上 下
25 / 108
第二章 『明けない夜はない』

25.『やりたいことのために』

しおりを挟む
 帰りの馬車で、俺は考えていた。
 俺の目標ってなんだろう。

 世界最強になるとか、魔王を倒すとか、探せば色々と出てはくるが。
 正直レベル的な意味なら既に世界最強だし、極端な話をすると魔王は必ずしも俺が倒さなくてはいけないわけでもない。

 ならば、俺に目標なんてないのだろうか。
 そう考えると、案外それがしっくりきてしまう。

 結局のところ、今日食べるものに困らなければそれでいい。そんな生き方をしているのだ。

 しかし、やりたいことならある。
 昔――『暁の刃』にいた頃から、俺は世界をこの目で見て周りたかった。
 とはいえE級冒険者が行ける場所には限界があるし、勝てる敵も多くはない。だからただの夢物語だったのだが、今の俺には力がある。

 世界中を歩き回って、美味しいものを食べて、見たことも無いモンスターと戦って。
 そんな旅を、俺はしたい。

 その為に、まずは美しい世界を守らなければならない。
 それを脅かす危険因子は排除する必要がある。
 だから魔王もこの手で倒すのだ。

 魔王の強さがどの程度かは知らないが、俺一人では限界があるだろう。強力な仲間が必要だ。
 強いだけではダメだ。パーティを組むなら、世界が平和になった後で共に旅をしたいと思える人でなければ。

 心当たりはある。
 いや、俺が共に歩みたいだけなのかもしれないが――とにかく、隣に立って戦って欲しい人がいる。

 その人は、今はどこにいるかわからない。
 だけどきっと、いつかまた共に戦える日が来るだろう。
 その時のために俺は強くなり続けなければならない。

 あの日、あの場所で出会えなかったら、きっと今の俺はいなかったから。
 少なくともS級に上がることなどなく、それなりのモンスターを倒してそれなりの暮らしをして満足していたはずだ。
 人のために力を使うなんて、きっと出来なかった。

 だからって、いつまでも一人きりじゃいられない。
 明日にでも魔王が攻めてくる可能性だってあるのだ。
 早い話が、固定パーティを組む必要があるだろう。

 繰り返すが、誰でもいいわけじゃない。
 誰でもいいわけじゃないから、俺は言葉にした。

「なぁ、俺とパーティを組まないか?」

「…………」

 本気だからこそ、口をへの字に曲げられても俺はめげなかった。



 『白夜』。17歳。本名は知らない。
 人付き合いが嫌いで、コミュニケーション力が壊滅的。
 なのに何故かめちゃくちゃ表情に出るので、意外とわかりやすい。
 素直になったらユーモアがあるタイプなのかもしれない。

 この辺りじゃ珍しい黒髪を肩で揃えたショートカット。
 ジト目。童顔で、薄い唇と小さい鼻も特徴的。
 とどのつまり、美少女だ。

 服装は黒いものを好むようで、ハッキリ言って地味。

 魔法の腕はピカイチで、S級モンスターを一撃で葬るほど。
 驕り高ぶることもないようだし、強さと歳の割にしっかりしている印象だ。

 これが、俺の知る全部。
 たったこれだけしか知らないが、もっと知りたくなった。

 俺は、彼女とパーティを組みたいと思っている。

「ねぇねぇ、『白夜』さん。俺とパーティ、組もうぜ!」

「…………やだ」

 ここ3日ほど誘い続けているのだが、どうにもいい返事を貰えない。
 今までS級同士でパーティを組んだ前例がないので、そういう意味でも面白いと思うのだが。

「そうは思わんかね?」

「…………思わない」

 思わないらしい。これは計算外だ。
 まさかここまで頑なに断られるとは思わなかった。

 こう見えて結構いい物件なんですよ、俺は。
 毎日のようにパーティへのお誘いを受けるし。
 稼ぎもいいし、肩も揉みますよ。

 ちなみに、今日はA級モンスター【ワームリッチ】を討伐してきたのだが、お土産の『腐ったうにょうにょ』も受け取って貰えなかった。なんだこの物体。

 そういえば、ギルドを通じてセドニーシティから「いつ帰ってくるの?」って催促があったが、申し訳ないと言わざるを得ない。
 俺は、『白夜』をパーティに加えるまで帰るつもりは無い。お詫びに『腐ったうにょうにょ』を送っておいた。

「そろそろ観念してパーティ組まない?」

「…………ついてこないで」

 ちょっと。その言い方は酷くありませんか?
 いくらなんでも、美少女にそんなに全力で拒絶されたらいくら俺だって傷付く――、

「…………違う。トイレ」

 おっと失礼。
 あれからずっと同じ宿に泊まってるから、ちょいちょいロビーで会ったりするわけで。
 そういう時はここぞとばかりに熱い勧誘を仕掛けるのだが……トイレか。
 この宿は自室にトイレがないから、用を足すために降りてきたのね。

 しかしまぁ、S級なのになんでこんな安い宿に……と思ったが、グローシティの宿は一部のお高い宿を除けばこんなもんだ。
 そろそろセドニーシティにも帰りたい。『白夜』をつれて。

「…………なんでそんなに組みたいの?」

「え? ああ、そういえば」

 考えてみれば、俺が何故『白夜』とパーティを組みたいのか、本人に伝えてなかった。
 ここ数日、理由も伝えずに粘着しては「パーティ組もうぜ!」と言い続ける不審者。それが俺だ。

 真面目な話が必要かもしれない。
 今、この世界に魔王の……文字通り魔の手が伸びていること。そのために、強力な仲間がいること。
 それを、『白夜』に伝えた。

「――俺は、君とパーティを組みたい。俺と君なら、魔王も倒せると思うんだ」

「…………嘘臭い」

 嘘じゃねーし! 結構話題になってるだろ、魔王軍のこと!
 冒険者ならそろそろ聞いてていい頃だと思うんですけどね!

 あ、こいつ話とかする相手いないのか……ごめん、配慮が足りなかった。

「…………」

 あ、ちょっと! 無言でどっか行かないで!
 悪かったから! もう少し話を――!

「行ってしまった」

 『白夜』とパーティを組むのは、なかなか至難かもしれない。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

平凡すぎる、と追放された俺。実は大量スキル獲得可のチート能力『無限変化』の使い手でした。俺が抜けてパーティが瓦解したから今更戻れ?お断りです

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
★ファンタジーカップ参加作品です。  応援していただけたら執筆の励みになります。 《俺、貸します!》 これはパーティーを追放された男が、その実力で上り詰め、唯一無二の『レンタル冒険者』として無双を極める話である。(新形式のざまぁもあるよ) ここから、直接ざまぁに入ります。スカッとしたい方は是非! 「君みたいな平均的な冒険者は不要だ」 この一言で、パーティーリーダーに追放を言い渡されたヨシュア。 しかしその実、彼は平均を装っていただけだった。 レベル35と見せかけているが、本当は350。 水属性魔法しか使えないと見せかけ、全属性魔法使い。 あまりに圧倒的な実力があったため、パーティーの中での力量バランスを考え、あえて影からのサポートに徹していたのだ。 それどころか攻撃力・防御力、メンバー関係の調整まで全て、彼が一手に担っていた。 リーダーのあまりに不足している実力を、ヨシュアのサポートにより埋めてきたのである。 その事実を伝えるも、リーダーには取り合ってもらえず。 あえなく、追放されてしまう。 しかし、それにより制限の消えたヨシュア。 一人で無双をしていたところ、その実力を美少女魔導士に見抜かれ、『レンタル冒険者』としてスカウトされる。 その内容は、パーティーや個人などに借りられていき、場面に応じた役割を果たすというものだった。 まさに、ヨシュアにとっての天職であった。 自分を正当に認めてくれ、力を発揮できる環境だ。 生まれつき与えられていたギフト【無限変化】による全武器、全スキルへの適性を活かして、様々な場所や状況に完璧な適応を見せるヨシュア。 目立ちたくないという思いとは裏腹に、引っ張りだこ。 元パーティーメンバーも彼のもとに帰ってきたいと言うなど、美少女たちに溺愛される。 そうしつつ、かつて前例のない、『レンタル』無双を開始するのであった。 一方、ヨシュアを追放したパーティーリーダーはと言えば、クエストの失敗、メンバーの離脱など、どんどん破滅へと追い込まれていく。 ヨシュアのスーパーサポートに頼りきっていたこと、その真の強さに気づき、戻ってこいと声をかけるが……。 そのときには、もう遅いのであった。

スキル間違いの『双剣士』~一族の恥だと追放されたが、追放先でスキルが覚醒。気が付いたら最強双剣士に~

きょろ
ファンタジー
この世界では5歳になる全ての者に『スキル』が与えられる――。 洗礼の儀によってスキル『片手剣』を手にしたグリム・レオハートは、王国で最も有名な名家の長男。 レオハート家は代々、女神様より剣の才能を与えられる事が多い剣聖一族であり、グリムの父は王国最強と謳われる程の剣聖であった。 しかし、そんなレオハート家の長男にも関わらずグリムは全く剣の才能が伸びなかった。 スキルを手にしてから早5年――。 「貴様は一族の恥だ。最早息子でも何でもない」 突如そう父に告げられたグリムは、家族からも王国からも追放され、人が寄り付かない辺境の森へと飛ばされてしまった。 森のモンスターに襲われ絶対絶命の危機に陥ったグリム。ふと辺りを見ると、そこには過去に辺境の森に飛ばされたであろう者達の骨が沢山散らばっていた。 それを見つけたグリムは全てを諦め、最後に潔く己の墓を建てたのだった。 「どうせならこの森で1番派手にしようか――」 そこから更に8年――。 18歳になったグリムは何故か辺境の森で最強の『双剣士』となっていた。 「やべ、また力込め過ぎた……。双剣じゃやっぱ強すぎるな。こりゃ1本は飾りで十分だ」 最強となったグリムの所へ、ある日1体の珍しいモンスターが現れた。 そして、このモンスターとの出会いがグレイの運命を大きく動かす事となる――。

異世界転移「スキル無!」~授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだったようです~

夢・風魔
ファンタジー
林間学校の最中に召喚(誘拐?)された鈴村翔は「スキルが無い役立たずはいらない」と金髪縦ロール女に言われ、その場に取り残された。 しかしそのスキル鑑定は間違っていた。スキルが無いのではなく、転移特典で授かったのは『無』というスキルだったのだ。 とにかく生き残るために行動を起こした翔は、モンスターに襲われていた双子のエルフ姉妹を助ける。 エルフの里へと案内された翔は、林間学校で用意したキャンプ用品一式を使って彼らの食生活を改革することに。 スキル『無』で時々無双。双子の美少女エルフや木に宿る幼女精霊に囲まれ、翔の異世界生活冒険譚は始まった。 *小説家になろう・カクヨムでも投稿しております(完結済み

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

生まれる世界を間違えた俺は女神様に異世界召喚されました【リメイク版】

雪乃カナ
ファンタジー
世界が退屈でしかなかった1人の少年〝稗月倖真〟──彼は生まれつきチート級の身体能力と力を持っていた。だが同時に生まれた現代世界ではその力を持て余す退屈な日々を送っていた。  そんなある日いつものように孤児院の自室で起床し「退屈だな」と、呟いたその瞬間、突如現れた〝光の渦〟に吸い込まれてしまう!  気づくと辺りは白く光る見た事の無い部屋に!?  するとそこに女神アルテナが現れて「取り敢えず異世界で魔王を倒してきてもらえませんか♪」と頼まれる。  だが、異世界に着くと前途多難なことばかり、思わず「おい、アルテナ、聞いてないぞ!」と、叫びたくなるような事態も発覚したり──  でも、何はともあれ、女神様に異世界召喚されることになり、生まれた世界では持て余したチート級の力を使い、異世界へと魔王を倒しに行く主人公の、異世界ファンタジー物語!!

クラスごと異世界に召喚されたんだけど別ルートで転移した俺は気の合う女子たちととある目的のために冒険者生活 勇者が困っていようが助けてやらない

枕崎 削節
ファンタジー
安西タクミ18歳、事情があって他の生徒よりも2年遅れで某高校の1学年に学期の途中で編入することになった。ところが編入初日に一歩教室に足を踏み入れた途端に部屋全体が白い光に包まれる。 「おい、このクソ神! 日本に戻ってきて2週間しか経ってないのにまた召喚かよ! いくらんでも人使いが荒すぎるぞ!」 とまあ文句を言ってみたものの、彼は否応なく異世界に飛ばされる。だがその途中でタクミだけが見慣れた神様のいる場所に途中下車して今回の召喚の目的を知る。実は過去2回の異世界召喚はあくまでもタクミを鍛えるための修行の一環であって、実は3度目の今回こそが本来彼が果たすべき使命だった。 単なる召喚と思いきや、その裏には宇宙規模の侵略が潜んでおり、タクミは地球の未来を守るために3度目の異世界行きを余儀なくされる。 自己紹介もしないうちに召喚された彼と行動を共にしてくれるクラスメートはいるのだろうか? そして本当に地球の運命なんて大そうなモノが彼の肩に懸かっているという重圧を撥ね退けて使命を果たせるのか? 剣と魔法が何よりも物を言う世界で地球と銀河の運命を賭けた一大叙事詩がここからスタートする。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

処理中です...