外れスキル『レベル分配』が覚醒したら無限にレベルが上がるようになったんだが。〜俺を追放してからレベルが上がらなくなったって?知らん〜

純真

文字の大きさ
上 下
53 / 108
第三章 『異形の行進』

52.『剣を振る理由』

しおりを挟む

「怪我人は救護テントに運べ! まだ立てる者は――」

 見知った街が今まさに陥落していく様を見て、私は強い不快感を覚える。
 見知った街などと気取った言い方をしたが、ストレートに言えば私の故郷で、生まれ育った場所だ。

 セドニーシティは、王国の中でも発展している街だと思う。
 産業もさることながら、この街の砦となる近衛兵団も、それなりの水準で訓練されてきたはずだ。
 少なくとも私は、手ぬるく扱ってきたつもりはない。

 それがこうも簡単に崩壊するとは、なんと脆いことか。

「――言っている場合ではありませんね」

 往来を楽しげな人々の代わりに闊歩するモンスターを、さながら通り魔のように切り捨てていく。
 目指すは街の東。ここからでも見上げることのできる、巨大なモンスターだ。あれは、私が行くべきだろう。

 それにしても――数は多いが、この程度の強さで街が攻め落とされるはずがない。

 なんせ、この街には彼がいるはずなのだ。
 彼ひとりいれば、あっという間に解決してくれるだろうが……それにしては、戦力が足りていないように見える。

 先ほどの冒険者を見るに、B級やそれ以下の冒険者も駆り出されているらしい。
 つまり、それほどまでに猫の手も借りたい状況だということ。

 ――彼は、この街にいないのか。
 出ていってしまったのだろうか。

 何も言わずに消えた私のことなど、もうとっくに忘れていてもおかしくはない。
 だけど心のどこかで、ずっとこの街で待っていて欲しいと思っていた私は、浅はかで利己的なのだ。

 目の前の惨状を見ればわかる。
 彼がいたら、こんなことになるはずもない。

「――へ、兵団長!? お戻りに、なられたのですね……!」

 と、しばらくぶりに聞く声に呼び止められる。
 振り向くまでもなく、この声の主はわかる。

 何百回と聞いた声で、私の部下だった男だ。
 ついでに言うと、私が放り投げた近衛兵団長を引き継いでくれた人。

 その男は、近衛兵数名を引き連れて、どこかへ向かうところだったようだ。

「――アベン。久しぶりですね。すみません、貴方に全部押し付けてしまって」

「いえ……それより、兵団長がお戻りになられたのなら心強い! 東の化け物を斬ってくれませんか!?」

「元よりそのつもりです。それで、貴方は?」

「私は、とある屋敷の調査に出ます。ヒスイ様が、そこで行方不明になられたらしく……」

「行方、不明……」

 彼が、行方不明。
 そんなこと、有り得るのだろうか。

 聞くに、この騒動の原因を掴んだ彼は、仲間と共に街の真ん中の屋敷に向かったらしく。
 そこに待ち受けるものに予測はついていなかったため、念の為ギルド諜報部が魔力追跡のスキルを使った。

 ある時までは確かに彼らはその屋敷の中にいたのに、いきなり彼らの魔力が消失したらしいのだ。
 それはもう突然、煙のように。

 ギルドマスターからその報告を受けた近衛兵団は、会議を開いた。
 結論、これ以上の被害を抑えながら解決するためには、彼らの力が必要不可欠ということになり、こうしてアベンらが調査に赴く運びとなったわけだ。

 とはいえ、彼なら大丈夫だろう。
 何かしらのイレギュラーがあったにせよ、悪意に屈して、あまつさえ命まで取られるようなことなど、彼に限っては断じて有り得ないと言い切れる。

「手がかりがあるかも分かりませんが……行ってみるしかありません」

「くれぐれもお気を付けて、アベン」

「ええ。その間、モンスターへ向けられる戦力の低下が懸念されていたのですが……兵団長がいらっしゃれば、問題ないでしょう」

「貴方は少し私を過大評価している部分があります。――まぁ、この程度でしたら食い止めてみせますよ」

「お願いします」

 会話を終えると、アベンはさっさと駆け出していく。
 私も、あのモンスターの元へ急ぐ。

 それにしても、彼はこの街から出て行ったわけではないのか。
 そればかりか、最近になってこの街に家まで買ったと聞いた。

 それって、もうこの街を生涯の地と定めたということでいいのではないだろうか。
 つまり、私のことを「いつまででも待ってるよ」ということだったりしちゃうのではないだろうか。

 いやまぁ、少し考えが飛躍しているのは自覚がある。
 だけど、やっぱり待っていてくれたという事実が嬉しくなってしまう。

「ふふ――おっと、気を緩めてはいけませんね。今は集中しなくては」

 それどころではないのだ。私がしっかりしなくてどうする。

 それにしても……どうやら今は仲間がいるらしい。
 それも、あのS級の『白夜』だというではないか。

 『白夜』とは直接会ったことは無いが、どうやら若い女性であるらしいことは聞いている。

 ……私がいなくなってすぐ、『S級』の、『若い』、『女性』とパーティを組んだということ。

「うぅ、私じゃダメだったんですか……やっぱり、私より強くて若い女性が好み――いやいや、そんなことは無いでしょう。魔王討伐のために、合理的な判断を下したまでです。うん」

 別に男女ふたりでパーティを組んでいるからといって、恋仲に発展しているとも限らない。
 考えすぎるのはよそう。

 それにしても、少し前の私を振り返ると考えられないくらい、今の私は色恋に染まっている。
 もちろん、今まで恋慕を向ける相手がいなかったことも大きな理由のひとつだが、一番は師範の言葉だ。

「いいか。その男のことを好いているなら、それは隠さなくてもいい。それをお前が剣を振る理由にしろ。恋ってのは、一番素直で真っ直ぐな心を作る材料だ」

 なんて、鋭い目をした壮年の剣豪には似つかわしくないロマンチシズムに溢れた一言。
 今まで正義や民のために剣を振ってきた私にとって、それはまさに青天の霹靂だった。

 そこまで丸ごと自分のために剣を振っていいのかとも思ったが、意識するようになると驚くほど速く剣を振れるようになったのだ。

「師範は誰を想って剣を振るのでしょうね……おっと」

 彼への想いには、自信がある。
 だから、目の前の巨大なモンスターに負ける気など、これっぽっちもしなかった。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

平凡すぎる、と追放された俺。実は大量スキル獲得可のチート能力『無限変化』の使い手でした。俺が抜けてパーティが瓦解したから今更戻れ?お断りです

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
★ファンタジーカップ参加作品です。  応援していただけたら執筆の励みになります。 《俺、貸します!》 これはパーティーを追放された男が、その実力で上り詰め、唯一無二の『レンタル冒険者』として無双を極める話である。(新形式のざまぁもあるよ) ここから、直接ざまぁに入ります。スカッとしたい方は是非! 「君みたいな平均的な冒険者は不要だ」 この一言で、パーティーリーダーに追放を言い渡されたヨシュア。 しかしその実、彼は平均を装っていただけだった。 レベル35と見せかけているが、本当は350。 水属性魔法しか使えないと見せかけ、全属性魔法使い。 あまりに圧倒的な実力があったため、パーティーの中での力量バランスを考え、あえて影からのサポートに徹していたのだ。 それどころか攻撃力・防御力、メンバー関係の調整まで全て、彼が一手に担っていた。 リーダーのあまりに不足している実力を、ヨシュアのサポートにより埋めてきたのである。 その事実を伝えるも、リーダーには取り合ってもらえず。 あえなく、追放されてしまう。 しかし、それにより制限の消えたヨシュア。 一人で無双をしていたところ、その実力を美少女魔導士に見抜かれ、『レンタル冒険者』としてスカウトされる。 その内容は、パーティーや個人などに借りられていき、場面に応じた役割を果たすというものだった。 まさに、ヨシュアにとっての天職であった。 自分を正当に認めてくれ、力を発揮できる環境だ。 生まれつき与えられていたギフト【無限変化】による全武器、全スキルへの適性を活かして、様々な場所や状況に完璧な適応を見せるヨシュア。 目立ちたくないという思いとは裏腹に、引っ張りだこ。 元パーティーメンバーも彼のもとに帰ってきたいと言うなど、美少女たちに溺愛される。 そうしつつ、かつて前例のない、『レンタル』無双を開始するのであった。 一方、ヨシュアを追放したパーティーリーダーはと言えば、クエストの失敗、メンバーの離脱など、どんどん破滅へと追い込まれていく。 ヨシュアのスーパーサポートに頼りきっていたこと、その真の強さに気づき、戻ってこいと声をかけるが……。 そのときには、もう遅いのであった。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

俺だけに効くエリクサー。飲んで戦って気が付けば異世界最強に⁉

まるせい
ファンタジー
異世界に召喚された熱海 湊(あたみ みなと)が得たのは(自分だけにしか効果のない)エリクサーを作り出す能力だった。『外れ異世界人』認定された湊は神殿から追放されてしまう。 貰った手切れ金を元手に装備を整え、湊はこの世界で生きることを決意する。

えっ、能力なしでパーティ追放された俺が全属性魔法使い!? ~最強のオールラウンダー目指して謙虚に頑張ります~

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
コミカライズ10/19(水)開始! 2024/2/21小説本編完結! 旧題:えっ能力なしでパーティー追放された俺が全属性能力者!? 最強のオールラウンダーに成り上がりますが、本人は至って謙虚です ※ 書籍化に伴い、一部範囲のみの公開に切り替えられています。 ※ 書籍化に伴う変更点については、近況ボードを確認ください。 生まれつき、一人一人に魔法属性が付与され、一定の年齢になると使うことができるようになる世界。  伝説の冒険者の息子、タイラー・ソリス(17歳)は、なぜか無属性。 勤勉で真面目な彼はなぜか報われておらず、魔法を使用することができなかった。  代わりに、父親から教わった戦術や、体術を駆使して、パーティーの中でも重要な役割を担っていたが…………。 リーダーからは無能だと疎まれ、パーティーを追放されてしまう。  ダンジョンの中、モンスターを前にして見捨てられたタイラー。ピンチに陥る中で、その血に流れる伝説の冒険者の能力がついに覚醒する。  タイラーは、全属性の魔法をつかいこなせる最強のオールラウンダーだったのだ! その能力のあまりの高さから、あらわれるのが、人より少し遅いだけだった。  タイラーは、その圧倒的な力で、危機を回避。  そこから敵を次々になぎ倒し、最強の冒険者への道を、駆け足で登り出す。  なにせ、初の強モンスターを倒した時点では、まだレベル1だったのだ。 レベルが上がれば最強無双することは約束されていた。 いつか彼は血をも超えていくーー。  さらには、天下一の美女たちに、これでもかと愛されまくることになり、モフモフにゃんにゃんの桃色デイズ。  一方、タイラーを追放したパーティーメンバーはというと。 彼を失ったことにより、チームは瓦解。元々大した力もないのに、タイラーのおかげで過大評価されていたパーティーリーダーは、どんどんと落ちぶれていく。 コメントやお気に入りなど、大変励みになっています。お気軽にお寄せくださいませ! ・12/27〜29 HOTランキング 2位 記録、維持 ・12/28 ハイファンランキング 3位

大器晩成エンチャンター~Sランク冒険者パーティから追放されてしまったが、追放後の成長度合いが凄くて世界最強になる

遠野紫
ファンタジー
「な、なんでだよ……今まで一緒に頑張って来たろ……?」 「頑張って来たのは俺たちだよ……お前はお荷物だ。サザン、お前にはパーティから抜けてもらう」 S級冒険者パーティのエンチャンターであるサザンは或る時、パーティリーダーから追放を言い渡されてしまう。 村の仲良し四人で結成したパーティだったが、サザンだけはなぜか実力が伸びなかったのだ。他のメンバーに追いつくために日々努力を重ねたサザンだったが結局報われることは無く追放されてしまった。 しかしサザンはレアスキル『大器晩成』を持っていたため、ある時突然その強さが解放されたのだった。 とてつもない成長率を手にしたサザンの最強エンチャンターへの道が今始まる。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

処理中です...