運命のアルファ

猫丸

文字の大きさ
上 下
15 / 16
2.亮太視点

2-5.クズの本性

しおりを挟む
 だが、過去のツケというのは、気を抜いた瞬間にやってくる。 
 颯人のアパートを出てすぐだった。ふと視線を感じてそちらを見ると見覚えのある顔があった。

「オマエ……」

 あのオンナだった。

「実家帰るとかいって、私から逃げるためだったんじゃない! 別のオンナのアパート行ってたんでしょ!? あのアパートに新しいオンナがいるの!?」

 オンナの目がおかしい。正気ではない。
 こんなところで騒がれて、颯人に気づかれたくない。

「……ちがう。 たまたまダチのところに泊まりに来ただけだって……」

 心のなかで舌打ちをしていたが、表向きは優しい声色を出し、肩を抱いてその場から離れる。

「……泣かないで。 落ち着いて……ね?」

 オンナは俺にキスをねだり、ホテルへと入りたがったが、颯人とした後にこのオンナで上書きする気はさらさらなかった。朝見るにはグロテスクな厚化粧。
 涙で目の周りの化粧が落ちて黒い涙が流れていた。
 俺達は近くの喫茶店へと入る。

「ホントにたまたま来ただけなんだって。 ほら、今、俺マジメに予備校通っててさ……」

 予備校の学生証を財布から取り出してオンナにちらりと見せた。さり気なく本名や学校名を指で隠して。これ以上つきまとわれたらたまらない。

「こうやって、やりなおそうって思ったのもオマエのおかげだよ……だからオマエも俺のこと忘れて幸せになれよ……」

 さすがの俺も、心にもない言葉を口にして顔がひきつったが気づかれないように顔を伏せた。

「そんな事言って、体よく追い払おうとしてるんでしょ!? それにあのアパートから出てくるの何回も見たんだから!!」

「……はぁ? オマエ、俺ンとこ、つけてたの……?」

 怒りのあまり、溢れ出るアルファの威嚇。颯人のアパートまで特定しているとか、許せない。

「ひっ……た、たまたま駅で見かけて……こ、えかけようと思ったんだけど……だ、って、リョウ、私からの連絡全部ブロックしてるし……」

 俺の威嚇に周囲の客までもガタガタ震え始めた。

「これ以上俺につきまとったり、あのアパート行ったりしたら、マジで殺す。 はっきり言わないとわかんねぇ? オマエ、もう必要ねぇんだよ。 俺、オマエの虚栄心満たすために十分かわいいヒモしてやっただろ? それで満足しろよ。 引き際見極めねぇと、オマエもっと沈むよ?」

 真っ青になって首を縦にふるオンナを見て、テーブルの伝票を取り上げる。

「今までのお礼にここは俺がおごるよ。 それでおしまい。 じゃぁな」

 颯人のアパートを特定されて、つい素の自分が出てぶちギレてしまったが、冷静になってみると「颯人はオンナじゃねぇか」と自分の過剰な反応に笑ってしまった。
 我ながら颯人のことになると見境がない。颯人に見せている顔は別の顔。優しいヒーローの俺。

 俺はホストの知り合いに連絡した。

『なに、リョウちん、やっと一緒に働く気になったー?』

「いや、そうじゃなくて。 俺、アイツと別れたんだけどさ、アイツ納得してないみたいで。 お前のテクニックで落とせねぇ?」

『マジで? いいの? 彼女、すっげー貢ぐタイプでしょ? 助かるー♡ 俺、今月売上厳しかったんだよねー♡ 俺、傷ついてるお姫様慰めるの得意だしい? 薄情リョウちんの後ならやりやすそー♡』

「信用してるからな」

 つくづく俺はクズだな、と思った。俺にとっては颯人が理由になれば、どんなことだってするのだ。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

嘘つき純愛アルファはヤンデレ敵アルファが好き過ぎる

カギカッコ「」
BL
さらっと思い付いた短編です。タイトル通り。

毒/同級生×同級生/オメガバース(α×β)

ハタセ
BL
βに強い執着を向けるαと、そんなαから「俺はお前の運命にはなれない」と言って逃げようとするβのオメガバースのお話です。

君はアルファじゃなくて《高校生、バスケ部の二人》

市川パナ
BL
高校の入学式。いつも要領のいいα性のナオキは、整った容姿の男子生徒に意識を奪われた。恐らく彼もα性なのだろう。 男子も女子も熱い眼差しを彼に注いだり、自分たちにファンクラブができたりするけれど、彼の一番になりたい。 (旧タイトル『アルファのはずの彼は、オメガみたいな匂いがする』です。)全4話です。

噛痕に思う

阿沙🌷
BL
αのイオに執着されているβのキバは最近、思うことがある。じゃれ合っているとイオが噛み付いてくるのだ。痛む傷跡にどことなく関係もギクシャクしてくる。そんななか、彼の悪癖の理由を知って――。 ✿オメガバースもの掌編二本作。 (『ride』は2021年3月28日に追加します)

キンモクセイは夏の記憶とともに

広崎之斗
BL
弟みたいで好きだった年下αに、外堀を埋められてしまい意を決して番になるまでの物語。 小山悠人は大学入学を機に上京し、それから実家には帰っていなかった。 田舎故にΩであることに対する風当たりに我慢できなかったからだ。 そして10年の月日が流れたある日、年下で幼なじみの六條純一が突然悠人の前に現われる。 純一はずっと好きだったと告白し、10年越しの想いを伝える。 しかし純一はαであり、立派に仕事もしていて、なにより見た目だって良い。 「俺になんてもったいない!」 素直になれない年下Ωと、執着系年下αを取り巻く人達との、ハッピーエンドまでの物語。 性描写のある話は【※】をつけていきます。

α嫌いのΩ、運命の番に出会う。

むむむめ
BL
目が合ったその瞬間から何かが変わっていく。 α嫌いのΩと、一目惚れしたαの話。 ほぼ初投稿です。

成り行き番の溺愛生活

アオ
BL
タイトルそのままです 成り行きで番になってしまったら溺愛生活が待っていたというありきたりな話です 始めて投稿するので変なところが多々あると思いますがそこは勘弁してください オメガバースで独自の設定があるかもです 27歳×16歳のカップルです この小説の世界では法律上大丈夫です  オメガバの世界だからね それでもよければ読んでくださるとうれしいです

暑がりになったのはお前のせいかっ

わさび
BL
ただのβである僕は最近身体の調子が悪い なんでだろう? そんな僕の隣には今日も光り輝くαの幼馴染、空がいた

処理中です...