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第一章 『黄金色の少女』

8.『剣技【天籟一閃】』

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「ステータス! 共有!」

 なぜ俺にトライデントスネークの毒が効かなかったのか。その謎を解明するため、俺はとりあえずステータスを覗いてみることにした。

 ついでに、タマユラにも俺のステータスが見られるように可視化させる。

『ステータスを表示します』

ーーーーーーーーーーーーーーー

 ヒスイ Lv.242
 A級冒険者

 【スキル】
 万物の慈悲を賜う者

 【パッシブスキル】
 大地からの恵み
 レベル感知
 レベル可視化
             ▶︎
ーーーーーーーーーーーーーーー

 何もおかしなところはないよなぁ。
 あの時俺は確実に毒霧を食らっていたし、それでいて何故か何も起きなかった。

 知らない間にパッシブスキルが増えていたりするのかな、と思ったが、そんなこともないようだ。

「俺が特異体質なのか……?」

「どうでしょう。少なくとも私は、トライデントスネークの毒霧をその身に受けて何事も無かった例は知りませんが……」

「たまたま毒の成分がなかったとか?」

「トライデントスネークの麻痺毒は、濃紫をしていると言います。あの毒霧は完全に紫に染まっていましたし、毒の成分はしっかり入っていたと思いますよ」

 うーん。謎だ。
 本格的に謎でしかない。

「ところで、この矢印のような印はなんなのでしょうか」

「ん? どれ?」

 タマユラが目をつけたのは、俺のステータスの右下。『▶︎』という印だ。

「これ何か意味あるの? 元々なかったっけ?」

「私のステータスには表示されていませんが……」

 そうだったっけ。
 あまりにも自然にあるものだから、元々こういうものなのだと思っていた。

 そうじゃないなら、これはどのような意味を持つのだろう。

「――ページ送り、とか」

「ページ送り?」

「違いますかね。ヒスイのステータスは一ページに収めることができなかったため、次のページが現れたとか」

 まさか。パッシブスキルが増えたとはいえ、元々俺のスキルはひとつだけだったんだ。
 そのスキルが覚醒したからと言って、そんなに一気に増えるわけがない。

 ……例えばだが。
 この印が仮に次のページだったとして、書いてあるのは俺の恥ずかしい黒歴史とか、情けない顔の似顔絵とか……なわけないか。うん、ありえない。でも万が一があったらちょっと怖いから、この次のページは後でひとりでじっくり見よう。うんそうしよう。

「次のページへ」

「タマユラさん!? そんな勝手に……」

『次のページを表示します』

あぁ終わった。これで俺の黒歴史が白日のもとに……。

ーーーーーーーーーーーーーーー

 ヒスイ Lv.242
 A級冒険者

 【完全耐性】
 毒無効
 麻痺無効
 呪い無効

 【剣技】
 天籟一閃てんらいいっせん

ーーーーーーーーーーーーーーー

「完全、耐性……毒無効……?」

「え、何これ俺知らないんだけど」

 そこに書いてあったのは、まるで心当たりのない……そもそも、【完全耐性】という項目を初めて見たのだが。

 俺は真相を確かめるため、空中に向かって声を投げかけた。

「このスキルの詳細を教えてくれ!」

『――【完全耐性】は、レベルに応じて獲得できるパッシブスキルの一種です。【毒無効】はレベル100で、【麻痺無効】はレベル125、【呪い無効】はレベル150で獲得しました』

「そんなスキル、ヒスイしか習得できないんじゃ……」

 たしかに、歴史上でレベルが100を超えたものは記録されていない。まさかこんなスキルが隠されていたなんて、誰も知らなかった事実だ。

 毒無効、麻痺無効、呪い無効――これは、かなり破格の性能だ。変な話、パーティにおける後衛の価値が暴落してしまう。
 ポーションを販売する商人にも大打撃だし、人に軽めの呪いをかける嫌がらせを生業とする呪術師の仕事も――それはどうでもいいか。

 ともかく、こんなスキルがホイホイ獲得できてしまっては世界の理が書き換わってしまう。案外妥当な習得条件なのかもしれない。

 ――ただし、今の俺にはそれよりも遥かに気になる一文がある。

「そ、そ、そ、そ、それよりさ! この、【剣技】っていうのは、なにかなぁ!?」

『条件を満たしたため、剣技【天籟一閃】を習得しました』

 ――剣技。剣技。
 ――剣技! 剣技!

 ついに俺も、戦闘用のスキルを手に入れたのだ!
 冒険者を生業として早三年。
 戦闘用スキルがない割には頑張ってるんじゃない? と言われ続け、ずっと熱鉄を飲む思いをしてきた俺が! ついに!

「これで俺も戦闘に参加できるぞー!」

「参加できるっていうか、今日もゴリゴリの主戦力でしたけど……」

「やったぁー! ふぉー!」

「……はぁ。ヒスイほどのお方なら戦闘用スキルも不要だと思ってましたが、そこまで喜んでいる姿を見ると私まで頬が緩みます。おめでとうございます」

 ありがとう! 早速使ってみてもいいかな? いいよね?
 よし、使ってみちゃおう!

「――まるで子供みたい。全く、とても純粋なお方なのですから」

「ん? なんか言った?」

「――いいえ。では、お試しください」

 とは言っても、何を隠そう俺は剣技を使うのは初めてだ。
 技名を叫ぶだけでいいのか、特別な何かがいるのか。

 たしか、どこかの騎士がこう言ってたはずだ。

「まずは、身体中の魔力の流れを意識する」

 魔力、魔力。
 うーん、今まで魔法も剣技も使えなかったから、いまいち魔力の出どころってのが掴めないな。
 意識を変えてみよう。剣を振るう力を、集中力を、指先に集める。
 すると、大きな力がドクン、ドクンと脈打つのがわかる。なるほど、これが魔力か。

「そして、剣に魔力を流すようにイメージする」

 あ、これは今やったな。
 この指先の魔力を、剣に流し込むだけだ。

「そして最後に――イメージと共に、魔力を解放する」

 ――【天籟一閃】。
 さっきまで全くわからなかったこの言葉の意味が、今ははっきりとわかる。流れ込んでくる。

 驚くほどに呼吸は深く、時が止まったような集中力だ。
 なるほど、こういうことだったのか。

 俺は、研ぎ澄まされた魔力を、剣力に乗せて解き放った。

「――【天籟一閃】」

 風が集まってくる。
 暖かく包んでくれる風が、刺すように冷たい風が。
 ほろ苦い出会いの風が。再会を誓った日の風が。
 慰めの風が。決起の風が。優しい風が。悲しい風が。

 ――誰かの想いを乗せた風を、俺の剣一身に受け止めて。
 そしてそれは、やがて鋭さとなり、一筋の光が放つ『突き』となって荒野を駆け抜けた。

「――すごい」

 何十秒経っただろうか。放心状態の俺を、タマユラの呟きが引き戻した。
 やっとの思いで顔を上げると、膝まであった高さの草は、俺の前方にあった分だけ全て消滅していた。

 それだけでなく、丁度運悪く俺の前方にあった山に大きな風穴を開けてしまっていたのを見て、俺は大層焦るのだった。
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