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第二章 『明けない夜はない』

16.『最後の街』

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 この手で終わらせた。
 魔物になっていたとは言え、元パーティメンバーであるアゲットの命を、終わらせたのだ。

 後悔はない。やったことに間違いもない。
 ただ、クォーツやタルクはどう思ってるかわからない。

 イヴとネスは、ある意味で復讐に染まった俺をどう思うか。
 正直、このまま逃げ出したい気持ちが大きかった。

「――おにーさん! 大丈夫だった!?」

 そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、イヴが一目散に駆けてきた。
 それに遅れて、ネスも小走りでやってくる。

「わぁ、すごいことになってるの……そこに転がってるのが、さっきの?」

 バキバキに崩壊した家屋を見て若干たじろいだネスだったが、アゲットの亡骸を見て状況を理解する。

「これが『暁の刃』のリーダー……? 人間だと思ってたけど」

「尻尾が生えてるの。亜人?」

「いや、アゲットは人間だった……と思う。少なくとも分類上は」

 イヴとネスに状況を説明しながら、クォーツたちがいる小屋に向かうこととする。
 俺が過去に蹴りをつけるためには、あいつらと話す必要があるのだ。

 そういえば、イヴたちを襲ったのはクォーツ含む五人組だと聞いたが。
 アゲットの生存を知らなかったということは、俺の知らない人間が三人噛んでいるということになる。

 その辺も、問いたださなければなるまい。



 小屋に入ると、先ほどまでと寸分変わらぬ位置に二人はいた。
 イヴに首を絞められた体制のまま寝転がるクォーツに、部屋の隅っこで膝を抱えるタルク。

 生きているのか死んでいるのかさえも分からない、今にも人間を辞めてしまいそうな者が二名。

「……何をしてるんだ」

「――ヒスイか。アゲットは?」

「……殺したよ」

「……そうか」

 空間に向かって声を投げると、タルクが答える。
 クォーツが答えるものだと思っていたので、少しばかり意外だった。
 クォーツ以上に憔悴し切ったタルクに対話の余地があったとは。

「……俺はな、そんなつもりじゃなかったんだ。人を殺すつもりなんて、そんな、そんなつもりは……」

「……今さら何を言ってるんだよ。それとも、命乞いのパフォーマンスか? 安心しろ、お前と違って人間を殺して喜ぶ趣味はないから」

「違う! 俺だって人殺しなんてしたくなかった! だけどそうしないと生きていけないって、明日なんてないんだってクォーツが……」

 はぁ。情緒不安定も大概にしてくれ。
 お前がどんなに悔いたって、本意じゃなかったなんて安い言い訳を並べたって、殺した人間が生き返ることは無い。イヴとネスを救うことも出来ない。

 挙句の果てにクォーツに罪を擦り付けて同情を買おうってか? 全く、悪意が服きて歩いてたみたいなアゲットと比べて、とんだ小物だな。

「おいクォーツ、生きてるか?」

「…………なんとかね」

「お前らは自首しろ。嫌だって言っても無理矢理突き出すけど」

「……そうね」

 一応セドニー冒険者ギルドを通したイヴからの依頼ってことになってるので、こいつらの身柄はセドニーまで持っていかないといけない。
 とは言えいくらなんでも同じ馬車で仲良く帰ることなんてできないから、この街の近衛兵に協力してもらうこととしよう。

「……お前らと手を組んでたのは誰だ? イヴたちの仲間を殺したのは誰なんだ」

「どこにでもいる冒険者狩りよ。いくら消耗したところを叩くと言っても、こっちが二人じゃ勝算は薄いでしょ。だから手を組んでただけ」

 できることならそいつらも罰したいところだが、恐らくお互いに名前や所属には触れなかっただろう。
 そうなると、特定するのは難しいか。

「ごめん、イヴ、ネス。俺ができるのはここまでみたいだ」

「ううん、ありがとう。これでシノとリュナも、少しでも安らかに眠ってくれると信じてる」

「ありがとうなの。あとは、装備を取り返すだけなの」

 装備。冒険者狩りが狙うのは、主にモンスターから剥ぎ取った皮や鱗。それから、武器や防具などの装備だ。
 それを独自のルートで売り飛ばして金に変えるという。

 そうなると、もうここにはないのではないだろうか。

「……隣の小屋が倉庫よ。そこにあるわ」

「あるのか」

「ええ……タルクが、渋ってね」

 盗品を売るのを、だろうか。
 既に人の命を奪っておいて、強奪までして。
 最後の最後で、売ることを渋ったのだろうか。

 どこかチグハグというか、ズレているというか、とにかくまともではなかったのかもしれない。

 だが、装備があるなら救いにはなる。
 命は失われても、形見さえあれば。
 きっと、いつまでもイヴとネスの心の中で生き続けるだろう。

「さぁ、帰るぞ。セドニーシティに」

 『暁の刃』が最後に拠点にした街、グローシティ。
 この街にはいい思い出もあると思ってたが、最後の最後に全部ひっくり返ってしまった。

 俺の始まりの街は、もはやセドニーシティなのだ。
 こんな居心地の悪い街はとっととおさらばして、俺の街に帰ろう。
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