蛇の花嫁

猫丸

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第一話 受精1※

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「生きてる、のか?」

 薄暗がり。目を開けると和室の天井が見えた。
 わざわざ声に出したのは、自らの生存確認のためだ。
 畳の上に敷かれた布団の上に寝かされている。
 起き上がり、真っ先に自分の顔を触り、全身のケガを確かめる。頭も手足もついている。内臓が飛び出ている様子もない。着ていた服はどこにもなく、かわりに白地の浴衣を着させられていた。

 部屋のふすまは閉じられていて、外から障子窓を通して入ってくる月明かりのみ。耳をすませば、変わらぬ夜行性の鳥や虫の鳴き声が聞こえてくるものの、その他の気配をうかがい知ることはできない。
(それとも俺は死んだのか?もしかして、この白い浴衣は死装束なんだろうか?)

 だが、触れた肌には体温を感じ、連れ去られた時にできたらしい引っかき傷がジンジンと痛みを主張していた。
 どうやらろくでもない状況であるのは間違いないだろうが、きっと生きてはいるのだろう。
 そう信じたい。
 
 最後の記憶を思い出す。
 実家から一番近い飲み屋で兄貴と飲んで、そこで別れて実家へ帰る途中だった。
 立ちションをしていたら、いきなり視界が真っ暗になった。熱いねっとりとした粘膜に挟まれ、べっとりと液体が全身にまとわりついたのがわかった。
 慌てて抵抗した。だが、抵抗すればするほど、辰巳の身体を挟む物体の圧力が強まり、呼吸もままならなくなった。そこからの記憶はない。

 
「目覚めたか?」

 一瞬あたりの空気が揺らいだかと思うと、突然ふすまが開いた。誰もいないと思っていたので、思わず間抜けな声が出た。

「ひえっ!?」

 襖が開けられると、月あかりが入ってきた。その向こうから現れたのは、俺が着させられているのと同じような浴衣を着た、とんでもなく美形の男だった。
 逆光であるはずなのに、その男自体が発光しているかのように白く輝いている。年は俺より年下。20代後半か30代くらいだろうか。銀色に輝く肩くらいまで伸びた髪を垂らし、不思議な色の瞳で俺を嬉しそうに見つめてきた。
 その美形が男だと一瞬で分かったのは、声が低く、背も大きかったから。だが顔だけ見ると、どちらかわからないくらい性別不詳のきれいな顔をしていた。
 
 一瞬誘拐犯に見惚れてしまい、ぽかーんと口を開けて見つめてしまった。
 だがすぐに気を引き締める。
 ごくりとつばを飲んだ。戦って逃げられるだろうか?拉致された時のことを思い出す。
 どのように俺を連れてきたのかは分からないが、少なくともこいつの仕業であることは間違いないだろう。

 俺の身体はそれなりに大きい。
 ここ数年、彼氏ができず、火照る身体の疼きを沈めるため、身体を鍛えることで誤魔化してきた日々。鍛えてみて気がつけば、がっしりとした体型になっていた。
 割れた腹筋。スーツの上からでもわかる大胸筋のシルエット。Tシャツになれば、袖に隙間がないくらいの上腕があった。
 そんな筋肉で武装した身体は、周りに威圧感を与える。そんな相手に喧嘩を振ってくるものなどいない。人から恨みを買うタイプでもない。
 だから、まさかそんな自分がこのように連れ去られ、危険な目に遭うなど、想像だにしていなかった。
 普通は暗い夜道だからといって、ゴツい男を襲う馬鹿などどこにもいない。
 いや、ここにはいたが。
 
 男が近づいてきて冷たい指で頬をなぞった。その冷たさに背筋がぞわっとするのを感じた。
 男の白い肌はほんのり紅く上気し、恍惚とした表情を浮かべながら見つめてくる。
 そして唐突に男の顔が近づいてきたかと思うと唇を重ねてきた。驚き硬直する俺を気にすることなく、男は何度も何度もうれしそうに口づけを落とし、抱きしめ、そして言った。
 
「待ち焦がれたぞ、花嫁」

 40を過ぎた、ガタイのいいおっさんを花嫁と呼び、うれしそうに抱きしめる美形。
(やはり俺は死んだのか?それとも夢を見ているのか?)

「お前との再会をどれだけ待ちわびたか」
 
 そう言って、男は俺の両頬に手を添え、うるんだ瞳で俺をじっと見つめてくる。
 男の不思議な目の色。黒い様だが、光の加減で赤にも青にも見える。こんな瞳の人間がいるはずもない。カラコンだろうか。

(この色は紫なのか)

 しばらく見つめて、そんな考えに至った時、男は顔を真っ赤にして照れた。

「そんなに見つめるな。恥ずかしいではないか。だが、お前も俺と同じ気持ちでいてくれて嬉しいぞ」

 そう言い再び唇を重ねてきた。
(いや、違うんだが)そう思っていると、今度は舌まで侵入してきて、腔内を細く長い舌でちろちろとねぶってくる。

 そこで、初めて男の体温を感じた。
 混乱する俺にお構いなしで、男の舌が喉の奥まで刺激をしてくる、どこかむず痒いような甘い感覚が湧き上がってきて、鼻から浅い呼吸をし、下半身が反応しないようにやり過ごす。
 そして男の冷たい手が浴衣の合わせに差し込まれ、胸の突起に触れた時、はっと正気に戻った。

「ちょっ!!ちょっとまて!!」

 男を突き飛ばして叫ぶ。口の端からは唾液がたれた。それを手の甲で軽く拭うと、状況確認を始めた。

「えっと…色々聞きたいことはあるんですけど…すみません。俺、あなたとどこかでお会いしましたかね?申し訳ないんですけど、俺、あなたのこと思い出せなくて。まず、あなたの名前を教えてもらえますか?」

 混乱している頭の中で、我ながら馬鹿な質問をした、と思った。誘拐犯が名乗るはずもない。
 だが、予想に反して名前を聞かれたことが嬉しそうだ。あっさりと答えた。

「そうだった。お前と知り合った頃は名などなかったが、今はと呼ばれているぞ。」

 こんなイケメン、会ったら忘れるはずもないと思うのだが、全く記憶にない。それにしてもこいつは馬鹿なのか?人を拉致しといてあっさり名前を教えるなんて。それとも、本当の名前じゃないのかもしれないな。
 どうであれ、会話が成り立つのであれば助かる。
 
「はぁ、ミズカミ…さん?で、ミズカミさん、俺を拉致…いえ、ここに連れてきたのはなんのためですか?」

「それはっ!お前っ!お前と番うためにきまっているだろう!?お前は俺のになるんだから!ミズカミになってからずっとお前を捜してたというのに、お前はまったく見つからないし、今年もだめかと思ったら、急に現れるからっ!嬉しくてっ!嬉しくてっ!!つい攫ってきてしまったではないかっ!俺にも心の準備が必要だというのにっ!」

 一人で興奮して、一人で照れながら、意味のわからないことを言い始める。強引に連れ去った誘拐犯には違いないのだろうか、あまり恐怖は感じなかった。
 ミズカミの見た目が良く、若かったというのもあるかもしれない。
 ゆっくり話をして、説得して、理解してもらえば、解放してもらえるんじゃないだろうか。そんな希望が湧いてきた。

「あの、ミズカミさん?申し訳ないけど、人違いじゃないですかね?俺、あなたと会ったことないですし。それに、誘拐…いえ、急に人を連れてきちゃだめですよね?ね?わかる?ちゃんと相手の都合も聞かないと、ね?それに、花嫁って…俺、見ての通り男だから、ね?」

 いつの間にか互いに正座して向き合っていた。それにしても俺と見間違えるなんて、こいつの捜し人はどれだけゴツいやつなんだ。

「何を言ってるんだ?人違いはずがない。お前は辰巳龍乃丞だろ?お前の匂いはわかる。それに、男であることの何が問題なんだ?俺の花嫁になれるんだぞ?光栄なことじゃないか」

「いや、花嫁って…」

 こめかみがピクピク動くのを感じたが、拳を握りしめながら、じっと呼吸が整うのを待ってから話し始める。
 
「あのね、男は嫁にはなれないでしょ?」
 
「だが、お前は俺に選ばれた男だ。性別は問題ではない。それに花嫁とは子供を産む相手のことだろ?お前、尻の穴に指入れてたじゃないか?そこから子供を産めばいい」

「……」

 色々ツッコミどころ満載なのだが、俺がゲイだと知っているということは、この男の言うようにどこかであった相手なのだろうか?
 それに、地元の人間には俺のセクシャリティについて話したことはない。家族にすらも。東京行ってからゲイバーとかで会ったやつなのか?
 思わず距離を取るが、ミズカミは空いた距離をすぐにずいっと詰めてきた。

「そりゃ、出産の大変さは俺も経験できないながらも学んだ。安心しろ!俺も精一杯助力する」

「そういういことじゃないんですよ!?俺はアンタのことは覚えてないんだって!!どこで会ったんですかっ!?」

 誘拐犯を刺激してはいけないと思いつつ、訳の分からない話をするミズカミに少し恐怖を覚える。

「あの時は、こんな姿じゃなかったからな。わからないのも仕方ない。だが、お前が自分の指をケツ穴に突っ込んでほぐしているのを見て、何度俺のものをぶち込みたいと思ったことか。やっと夢が叶うと思うと、待ちきれないぞ?」
 
 ますます上気した顔。
 なに、俺のストーカーですか?子供の時、俺のアナニーを覗いちゃったとか、そういうこと?それはさぞかし歪んだ性癖を持ってしまったことでしょうね。俺は男にちょっぴり同情した。
 しかもずっと俺としたいと思っていてくれたなんて。なんて奇特なやつだ。目の前の、見た目は超一流だが、頭のおかしい男とセックスすることをつい想像して、ちらりと股間のあたりを見れば…。

「勃ってねえのかよっ!!!!」

 あ、しまった。思わず声に出てしまった。
 浴衣越しの男の股間は静かなままだった。

「りゅ、龍乃丞!!!!お、お前はなんと破廉恥な男に育ってしまったんだ!!!!入れる前から勃たせたら入らないではないか!!!!」

「何いってんだ。勃たせないとはいらねーじゃねーか」

「俺はお前達、人間とは違って慎み深いからな。だが安心しろ、ちゃんと隠してある。お前を満足させられるサイズにはしたつもりだ。それにしても…俺も姿かたちが大分変わったからな、怯えられるかと心配していたのだが…そうか。お前もそんなに俺のこと……。思いが通じ合うっていいもんだな」

 喜びで涙ぐみながら、更に距離を詰めてきた。どうしてそんな解釈になる!?
 ちんこの話から俺達が両思だと勘違いするなんて、ツッコミどころしかないんだが!?
 
「ちがっ、ちがうって…そうじゃな、んぐっ」

 押し返そうとするのに、全身に何かが絡まったかのように四肢の身動きが取れない。再び口を塞がれ、布団へ押し倒される。上から舌を入れられれば、言葉が出てこない。
 ミズカミは俺の顎を掴んで固定した。長い舌で喉ちんこの手前、パラタイン喉線をなぞられ、突き上げるように刺激されると、はじめはくすぐったさから背筋がぞわぞわし腰が浮いた。そして、そのうち脳が痺れるような感覚がしてきた。刺激されているのは喉なのに、勝手に腰がへこへこ動き、刺激を求めてちんこをミズカミに擦りつけようとしてしまう。

「ふぁ…あ…あ…あ…」

 のけぞりながらこの未経験の快楽をつかもうとする。射精とか中イキとは違う感覚。全身がこわばり、自分のちんこがビンビンに勃っているのがわかった。
 やばい、なにかクルっ!!未知の恐怖に男の舌を拒絶したかったが、喉までしっかり入り込んだそれのせいで、うめき声しか出ない。
 そもそも、自由になるのは腰だけで、なにかに拘束されたかのように手足は動かないのだ。

「あ゛ーっ!あ゛ーっ!あ゛ーっ!!あ゛、あ゛、…あ゛あ゛っっっ!!!!」

 獣のようなうめき声を上げたあと、脳の中が一瞬真っ白になった。それは射精や中イキしたときと似ている。違うのはもっと頭の中でそれが弾けた感覚なのだ。
 うめき声の違いで、俺が喉イキしたのがわかったのだろう。
 ミズカミは満面の笑みを浮かべながら唇を離した。俺の口からはだらだらとヨダレが出ていて、少し顎を上げていたせいか、耳の方まで垂れてきていた。
 それを、ミズカミが両手で拭ってくれる。俺は初めての感覚に、ぼんやりしていた。
 気がつけば、ちんこからもだらだらと液体が流れ出ていて、はだけて丸見えになった性器から発射された液体が二人の浴衣を汚していた。
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