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1.颯人視点
3.バレた秘密と手繰り寄せる初恋
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それから少しして、俺は親の転勤で引っ越した。正直言うとちょっとほっとした。これで俺がオメガでなかったことを同級生から伝わることはなくなった。
いつまでも隠し通せるものではないし、どこかのタイミングで言わなきゃいけないと思っていても、俺は『亮太の未来の番』という立場をまだ捨てたくなかった。
亮太とはその後も、高校生になってからもLINEのやり取りは続いた。
だが小学校の卒業以来、俺たちは一度も会わなかった。いや、俺が怖くて会えなかったのだ。
黙っているうちに俺は第二次成長期に突入し、背もすごく伸びて、身体も骨ばった男性的なものへと変化した。面影こそ残るものの、もうオメガだと思われていた俺はいない。
『颯人は俺の番だから』
それでもなにも知らない亮太は、やり取りの中で何度も言った。
その言葉にときめいてしまう反面、黙っている罪悪感で胸が苦しかった。
会ったらバレてしまう。アルファ同士ならば、番でなく友達になるしかないのだとわかっていても、俺は亮太が好きだったから、どうしても言えなかったのだ。
そして時間がたてばたつほど、ますます言い出すタイミングを失っていった。
だがそろそろごまかすのも限界を感じていた。
亮太は事あるごとに俺に会いたがった。会うのを断る俺に『もしかして他に好きな人ができた? それとも俺の思いが重すぎる? それなら正直に言って欲しい』とまで言わせてしまった。卑怯な俺は、その度毎に調子の良いことを言って、亮太をつなぎとめつつ、隠し続けた。
亮太を手放し、俺以外の誰かが隣りに立つのが許せなかった。
幻想の中にしかいないオメガの俺で時間を稼いで、亮太の時間を奪う。
そうしたところで、なんの未来もないというのに。
◇
その時は突然やってきた。高2の文化祭の最中。
「颯人くん、お客さーん!!」
クラスメイトと一緒に焼きそばを作っているところで、クラスの女子から呼ばれた。
「おまっ、また告白かよ? かーっ!! こんな愛想のないやつどこがいいんだか!!」
友達がいつものように囃し立てる。「振るなら優しく断れよ」と相手の子に同情しながら、俺の仕事を変わってくれた。
そして、呼ばれた場所へ行ってみるとそこにいたのは亮太だった。
「亮太……なん、で?」
初恋が成長している。背も伸び、男前ぶりが上がっていて、ますますかっこよくなっていた。
(やっぱり、俺の亮太!!!! イケメンすぎる!!!!)
心のなかでは七転八倒。悶えまくっていた。実物の破壊力に心臓が痛い。手の届くところにいる亮太に鼻血が出そうだ。
なぜ『実物』となのか言うと、亮太のSNSで友達と写っている写真をチェックしていたからだ。
だが俺のそんな浮かれた気持ちも、亮太の表情を見て一瞬で霧散した。
「颯人、お前……」
身長が伸びて、明らかに昔とは違う俺。これで気づかない方が間抜けだ。俺は自嘲気味に笑いながら言った。
「ずっと黙っててごめん。 実は俺……アルファだった……」
胸が締め付けられた。これで俺の初恋は終わるのだ。
自分の言葉が自分に突き刺さる。亮太の隣にいられる人間ではないということが辛かった。
亮太が求めているのはオメガの俺であってアルファの俺ではない。
「いやいやいやいや……そんなはずは……」
亮太の戸惑いが伝わってきた。
「ずっと言えなくてごめん……早く言わなきゃって思っていたのに……亮太とのやり取りが楽しくて言えなくて……」
「……俺とは番になれないって……こと……?」
「そういう……ことになる……でも、俺は……!!」
一旦は頷くしかなかった。恋愛感情としては好きだけれど、性別的には番にはなれない。それでも俺の気持ちだけは知ってほしかった。
だが、その言葉も冷たくあしらわれる。
「……もういい」
亮太は泣きそうな表情でいった。
ずっと騙していたのは俺。亮太を慰める言葉も方法もなかった。
俺達の縁はこれで切れたはずだった。
◇
鈴木と別れて数時間が立っていた。
思い出すあの日の亮太の泣きそうな顔。
メッセージを打ち込む手が震えた。
何度も打っては消してを繰り返し、悩みに悩んでやっと送信ボタンを押した。
『久しぶり。元気?』
たったそれだけの短い文章。最後に会ったあの高校の文化祭の時以来、俺たちは互いに連絡をしていなかった。
最後に送った『ずっと黙っていてごめん』というメッセージは既読になったまま、ずっと返事が来ていない。
もしかしたらもうブロックされているかもしれない恐怖。アカウントが変わっているかもしれない不安を抱えながら、じっと画面を見つめていた。
どのくらいそうしていたのだろう。既読マークが付いた時、俺はひゅっと息を呑んで、そして呼吸が浅くなっていたことに気づいた。
スマホを持つ手が震えた。
だが返事は返ってこない。
1時間待ってみて、震えながら次の文章を打ってみる。
『この間久しぶりに鈴木と会って、懐かしくなって連絡してみた』
今度はすぐに既読になった。
だがやはり返事は来ない。
もう俺と連絡を取り合う気はないのかもしれない。だがこの画面の向こうに亮太がいて、今はまだ俺のメッセージを見てくれている。
もし許されるなら、隠していたことを会って謝りたかった。
亮太が警戒しないように、普通の友達を装うようなメッセージを送る。
『時間が合えば久しぶりに会わない? 亮太の都合のいい場所言ってくれれば行くよ』
またすぐに既読マークがついた。だが返事はない。
肩に力が入っていることに気づいて、深呼吸をした。
しばらく待って返事がなければ、過去の俺の過ちをせめてLINEで謝らせてもらおう。
アルファだとわかってすぐに伝えていればこんな事にならなかった。番は無理でも友達にはなれたかもしれないのに。
俺と番になると言い続けてくれた亮太を傷つけ、亮太の時間を奪い、どうしようもない状態にしてしまったのは自分だ。
「アルファだろうが、オメガだろうが、関係ないな。 俺は本当に甘ったれでどうしようもない。 大事なことを先送りにして、結局すべてをだめにして、相手を傷つけて……」
自嘲気味に呟いた。俺は小さい頃からずっと自分に甘い。周りの優しさに甘えて、人を傷つけて。
少し鼻の奥がツンと傷んで、近くにあったティッシュに手を伸ばした。
―― ピコン
スマホが震えた。慌てて画面を見ると亮太からのメッセージだった。
『お前、一人暮らし? どこ住んでんの?』
『◯◯駅から徒歩15分位のとこ。 亮太は?』
慌てて打ち込むと直ぐに返事が帰ってきた。
『オンナとケンカして泊まるとこない。 颯人んち、行っていい?』
時計を見ると、11時近かった。急に心臓が早鐘を打った。
今を逃せばもう会えなくなりそうな気がして慌てて、返事を送る。
『いいよ。 着く時間教えて。 駅で待ってる』
いつまでも隠し通せるものではないし、どこかのタイミングで言わなきゃいけないと思っていても、俺は『亮太の未来の番』という立場をまだ捨てたくなかった。
亮太とはその後も、高校生になってからもLINEのやり取りは続いた。
だが小学校の卒業以来、俺たちは一度も会わなかった。いや、俺が怖くて会えなかったのだ。
黙っているうちに俺は第二次成長期に突入し、背もすごく伸びて、身体も骨ばった男性的なものへと変化した。面影こそ残るものの、もうオメガだと思われていた俺はいない。
『颯人は俺の番だから』
それでもなにも知らない亮太は、やり取りの中で何度も言った。
その言葉にときめいてしまう反面、黙っている罪悪感で胸が苦しかった。
会ったらバレてしまう。アルファ同士ならば、番でなく友達になるしかないのだとわかっていても、俺は亮太が好きだったから、どうしても言えなかったのだ。
そして時間がたてばたつほど、ますます言い出すタイミングを失っていった。
だがそろそろごまかすのも限界を感じていた。
亮太は事あるごとに俺に会いたがった。会うのを断る俺に『もしかして他に好きな人ができた? それとも俺の思いが重すぎる? それなら正直に言って欲しい』とまで言わせてしまった。卑怯な俺は、その度毎に調子の良いことを言って、亮太をつなぎとめつつ、隠し続けた。
亮太を手放し、俺以外の誰かが隣りに立つのが許せなかった。
幻想の中にしかいないオメガの俺で時間を稼いで、亮太の時間を奪う。
そうしたところで、なんの未来もないというのに。
◇
その時は突然やってきた。高2の文化祭の最中。
「颯人くん、お客さーん!!」
クラスメイトと一緒に焼きそばを作っているところで、クラスの女子から呼ばれた。
「おまっ、また告白かよ? かーっ!! こんな愛想のないやつどこがいいんだか!!」
友達がいつものように囃し立てる。「振るなら優しく断れよ」と相手の子に同情しながら、俺の仕事を変わってくれた。
そして、呼ばれた場所へ行ってみるとそこにいたのは亮太だった。
「亮太……なん、で?」
初恋が成長している。背も伸び、男前ぶりが上がっていて、ますますかっこよくなっていた。
(やっぱり、俺の亮太!!!! イケメンすぎる!!!!)
心のなかでは七転八倒。悶えまくっていた。実物の破壊力に心臓が痛い。手の届くところにいる亮太に鼻血が出そうだ。
なぜ『実物』となのか言うと、亮太のSNSで友達と写っている写真をチェックしていたからだ。
だが俺のそんな浮かれた気持ちも、亮太の表情を見て一瞬で霧散した。
「颯人、お前……」
身長が伸びて、明らかに昔とは違う俺。これで気づかない方が間抜けだ。俺は自嘲気味に笑いながら言った。
「ずっと黙っててごめん。 実は俺……アルファだった……」
胸が締め付けられた。これで俺の初恋は終わるのだ。
自分の言葉が自分に突き刺さる。亮太の隣にいられる人間ではないということが辛かった。
亮太が求めているのはオメガの俺であってアルファの俺ではない。
「いやいやいやいや……そんなはずは……」
亮太の戸惑いが伝わってきた。
「ずっと言えなくてごめん……早く言わなきゃって思っていたのに……亮太とのやり取りが楽しくて言えなくて……」
「……俺とは番になれないって……こと……?」
「そういう……ことになる……でも、俺は……!!」
一旦は頷くしかなかった。恋愛感情としては好きだけれど、性別的には番にはなれない。それでも俺の気持ちだけは知ってほしかった。
だが、その言葉も冷たくあしらわれる。
「……もういい」
亮太は泣きそうな表情でいった。
ずっと騙していたのは俺。亮太を慰める言葉も方法もなかった。
俺達の縁はこれで切れたはずだった。
◇
鈴木と別れて数時間が立っていた。
思い出すあの日の亮太の泣きそうな顔。
メッセージを打ち込む手が震えた。
何度も打っては消してを繰り返し、悩みに悩んでやっと送信ボタンを押した。
『久しぶり。元気?』
たったそれだけの短い文章。最後に会ったあの高校の文化祭の時以来、俺たちは互いに連絡をしていなかった。
最後に送った『ずっと黙っていてごめん』というメッセージは既読になったまま、ずっと返事が来ていない。
もしかしたらもうブロックされているかもしれない恐怖。アカウントが変わっているかもしれない不安を抱えながら、じっと画面を見つめていた。
どのくらいそうしていたのだろう。既読マークが付いた時、俺はひゅっと息を呑んで、そして呼吸が浅くなっていたことに気づいた。
スマホを持つ手が震えた。
だが返事は返ってこない。
1時間待ってみて、震えながら次の文章を打ってみる。
『この間久しぶりに鈴木と会って、懐かしくなって連絡してみた』
今度はすぐに既読になった。
だがやはり返事は来ない。
もう俺と連絡を取り合う気はないのかもしれない。だがこの画面の向こうに亮太がいて、今はまだ俺のメッセージを見てくれている。
もし許されるなら、隠していたことを会って謝りたかった。
亮太が警戒しないように、普通の友達を装うようなメッセージを送る。
『時間が合えば久しぶりに会わない? 亮太の都合のいい場所言ってくれれば行くよ』
またすぐに既読マークがついた。だが返事はない。
肩に力が入っていることに気づいて、深呼吸をした。
しばらく待って返事がなければ、過去の俺の過ちをせめてLINEで謝らせてもらおう。
アルファだとわかってすぐに伝えていればこんな事にならなかった。番は無理でも友達にはなれたかもしれないのに。
俺と番になると言い続けてくれた亮太を傷つけ、亮太の時間を奪い、どうしようもない状態にしてしまったのは自分だ。
「アルファだろうが、オメガだろうが、関係ないな。 俺は本当に甘ったれでどうしようもない。 大事なことを先送りにして、結局すべてをだめにして、相手を傷つけて……」
自嘲気味に呟いた。俺は小さい頃からずっと自分に甘い。周りの優しさに甘えて、人を傷つけて。
少し鼻の奥がツンと傷んで、近くにあったティッシュに手を伸ばした。
―― ピコン
スマホが震えた。慌てて画面を見ると亮太からのメッセージだった。
『お前、一人暮らし? どこ住んでんの?』
『◯◯駅から徒歩15分位のとこ。 亮太は?』
慌てて打ち込むと直ぐに返事が帰ってきた。
『オンナとケンカして泊まるとこない。 颯人んち、行っていい?』
時計を見ると、11時近かった。急に心臓が早鐘を打った。
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