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2.亮太視点
2-4.番の身体
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その日は特にオンナの機嫌が悪かったが、俺は無視して颯人のSNSを見ていた。颯人は少し前にコンビニの新作のお菓子の写真をアップしていた。だから俺は毎日同じものを買って食べていた。
小さなテーブルの上にはオンナの化粧品や香水が並んでいる。灰皿は吸い殻で溢れ、こぼれ落ちていた。寝そべりながらベッドの上で菓子の袋に手を伸ばす。今さら菓子のカスが落ちるのなんて気にならない。
ここで寝て、起きて、オンナを抱いた汚れたベッド。
どこまで堕ちても、この画面の向こうには颯人がいて、笑っているのだと思うとそれだけで幸せだった。
画面を見ていたら、メッセージ到着の通知が届いた。颯人からだった。
『久しぶり。元気?』
短い文章。アカウントは颯人だったが、颯人が今さら俺に連絡してくるなんてありえない。
俺達は颯人の『黙っていてごめん』の言葉で終わったのだ。
本当に颯人なのか?それとも乗っ取りなのかと思って、俺はそのメッセージ通知をみたまましばらく固まっていた。
そして、見間違いかもと思ってトーク画面を開いた。だが間違いなく颯人だった。
スマホを持つ手が震えて、俺は混乱していた。
その画面を見続けていると、次のメッセージが届いた。
『この間久しぶりに鈴木と会って、懐かしくなって連絡してみた』
本物の颯人だ。
スマホをみたまま固まっている俺にオンナがヒステリックに怒鳴る。
俺は「うるせぇ!!」と怒鳴り、オンナのアパートを出た。
気がつけば、颯人のアパートに来ていた。
颯人は俺とは違い、まともな人生を歩んでいる。失恋に傷ついているのは俺だけ。やはりどこまでいっても俺の片思いなのだ。
目の前にすればこんなにも「俺の運命の番だ!」と本能が叫んでいるというのに。
黙っていたことを謝罪され、はじめは平静を装った。だが、皆が言うような常識的な、一般的な励ましの言葉を颯人にも言われて俺はカッとなって叫んだ。
八つ当たりだとわかっている。でもお前には、お前にだけは言われたくない。
「お前のせいだ……」
違う。自分のせいだ。自分が弱いから俺はこんなになっているのだ。颯人がいないと何もできないのだ。
だが颯人は責任を感じたのか、なんでもするという。アルファなのに俺に抱かれても良いのだという。
俺の前でそんな事を言うなんて、お前はどこまで人が良いんだ。だが俺が目の前に飛び込んできた唯一無二の獲物を逃すはずもない。
する直前、颯人は少しためらった。
だめだ。今さら我慢なんてできない。
抵抗しても犯すつもりでいた。ここを逃したら二度とチャンスは訪れないかもしれない。颯人の前でだけヒーローの仮面をつけていた俺の中の真っ黒な本性が現れる。
だが、聞けば颯人は男も女も経験したことがないのだという。汚れた俺とは大違い。
俺に言われた通り脚を開き、誰にも見られたことのない秘部をさらけ出す颯人を見て、俺はこれが現実なのか信じられなかった。
確かに身体はかつて颯人がオメガだと信じていた時の想像とは異なる。だがそんなことどうでもいい位、実物は俺の想像を遥かに超えていた。
自分が穢してよいのか。
だが、誰にも渡したくない。
颯人に名前を呼ばれ正気に返る。
颯人は俺のものだ。
初めて身体をつなげた後、思わずキスをしてしまった。颯人はぎこちない様子でそれに応えた。まるで俺達が愛し合っている恋人同士のような錯覚に陥った。ただ颯人の優しさにつけ込んでいるだけなのに。
その日は3回もして、俺はこのままだと抱き潰してしまいそうな不安になった。俺の目にしか触れないところに閉じ込めたい。黒い欲望が湧き上がり、あわてて颯人のアパートを去った。
久しぶりに朝の日差しを浴びる。世界が変わって見えた。
その後も俺は何度も颯人のアパートを訪れた。
オンナとは別れた。なんだかんだずっとお世話になっていたし、向こうは別れたくないと泣きわめき、叩かれたり殴られたりもしたけど、「実家に帰る」と行ってオンナの家を出た。
その後、大量に連絡も来たけど、申し訳ないがブロックさせてもらった。
互いに依存の関係だったとはいえ、己の非情さに驚いた。本当に俺は颯人以外の人間がどうだっていいのだ。
実家に帰れば親は俺の顔色をうかがいながらも受け入れてくれた。
俺が「ごめん」と謝れば親はほっとして笑顔になった。
身体だけでも颯人が手に入ったのだ。再び良い子の仮面を付けるくらいなんともない。
颯人の負担にならないよう、怯えさせないよう自制して、アパートへと足を運ぶ。
颯人の不慣れな身体を快楽に慣らしていく。
俺だけが知る颯人の表情。例え身体だけでも「もっともっと」とねだられるのは嬉しかった。俺でなければダメな身体に変えたい。
唇を重ねればまるで俺達が愛し合っているかのような錯覚に陥った。すぐに反応し始める颯人のちんこ。
全部俺が開発した。
颯人の一部でも手に入れてしまえば、もう手放すことなどできなくて。
未来までも俺に縛り付けたい。颯人の隣にいてふさわしい人間になりたい。
俺は脱線したレールに戻るかのように、俺は地元の予備校に通い始めた。いや、そうでもしないとずっと颯人のアパートに入り浸ってしまいそうだったのだ。
ひたすら颯人の帰りを待つだけの男になりたくない。颯人に幻滅されたくない。俺はずっと颯人のヒーローなのだ。
小さなテーブルの上にはオンナの化粧品や香水が並んでいる。灰皿は吸い殻で溢れ、こぼれ落ちていた。寝そべりながらベッドの上で菓子の袋に手を伸ばす。今さら菓子のカスが落ちるのなんて気にならない。
ここで寝て、起きて、オンナを抱いた汚れたベッド。
どこまで堕ちても、この画面の向こうには颯人がいて、笑っているのだと思うとそれだけで幸せだった。
画面を見ていたら、メッセージ到着の通知が届いた。颯人からだった。
『久しぶり。元気?』
短い文章。アカウントは颯人だったが、颯人が今さら俺に連絡してくるなんてありえない。
俺達は颯人の『黙っていてごめん』の言葉で終わったのだ。
本当に颯人なのか?それとも乗っ取りなのかと思って、俺はそのメッセージ通知をみたまましばらく固まっていた。
そして、見間違いかもと思ってトーク画面を開いた。だが間違いなく颯人だった。
スマホを持つ手が震えて、俺は混乱していた。
その画面を見続けていると、次のメッセージが届いた。
『この間久しぶりに鈴木と会って、懐かしくなって連絡してみた』
本物の颯人だ。
スマホをみたまま固まっている俺にオンナがヒステリックに怒鳴る。
俺は「うるせぇ!!」と怒鳴り、オンナのアパートを出た。
気がつけば、颯人のアパートに来ていた。
颯人は俺とは違い、まともな人生を歩んでいる。失恋に傷ついているのは俺だけ。やはりどこまでいっても俺の片思いなのだ。
目の前にすればこんなにも「俺の運命の番だ!」と本能が叫んでいるというのに。
黙っていたことを謝罪され、はじめは平静を装った。だが、皆が言うような常識的な、一般的な励ましの言葉を颯人にも言われて俺はカッとなって叫んだ。
八つ当たりだとわかっている。でもお前には、お前にだけは言われたくない。
「お前のせいだ……」
違う。自分のせいだ。自分が弱いから俺はこんなになっているのだ。颯人がいないと何もできないのだ。
だが颯人は責任を感じたのか、なんでもするという。アルファなのに俺に抱かれても良いのだという。
俺の前でそんな事を言うなんて、お前はどこまで人が良いんだ。だが俺が目の前に飛び込んできた唯一無二の獲物を逃すはずもない。
する直前、颯人は少しためらった。
だめだ。今さら我慢なんてできない。
抵抗しても犯すつもりでいた。ここを逃したら二度とチャンスは訪れないかもしれない。颯人の前でだけヒーローの仮面をつけていた俺の中の真っ黒な本性が現れる。
だが、聞けば颯人は男も女も経験したことがないのだという。汚れた俺とは大違い。
俺に言われた通り脚を開き、誰にも見られたことのない秘部をさらけ出す颯人を見て、俺はこれが現実なのか信じられなかった。
確かに身体はかつて颯人がオメガだと信じていた時の想像とは異なる。だがそんなことどうでもいい位、実物は俺の想像を遥かに超えていた。
自分が穢してよいのか。
だが、誰にも渡したくない。
颯人に名前を呼ばれ正気に返る。
颯人は俺のものだ。
初めて身体をつなげた後、思わずキスをしてしまった。颯人はぎこちない様子でそれに応えた。まるで俺達が愛し合っている恋人同士のような錯覚に陥った。ただ颯人の優しさにつけ込んでいるだけなのに。
その日は3回もして、俺はこのままだと抱き潰してしまいそうな不安になった。俺の目にしか触れないところに閉じ込めたい。黒い欲望が湧き上がり、あわてて颯人のアパートを去った。
久しぶりに朝の日差しを浴びる。世界が変わって見えた。
その後も俺は何度も颯人のアパートを訪れた。
オンナとは別れた。なんだかんだずっとお世話になっていたし、向こうは別れたくないと泣きわめき、叩かれたり殴られたりもしたけど、「実家に帰る」と行ってオンナの家を出た。
その後、大量に連絡も来たけど、申し訳ないがブロックさせてもらった。
互いに依存の関係だったとはいえ、己の非情さに驚いた。本当に俺は颯人以外の人間がどうだっていいのだ。
実家に帰れば親は俺の顔色をうかがいながらも受け入れてくれた。
俺が「ごめん」と謝れば親はほっとして笑顔になった。
身体だけでも颯人が手に入ったのだ。再び良い子の仮面を付けるくらいなんともない。
颯人の負担にならないよう、怯えさせないよう自制して、アパートへと足を運ぶ。
颯人の不慣れな身体を快楽に慣らしていく。
俺だけが知る颯人の表情。例え身体だけでも「もっともっと」とねだられるのは嬉しかった。俺でなければダメな身体に変えたい。
唇を重ねればまるで俺達が愛し合っているかのような錯覚に陥った。すぐに反応し始める颯人のちんこ。
全部俺が開発した。
颯人の一部でも手に入れてしまえば、もう手放すことなどできなくて。
未来までも俺に縛り付けたい。颯人の隣にいてふさわしい人間になりたい。
俺は脱線したレールに戻るかのように、俺は地元の予備校に通い始めた。いや、そうでもしないとずっと颯人のアパートに入り浸ってしまいそうだったのだ。
ひたすら颯人の帰りを待つだけの男になりたくない。颯人に幻滅されたくない。俺はずっと颯人のヒーローなのだ。
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