運命のアルファ

猫丸

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2.亮太視点

2-2.失った番

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 俺がアルファだとわかって、親は急に俺に期待し始めた。今までよりももっと教育熱心になり、プレッシャーをかけてきた。
 だがそれでも良かった。俺は颯人を守れる男にならないといけないのだから。
 俺は必死に頑張った。
 頑張れば頑張るだけ、颯人が俺を褒めてくれて、俺に甘えてくれる。俺を頼ってくれる。
 
 そんな俺でも中学選定の時は親に反抗した。親は隣の県の中高一貫校に入れという。だが俺はみんなと一緒の中学へ通いたかった。
 しかも覚悟もないのに、いきなり寮へ入れなんて無茶だと思った。何よりそこには颯人がいない。
 だがさすが俺の親。自分の子供のことをよくわかっていた。
『将来颯人くんと番婚をするのなら、ちゃんと配偶者のヒート休暇が取れる福利厚生の良い会社に入らなければいけない。アルファの多いその学校なら、そういったルートが開ける』親は俺をそう説得した。
 俺は渋々だったが、「俺は颯人と番婚する」と宣言し、親も「颯人くんがオメガならばそれもいいんじゃないか」と納得してくれた。

 結果的に、どこ行っても同じだったな、と思ったのはしばらくして颯人も親の都合で転校したからだ。
 どちらにしても俺達はそこで一度は離れる運命だったのだ。寂しくないと言ったら嘘になるが、俺達の将来のために必要な期間だと、俺は腐らず頑張った。俺は颯人にふさわしい最高の男になるのだ。

 その頃には俺も颯人もスマホを持っていたから、頻繁にLINEで連絡を取り合った。
 一抹の不安を感じたのは、中学入学後、颯人から第二の性の報告がなかったことだった。もしかしてベータだったのだろうか?
 俺は焦った。そして何度も『颯人は俺の番だ』と言い続けた。颯人の隣は俺のものだ。他の誰にも渡さない。
 だが颯人は毎回ごまかすように話題をそらした。

 俺は不安を打ち消すために会いに行ってよいかを訪ねた。
 颯人の父親の異動がなければ実家に帰る度に会えたのに。悔しいが仕方ない。
 なかなか会えないこの距離が俺の愛を燃え上がらせた。こんな障害乗り越えて見せる。
 だが、毎回返ってくる返事は『ごめん、その日は都合が悪い』
 俺がこんなにも恋い焦がれているというのに、颯人は俺の運命の番なのに、なぜそんな冷たいのか。
 俺は俺への気持ちが冷めたのか、もしかして他に恋人ができたのかと不安になった。
 もう俺との縁を切ろうとしてるのではないか?俺の思いが重すぎて断れないだけなんじゃないか?
 会えない日々は不安で、ネガティブな思考にとらわれる。
 
 耐える日々に我慢できなくなって、不意打ちで会いに行った。
 後悔した。

 颯人はアルファだった。俺の愛があまりに重すぎて言えなかったのだろう。今思えば気配はあった。
 第二の性の報告がなかったこと。テレビ電話も会うことも拒絶された。SNSだって、颯人の今の姿がわかるようものはなにもなかった。
 それはすべて眼の前にいる、この背が伸びて美形になったこの姿を隠すため。アルファの颯人を隠すため。
 ただ俺が気づかない振りをしていただけ。そんな可能性を信じたくなかっただけ。
 その現実を目の前にしても、俺の本能は、颯人が運命の番だと言っているというのに。

「番にはなれないってこと?」

 俺が聞くと、颯人は肯定した。
 その辺りの記憶は曖昧だ。俺が誘導してたのかもしれないし、颯人が拒絶したのかもしれない。ただ俺はその事実に傷ついて、続く颯人の言葉を遮って逃げた。
 
 気がつけば実家に帰って暴れていた。
 初めての反抗期に親は戸惑っていた。聞き分けの良い息子の突然の発狂。
 違う。本当の俺はどうしようもなく乱暴で、適当な人間なのだ。子供の頃、颯人を悲しませたという理由だけで友達を殴った。本当はそんな人間。
 ただ颯人の隣りにいるために良い子の仮面を被っていただけなのだ。
 
 唯一の目的を失った俺はしばらく寮へは帰らず、学校を休み続けた。
 ぎりぎりでも高校を卒業できたのは、「なんとか高校だけは卒業してくれ」と泣いて頼んできた両親が、必死に担任や学校を説得し、協力してくれたお陰だ。出席日数をかせぐためだけに授業に出て、寝ている日々が続いた。
 みんなが大学受験で大変な中、俺はただ卒業することだけがそこにいる目的になっていた。
 
 もう頑張る理由などなかった。俺は颯人の隣という俺にとっていちばん大切な場所を失った。
 あの後颯人からきた『ずっと黙っていてごめん』というLINE。俺はそれを見ながら何度も泣いた。
 無情にも颯人から送られてきた決定的な別れのメッセージ。
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