外れスキル『レベル分配』が覚醒したら無限にレベルが上がるようになったんだが。〜俺を追放してからレベルが上がらなくなったって?知らん〜

純真

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第三章 『異形の行進』

41.『なり損ない』

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 俺たちは門をぶち破り、戸を蹴飛ばし、無理矢理屋敷の中に入った。さながら強盗である。

「急げ――!」

 目的地は、一番奥の部屋だ。
 あの老人は足が不自由なので、もし襲われていたらもう――いや、最悪の想像は後だ。
 俺は、勢いよくそのドアを開ける。

「――じじい!」

「誰がじじいじゃ。じじいじゃけどな」

「――は、生きてたか……」

「そろそろくたばるかもしれんがの」

 そこには、数日前と何ら変わりない不健康そうな老人が待っていた。いや、待ってはないけど。
 ここにモンスターがいないということは、報告に上がっていた三体で全てなのか。

 そして、あの鈴が関係しているという推測も、間違いだったのだろうか。

 とにかく、何事も無かったのならば幸いだ。
 念の為、この老人を連れてギルドに帰ることにする。



 ギルドは、騒然としていた。
 いつもの活気溢れる騒がしさは失われ、代わりに絶望の悲鳴が全てを塗りつぶしていた。

 逃げ惑う者、既に亡骸になった者、血を浴びて硬直する者。
 考えうる最悪の阿鼻叫喚が、一面には広がっていたのだ。

 その叫びの中心にいるのは、殲滅したはずの異形が一体。
 冒険者とみられる3人組が必死に抑えようとしているそれが、この虐殺の凶徒であることに疑いようはなかった。

 俺が相手にした奴より手足が短く、体は大きい。
 余計に気持ち悪い造形に見えて、咄嗟に嫌悪感を拭いきれない。

「……なんで」

「もう一体、いたのか――?」

 俺たちはひとまず老人を安全な位置まで避難させ、その化け物に向かった。
 いわく付きの屋敷が続いて、今度は冒険者ギルド。
 全くもって関連性が見えず、疑問が膨らむばかりだ。

 しかし、今はそれよりも目の前の悪意を止めなくてはいけない。
 俺は腰の剣を抜き、異形に振りかざす――。

「マ、ァア――!」

「――――それは」

 聞き覚えのある言葉だ。言葉と表していいのかも分からないが。
 少なくとも、第2区に現れた異形は別の言葉を発していたはず。

 まさかこいつは――俺が、捕縛した奴なのか。
 俺の頭に最悪すぎる考えがよぎるが、放たれた剣の勢いは止められなかった。
 その一撃は簡単に異形の体を通り抜け、真っ二つになって倒れた。

「……マ、リ……ア……」

「なんなんだ、こいつは……」

 断末魔が人の名前だなんて、馬鹿げている。
 これじゃ、人間を模倣しているようにしか見えない。
 モンスターなんてくくりで簡単に表現できないほど、おぞましい存在に感じた。

「……こんなの、ひどすぎる」

 ルリは、その場に膝から崩れてしまった。
 あちこちにボロ雑巾のように転がる亡骸の中には、見知った顔もあった。冒険者思いのギルド職員もいた。
 これから出会い、笑い合える仲間になるかもしれなかった者たちが、いた。

 これを引き起こしたのは、俺なのか。



「ギルドの機能は停止。死亡者は27名。被害は甚大だ。――全く、ふざけた事をしてくれるモンスターだよ」

 ギルドマスターは、見たことも無い表情を浮かべて声を荒らげた。
 俺は、ギルドマスターと目を合わせることが出来なかった。

 あの異形がもし、俺が連れてきた個体だったら。
 その被害を作ったのは、俺ということになる。

「ボクが近衛兵団本部に行ってる間にこんなことがあろうとは……腹立たしい。いいかい、これは間違いなく手引きしている黒幕がいる」

「……その話は私から。私はギルド研究室長、アルフィと申します。ヒスイ様、『白夜』様、お初にお目にかかります」

「……どうも」

 白衣の所々を赤く染めた研究者が一歩前に出る。
 やはりあれは、俺が連れてきた個体で間違いない。

「ヒスイ様のお手柄で、あのモンスター……仮称を【バリアント=ヒューマン】としましたが、その一体を解剖することができました」

「お手、柄……?」

 何がお手柄だ。
 死亡した27名のうち、およそ7、8割は俺のせいじゃないか。
 こんな失態、到底許されるものじゃない。

「勘違いしないで欲しいんだけど、これはうちの管理体制が招いた事故だよ。折角ヒスイくんが繋いでくれた希望を、最悪の形で手放したんだ。責任は全てギルドにある。――キミもだよ、アルフィくん」

「――は、はい。大変申し訳……」

「謝罪とかいいから。早く状況を説明して」

 ギルドマスターが鋭い目で研究者を捉える。
 当然だが、ギルドマスターの怒りは想像を絶するほどだ。
 今のこの場で絶対的な発言権を持っているのはギルドマスターその人だと、肌で理解した。

「は、はい。バリアント=ヒューマンの魔力構造を採取するために、対魔の布を取り……四肢が無かったので、腹部に簡単な拘束をしていたのみでした」

「え、対魔の布を外したんですか? 全部?」

「バカだよねぇ、本当に。嫌んなっちゃうよ」

 魔力構造を採取するなら、対魔の布ごと腹部に穴を開けるとかすればいいはずなのに。
 それでは、余力を振り絞って暴れられてもおかしくはない。

 だけど、あの時はそんな余力さえも残していなかったとは思う。時間とともに回復したのか、なにか特殊な能力があるのか。それは、この後の話に出てくるのだろう。

「……それで。採取した魔力構造は、その……人間と同じ構造をしている部分がありました」

「……なんだって?」

 モンスターの魔力構造が、人間と同じ?
 そんなこと、ありえるのだろうか。

 確かに、人のなり損ないような姿をしてはいたけど……本当に人なわけではあるまい。
 あくまで人の真似事をする、異形の存在――、

『マ、ァア――!』

『背中には使い物にならなそうなほど小さな羽が、その下には不格好な尻尾が』

『たった今死んだと聞かされた男が、翼と尻尾を携えてそこに立っていた』

『……ェ、ルゥゥゥ―』

『魔王軍七星が一角! バエル様だ!』

『本当に身も心も魔物になってしまったんだな』



『……マ、リ……ア……』


「――ま、さか」

「――つまりこれは」

 繋がる。驚くほど綺麗に、繋がってしまう。
 かつて、魔王軍幹部の力を借りて魔物――モンスターにその姿を変えた男がいた。
 その男の姿と件の異形を記憶の中で並べると、特徴はしっかりと一致している。

 唯一違うところといえば、俺の記憶にある男はハッキリ人間の言葉を喋り、人としての形を保っていた。
 羽も育ちきって、尻尾も立派だった。
 今回の異形は、それと比べたらあまりにも不格好だ。

 つまりあれは、人になり損ねたモンスターではなく、モンスターになり損ねた人間――。

「魔王軍七星、バエル――!」

「――これは、非道な人体実験だと言うことだ」

 俺の叫びとギルドマスターの叫びが重なる。
 それは偶然か必然か、同じ結論を出していた。
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