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曽我雪政

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005. 勝ってくるぞと勇ましく

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——『はじまりの町』評議会
「依頼先の壊滅を報告する」
「体制を崩す連中は徹底的に叩き潰さねばならない」
「組織名:商丘市への宣戦布告・自動決議」
「コード:宣戦布告を実行」

——商丘市
「敵は同盟国スキートの騎馬戦力を主として攻撃してくる模様でござる」
 そう言ったのは、川の沿岸探索から昨日帰ってきたサムである。
 この会議の場には、サムの他、私とミコとヤスベーの3人が居る。

 何を話し合えば良いのか分からない絶望の中、ヤスベーが提案した。
「取り敢えず、位置関係や地理情報を共有しよう」
 位置関係が分からない事には、戦いにすらならない。
「サム、君が確認した事を言ってくれ」
「上流には崖の切り立った峡谷があって、その向こうに『はじまりの町』が支配する盆地がある」
「マサとミコは内陸の地形について、教えてくれ」
 ミコの方が西平周辺の地理には詳しいため、回答はミコに任せた。
「サムが遡った川の支流が西から東に流れてる。西平は川の南側にあるんだけど、川の北側には峠があって、峠を越えるとサムの言った盆地がある」
 マチュピチュ村のあった山は西平よりも南だが、西平山脈と繋がっているらしい。

 一通りの情報共有を終えた後、ヤスベーが作戦を語った。
「西平に本軍を配置し、マチュピチュ村に別動隊を置く」
「敵の盆地と我らが商丘を隔てる山脈。山脈を分断する峠が西平にあるのだから、まずはそこを守らなきゃいけない」
「でも防戦一方では話にならない。だから駐屯可能なマチュピチュ村を拠点に、逆侵攻を仕掛ける」
「つまり、西平峠の防衛と、敵首都の陥落と、どちらが早いかという話になる」
「峠の防衛はミコと軍師のヤスベーが、攻撃隊にはマサと案内役のサムが適任だと思う」
「攻撃隊の2人には、絶対に勝ってきてもらわないと困る」
 分かった、と言って会議は散会となった。

——3日後、西平峠
「どういう風に防衛隊を配置するの?」
 ミコの問いにヤスベーが答える。
「峠に第一防衛線、川に架かる橋に第二防衛線、西平市街に最終防衛線を作る」
 更にミコが質問する。
「橋を渡らずに向こう岸を進まれたら、防衛線は意味ないんじゃない?」
「一応調べたけど、北岸は崖。下流へ行こうものなら南岸こちらから弓矢で対処できるだろうなぁ」
「なるほどね、じゃあ第一防衛線に行くわ」
「それは俺がやるから、ミコは後方指揮を頼む」
「指揮官が前線で指揮せずにどうするのよ」
「俺だって指揮官だ、それに防衛線を最後まで守るべきはミコだ」
「どうして?」
「仮に突破されたにしても、マサにその報告をするのはミコであってほしいんだ」
「どういう事?」
「作戦立案者がノコノコ負けましたって報告する訳にはいかんだろう?」
「それは貴方ヤスベーの責任よ」
「うーん……敵に捕まるのは俺でいい、ミコが捕まるべきじゃない」
「意味が分からない」
「ここまで言わねぇと分からねぇのか、お前らはお似合いなんだよなぁ」
「はぁ!? 別にそんな事ないけど!?!?」
 ミコは赤面しつつ、橋を渡って最終防衛線へと退いた。
(お似合いだなんて……そんな訳ないわよ)

——同日、マチュピチュ村。
「ミコさんに誘われてここに逃げてきた時は、逆侵攻なんて考えもしなかったなぁ」
 サムがそう言うものだから、私も懐かしい気分になった。
 思えば、ここで種が必要になって平地に下りてみれば、ミコが青白い人影に追われていて、それを助けた事から始まった事。あの時ミコを助けなければ、何も始まらなかっただろう。
 この決戦で敵の侵攻を許せば、これまでとこれからの全てを奪われる。
 勝ってくるぞと勇ましく、誓って町を出たからには。勝利てがらを挙げずにリスポーンをするなんて事はあってはならない。

——第一防衛線・西平峠。
「伝令、敵騎馬隊が接近中との事」
「了解、弓兵一斉射撃用意っ!!!」
 騎馬隊が坂を登ってきた瞬間。
「撃てぇ!!!」
 後から押し寄せる軍勢に押された敵騎兵隊前方は大混乱に陥り、壊滅的打撃を受けた。
 敵軍は一時退却したため、第一波の攻撃は防ぎきる事ができた。

——『はじまりの町』辺縁地帯。
「青白い人影の警備が厳しくなってるな……」
 ふと呟くと、サムが言った。
「まあ地下道があるから良いじゃないですか」
 完全に失念していた。かつて一斉脱出に使った地下道を辿れば良い。しかし流石に敵も想定済みだったようで、途中何ヶ所か埋められている部分もあり、掘り返しながら進軍した。
 トンネルの出入口に達した頃には夕焼けが出ており、夜間の進軍となった。奇襲をする我々にとっては非常に都合が良い。100km近くの徒歩行軍は苛烈を極める。そんな中で、昼間には夜間よりも空腹ゲージが早く減るのだから。
 1日間の強行軍の末、『はじまりの町』の市街部まで5km圏内に入った。

——『はじまりの町』評議会
「西平峠はいつ攻略できそうか」
「敵の抵抗も弱く、明日までには突破できそうです」
「スキートの騎兵が殲滅されたと聞いたが」
「山岳地帯のため、攻城塔の搬入が遅れております」
「しかし不安だな、ここの部隊も連れて行け」
「了解致しました」
 目と鼻の先にまで攻撃隊が迫っているとも知らず、評議会は都市防衛の戦力までも、増派に充ててしまった。しかし裏を返せば、これは苛烈なる西平防衛戦の始まりでもあった。
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