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第二章 『明けない夜はない』
25.『やりたいことのために』
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帰りの馬車で、俺は考えていた。
俺の目標ってなんだろう。
世界最強になるとか、魔王を倒すとか、探せば色々と出てはくるが。
正直レベル的な意味なら既に世界最強だし、極端な話をすると魔王は必ずしも俺が倒さなくてはいけないわけでもない。
ならば、俺に目標なんてないのだろうか。
そう考えると、案外それがしっくりきてしまう。
結局のところ、今日食べるものに困らなければそれでいい。そんな生き方をしているのだ。
しかし、やりたいことならある。
昔――『暁の刃』にいた頃から、俺は世界をこの目で見て周りたかった。
とはいえE級冒険者が行ける場所には限界があるし、勝てる敵も多くはない。だからただの夢物語だったのだが、今の俺には力がある。
世界中を歩き回って、美味しいものを食べて、見たことも無いモンスターと戦って。
そんな旅を、俺はしたい。
その為に、まずは美しい世界を守らなければならない。
それを脅かす危険因子は排除する必要がある。
だから魔王もこの手で倒すのだ。
魔王の強さがどの程度かは知らないが、俺一人では限界があるだろう。強力な仲間が必要だ。
強いだけではダメだ。パーティを組むなら、世界が平和になった後で共に旅をしたいと思える人でなければ。
心当たりはある。
いや、俺が共に歩みたいだけなのかもしれないが――とにかく、隣に立って戦って欲しい人がいる。
その人は、今はどこにいるかわからない。
だけどきっと、いつかまた共に戦える日が来るだろう。
その時のために俺は強くなり続けなければならない。
あの日、あの場所で出会えなかったら、きっと今の俺はいなかったから。
少なくともS級に上がることなどなく、それなりのモンスターを倒してそれなりの暮らしをして満足していたはずだ。
人のために力を使うなんて、きっと出来なかった。
だからって、いつまでも一人きりじゃいられない。
明日にでも魔王が攻めてくる可能性だってあるのだ。
早い話が、固定パーティを組む必要があるだろう。
繰り返すが、誰でもいいわけじゃない。
誰でもいいわけじゃないから、俺は言葉にした。
「なぁ、俺とパーティを組まないか?」
「…………」
本気だからこそ、口をへの字に曲げられても俺はめげなかった。
■
『白夜』。17歳。本名は知らない。
人付き合いが嫌いで、コミュニケーション力が壊滅的。
なのに何故かめちゃくちゃ表情に出るので、意外とわかりやすい。
素直になったらユーモアがあるタイプなのかもしれない。
この辺りじゃ珍しい黒髪を肩で揃えたショートカット。
ジト目。童顔で、薄い唇と小さい鼻も特徴的。
とどのつまり、美少女だ。
服装は黒いものを好むようで、ハッキリ言って地味。
魔法の腕はピカイチで、S級モンスターを一撃で葬るほど。
驕り高ぶることもないようだし、強さと歳の割にしっかりしている印象だ。
これが、俺の知る全部。
たったこれだけしか知らないが、もっと知りたくなった。
俺は、彼女とパーティを組みたいと思っている。
「ねぇねぇ、『白夜』さん。俺とパーティ、組もうぜ!」
「…………やだ」
ここ3日ほど誘い続けているのだが、どうにもいい返事を貰えない。
今までS級同士でパーティを組んだ前例がないので、そういう意味でも面白いと思うのだが。
「そうは思わんかね?」
「…………思わない」
思わないらしい。これは計算外だ。
まさかここまで頑なに断られるとは思わなかった。
こう見えて結構いい物件なんですよ、俺は。
毎日のようにパーティへのお誘いを受けるし。
稼ぎもいいし、肩も揉みますよ。
ちなみに、今日はA級モンスター【ワームリッチ】を討伐してきたのだが、お土産の『腐ったうにょうにょ』も受け取って貰えなかった。なんだこの物体。
そういえば、ギルドを通じてセドニーシティから「いつ帰ってくるの?」って催促があったが、申し訳ないと言わざるを得ない。
俺は、『白夜』をパーティに加えるまで帰るつもりは無い。お詫びに『腐ったうにょうにょ』を送っておいた。
「そろそろ観念してパーティ組まない?」
「…………ついてこないで」
ちょっと。その言い方は酷くありませんか?
いくらなんでも、美少女にそんなに全力で拒絶されたらいくら俺だって傷付く――、
「…………違う。トイレ」
おっと失礼。
あれからずっと同じ宿に泊まってるから、ちょいちょいロビーで会ったりするわけで。
そういう時はここぞとばかりに熱い勧誘を仕掛けるのだが……トイレか。
この宿は自室にトイレがないから、用を足すために降りてきたのね。
しかしまぁ、S級なのになんでこんな安い宿に……と思ったが、グローシティの宿は一部のお高い宿を除けばこんなもんだ。
そろそろセドニーシティにも帰りたい。『白夜』をつれて。
「…………なんでそんなに組みたいの?」
「え? ああ、そういえば」
考えてみれば、俺が何故『白夜』とパーティを組みたいのか、本人に伝えてなかった。
ここ数日、理由も伝えずに粘着しては「パーティ組もうぜ!」と言い続ける不審者。それが俺だ。
真面目な話が必要かもしれない。
今、この世界に魔王の……文字通り魔の手が伸びていること。そのために、強力な仲間がいること。
それを、『白夜』に伝えた。
「――俺は、君とパーティを組みたい。俺と君なら、魔王も倒せると思うんだ」
「…………嘘臭い」
嘘じゃねーし! 結構話題になってるだろ、魔王軍のこと!
冒険者ならそろそろ聞いてていい頃だと思うんですけどね!
あ、こいつ話とかする相手いないのか……ごめん、配慮が足りなかった。
「…………」
あ、ちょっと! 無言でどっか行かないで!
悪かったから! もう少し話を――!
「行ってしまった」
『白夜』とパーティを組むのは、なかなか至難かもしれない。
俺の目標ってなんだろう。
世界最強になるとか、魔王を倒すとか、探せば色々と出てはくるが。
正直レベル的な意味なら既に世界最強だし、極端な話をすると魔王は必ずしも俺が倒さなくてはいけないわけでもない。
ならば、俺に目標なんてないのだろうか。
そう考えると、案外それがしっくりきてしまう。
結局のところ、今日食べるものに困らなければそれでいい。そんな生き方をしているのだ。
しかし、やりたいことならある。
昔――『暁の刃』にいた頃から、俺は世界をこの目で見て周りたかった。
とはいえE級冒険者が行ける場所には限界があるし、勝てる敵も多くはない。だからただの夢物語だったのだが、今の俺には力がある。
世界中を歩き回って、美味しいものを食べて、見たことも無いモンスターと戦って。
そんな旅を、俺はしたい。
その為に、まずは美しい世界を守らなければならない。
それを脅かす危険因子は排除する必要がある。
だから魔王もこの手で倒すのだ。
魔王の強さがどの程度かは知らないが、俺一人では限界があるだろう。強力な仲間が必要だ。
強いだけではダメだ。パーティを組むなら、世界が平和になった後で共に旅をしたいと思える人でなければ。
心当たりはある。
いや、俺が共に歩みたいだけなのかもしれないが――とにかく、隣に立って戦って欲しい人がいる。
その人は、今はどこにいるかわからない。
だけどきっと、いつかまた共に戦える日が来るだろう。
その時のために俺は強くなり続けなければならない。
あの日、あの場所で出会えなかったら、きっと今の俺はいなかったから。
少なくともS級に上がることなどなく、それなりのモンスターを倒してそれなりの暮らしをして満足していたはずだ。
人のために力を使うなんて、きっと出来なかった。
だからって、いつまでも一人きりじゃいられない。
明日にでも魔王が攻めてくる可能性だってあるのだ。
早い話が、固定パーティを組む必要があるだろう。
繰り返すが、誰でもいいわけじゃない。
誰でもいいわけじゃないから、俺は言葉にした。
「なぁ、俺とパーティを組まないか?」
「…………」
本気だからこそ、口をへの字に曲げられても俺はめげなかった。
■
『白夜』。17歳。本名は知らない。
人付き合いが嫌いで、コミュニケーション力が壊滅的。
なのに何故かめちゃくちゃ表情に出るので、意外とわかりやすい。
素直になったらユーモアがあるタイプなのかもしれない。
この辺りじゃ珍しい黒髪を肩で揃えたショートカット。
ジト目。童顔で、薄い唇と小さい鼻も特徴的。
とどのつまり、美少女だ。
服装は黒いものを好むようで、ハッキリ言って地味。
魔法の腕はピカイチで、S級モンスターを一撃で葬るほど。
驕り高ぶることもないようだし、強さと歳の割にしっかりしている印象だ。
これが、俺の知る全部。
たったこれだけしか知らないが、もっと知りたくなった。
俺は、彼女とパーティを組みたいと思っている。
「ねぇねぇ、『白夜』さん。俺とパーティ、組もうぜ!」
「…………やだ」
ここ3日ほど誘い続けているのだが、どうにもいい返事を貰えない。
今までS級同士でパーティを組んだ前例がないので、そういう意味でも面白いと思うのだが。
「そうは思わんかね?」
「…………思わない」
思わないらしい。これは計算外だ。
まさかここまで頑なに断られるとは思わなかった。
こう見えて結構いい物件なんですよ、俺は。
毎日のようにパーティへのお誘いを受けるし。
稼ぎもいいし、肩も揉みますよ。
ちなみに、今日はA級モンスター【ワームリッチ】を討伐してきたのだが、お土産の『腐ったうにょうにょ』も受け取って貰えなかった。なんだこの物体。
そういえば、ギルドを通じてセドニーシティから「いつ帰ってくるの?」って催促があったが、申し訳ないと言わざるを得ない。
俺は、『白夜』をパーティに加えるまで帰るつもりは無い。お詫びに『腐ったうにょうにょ』を送っておいた。
「そろそろ観念してパーティ組まない?」
「…………ついてこないで」
ちょっと。その言い方は酷くありませんか?
いくらなんでも、美少女にそんなに全力で拒絶されたらいくら俺だって傷付く――、
「…………違う。トイレ」
おっと失礼。
あれからずっと同じ宿に泊まってるから、ちょいちょいロビーで会ったりするわけで。
そういう時はここぞとばかりに熱い勧誘を仕掛けるのだが……トイレか。
この宿は自室にトイレがないから、用を足すために降りてきたのね。
しかしまぁ、S級なのになんでこんな安い宿に……と思ったが、グローシティの宿は一部のお高い宿を除けばこんなもんだ。
そろそろセドニーシティにも帰りたい。『白夜』をつれて。
「…………なんでそんなに組みたいの?」
「え? ああ、そういえば」
考えてみれば、俺が何故『白夜』とパーティを組みたいのか、本人に伝えてなかった。
ここ数日、理由も伝えずに粘着しては「パーティ組もうぜ!」と言い続ける不審者。それが俺だ。
真面目な話が必要かもしれない。
今、この世界に魔王の……文字通り魔の手が伸びていること。そのために、強力な仲間がいること。
それを、『白夜』に伝えた。
「――俺は、君とパーティを組みたい。俺と君なら、魔王も倒せると思うんだ」
「…………嘘臭い」
嘘じゃねーし! 結構話題になってるだろ、魔王軍のこと!
冒険者ならそろそろ聞いてていい頃だと思うんですけどね!
あ、こいつ話とかする相手いないのか……ごめん、配慮が足りなかった。
「…………」
あ、ちょっと! 無言でどっか行かないで!
悪かったから! もう少し話を――!
「行ってしまった」
『白夜』とパーティを組むのは、なかなか至難かもしれない。
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