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第三章 『異形の行進』
47.『魔王軍七星バエル』
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レベルが0になった者は、どうなると思う?
結論から言うと、わからない。
なぜなら、レベルは上がるものであって下がるものでは無いからだ。
かつてアスモデウス戦で手に入れたスキルに、『レベルドレイン』というものがあった。
読んで字のごとくレベルを奪うというものだが、奪えるレベルには上限があった。
このスキルでは、相手のレベルを0にすることは出来ないのだ。
少しレベルという概念を紐解いてみよう。
人はみな、レベル1の状態で産まれてくる。
どんな英雄でも、どんな大剣豪でも、例外はない。
伸び代に個人差はあれど、人間は必ずレベルを持ってこの世に生を受ける。これは、モンスターであっても同じはずだ。レベル0というのは、存在しない。
つまり、最初の問の答えは『前例がないからわからない』ということになる。
その上で、レベルの解釈についても触れよう。
一言で言うなれば、レベルとは『生命が生命たる根源』のことを示す。逆に言ってしまえば、『レベルが0の存在は生命とは言えない』ということになるだろうか。
「――【魔力譲渡】」
ルリの内側から湧き上がる確かな力が、その細い指先を通じて俺の中に入ってくる。
温かで、優しい力だ。
ルリを感じることが出来て、場違いにも安心感を覚える。
枯渇していた――というほどでもないが、減りつつあった俺の魔力は、みるみるうちに回復していった。
ルリから託されたこの魔力を、無駄にしない。
「――【幽玄獄舎】」
これが、新しく手に入れたスキルの名前だ。
通常、魔力は魔法を使うことで多く消費し、スキルで使用する魔力が一番少ない。
俺のレベルならば、ちょっとしたスキルなら何千発撃とうが魔力が尽きることは無いだろう。
そんな俺の魔力が、体から一気に抜ける感覚。
規格外の魔力消費に耐えられたのは、他ならぬルリの助力あってこそだ。
俺は込められる全てを、そのスキルに込めた。
「――――」
化け物は、その場で固まってピクリとも動かない。
あの耳障りな声ももう発することはない。
これでおわりだ。
「……何をしたの?」
「――今頃、堅牢な監獄にガッチリ捕らえられた夢でも見てるんじゃない?」
「……それは、どういう」
【幽玄獄舎】。
そのスキルの対象となったものを、悠久の檻の中に閉じ込める。
その檻は、レベルを喰らい尽くすまで逃がさない。
1時間か、2時間か――レベルが0になるまで精神の監獄がこの化け物を捕らえ続けるだろう。
「体感ではそれこそ永遠にも感じられるくらい、永ーい時間を過ごすことになるらしいけどね」
「……性格の悪いスキル」
噛み砕けば単純で、敵を無力化した上で命を奪うまで精神世界に閉じ込める。そんな感じだろうか。
――いや、命を奪うというと少し違う。
レベルが0になるということは、始めから存在しているとは言えなくなる――つまるところ、存在が消滅する、らしい。
倒しても倒してもレベルを上げて復活するのなら、レベルが0になるまで喰らい尽くしてしまえばいい。
そんな世の理を超越したスキルこそが、この【幽玄獄舎】だったわけだ。
「……ヒスイって本当に人間?」
「俺もルリの魔法を見た時に同じこと思ったよ」
きっと、これがこの化け物への正攻法で、唯一の正解だ。
根拠はないが、きっとこいつは何度でも再生しただろう。
こうやって封じ込めるしか、攻略法は存在しなかったように思う。
ともかく、これで俺たちの勝ちだ。
絶望を体現したような化け物にも、俺たちは勝ったのだ。
先程までの暴れっぷりが嘘だったように、微動だにしなくなったそれを見て実感する。
「さて……帰れるかな、あの扉から」
「……行ってみるしかない」
「帰れませんよ。一方通行なので」
意識の外から第三者の声が割り込むことにも、慣れてきたように思う。
この世界の者は、ドッキリ的に登場することを美徳だとでも考えているのだろうか。
だとしたらそれは間違いだ。うんざりとしか思わない。
「……あんたか」
「どうも。ご無沙汰してますね」
「別にしてないよ。まぁ、探してたけど」
その男は、俺たちが探していた人間だった――いや、人間なのだろうか。
とにかく、俺に『セドニーシティ七不思議』のうちいくつかを聞かせた者。
俺たちが家を買った店の、あの男だった。
「あんた、なんなんだ」
「これは失礼。私は魔王軍七星――バエルと申します。以後、お見知りおきを」
「お前がバエルか――!」
それを聞いた瞬間、考えるよりも先に足が踏み出していた。
あの惨状の立役者。アゲットを唆した悪。
俺が、倒すべき相手だ。
スキルも剣技もなく、俺はただがむしゃらに剣を振っていた。
「まぁまぁ。落ち着いてください。あなたもお疲れでしょう。少しお話しませんか?」
その剣を涼しい顔で止めると、バエルは愉しげな表情を作ってそう言った。
今さら、何を話すことがあるというのか。
「これは素体.46と言って、私の最高傑作でした。いやはやお見事。まさかこうも綺麗に無力化されてしまうとは」
「……こいつもお前の作品か」
「作品とは、素晴らしい響きで呼んでくれるのですね。その通りです。素体.46は、喰った数だけ命が増える。本当なら、何百連戦もしてもらうはずでしたのに」
「……それは御免だ」
「ええ。いかにあなたと言えど、勝ち目はないと思っていましたから。本当に際限なく成長なさる生き物のようだ。さすがは――」
「――」
「――魔王様に気に入られただけある。どうでしょう、私どもと共にこの世界を作り直すというのは?」
あぁ、勘弁してくれ。
さぞ愉快そうに嗤うそれが、慈しむ顔で俺を見ていた。
結論から言うと、わからない。
なぜなら、レベルは上がるものであって下がるものでは無いからだ。
かつてアスモデウス戦で手に入れたスキルに、『レベルドレイン』というものがあった。
読んで字のごとくレベルを奪うというものだが、奪えるレベルには上限があった。
このスキルでは、相手のレベルを0にすることは出来ないのだ。
少しレベルという概念を紐解いてみよう。
人はみな、レベル1の状態で産まれてくる。
どんな英雄でも、どんな大剣豪でも、例外はない。
伸び代に個人差はあれど、人間は必ずレベルを持ってこの世に生を受ける。これは、モンスターであっても同じはずだ。レベル0というのは、存在しない。
つまり、最初の問の答えは『前例がないからわからない』ということになる。
その上で、レベルの解釈についても触れよう。
一言で言うなれば、レベルとは『生命が生命たる根源』のことを示す。逆に言ってしまえば、『レベルが0の存在は生命とは言えない』ということになるだろうか。
「――【魔力譲渡】」
ルリの内側から湧き上がる確かな力が、その細い指先を通じて俺の中に入ってくる。
温かで、優しい力だ。
ルリを感じることが出来て、場違いにも安心感を覚える。
枯渇していた――というほどでもないが、減りつつあった俺の魔力は、みるみるうちに回復していった。
ルリから託されたこの魔力を、無駄にしない。
「――【幽玄獄舎】」
これが、新しく手に入れたスキルの名前だ。
通常、魔力は魔法を使うことで多く消費し、スキルで使用する魔力が一番少ない。
俺のレベルならば、ちょっとしたスキルなら何千発撃とうが魔力が尽きることは無いだろう。
そんな俺の魔力が、体から一気に抜ける感覚。
規格外の魔力消費に耐えられたのは、他ならぬルリの助力あってこそだ。
俺は込められる全てを、そのスキルに込めた。
「――――」
化け物は、その場で固まってピクリとも動かない。
あの耳障りな声ももう発することはない。
これでおわりだ。
「……何をしたの?」
「――今頃、堅牢な監獄にガッチリ捕らえられた夢でも見てるんじゃない?」
「……それは、どういう」
【幽玄獄舎】。
そのスキルの対象となったものを、悠久の檻の中に閉じ込める。
その檻は、レベルを喰らい尽くすまで逃がさない。
1時間か、2時間か――レベルが0になるまで精神の監獄がこの化け物を捕らえ続けるだろう。
「体感ではそれこそ永遠にも感じられるくらい、永ーい時間を過ごすことになるらしいけどね」
「……性格の悪いスキル」
噛み砕けば単純で、敵を無力化した上で命を奪うまで精神世界に閉じ込める。そんな感じだろうか。
――いや、命を奪うというと少し違う。
レベルが0になるということは、始めから存在しているとは言えなくなる――つまるところ、存在が消滅する、らしい。
倒しても倒してもレベルを上げて復活するのなら、レベルが0になるまで喰らい尽くしてしまえばいい。
そんな世の理を超越したスキルこそが、この【幽玄獄舎】だったわけだ。
「……ヒスイって本当に人間?」
「俺もルリの魔法を見た時に同じこと思ったよ」
きっと、これがこの化け物への正攻法で、唯一の正解だ。
根拠はないが、きっとこいつは何度でも再生しただろう。
こうやって封じ込めるしか、攻略法は存在しなかったように思う。
ともかく、これで俺たちの勝ちだ。
絶望を体現したような化け物にも、俺たちは勝ったのだ。
先程までの暴れっぷりが嘘だったように、微動だにしなくなったそれを見て実感する。
「さて……帰れるかな、あの扉から」
「……行ってみるしかない」
「帰れませんよ。一方通行なので」
意識の外から第三者の声が割り込むことにも、慣れてきたように思う。
この世界の者は、ドッキリ的に登場することを美徳だとでも考えているのだろうか。
だとしたらそれは間違いだ。うんざりとしか思わない。
「……あんたか」
「どうも。ご無沙汰してますね」
「別にしてないよ。まぁ、探してたけど」
その男は、俺たちが探していた人間だった――いや、人間なのだろうか。
とにかく、俺に『セドニーシティ七不思議』のうちいくつかを聞かせた者。
俺たちが家を買った店の、あの男だった。
「あんた、なんなんだ」
「これは失礼。私は魔王軍七星――バエルと申します。以後、お見知りおきを」
「お前がバエルか――!」
それを聞いた瞬間、考えるよりも先に足が踏み出していた。
あの惨状の立役者。アゲットを唆した悪。
俺が、倒すべき相手だ。
スキルも剣技もなく、俺はただがむしゃらに剣を振っていた。
「まぁまぁ。落ち着いてください。あなたもお疲れでしょう。少しお話しませんか?」
その剣を涼しい顔で止めると、バエルは愉しげな表情を作ってそう言った。
今さら、何を話すことがあるというのか。
「これは素体.46と言って、私の最高傑作でした。いやはやお見事。まさかこうも綺麗に無力化されてしまうとは」
「……こいつもお前の作品か」
「作品とは、素晴らしい響きで呼んでくれるのですね。その通りです。素体.46は、喰った数だけ命が増える。本当なら、何百連戦もしてもらうはずでしたのに」
「……それは御免だ」
「ええ。いかにあなたと言えど、勝ち目はないと思っていましたから。本当に際限なく成長なさる生き物のようだ。さすがは――」
「――」
「――魔王様に気に入られただけある。どうでしょう、私どもと共にこの世界を作り直すというのは?」
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