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第二章 『明けない夜はない』
17.『二人目』
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「あたしたちは残るよ。元々ここが故郷だし、シノとリュナのお墓も作ってあげたい」
そういえばそうだった。
イヴたちはここグローシティ周辺の狩り場でクォーツたちに襲われ、命からがらセドニーシティまで逃げ出してきたのだ。
ということは、帰りは一人か。
最近は一人で狩りをすることが多かったが、いざこうやって誰かと馬車で旅をしたあとだと、たった一人の帰り道は無性に寂しいものがある。
「あの……本当にありがとうなの。もし良かったらまた来て欲しいの」
「はは……どうかな。そうだな。またくるよ」
「おにーさん、またね!」
そうしてイヴのネスは歩き始めた。
仲間を失ったのは辛いだろうが、強く生きてほしい。
そうだ。この街に嫌な思い出しかないのなら、これからいい思い出を作っていけばいいのだ。
また来よう、この街に。
■
クォーツたちも近衛兵に引き渡したし、これで本当にこの街でやることは何もない。
あとは馬車を手配して帰るだけなのだが、それが中々曲者なのだ。
何がかと言うと、この街じゃ馬車は冒険者ギルドでしか手配できないということ。
なんだかんだこの街には顔馴染みもいるし、ちょっと気まずいのだ。
「別に歩いて帰ってもいいんだけど……」
今の俺なら全力で走れば2時間程度でセドニーシティまでたどり着けるだろう。
けど、全力で走らなきゃいけないのか……ちょっと嫌だな。
こういうどうでもいいところで悩むのも馬鹿らしいし、やっぱり冒険者ギルドに行こう。今や俺だってS級冒険者。堂々としてればいいんだ。
そう考え直し、俺は久しぶりにグロー冒険者ギルドの前にいた。
「いやぁ、久しぶりだなぁ……つっても、一ヶ月くらいじゃ何も変わってないか」
なんて外観を眺めながら微妙な感慨に浸っていると、どうやらギルドの中が騒がしくなってきた。
なんだ、もしかしてこっちでも既に俺は有名人なのか!? いやぁ、照れちまいますな。やっぱり俺はS級――、
「――冒険者の方ですか!?」
と、てんやわんやの中から一人の受付嬢が出てきた。
大層焦ってるご様子で、俺を見るなりギルドの中に引きずり込んできた。強引なんだから、もう。
「ランクを教えて貰っていいですか!?」
「あ、えっと……S級、です」
「S級!? 本当ですか!? しょーもない嘘だったらぶっ飛ばしますよ!? こっちは必死なんですから!」
えぇ!? いや本当なんです、ぶっ飛ばさないでください! っていうかなんだ。俺のこと知ってたわけじゃないのか。
……いやおかしくない? 俺、よく見たらこの人の事知ってるんだけど。
よくこの人から依頼を受けてたんだけど。
なんで忘れてんの? 俺そんなに印象薄かった?
「……本当ですよ。ほら」
若干機嫌を損ねつつ、セドニーシティのギルドカードをこれみよがしに見せる。
すると、受付嬢の態度が急変した。
「――! 本当なんですね、失礼しました! セドニーシティの冒険者様ですか……あの、この街の依頼を受けて頂けませんか!? 街の存続に関わる重大な案件なんです!」
「それは大変ですねぇ。詳細を伺っても?」
「はい! えっと、あの、【マウンテンザラタン】が、その、街に、存続が! 危ない!」
ちょっと落ち着いてください。
相当緊急を要するんでしょうね。
それだけは伝わりました。大変だァ。
何が大変なのか全く分からないけど。
「落ち着いて一から説明して貰えますか?」
「――そ、そうですね。失礼しました。えっとですね、街の近くにS級モンスター【マウンテンザラタン】が出現しまして……」
S級モンスターか、それはまずいな。
とっとと何とかしなければ、誇張抜きに街の存続に関わる案件だということだ。
「マウンテンザラタンというのは、それはもう巨大な亀のモンスターでして……一説によると、本物の山を持ち上げて甲羅にするそうです」
「やっば」
山て。
山を持ち上げるて。
本体のサイズがどんなもんかは分からないが、少なくとも歩くだけで街が滅びる。
どうやって倒すんだろうか……剣とか効くの?
仮に倒したとして、その後どうすんの?
死骸とか、その場に放置された山とか。
「その辺はギルドが上手いようにやります」
「ギルドすげぇな……」
死骸はともかく、山はどうしようもない気がするが。
「どうやら進行方向にグローシティがあるようなのですが、幸いなことにマウンテンザラタンの歩く早さはかなり遅いです。今から大規模な討伐隊を組めばなんとか……ということで、腕の立つ冒険者さんを探していたんです!」
と、いうことらしい。
そういうことなら、協力しようじゃないか。
「わかりました。じゃあ、手伝わせてください」
「ありがとうございます! ――みんなァ! S級捕まえたぞォ!」
「――ウオォォォ!!!」
「俺ってレアモンスターか何か?」
捕まえたってなんだよ。捕まったよ。
なんで湧いてんだよお前ら。
ちょっと物申したいところあるよ?
「これで二人目だなァ!」
「はい! 何とかなるかもしれません! というわけで冒険者様、よろしくお願いします!」
「ん? 二人目ってのは? まさかこんなに冒険者が集まってるのに、俺ともう一人しか協力しないとか……」
「あ、違います! S級冒険者様がもう一名いらっしゃるんですよ! 『白夜』って通名で知られる、あの」
あの。って言われても知らないよ。
でも、S級冒険者か。
これはまた、頼りになりそうな人がいてよかった。
タマユラと同じくらい強……タマユラの話はやめようかな。
とにかく、もう一人S級がいるなら心強い。
「あ、でも……その方は、絶対にパーティも組まないし、味方と共闘もしないんです。でも今回は本来ならS級冒険者様四人がかりで挑むような災害……何とか説得しておいてください!」
おい。そういうご機嫌取りみたいな仕事を俺に押し付けるんじゃないよ。
一気に幸先が不安になったよ。
俺は溜息をついた。
そういえばそうだった。
イヴたちはここグローシティ周辺の狩り場でクォーツたちに襲われ、命からがらセドニーシティまで逃げ出してきたのだ。
ということは、帰りは一人か。
最近は一人で狩りをすることが多かったが、いざこうやって誰かと馬車で旅をしたあとだと、たった一人の帰り道は無性に寂しいものがある。
「あの……本当にありがとうなの。もし良かったらまた来て欲しいの」
「はは……どうかな。そうだな。またくるよ」
「おにーさん、またね!」
そうしてイヴのネスは歩き始めた。
仲間を失ったのは辛いだろうが、強く生きてほしい。
そうだ。この街に嫌な思い出しかないのなら、これからいい思い出を作っていけばいいのだ。
また来よう、この街に。
■
クォーツたちも近衛兵に引き渡したし、これで本当にこの街でやることは何もない。
あとは馬車を手配して帰るだけなのだが、それが中々曲者なのだ。
何がかと言うと、この街じゃ馬車は冒険者ギルドでしか手配できないということ。
なんだかんだこの街には顔馴染みもいるし、ちょっと気まずいのだ。
「別に歩いて帰ってもいいんだけど……」
今の俺なら全力で走れば2時間程度でセドニーシティまでたどり着けるだろう。
けど、全力で走らなきゃいけないのか……ちょっと嫌だな。
こういうどうでもいいところで悩むのも馬鹿らしいし、やっぱり冒険者ギルドに行こう。今や俺だってS級冒険者。堂々としてればいいんだ。
そう考え直し、俺は久しぶりにグロー冒険者ギルドの前にいた。
「いやぁ、久しぶりだなぁ……つっても、一ヶ月くらいじゃ何も変わってないか」
なんて外観を眺めながら微妙な感慨に浸っていると、どうやらギルドの中が騒がしくなってきた。
なんだ、もしかしてこっちでも既に俺は有名人なのか!? いやぁ、照れちまいますな。やっぱり俺はS級――、
「――冒険者の方ですか!?」
と、てんやわんやの中から一人の受付嬢が出てきた。
大層焦ってるご様子で、俺を見るなりギルドの中に引きずり込んできた。強引なんだから、もう。
「ランクを教えて貰っていいですか!?」
「あ、えっと……S級、です」
「S級!? 本当ですか!? しょーもない嘘だったらぶっ飛ばしますよ!? こっちは必死なんですから!」
えぇ!? いや本当なんです、ぶっ飛ばさないでください! っていうかなんだ。俺のこと知ってたわけじゃないのか。
……いやおかしくない? 俺、よく見たらこの人の事知ってるんだけど。
よくこの人から依頼を受けてたんだけど。
なんで忘れてんの? 俺そんなに印象薄かった?
「……本当ですよ。ほら」
若干機嫌を損ねつつ、セドニーシティのギルドカードをこれみよがしに見せる。
すると、受付嬢の態度が急変した。
「――! 本当なんですね、失礼しました! セドニーシティの冒険者様ですか……あの、この街の依頼を受けて頂けませんか!? 街の存続に関わる重大な案件なんです!」
「それは大変ですねぇ。詳細を伺っても?」
「はい! えっと、あの、【マウンテンザラタン】が、その、街に、存続が! 危ない!」
ちょっと落ち着いてください。
相当緊急を要するんでしょうね。
それだけは伝わりました。大変だァ。
何が大変なのか全く分からないけど。
「落ち着いて一から説明して貰えますか?」
「――そ、そうですね。失礼しました。えっとですね、街の近くにS級モンスター【マウンテンザラタン】が出現しまして……」
S級モンスターか、それはまずいな。
とっとと何とかしなければ、誇張抜きに街の存続に関わる案件だということだ。
「マウンテンザラタンというのは、それはもう巨大な亀のモンスターでして……一説によると、本物の山を持ち上げて甲羅にするそうです」
「やっば」
山て。
山を持ち上げるて。
本体のサイズがどんなもんかは分からないが、少なくとも歩くだけで街が滅びる。
どうやって倒すんだろうか……剣とか効くの?
仮に倒したとして、その後どうすんの?
死骸とか、その場に放置された山とか。
「その辺はギルドが上手いようにやります」
「ギルドすげぇな……」
死骸はともかく、山はどうしようもない気がするが。
「どうやら進行方向にグローシティがあるようなのですが、幸いなことにマウンテンザラタンの歩く早さはかなり遅いです。今から大規模な討伐隊を組めばなんとか……ということで、腕の立つ冒険者さんを探していたんです!」
と、いうことらしい。
そういうことなら、協力しようじゃないか。
「わかりました。じゃあ、手伝わせてください」
「ありがとうございます! ――みんなァ! S級捕まえたぞォ!」
「――ウオォォォ!!!」
「俺ってレアモンスターか何か?」
捕まえたってなんだよ。捕まったよ。
なんで湧いてんだよお前ら。
ちょっと物申したいところあるよ?
「これで二人目だなァ!」
「はい! 何とかなるかもしれません! というわけで冒険者様、よろしくお願いします!」
「ん? 二人目ってのは? まさかこんなに冒険者が集まってるのに、俺ともう一人しか協力しないとか……」
「あ、違います! S級冒険者様がもう一名いらっしゃるんですよ! 『白夜』って通名で知られる、あの」
あの。って言われても知らないよ。
でも、S級冒険者か。
これはまた、頼りになりそうな人がいてよかった。
タマユラと同じくらい強……タマユラの話はやめようかな。
とにかく、もう一人S級がいるなら心強い。
「あ、でも……その方は、絶対にパーティも組まないし、味方と共闘もしないんです。でも今回は本来ならS級冒険者様四人がかりで挑むような災害……何とか説得しておいてください!」
おい。そういうご機嫌取りみたいな仕事を俺に押し付けるんじゃないよ。
一気に幸先が不安になったよ。
俺は溜息をついた。
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