万人の災厄を愛して

三石成

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第三章 望まぬ来訪者

一 湖

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 竹林に囲まれた小さな湖。そこで、藤は生まれたままの姿で悠々と泳いでいた。

 どこへ向かうためというわけでもなく、ただ戯れているだけだ。下ろしている長い髪が、澄んだ青い水にたゆたう。その姿は優雅で、まるで水の中に棲む生きもののよう。

 遮るもののない昼下がりの日差しは強く、水辺だというのに、むっとするほど気温が高い。崖から注ぎ込む冷えた湖の水は、浸かっているだけでも心地よい。

 号が藤の前に姿を現し、そして消えてから三ヶ月が経った。以降、竹林の家に誰かが襲撃に来ることもなく、穏やかな日常が続いている。

 そのことから、藤はこう考えていた。号は六堂に戻り、そして自分たちのことを誰にも報告していないのだ、と。

 湖に涼やかな水音が増えた。藤がたてるものよりも大きい。

 水飛沫を上げるのも厭わず豪快に泳ぎだしたのは浄だ。先程までただ浸かっていただけだったが、自在に水の中を泳ぐ藤の姿に触発された。

 この世の者の感覚として、湯浴みをするのは三日に一度ほどだ。さらに夏になれば、湯を沸かすこと自体がなくなり、水浴びで済ませるのが一般的だ。藤と浄の二人はただの水浴びの代わりに、二日に一度、こうして近くの湖へ泳ぎにくる。

 浄が自分の方へと近づいてくるのを感じて、藤は伸ばされた腕からするりと逃げる。体を柔軟にくねらせ、閉じた両足で水を蹴って泳いでいく姿は、逆に浄の本能を刺激した。

 湖の反対側まで追っていき、藤が水から上がろうと、岸に膝をかけたところで捕まえた。背後から覆いかぶさるように、逞しい腕の中に抱き込む。

「浄、あがるまで少し待てっ……」

「待たない」

 軽く抵抗する体を抑え込み、藤の臀部を弄ると、奥の窄まりを指で押し開いた。何も身にまとっていないので、その侵入を拒むものはない。昨晩も散々嬲られていたそこは、すんなりと浄の指を受け入れた。

「んっ……ぁあ……もう」

 抵抗を示しながらも、藤も本気で嫌がっているわけではない。性急な浄の様子に、時折くすくすと笑う息が漏れているのがその証拠だった。

 軽くそこを馴染ませてから、浄は昂ぶっていた自身を押し当て、藤の中へと押し入っていく。

 肌は水に濡れてひんやりとしているのに、藤の中は蕩けるように熱い。きつく熟れた肉壁に包まれて、浄は気持ちよさそうに喉の奥で呻く。藤の臀部と浄の腰がぴったりとくっつくまで深く挿入してから、少しも間を置かずに体を揺すり始める。

「どうして……そう、毎日元気なのだ」

 浄は基本的に毎日藤の体を求める。そして藤はそれを拒まない。己の体が、浄を世間から隔離しておくため、浄への餌として有用なことを理解しているからだ。だが、どうしてそう彼の性欲が旺盛なのかという、素朴な疑問は浮かぶ。

「お前も、ここに……自分のものを入れてみたら分かる」

 言葉で示しながら、浄は腰を打ち付けた。お互いぐっしょりと体が濡れているため、いつもよりも立つ水音が大きい。加えて、まだ足先は水に浸かったままだ。その音が竹林の中へと響いていくのが、妙な開放感があった。

 浄は藤の背を抑え込んでいた上体を起こす。

 藤の白い背中には長い髪が張り付いていた。浄は滑らかな肌を撫でながら、そっと髪を梳いて肩から落とす。

「無茶なことを……あぁぅ」

 続いて揺さぶられ、藤の口から甘い声が漏れる。

 浄の指先が背中から藤の胸元へと移動し、その胸の先の、ぷくりと勃ちあがった尖りを捉える。中指の腹で転がすように弄ってから、摘むよう擦り上げて。

 藤の体は、刺激されれば素直に応える。胸の先を弄られる刺激と連動するように、浄をいっぱいに受け入れている肉壁が収縮して、きつく締め付けた。

「藤……」

 熱っぽい声で浄が囁き、藤の耳殻を唇に挟んで軽く食む。耳の中へ直接吹き込まれる吐息に、奇妙に背筋がぞくぞくしてしまう。

 そのまま幾度も体を揺すられ続け、藤も高められていく。もはや内壁のどこを擦られても、震える程に気持ちが良い。

「藤、藤、藤っ」

 浄は譫言うわごとのように繰り返し名前を呼びながら、藤の昂ぶりを、胸を弄っているのと反対側の掌で包み込んだ。それを握り、優しく擦り上げながら強く腰を打ち付ける。

「ああぁっ!」

 内壁に浴びせられる、浄の熱い飛沫を感じて。短く高い声を上げながら、藤は背を反らし、体を強張らせた。

 藤の放った白濁の雫が、浄の指の隙間から溢れて落ちる。

 二人の荒い呼吸が整うまで、水音がぽちゃぽちゃと湖面に響いていた。
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