い無効】のパッシブスキルで解呪に成功した気がする。
あの時と何が違うのだろうか。
【呪い無効】が後から作用するなら、それを習得した時に俺の呪いが解けなかった理由はなんだ?
うーん、考えても分からない。
そういう時は、博識な奴に聞くのが一番だ。
「わかる?」
「ひゅー……し、る……か……」
「あっそう」
俺は足元に転がったそれに剣を突き立て、魔力を流し込む。
魔力といっても、もちろん回復魔法のような優しいものではない。
「――【魔力活性】」
これは、対象者の魔力を活性化させて、身体能力や魔法の威力を向上させる魔法だ。
当然、こうやって剣をグサリと刺して使う魔法ではない。これはあれだ、雰囲気だ。
ちょっと疑問に思ったのだ。【魔力活性】は、術者の魔力を送り込むもの。
ならば、うっかり送りすぎてしまったらどうなるのか。
その答えは、全身を痙攣させて悶え苦しむコイツを見てればだいたい分かった。
「おっと、死なないでくれよ。お前には聞きたいことがまだあるんだ」
「……呪いの、質が原因だろう……貴様の呪いは魂にまで刻まれていて……その娘はそうでなかった……それだけの話、だ……」
「……へぇ。呪いの質ねぇ」
魂だのなんだの言われてもピンとこないが、恐らくアゲットが俺にかけたものは、本業の呪術師が腕によりをかけて発動したものなんだろう。
これから覚えるはずの魔法を封じるとか、俺でも原理わかんないし。
対してルリへの呪いは、その辺の冒険者が魔法陣についでに仕込んだやっつけ仕事だ。
しかも効果は『対象を衰弱死させる』といったもの。
なるほど、確かにこれくらいなら俺でも真似できそうだ。
「この調子なら解呪できない呪いもなさそうか」
「……図に乗るな。魔王様は呪いの王だ……人間が扱う解呪スキルごときでは、到底太刀打ちできぬだろう……」
「お前、ちょっと口が軽すぎるな。今頃魔王も頭抱えてるよ」
そんな重要な情報を流していいのだろうかね。
いや、ダメだろ。魔王の攻撃手段とか、一番言っちゃダメなやつだろ。
いやまぁ、俺からしたらありがたいけどね。
「――ヒスイ。これ以上は生かしておくこともないでしょう」
と、ルリの手当を受けたタマユラが、俺の隣に駆け寄ってきた。
まぁ確かに、ここらが潮時な感じはするが……最後にひとつだけ、大事なことを聞いておかなくてはならない。
普通なら答えないだろう質問だが、こいつならなんやかんや答えてくれそうな気もするし。
「おい、『鏡の世界』ってのはどうやったら行ける? どうすれば魔王に会えるんだ?」
「……貴様は魔王様に打ち破られるであろう。ならばこそ、遥かなる最果て――ぁ」
『ダメだよー、それは言っちゃ』
頭が割れるほどの声が響いたかと思えば、視界がどす黒い赤に染まる。
咄嗟のことに呆気に取られ、地面に転がっていたバエルが姿を消していることに気付いたのは数拍遅れてからだった。
――否。姿を消した訳では無い。
そこにあったはずのバエルは、数百の肉片となって辺りに散らばっていた。
魔王だ。この声の主は、あの少年の形をした帝王に間違いあるまい。
この場にいないはずの魔王が、バエルを木っ端微塵にしたのだ。
『バエルはお喋りで困っちゃうよね。ヒスイ君、まだその時じゃないんだ。また会えるから、気長に待っててよ。じゃね』
「――――」
頭の底から噛み散らすような声。
それが止んだかと思えば、静寂が包み込むだけだった。
呆気なく、セドニーシティの戦いは終わった。
0
お気に入りに追加
1,605
あなたにおすすめの小説
平凡すぎる、と追放された俺。実は大量スキル獲得可のチート能力『無限変化』の使い手でした。俺が抜けてパーティが瓦解したから今更戻れ?お断りです
たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
★ファンタジーカップ参加作品です。
応援していただけたら執筆の励みになります。
《俺、貸します!》
これはパーティーを追放された男が、その実力で上り詰め、唯一無二の『レンタル冒険者』として無双を極める話である。(新形式のざまぁもあるよ)
ここから、直接ざまぁに入ります。スカッとしたい方は是非!
「君みたいな平均的な冒険者は不要だ」
この一言で、パーティーリーダーに追放を言い渡されたヨシュア。
しかしその実、彼は平均を装っていただけだった。
レベル35と見せかけているが、本当は350。
水属性魔法しか使えないと見せかけ、全属性魔法使い。
あまりに圧倒的な実力があったため、パーティーの中での力量バランスを考え、あえて影からのサポートに徹していたのだ。
それどころか攻撃力・防御力、メンバー関係の調整まで全て、彼が一手に担っていた。
リーダーのあまりに不足している実力を、ヨシュアのサポートにより埋めてきたのである。
その事実を伝えるも、リーダーには取り合ってもらえず。
あえなく、追放されてしまう。
しかし、それにより制限の消えたヨシュア。
一人で無双をしていたところ、その実力を美少女魔導士に見抜かれ、『レンタル冒険者』としてスカウトされる。
その内容は、パーティーや個人などに借りられていき、場面に応じた役割を果たすというものだった。
まさに、ヨシュアにとっての天職であった。
自分を正当に認めてくれ、力を発揮できる環境だ。
生まれつき与えられていたギフト【無限変化】による全武器、全スキルへの適性を活かして、様々な場所や状況に完璧な適応を見せるヨシュア。
目立ちたくないという思いとは裏腹に、引っ張りだこ。
元パーティーメンバーも彼のもとに帰ってきたいと言うなど、美少女たちに溺愛される。
そうしつつ、かつて前例のない、『レンタル』無双を開始するのであった。
一方、ヨシュアを追放したパーティーリーダーはと言えば、クエストの失敗、メンバーの離脱など、どんどん破滅へと追い込まれていく。
ヨシュアのスーパーサポートに頼りきっていたこと、その真の強さに気づき、戻ってこいと声をかけるが……。
そのときには、もう遅いのであった。
外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~
そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」
「何てことなの……」
「全く期待はずれだ」
私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。
このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。
そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。
だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。
そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。
そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど?
私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。
私は最高の仲間と最強を目指すから。
とあるオタが勇者召喚に巻き込まれた件~イレギュラーバグチートスキルで異世界漫遊~
剣伎 竜星
ファンタジー
仕事の修羅場を乗り越えて、徹夜明けもなんのその、年2回ある有○の戦場を駆けた夏。長期休暇を取得し、自宅に引きこもって戦利品を堪能すべく、帰宅の途上で食材を購入して後はただ帰るだけだった。しかし、学生4人組とすれ違ったと思ったら、俺はスマホの電波が届かない中世ヨーロッパと思しき建築物の複雑な幾何学模様の上にいた。学生4人組とともに。やってきた召喚者と思しき王女様達の魔族侵略の話を聞いて、俺は察した。これあかん系異世界勇者召喚だと。しかも、どうやら肝心の勇者は学生4人組みの方で俺は巻き込まれた一般人らしい。【鑑定】や【空間収納】といった鉄板スキルを保有して、とんでもないバグと思えるチートスキルいるが、違うらしい。そして、安定の「元の世界に帰る方法」は不明→絶望的な難易度。勇者系の称号がないとわかると王女達は掌返しをして俺を奴隷扱いするのは必至。1人を除いて学生共も俺を馬鹿にしだしたので俺は迷惑料を(強制的に)もらって早々に国を脱出し、この異世界をチートスキルを駆使して漫遊することにした。※10話前後までスタート地点の王城での話になります。
これダメなクラス召喚だわ!物を掌握するチートスキルで自由気ままな異世界旅
聖斗煉
ファンタジー
クラス全体で異世界に呼び出された高校生の主人公が魔王軍と戦うように懇願される。しかし、主人公にはしょっぱい能力しか与えられなかった。ところがである。実は能力は騙されて弱いものと思い込まされていた。ダンジョンに閉じ込められて死にかけたときに、本当は物を掌握するスキルだったことを知るーー。
ユニークスキルの名前が禍々しいという理由で国外追放になった侯爵家の嫡男は世界を破壊して創り直します
かにくくり
ファンタジー
エバートン侯爵家の嫡男として生まれたルシフェルトは王国の守護神から【破壊の後の創造】という禍々しい名前のスキルを授かったという理由で王国から危険視され国外追放を言い渡されてしまう。
追放された先は王国と魔界との境にある魔獣の谷。
恐ろしい魔獣が闊歩するこの地に足を踏み入れて無事に帰った者はおらず、事実上の危険分子の排除であった。
それでもルシフェルトはスキル【破壊の後の創造】を駆使して生き延び、その過程で救った魔族の親子に誘われて小さな集落で暮らす事になる。
やがて彼の持つ力に気付いた魔王やエルフ、そして王国の思惑が複雑に絡み大戦乱へと発展していく。
鬱陶しいのでみんなぶっ壊して創り直してやります。
※小説家になろうにも投稿しています。
【完結】魔王を倒してスキルを失ったら「用済み」と国を追放された勇者、数年後に里帰りしてみると既に祖国が滅んでいた
きなこもちこ
ファンタジー
🌟某小説投稿サイトにて月間3位(異ファン)獲得しました!
「勇者カナタよ、お前はもう用済みだ。この国から追放する」
魔王討伐後一年振りに目を覚ますと、突然王にそう告げられた。
魔王を倒したことで、俺は「勇者」のスキルを失っていた。
信頼していたパーティメンバーには蔑まれ、二度と国の土を踏まないように察知魔法までかけられた。
悔しさをバネに隣国で再起すること十数年……俺は結婚して妻子を持ち、大臣にまで昇り詰めた。
かつてのパーティメンバー達に「スキルが無くても幸せになった姿」を見せるため、里帰りした俺は……祖国の惨状を目にすることになる。
※ハピエン・善人しか書いたことのない作者が、「追放」をテーマにして実験的に書いてみた作品です。普段の作風とは異なります。
※小説家になろう、カクヨムさんで同一名義にて掲載予定です
『殺す』スキルを授かったけど使えなかったので追放されました。お願いなので静かに暮らさせてください。
晴行
ファンタジー
ぼっち高校生、冷泉刹華(れいぜい=せつか)は突然クラスごと異世界への召喚に巻き込まれる。スキル付与の儀式で物騒な名前のスキルを授かるも、試したところ大した能力ではないと判明。いじめをするようなクラスメイトに「ビビらせんな」と邪険にされ、そして聖女に「スキル使えないならいらないからどっか行け」と拷問されわずかな金やアイテムすら与えられずに放り出され、着の身着のままで異世界をさまよう羽目になる。しかし路頭に迷う彼はまだ気がついていなかった。自らのスキルのあまりのチートさゆえ、世界のすべてを『殺す』権利を手に入れてしまったことを。不思議なことに自然と集まってくる可愛い女の子たちを襲う、残酷な運命を『殺し』、理不尽に偉ぶった奴らや強大な敵、クラスメイト達を蚊を払うようにあしらう。おかしいな、俺は独りで静かに暮らしたいだけなんだがと思いながら――。
どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜
サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる