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第二章 『明けない夜はない』

20.『作戦会議』

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 受付嬢の選んだ宿は、先ほどの宿だった。
 というか、『白夜』の隣の部屋だった。

 わざとやってるのかな? わざとやってるよね?
 受付嬢は明日とっちめるとして、せっかくなので隣の部屋をノックしてみた。

「すみませーん。特に用はないけどすみませーん」

 迷惑行為である。
 とはいえ、『白夜』の戦法を確かめておきたいのもある。
 彼女が魔術師な以上――それもS級なのでさぞ強大な魔法を操るとすれば、巻き込まれたらたまったもんじゃない。
 まぁ明日現地で作戦を詰めればいいのだが、せっかくだ。

「…………またあなた?」

 今回はすんなりドアを開けてくれた。
 案外、人の温もりに飢えているのかもしれないな。

「作戦会議しようぜ。中入っていい?」

「…………いらない」

 いらないってなんですか?
 俺、押し売り商人か何かだと思われてます?
 一応、明日の最高戦力ですよ?

「そう言わずにさ。ほら、俺隣の部屋だし」

「…………」

 無言で口をへの字にするの辞めてもらっていいですか?
 俺のせいじゃないもん。受付嬢が悪いもん。

「乙女の部屋に入っちゃまずいものでもあるなら俺の部屋でもいいけど」

「………………入って」

 長い沈黙の後、ようやく入室の許可を得たのであった。

 部屋は殺風景だった。
 冒険者の中には、自分の家を持たずに宿に住み着いている者も多い。彼女はそういうタイプではなさそうだ。

「何もない部屋だな」

「……」

「何歳?」

「……17」

 イヴより3つ歳上だった。
 その見た目にしては思いのほかしっかり歳を重ねていたらしいが、よかった。歳上とかじゃなくて。

「明日の作戦だけど……マウンテンザラタンと戦ったことって、ある?」

 その問いに首を横に振ることで答える『白夜』。
 そりゃそうだよな。S級モンスターなんてそうそう現れるものでもない。

 本来はS級冒険者が四人がかりで倒すようなモンスターだが、そもそも今のS級冒険者が四人も揃ったことがあるのだろうか。

 S級冒険者は世界に数人と聞いているが、王国には何人いるんだろうか。一応世界最大の国家ではあるので、王国に集中している可能性もあるが。

「魔法使いなんだよね? どんな魔法使うの?」

「……なんでも」

 さすがはS級だ。
 この質問に「なんでも」と答える奴初めて見た。
 もちろん、言葉通り現存する全ての魔法を使えるわけではないだろうが。

 範囲魔法、強化魔法、補助魔法、回復魔法。
 それらをある程度使いこなせると言うわけだろうか。

「俺は剣しか使えないんだけど……大規模な範囲魔法とかされると巻き込まれちゃうから控えめにね?」

「…………私だけでやる」

「はぁ!?」

 そりゃ自信過剰ではありませんか。
 いくらサポートがあるとはいえ、前線に立つのがひとりだけなんてありえない。
 いかにS級冒険者と言っても、たったひとりでS級モンスターを倒せるなら苦労はしないっての。

 まぁ今回のマウンテンザラタンは、戦闘力が高いからというより、デカすぎて歩くだけで危険という意味でS級に分類されているような感じはするが。

 それにしたって、やっぱり俺も一緒に戦わなきゃ意味が無いだろう。なんのための討伐隊なんだ。

 あと、遠回しに「お前邪魔」って言われた気がしてならない。俺の名誉のためにも、ここで「はいそうですか」とはいかないのだ。

「……大丈夫」

 ダメだろ。
 でもアレだ、ちょっと自信ありげな顔してる。
 マジでいけるの? ほんとに?
 いや無理だろ。わかんなくなってきた。

「――じゃあ、最初の一撃は思いっきりぶっぱなせ。それで、俺の補助が必要か判断するよ」

「……わかった」

 ということで、開戦の合図は『白夜』の一撃に決定した。
 聞くに、どうやら氷属性の魔法が得意らしい。
 山のようにデカい……というか山そのものを担いで歩いてるマウンテンザラタンに、氷なんて効くのかよと思わなくもない。

 しかし、『白夜』は表情を崩さず、

「……大丈夫」

 って言っている。
 もう信じるしかない。

 最初の一撃である程度ダメージを与えられれば、その後は俺の剣技を数回ぶち込めば倒せるんじゃなかろうか。

 よし、そんな感じでいこう。

 というわけで、作戦会議もそこそこに俺は自室に戻って寝ることにする。
 酒も入ってるので、ほどよく眠気が襲ってきているのだ。

「じゃあ、戸締りしっかりして寝るのよー」

「…………」

 冗談に反応が返ってこないと不安になるな。
 そんなこんなで、俺らは決戦の朝を迎えるのだった。
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