【山芋生姜BL】堕ちる羊

猫丸

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 俺達の縁は高校時代に遡る。入学直後の高校一年生の時、たまたま席が隣同士だった。
 まだ友達と呼べるような知り合いもいなかった俺達は、隣同士でチームを組むことも多く、次第に仲良くなった。
 仲良くなったと言っても、山神は昔から無愛想で近寄りがたいヤツだった。でもどこかカリスマ性があって、皆から好かれていて、学校のカーストでも上の方にいた。俺はいつも底辺だったから、どちらかというとこいつに絡まれていたといったほうが正しいかもしれない。
 頼まれ事を断れなかったり、つい空気を読んで相手に合わせようとしてしまう性格だった俺。山神から見ればさぞかし都合の良い相手だっただろう。
(俺だったらもっと誠実で、優しい相手の方が良いけどなぁ)
 ちょこちょこ彼女が替わる山神を見て、俺はそんなことを思った。その頃すでにゲイの自覚があった俺だが、女性がなぜこんな愛想のない男が良いのかわからなかった。だが、山神の近くにいればこいつ目当ての女子しか寄ってこなかったし、皆が恋愛に浮わつく中、俺が彼女を作らない言い訳にもなった。まあ、そもそも底辺に言ってくるヤツなんていなかったけど。
 それに「いじめられてない? 嫌なことはちゃんと嫌だって言うんだぞ?」なんて片思いの同級生から心配されることもあって、その立場は意外と俺にとっては都合が良かった。俺は山神ではなく、いつも心配してくれるそいつが好きだった。でも相手はクラスの人気者で完全なノンケ。告白する気はまったくない。山神がクール系でモテているなら、そいつは王子様キャラで人気だった。そいつが俺を心配して話しかけてくれる。それだけで十分だった。今となってはただの甘酸っぱい思い出。
 地味でカースト底辺で、山神のパシリ。そんな印象をクラスメイトに残して終えた高校生活。
 俺は大学進学を口実に地元を離れた。都会ならば、田舎ほど他人のセクシャリティを気にする人も少ないと思った。これだけ人がいるなら、俺も彼氏ができるかな、とかそんな期待もあって、地元に残る気はまったくなかった。
 家庭の事情もあって、地元に進学してほしいという親に頼み込んで、唯一受けさせてもらった都会の大学。当時の俺の実力では難しいと言われていた大学だった。親戚にも自慢できるような有名大学だったから親も「そんなにその大学で勉強したいなら、がんばって仕送りする」と、奨学金のパンフレットを見ながらも許可してくれた。
 進学よりも、俺のセクシャリティの問題なのに、親には申し訳ない気も気もあったが、俺は必死に勉強してその大学への進学を決めた。
 地元に進学をすると思っていた俺が、都会のその大学へ行くことを知った時、山神は驚いていた。だが、俺は気にもとめなかった。
 実際、都会に出てしばらくは良かった。田舎とは違って、周りの目を気にしなくて良い生活は気が楽だった。大学の友達ともそれなりに付き合って、でも恋愛はアプリやSNSを使って知り合った。東京にいればすぐに会える人も多くて、実際彼氏も何人かできた。
 地元に残った山神へこちらから連絡することはなかった。それは高校時代から変わらない。向こうから連絡が来たら返す、その程度。距離も離れるし、高校までの友人は段々フェードアウトしていけばいいと思っていた。
 だが、山神は俺にしつこく連絡してきた。そして、その度に俺は「忙しい」「予定が入ってる」と断っていた。そうしていれば向こうも連絡してこなくなるかな、と思っての行動だった。はっきりと「連絡してくるな」と言える性格ではない。後々同窓会とかで会って険悪になるのは嫌だ。都会の生活を楽しんでいるのに、地元の関係に引っ張られるのは面倒だっただけ。
 だが山神は同級生から俺のアパートの住所を聞くと、勝手に遊びに来るようになった。
 俺は、友達やサークルの付き合いを口実に山神の誘いを断り続け、恋愛を楽しんだ。同性が好きでも後ろめたさを感じることもなく、普通に好きなら好きと言える場所があることは俺には居心地が良かった。そこで出会う相手は自分が恋しても良い相手なのだ。
 若さという武器もあって、俺はモテた。
 だが、たった一つの恋愛が俺をおかしくした。
 恋といって良いかもわからない、ただ開放感で調子に乗っていた俺が嵌った落とし穴。
 それ以来、俺はすべての恋愛をやめた。
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