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第四章 刺客
「邪魔にしかなっていない」-3-
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いっぽうその頃。
起床したばかりのセルゴーは、ロウの姿を探して邸宅の中を歩いていた。
ロウが刺客から狙われていることが発覚してから三〇日間。セルゴーはエヴァンの命令に従って、毎日彼の護衛を勤めている。
しかし、その三〇日の間、まだ刺客は姿を見せていない。ロウ曰く、刺客がやってくるのにこれだけ間が空いたのは初めてのことであるから、ロウの警備が強化されたことに、刺客も気づいたのではないかということであった。
護衛と言っても、ボディガードのように絶えずロウのそばにいるというわけではない。
普段から、早朝から夜まで、邸宅の警備は守衛のダグラスが行なっている。そこで、セルゴーはダグラスが警備をやめる夜から朝までの警備をすることになった。自ずと夜型の生活になるため、昼を過ぎた今頃起き出したのである。
「それでバイオレット、さま、の付き添いで? アンタも大変だな」
二階の廊下を歩いているとき、セルゴーの耳がロウの低い声を捉えた。声を頼りに開いた窓から外を見下ろすと、ロウは裏庭で、ロープに干していた洗濯物を取り込んでいるところだった。
ロウの横に視線を向けると、そこにはもう一人、作業を手伝うでもなく、ただその場に佇んでいる別のメイドの姿がある。それはリリーではなく、バイオレットお付きのメイドであるレティシアだった。セルゴーは彼女と面識はない。だが、ロウが気軽な様子で彼女と会話をしている様子は見てとれた。
セルゴーは、自分のことを誰も見ていないのを良いことに、あくびを一つ。窓の桟にもたれかかるようにして、ロウの作業を眺める。
「それが仕事ですから」
「まあ、そうなんだけどな。ただ、今度からはちゃんと事前連絡入れるようにお嬢に言っておいてくれよ。きっと今頃、主人が頭抱えてるぜ」
「そうでしょうか」
ロウと会話しているレティシアの声も聞こえてくる。しかし、セルゴーは彼女の声に、妙な違和感を覚えた。彼女は独特なハスキーボイスで、短い言葉でしか話していないのに、耳に残るのだ。
ロウが窓とレティシアに背を向けるようにして、ロープに広げられたシーツを取り込み始める。その時、セルゴーは視界に、キラリと光るものを捉える。
太陽の光を反射したそれは、レティシアの袖から滑るように取り出されたナイフの刃だった。
セルゴーは目を剥く。
「ロウ、危ない!」
窓から叫ぶと、ロウが振り向く。だがほぼ同時に、レティシアの握ったナイフが、ロウの脇腹を貫いた。
ロウは表情を歪めるが、振り向く勢いを乗せた回し蹴りで、レティシアの体を吹き飛ばす。だが、彼自身もそのまま体のバランスを崩して、その場に倒れ込む。
「ロウ!」
セルゴーは再度叫びながら、躊躇なく窓から身を乗り出し、二階から地上へと降り立った。その衝撃で痺れる足を無理やり動かし、逃げに転じようと走り出そうとしたレティシアの体を、地面に押し付けるようにしてガッチリと抑え込んだ。
「大人しくしろ、もう逃がさんぞ」
荒く息を吐きながら、セルゴーは宣言する。と。
「駄目だセルゴー、奥歯を噛ませるな!」
脇腹を抑えたロウが叫ぶと同時、レティシアは深く奥歯を噛み締める。途端、口から泡を溢れさせ、彼女の体から力が抜けていく。
何が起きたかわからず、セルゴーは呆然とする。だが、地面に落ちたシーツの横でロウが気を失うのを見て、我に返らざるを得なかった。
「ロウ、しっかりしろ、ロウ!」
セルゴーはレティシアの体から手を離し、ロウの元へと駆け寄る。この騒動に邸宅中の者が集まってきたのは、そのすぐ後のことだった。
起床したばかりのセルゴーは、ロウの姿を探して邸宅の中を歩いていた。
ロウが刺客から狙われていることが発覚してから三〇日間。セルゴーはエヴァンの命令に従って、毎日彼の護衛を勤めている。
しかし、その三〇日の間、まだ刺客は姿を見せていない。ロウ曰く、刺客がやってくるのにこれだけ間が空いたのは初めてのことであるから、ロウの警備が強化されたことに、刺客も気づいたのではないかということであった。
護衛と言っても、ボディガードのように絶えずロウのそばにいるというわけではない。
普段から、早朝から夜まで、邸宅の警備は守衛のダグラスが行なっている。そこで、セルゴーはダグラスが警備をやめる夜から朝までの警備をすることになった。自ずと夜型の生活になるため、昼を過ぎた今頃起き出したのである。
「それでバイオレット、さま、の付き添いで? アンタも大変だな」
二階の廊下を歩いているとき、セルゴーの耳がロウの低い声を捉えた。声を頼りに開いた窓から外を見下ろすと、ロウは裏庭で、ロープに干していた洗濯物を取り込んでいるところだった。
ロウの横に視線を向けると、そこにはもう一人、作業を手伝うでもなく、ただその場に佇んでいる別のメイドの姿がある。それはリリーではなく、バイオレットお付きのメイドであるレティシアだった。セルゴーは彼女と面識はない。だが、ロウが気軽な様子で彼女と会話をしている様子は見てとれた。
セルゴーは、自分のことを誰も見ていないのを良いことに、あくびを一つ。窓の桟にもたれかかるようにして、ロウの作業を眺める。
「それが仕事ですから」
「まあ、そうなんだけどな。ただ、今度からはちゃんと事前連絡入れるようにお嬢に言っておいてくれよ。きっと今頃、主人が頭抱えてるぜ」
「そうでしょうか」
ロウと会話しているレティシアの声も聞こえてくる。しかし、セルゴーは彼女の声に、妙な違和感を覚えた。彼女は独特なハスキーボイスで、短い言葉でしか話していないのに、耳に残るのだ。
ロウが窓とレティシアに背を向けるようにして、ロープに広げられたシーツを取り込み始める。その時、セルゴーは視界に、キラリと光るものを捉える。
太陽の光を反射したそれは、レティシアの袖から滑るように取り出されたナイフの刃だった。
セルゴーは目を剥く。
「ロウ、危ない!」
窓から叫ぶと、ロウが振り向く。だがほぼ同時に、レティシアの握ったナイフが、ロウの脇腹を貫いた。
ロウは表情を歪めるが、振り向く勢いを乗せた回し蹴りで、レティシアの体を吹き飛ばす。だが、彼自身もそのまま体のバランスを崩して、その場に倒れ込む。
「ロウ!」
セルゴーは再度叫びながら、躊躇なく窓から身を乗り出し、二階から地上へと降り立った。その衝撃で痺れる足を無理やり動かし、逃げに転じようと走り出そうとしたレティシアの体を、地面に押し付けるようにしてガッチリと抑え込んだ。
「大人しくしろ、もう逃がさんぞ」
荒く息を吐きながら、セルゴーは宣言する。と。
「駄目だセルゴー、奥歯を噛ませるな!」
脇腹を抑えたロウが叫ぶと同時、レティシアは深く奥歯を噛み締める。途端、口から泡を溢れさせ、彼女の体から力が抜けていく。
何が起きたかわからず、セルゴーは呆然とする。だが、地面に落ちたシーツの横でロウが気を失うのを見て、我に返らざるを得なかった。
「ロウ、しっかりしろ、ロウ!」
セルゴーはレティシアの体から手を離し、ロウの元へと駆け寄る。この騒動に邸宅中の者が集まってきたのは、そのすぐ後のことだった。
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