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1.颯人視点
2.思い出
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◇
「颯人、もしお前がオメガだったら、将来は俺の番な」
子供の頃のことだった。
亮太は家も近く、幼稚園の時からの幼馴染だった。細くて、白くて、泣き虫で、よくからかわれていた俺を周囲から守ってくれた初恋の相手。
―― オメガだったら同性でも亮太と結婚できる。
亮太を好きな俺にとっては、それは夢のような言葉だった。だから俺は第二性がわかっていないにもかかわらず、俺は亮太との番婚を夢見た。
その見た目からオメガだとからかわれたりすることも多かったが、気にならなくなった。
むしろ周りがそう言ってくるごとに亮太が俺を助けにきてくれる。ことあるごとに自分をからかってくる嫌なクラスメイトも、亮太を俺の元へつなぎとめておくための大事な脇役となった。
勉強も運動もできて優しい亮太は、クラスの人気者だった。
クラスの女子は皆、一度は亮太を好きになったし、男子だって皆、亮太と仲良くしたがっていた。こんなかっこいい亮太と俺は将来結婚するのだ。
厨二病のように、自らがヒロインであるような錯覚に溺れていた。
だから当時の俺は幼心に、亮太から可愛いと思ってもらえる様必死だった。ちょっとぶりっ子をしてみたり、上目遣いで媚びるように見つめたり、全然平気なのに弱いふりをしてみたり。
今となっては思い出すだけで頭をかきむしり、叫び出したくなるくらい、あの時のすべての行動が黒歴史だ。
周りだけでなく俺も勘違いしていた理由は、俺の当時の見た目にあった。食べても太らず、華奢で、本当にかわいい顔をしていた。
第二の性は、小学4年生・中学入学時の2回検査される。
亮太は小4の検査で既にアルファだと判定されていたが、俺はその時の検査では正式な判定は出なかった。
だが、俺はアルファとオメガの夫夫の間に生まれていたため、きっと次の検査では絶対にどちらかの判定、多分オメガという判定が出るだろうと皆が思っていたし、俺自身もそう思っていた。
だから、自分はオメガだから特別で、かわいくて、庇護されて当然だと思っていた。
「颯人は亮太くんに頼ってばっかじゃなくて、もう少し色々、自分でやる努力しないといけないよね」と、親に言われてもどこ吹く風。
「どうせオメガなんだから、これが能力の限界」と、勉強も運動も程々にしか頑張らなかったし、それを口実に亮太に甘え、頼りまくっていた。自分を取り巻く環境に甘えていたのだ。
自分の片親がオメガであるにも関わらず、どれだけ男オメガが大変なのか理解していなかった。馬鹿な俺は、『オメガは弱い存在であるという』一般的な認識だけを盾にして、甘えて生きていた。
俺の親は男同士で、片方がアルファ、片方がオメガだったけど、二人はとても仲良しだったし、幸せそうだった。自分という子供も生まれた。
自分がオメガであれば亮太とこんな夫夫になれる。それならそれでいいと思っていた。
俺たちの別れは小学校卒業と同時だった。
そして俺を取り巻く世界が大きく変わったのもこの時。
みんなが地元の公立中学へ上がる中、亮太は隣の県のアルファの多い中高一貫校へと進学した。亮太の家庭は、両親はベータの平凡家庭。今思えば、その中で生まれた一人っ子がアルファだったとなれば、親の期待はすごかったのだと思う。中学から親元を離れ、寮住まいになった。
「みんなと同じ中学に行きたい」と泣いて親に頼み込んだらしいが、許されなかったらしい。反抗する亮太は、両親となにかしらの約束を交わし、渋々親の意向に従って進学したと後で知った。
俺も亮太と離れ離れになるのが嫌で、泣いて自分の親に相談した。だが「他人の家庭の決定に口は出せない」と突っぱねられた。後々知ったところによると、俺に執着する亮太が、俺にヒートが来たタイミングでうなじを噛んだら困ると亮太の両親には思われていたらしい。
実は俺にネックガードをつけて欲しい、とうちの親にも頼んだ事があったという。だが俺の第二の性は不明なままだったし、オメガであれば好奇の目で見られがちだから、ちゃんとわかるまではできる限り普通に育てたい、とうちの親が断ったらしい。
母親が強く反対したと聞いて、自分の認識の甘さを痛感した。
『オメガは庇護されるべき存在』
俺は『庇護』という言葉を履き違えていた。可愛くてちやほやされて、当然誰もが助けたくなる存在だと思っていたのだ。
差別され、虐げられてきた歴史があった上で、社会的に守られなければ生きていくことができなかったオメガ。そのための社会的なサポートであるにも関わらず、勘違いしていた俺は『オメガだったらアルファに守られて人生楽勝』と思っていた。
決して産みの親を軽く見てるとかそんなつもりはなかったのだけれど、結果的にはそうなっていた。男オメガだとからかってくる同級生たちと同じ目で親を見て、良いアルファを捕まえたから幸せになれたのだと、旧時代的な考えを持っていたのだと思う。
だからなのだろうか。
そんな俺をあざ笑うかのように、中学入学時の検査で出た判定は【アルファ】だった。
俺は亮太にもらったネックガードを見ながら泣いた。
亮太は寮に入る前「お前は俺と番になるんだから、絶対に誰にもうなじ噛ませるなよ?」と俺に黒いネックガードをくれた。
俺にはこのネックガードを巻く資格も、亮太の隣に立つ資格もなくなったのだ。
「颯人、もしお前がオメガだったら、将来は俺の番な」
子供の頃のことだった。
亮太は家も近く、幼稚園の時からの幼馴染だった。細くて、白くて、泣き虫で、よくからかわれていた俺を周囲から守ってくれた初恋の相手。
―― オメガだったら同性でも亮太と結婚できる。
亮太を好きな俺にとっては、それは夢のような言葉だった。だから俺は第二性がわかっていないにもかかわらず、俺は亮太との番婚を夢見た。
その見た目からオメガだとからかわれたりすることも多かったが、気にならなくなった。
むしろ周りがそう言ってくるごとに亮太が俺を助けにきてくれる。ことあるごとに自分をからかってくる嫌なクラスメイトも、亮太を俺の元へつなぎとめておくための大事な脇役となった。
勉強も運動もできて優しい亮太は、クラスの人気者だった。
クラスの女子は皆、一度は亮太を好きになったし、男子だって皆、亮太と仲良くしたがっていた。こんなかっこいい亮太と俺は将来結婚するのだ。
厨二病のように、自らがヒロインであるような錯覚に溺れていた。
だから当時の俺は幼心に、亮太から可愛いと思ってもらえる様必死だった。ちょっとぶりっ子をしてみたり、上目遣いで媚びるように見つめたり、全然平気なのに弱いふりをしてみたり。
今となっては思い出すだけで頭をかきむしり、叫び出したくなるくらい、あの時のすべての行動が黒歴史だ。
周りだけでなく俺も勘違いしていた理由は、俺の当時の見た目にあった。食べても太らず、華奢で、本当にかわいい顔をしていた。
第二の性は、小学4年生・中学入学時の2回検査される。
亮太は小4の検査で既にアルファだと判定されていたが、俺はその時の検査では正式な判定は出なかった。
だが、俺はアルファとオメガの夫夫の間に生まれていたため、きっと次の検査では絶対にどちらかの判定、多分オメガという判定が出るだろうと皆が思っていたし、俺自身もそう思っていた。
だから、自分はオメガだから特別で、かわいくて、庇護されて当然だと思っていた。
「颯人は亮太くんに頼ってばっかじゃなくて、もう少し色々、自分でやる努力しないといけないよね」と、親に言われてもどこ吹く風。
「どうせオメガなんだから、これが能力の限界」と、勉強も運動も程々にしか頑張らなかったし、それを口実に亮太に甘え、頼りまくっていた。自分を取り巻く環境に甘えていたのだ。
自分の片親がオメガであるにも関わらず、どれだけ男オメガが大変なのか理解していなかった。馬鹿な俺は、『オメガは弱い存在であるという』一般的な認識だけを盾にして、甘えて生きていた。
俺の親は男同士で、片方がアルファ、片方がオメガだったけど、二人はとても仲良しだったし、幸せそうだった。自分という子供も生まれた。
自分がオメガであれば亮太とこんな夫夫になれる。それならそれでいいと思っていた。
俺たちの別れは小学校卒業と同時だった。
そして俺を取り巻く世界が大きく変わったのもこの時。
みんなが地元の公立中学へ上がる中、亮太は隣の県のアルファの多い中高一貫校へと進学した。亮太の家庭は、両親はベータの平凡家庭。今思えば、その中で生まれた一人っ子がアルファだったとなれば、親の期待はすごかったのだと思う。中学から親元を離れ、寮住まいになった。
「みんなと同じ中学に行きたい」と泣いて親に頼み込んだらしいが、許されなかったらしい。反抗する亮太は、両親となにかしらの約束を交わし、渋々親の意向に従って進学したと後で知った。
俺も亮太と離れ離れになるのが嫌で、泣いて自分の親に相談した。だが「他人の家庭の決定に口は出せない」と突っぱねられた。後々知ったところによると、俺に執着する亮太が、俺にヒートが来たタイミングでうなじを噛んだら困ると亮太の両親には思われていたらしい。
実は俺にネックガードをつけて欲しい、とうちの親にも頼んだ事があったという。だが俺の第二の性は不明なままだったし、オメガであれば好奇の目で見られがちだから、ちゃんとわかるまではできる限り普通に育てたい、とうちの親が断ったらしい。
母親が強く反対したと聞いて、自分の認識の甘さを痛感した。
『オメガは庇護されるべき存在』
俺は『庇護』という言葉を履き違えていた。可愛くてちやほやされて、当然誰もが助けたくなる存在だと思っていたのだ。
差別され、虐げられてきた歴史があった上で、社会的に守られなければ生きていくことができなかったオメガ。そのための社会的なサポートであるにも関わらず、勘違いしていた俺は『オメガだったらアルファに守られて人生楽勝』と思っていた。
決して産みの親を軽く見てるとかそんなつもりはなかったのだけれど、結果的にはそうなっていた。男オメガだとからかってくる同級生たちと同じ目で親を見て、良いアルファを捕まえたから幸せになれたのだと、旧時代的な考えを持っていたのだと思う。
だからなのだろうか。
そんな俺をあざ笑うかのように、中学入学時の検査で出た判定は【アルファ】だった。
俺は亮太にもらったネックガードを見ながら泣いた。
亮太は寮に入る前「お前は俺と番になるんだから、絶対に誰にもうなじ噛ませるなよ?」と俺に黒いネックガードをくれた。
俺にはこのネックガードを巻く資格も、亮太の隣に立つ資格もなくなったのだ。
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