上 下
17 / 108
第二章 『明けない夜はない』

17.『二人目』

しおりを挟む
「あたしたちは残るよ。元々ここが故郷だし、シノとリュナのお墓も作ってあげたい」

 そういえばそうだった。
 イヴたちはここグローシティ周辺の狩り場でクォーツたちに襲われ、命からがらセドニーシティまで逃げ出してきたのだ。

 ということは、帰りは一人か。
 最近は一人で狩りをすることが多かったが、いざこうやって誰かと馬車で旅をしたあとだと、たった一人の帰り道は無性に寂しいものがある。

「あの……本当にありがとうなの。もし良かったらまた来て欲しいの」

「はは……どうかな。そうだな。またくるよ」

「おにーさん、またね!」

 そうしてイヴのネスは歩き始めた。
 仲間を失ったのは辛いだろうが、強く生きてほしい。

 そうだ。この街に嫌な思い出しかないのなら、これからいい思い出を作っていけばいいのだ。
 また来よう、この街に。



 クォーツたちも近衛兵に引き渡したし、これで本当にこの街でやることは何もない。
 あとは馬車を手配して帰るだけなのだが、それが中々曲者なのだ。

 何がかと言うと、この街じゃ馬車は冒険者ギルドでしか手配できないということ。
 なんだかんだこの街には顔馴染みもいるし、ちょっと気まずいのだ。

「別に歩いて帰ってもいいんだけど……」

 今の俺なら全力で走れば2時間程度でセドニーシティまでたどり着けるだろう。
 けど、全力で走らなきゃいけないのか……ちょっと嫌だな。

 こういうどうでもいいところで悩むのも馬鹿らしいし、やっぱり冒険者ギルドに行こう。今や俺だってS級冒険者。堂々としてればいいんだ。

 そう考え直し、俺は久しぶりにグロー冒険者ギルドの前にいた。

「いやぁ、久しぶりだなぁ……つっても、一ヶ月くらいじゃ何も変わってないか」

 なんて外観を眺めながら微妙な感慨に浸っていると、どうやらギルドの中が騒がしくなってきた。
 なんだ、もしかしてこっちでも既に俺は有名人なのか!? いやぁ、照れちまいますな。やっぱり俺はS級――、

「――冒険者の方ですか!?」

 と、てんやわんやの中から一人の受付嬢が出てきた。
 大層焦ってるご様子で、俺を見るなりギルドの中に引きずり込んできた。強引なんだから、もう。

「ランクを教えて貰っていいですか!?」

「あ、えっと……S級、です」

「S級!? 本当ですか!? しょーもない嘘だったらぶっ飛ばしますよ!? こっちは必死なんですから!」

 えぇ!? いや本当なんです、ぶっ飛ばさないでください! っていうかなんだ。俺のこと知ってたわけじゃないのか。

 ……いやおかしくない? 俺、よく見たらこの人の事知ってるんだけど。
 よくこの人から依頼を受けてたんだけど。
 なんで忘れてんの? 俺そんなに印象薄かった?

「……本当ですよ。ほら」

 若干機嫌を損ねつつ、セドニーシティのギルドカードをこれみよがしに見せる。
 すると、受付嬢の態度が急変した。

「――! 本当なんですね、失礼しました! セドニーシティの冒険者様ですか……あの、この街の依頼を受けて頂けませんか!? 街の存続に関わる重大な案件なんです!」

「それは大変ですねぇ。詳細を伺っても?」

「はい! えっと、あの、【マウンテンザラタン】が、その、街に、存続が! 危ない!」

 ちょっと落ち着いてください。

 相当緊急を要するんでしょうね。
 それだけは伝わりました。大変だァ。
 何が大変なのか全く分からないけど。

「落ち着いて一から説明して貰えますか?」

「――そ、そうですね。失礼しました。えっとですね、街の近くにS級モンスター【マウンテンザラタン】が出現しまして……」

 S級モンスターか、それはまずいな。
 とっとと何とかしなければ、誇張抜きに街の存続に関わる案件だということだ。

「マウンテンザラタンというのは、それはもう巨大な亀のモンスターでして……一説によると、本物の山を持ち上げて甲羅にするそうです」

「やっば」

 山て。
 山を持ち上げるて。

 本体のサイズがどんなもんかは分からないが、少なくとも歩くだけで街が滅びる。
 どうやって倒すんだろうか……剣とか効くの?
 仮に倒したとして、その後どうすんの?
 死骸とか、その場に放置された山とか。

「その辺はギルドが上手いようにやります」

「ギルドすげぇな……」

 死骸はともかく、山はどうしようもない気がするが。

「どうやら進行方向にグローシティがあるようなのですが、幸いなことにマウンテンザラタンの歩く早さはかなり遅いです。今から大規模な討伐隊を組めばなんとか……ということで、腕の立つ冒険者さんを探していたんです!」

 と、いうことらしい。
 そういうことなら、協力しようじゃないか。

「わかりました。じゃあ、手伝わせてください」

「ありがとうございます! ――みんなァ! S級捕まえたぞォ!」

「――ウオォォォ!!!」

「俺ってレアモンスターか何か?」

 捕まえたってなんだよ。捕まったよ。
 なんで湧いてんだよお前ら。
 ちょっと物申したいところあるよ?

「これで二人目だなァ!」

「はい! 何とかなるかもしれません! というわけで冒険者様、よろしくお願いします!」

「ん? 二人目ってのは? まさかこんなに冒険者が集まってるのに、俺ともう一人しか協力しないとか……」

「あ、違います! S級冒険者様がもう一名いらっしゃるんですよ! 『白夜』って通名で知られる、あの」

 あの。って言われても知らないよ。
 でも、S級冒険者か。
 これはまた、頼りになりそうな人がいてよかった。

 タマユラと同じくらい強……タマユラの話はやめようかな。
 とにかく、もう一人S級がいるなら心強い。

「あ、でも……その方は、絶対にパーティも組まないし、味方と共闘もしないんです。でも今回は本来ならS級冒険者様四人がかりで挑むような災害……何とか説得しておいてください!」

 おい。そういうご機嫌取りみたいな仕事を俺に押し付けるんじゃないよ。
 一気に幸先が不安になったよ。

 俺は溜息をついた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

外れスキル《コピー》を授かったけど「無能」と言われて家を追放された~ だけど発動条件を満たせば"魔族のスキル"を発動することができるようだ~

そらら
ファンタジー
「鑑定ミスではありません。この子のスキルは《コピー》です。正直、稀に見る外れスキルですね、何せ発動条件が今だ未解明なのですから」 「何てことなの……」 「全く期待はずれだ」 私の名前はラゼル、十五歳になったんだけども、人生最悪のピンチに立たされている。 このファンタジックな世界では、15歳になった際、スキル鑑定を医者に受けさせられるんだが、困ったことに私は外れスキル《コピー》を当ててしまったらしい。 そして数年が経ち……案の定、私は家族から疎ましく感じられてーーついに追放されてしまう。 だけど私のスキルは発動条件を満たすことで、魔族のスキルをコピーできるようだ。 そして、私の能力が《外れスキル》ではなく、恐ろしい能力だということに気づく。 そんでこの能力を使いこなしていると、知らないうちに英雄と呼ばれていたんだけど? 私を追放した家族が戻ってきてほしいって泣きついてきたんだけど、もう戻らん。 私は最高の仲間と最強を目指すから。

平凡すぎる、と追放された俺。実は大量スキル獲得可のチート能力『無限変化』の使い手でした。俺が抜けてパーティが瓦解したから今更戻れ?お断りです

たかたちひろ【令嬢節約ごはん23日発売】
ファンタジー
★ファンタジーカップ参加作品です。  応援していただけたら執筆の励みになります。 《俺、貸します!》 これはパーティーを追放された男が、その実力で上り詰め、唯一無二の『レンタル冒険者』として無双を極める話である。(新形式のざまぁもあるよ) ここから、直接ざまぁに入ります。スカッとしたい方は是非! 「君みたいな平均的な冒険者は不要だ」 この一言で、パーティーリーダーに追放を言い渡されたヨシュア。 しかしその実、彼は平均を装っていただけだった。 レベル35と見せかけているが、本当は350。 水属性魔法しか使えないと見せかけ、全属性魔法使い。 あまりに圧倒的な実力があったため、パーティーの中での力量バランスを考え、あえて影からのサポートに徹していたのだ。 それどころか攻撃力・防御力、メンバー関係の調整まで全て、彼が一手に担っていた。 リーダーのあまりに不足している実力を、ヨシュアのサポートにより埋めてきたのである。 その事実を伝えるも、リーダーには取り合ってもらえず。 あえなく、追放されてしまう。 しかし、それにより制限の消えたヨシュア。 一人で無双をしていたところ、その実力を美少女魔導士に見抜かれ、『レンタル冒険者』としてスカウトされる。 その内容は、パーティーや個人などに借りられていき、場面に応じた役割を果たすというものだった。 まさに、ヨシュアにとっての天職であった。 自分を正当に認めてくれ、力を発揮できる環境だ。 生まれつき与えられていたギフト【無限変化】による全武器、全スキルへの適性を活かして、様々な場所や状況に完璧な適応を見せるヨシュア。 目立ちたくないという思いとは裏腹に、引っ張りだこ。 元パーティーメンバーも彼のもとに帰ってきたいと言うなど、美少女たちに溺愛される。 そうしつつ、かつて前例のない、『レンタル』無双を開始するのであった。 一方、ヨシュアを追放したパーティーリーダーはと言えば、クエストの失敗、メンバーの離脱など、どんどん破滅へと追い込まれていく。 ヨシュアのスーパーサポートに頼りきっていたこと、その真の強さに気づき、戻ってこいと声をかけるが……。 そのときには、もう遅いのであった。

国外追放者、聖女の護衛となって祖国に舞い戻る

はにわ
ファンタジー
ランドール王国最東端のルード地方。そこは敵国や魔族領と隣接する危険区域。 そのルードを治めるルーデル辺境伯家の嫡男ショウは、一年後に成人を迎えるとともに先立った父の跡を継ぎ、辺境伯の椅子に就くことが決定していた。幼い頃からランドール最強とされる『黒の騎士団』こと辺境騎士団に混ざり生活し、団員からの支持も厚く、若大将として武勇を轟かせるショウは、若くして国の英雄扱いであった。 幼馴染の婚約者もおり、将来は約束された身だった。 だが、ショウと不仲だった王太子と実兄達の謀略により冤罪をかけられ、彼は廃嫡と婚約者との婚約破棄、そして国外追放を余儀なくされてしまう。彼の将来は真っ暗になった。 はずだったが、2年後・・・ショウは隣国で得意の剣術で日銭を稼ぎ、自由気ままに暮らしていた。だが、そんな彼はひょんなことから、旅をしている聖女と呼ばれる世界的要人である少女の命を助けることになる。 彼女の目的地は祖国のランドール王国であり、またその命を狙ったのもランドールの手の者であることを悟ったショウ。 いつの間にか彼は聖女の護衛をさせられることになり、それについて思うこともあったが、祖国の現状について気になることもあり、再び祖国ランドールの地に足を踏み入れることを決意した。

良家で才能溢れる新人が加入するので、お前は要らないと追放された後、偶然お金を落とした穴が実はガチャで全財産突っ込んだら最強になりました

ぽいづん
ファンタジー
ウェブ・ステイは剣士としてパーティに加入しそこそこ活躍する日々を過ごしていた。 そんなある日、パーティリーダーからいい話と悪い話があると言われ、いい話は新メンバー、剣士ワット・ファフナーの加入。悪い話は……ウェブ・ステイの追放だった…… 失意のウェブは気がつくと街外れをフラフラと歩き、石に躓いて転んだ。その拍子にポケットの中の銅貨1枚がコロコロと転がり、小さな穴に落ちていった。 その時、彼の目の前に銅貨3枚でガチャが引けます。という文字が現れたのだった。 ※小説家になろうにも投稿しています。

追放されてから数年間ダンジョンに篭り続けた結果、俺は死んだことになっていたので、あいつを後悔させてやることにした

チドリ正明@不労所得発売中!!
ファンタジー
世間で高い評価を集め、未来を担っていく次世代のパーティーとして名高いAランクパーティーである【月光】に所属していたゲイルは、突如として理不尽な理由でパーティーを追放されてしまった。 これ以上何を言っても無駄だと察したゲイルはパーティーリーダーであるマクロスを見返そうと、死を覚悟してダンジョンに篭り続けることにした。 それから月日が経ち、数年後。 ゲイルは危険なダンジョン内で生と死の境界線を幾度となく彷徨うことで、この世の全てを掌握できるであろう力を手に入れることに成功した。 そしてゲイルは心に秘めた復讐心に従うがままに、数年前まで活動拠点として構えていた国へ帰還すると、そこで衝撃の事実を知ることになる。 なんとゲイルは既に死んだ扱いになっており、【月光】はガラッとメンバーを変えて世界最強のパーティーと呼ばれるまで上り詰めていたのだ。 そこでゲイルはあることを思いついた。 「あいつを後悔させてやろう」 ゲイルは冒険者として最低のランクから再び冒険を始め、マクロスへの復讐を目論むのだった。

誰一人帰らない『奈落』に落とされたおっさん、うっかり暗号を解読したら、未知の遺物の使い手になりました!

ミポリオン
ファンタジー
旧題:巻き込まれ召喚されたおっさん、無能で誰一人帰らない場所に追放されるも、超古代文明の暗号を解いて力を手にいれ、楽しく生きていく  高校生達が勇者として召喚される中、1人のただのサラリーマンのおっさんである福菅健吾が巻き込まれて異世界に召喚された。  高校生達は強力なステータスとスキルを獲得したが、おっさんは一般人未満のステータスしかない上に、異世界人の誰もが持っている言語理解しかなかったため、転移装置で誰一人帰ってこない『奈落』に追放されてしまう。  しかし、そこに刻まれた見たこともない文字を、健吾には全て理解する事ができ、強大な超古代文明のアイテムを手に入れる。  召喚者達は気づかなかった。健吾以外の高校生達の通常スキル欄に言語スキルがあり、健吾だけは固有スキルの欄に言語スキルがあった事を。そしてそのスキルが恐るべき力を秘めていることを。 ※カクヨムでも連載しています

勇者に恋人寝取られ、悪評付きでパーティーを追放された俺、燃えた実家の道具屋を世界一にして勇者共を見下す

大小判
ファンタジー
平民同然の男爵家嫡子にして魔道具職人のローランは、旅に不慣れな勇者と四人の聖女を支えるべく勇者パーティーに加入するが、いけ好かない勇者アレンに義妹である治癒の聖女は心を奪われ、恋人であり、魔術の聖女である幼馴染を寝取られてしまう。 その上、何の非もなくパーティーに貢献していたローランを追放するために、勇者たちによって役立たずで勇者の恋人を寝取る最低男の悪評を世間に流されてしまった。 地元以外の冒険者ギルドからの信頼を失い、怒りと失望、悲しみで頭の整理が追い付かず、抜け殻状態で帰郷した彼に更なる追い打ちとして、将来継ぐはずだった実家の道具屋が、爵位証明書と両親もろとも炎上。 失意のどん底に立たされたローランだったが、 両親の葬式の日に義妹と幼馴染が王都で呑気に勇者との結婚披露宴パレードなるものを開催していたと知って怒りが爆発。 「勇者パーティ―全員、俺に泣いて土下座するくらい成り上がってやる!!」 そんな決意を固めてから一年ちょっと。成人を迎えた日に希少な鉱物や植物が無限に湧き出る不思議な土地の権利書と、現在の魔道具製造技術を根底から覆す神秘の合成釜が父の遺産としてローランに継承されることとなる。 この二つを使って世界一の道具屋になってやると意気込むローラン。しかし、彼の自分自身も自覚していなかった能力と父の遺産は世界各地で目を付けられ、勇者に大国、魔王に女神と、ローランを引き込んだり排除したりする動きに巻き込まれる羽目に これは世界一の道具屋を目指す青年が、爽快な生産チートで主に勇者とか聖女とかを嘲笑いながら邪魔する者を薙ぎ払い、栄光を掴む痛快な物語。

「お前のような役立たずは不要だ」と追放された三男の前世は世界最強の賢者でした~今世ではダラダラ生きたいのでスローライフを送ります~

平山和人
ファンタジー
主人公のアベルは転生者だ。一度目の人生は剣聖、二度目は賢者として活躍していた。 三度目の人生はのんびり過ごしたいため、アベルは今までの人生で得たスキルを封印し、貴族として生きることにした。 そして、15歳の誕生日でスキル鑑定によって何のスキルも持ってないためアベルは追放されることになった。 アベルは追放された土地でスローライフを楽しもうとするが、そこは凶悪な魔物が跋扈する魔境であった。 襲い掛かってくる魔物を討伐したことでアベルの実力が明らかになると、領民たちはアベルを救世主と崇め、貴族たちはアベルを取り戻そうと追いかけてくる。 果たしてアベルは夢であるスローライフを送ることが出来るのだろうか。

処理中です...