運命のアルファ

猫丸

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1.颯人視点

1.初恋の相手

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「……颯人、イクよ?」

 俺の後孔を出入りしているちんこが射精の瞬間に向けて一回り質量がました。ずんずんと奥まで打ち付けられれば、自然と喘ぎ声が漏れる。

「あ……あ……俺も、イクっ、イクっ」

 クライマックスの激しさの後の、体内に打ち付けられる熱い白濁液。その存在を感じながら、俺も内股を震わせてイッた。
 荒い呼吸と、力尽きて重なる身体。
 俺、高木颯人たかぎはやとの尻の穴にちんこを突っ込み、果てたばかりの男、佐枝亮太さえぐさりょうたが唇を近づけてきた。

(これはただの性欲処理……)

 期待しすぎないよう、自分を戒める。複雑な感情抑え込んで口づけを返した。
 惚れた弱み。亮太の高揚した顔を見れば、抗えない。舌を絡め、ぴちゃぴちゃと唾液を交わせば、体内に残る肉棒に再び力が戻るのがわかった。

「ん……亮太……」

 唇を重ねてしまえば『好き』という気持ちが溢れすぎて、自分の方が積極的に亮太を求めてしまう。首の後ろに手を回し、目を閉じ、より口腔の奥を貪れば、まるで俺達が愛し合っているような錯覚にすら陥った。
 その口づけの甘さに、二人の腹に挟まれた俺のペニスがひくんと反応し、我ながら自分の単純さに呆れた。

 でもそれもしょうがない。アルファの俺たちに未来はない。だがこの瞬間だけは亮太は俺のものなのだ。
 亮太にとってこの行為がただの性欲処理だったとしても、終りが見えている関係だったとしても、今だけはこのつかの間の幸せに浸ろう。

 再び抽挿を始めた亮太の下で、目の奥からこみ上げてくるものを気づかれないよう、俺は目をつむり、再び喘いだ。
 
 ◇
  
 この世界は男女の性別に加えて、アルファ・ベータ・オメガといわれる第二の性がある。人口の各5%程に現れる優位性のアルファと劣位性のオメガという性。このオメガという性は男性でも妊娠でき、三ヶ月に一度発情期ヒートが訪れる。その奇怪な性のため、同性からも性的対象として見られる反面、侮蔑対象としても見られる。なぜなら、その発情時に発されるフェロモンは、オメガ自身の性的興奮だけでなく、他者、特にアルファの性的興奮をも誘発する。そのため、性的被害者でありながら加害者として扱われることも多く、社会的弱者という位置づけであった。
 だから皆、オメガにだけはなりたくないと願うのに、俺はオメガになりたかった。オメガならば亮太と結婚できたのに。

 ◇

「颯人、そういえばお前、亮太と連絡取ってる?」

 俺が亮太とセックスをする関係になる少し前。
 少しずつ大学生活に慣れてきたある日の週末だった。
 俺は幼稚園から中学の途中までの同級生、鈴木と6年ぶりに会っていた。鈴木は俺が昔住んでいた地方の出身だった。

 互いに大学進学で上京してきて、鈴木がSNSで俺を見つけ、久しぶりに連絡をくれたのだった。
 俺はその当時の同級生とは誰も連絡を取っていなかった。
 田舎だったこともあって、当時、誰もスマホを持っていなかったし、なにより俺は亮太以外のクラスメイトの名前をほとんど覚えていなかった。
 連絡をもらってかろうじて鈴木を思い出したのは、当時、よく俺をからかってくる相手だったからだ。

 思い出を語るほど覚えているわけでもないのに、会う約束をしてしまったのは、本当に気まぐれ。わずかでも亮太につながるものを求めていたのかも知れない。
 こじらせすぎた叶わぬ初恋。
 
「え……? いや……取ってない、けど……なんで?」

 その名前を聞いて、一瞬顔が引きつったのがわかった。知りたいと思いつつ、怖さもある。

「あ? そうなんだ? 小学校時、お前らすっげー仲良かったじゃん? てっきりまだ連絡取ってるのかと思ってた。 颯人、あの頃女子よりちっちゃくて可愛くて、亮太にべったりだっただろ?」

「はは。 そ、んな……昔の話……」

 小学生時代は亮太の気を引くため、色々やらかしていた。振り返ればこっ恥ずかしい記憶しかない。
 
「まぁなぁ、まさかこんなに背が伸びてイケメンになるとはなぁ。 しかもアルファとか。 子供の時の印象なんて、わっかんねぇもんだなぁ。 てか、亮太も颯人もいいなー、モテモテで。 てか、颯人、合コンしねぇ? 女の子紹介してよ。 いや、でも、颯人の隣じゃ俺かすんじゃう?」

「いや、そんなことないけど……てか、亮太……カノジョ……できたんだ……」

 亮太と連絡を取らなくなって1年以上の月日が流れている。そりゃ、当然彼女の一人や二人くらいできているだろう。ズキンと痛む心に気づかれないようにつぶやくと、鈴木は真顔に戻って言った。
  
「え? あ、亮太? いやカノジョっていうかさ、今、あいつ東京こっちいるんだけどね。 それがこの間、大学の友達と渋谷で遊んでたんだけど、そいつ亮太の中高の同級生で。 んで、そいつが亮太を呼んだんだけどさ、あの亮太が超イケイケのヤリチンになってて、俺、すんげービビった、ってだけの話なんだけどね!!」

「亮太、こっちの大学……来てるの?」

 ふと最後に会った時の亮太の悲しそうな顔を思い出して、思わずうつむいてしまった。亮太は前を向いて楽しく過ごしているのだ。過去のことをうじうじ悩んでいるのは自分だけ。

「それが、ちげーんだって。 なんだって、あいつ! すげー、かっこよくね?」

「は? ヒ、モ?」

 ヒモの何がかっこいいのかわからないが、鈴木が興奮していた。かつての亮太からは全く結びつかない単語に戸惑う。

「イケメンしか許されないよなー! ヒモなんて! あいつ高校くらいから超荒れて、卒業も危うかったらしいよ? で、ぎりぎり卒業はできたけど、親と喧嘩して家出して。 今は住むとこないから適当にヒトの家転がり込んでるんだって!! 俺も『今度オンナとケンカしたら泊めてくれねぇ?』って聞かれたもん。 まぁアイツ昔から見た目すげぇいいじゃん? 一人じゃなくて、色んなオンナがセックスと引き換えに泊めてくれるみたいでさ。 てか、すっげえ羨ましくね!? いいなー!! 俺もそんな生活してみてぇ!! やっぱ、見た目良きゃ、人生楽勝かよっ。 あ゛―、そこまで贅沢言わねぇから、俺もカノジョ欲しー!! 颯人は? 最近どう? 大学とかで出会った?」

「いや、俺もずっといないから……」

「はぁぁぁ!? その見た目で? そんな有名大学通ってて!? 颯人なら声掛けりゃすぐ寄って来るだろ? なにそのスペック無駄にしてんだよー! ヘタレかよっ!! いや、草食系? 小学生の時の亮太にガツガツ食らいついていた肉食系のお前はどこに行ったんだよ!?」

 久しぶりにあったというのに、過去の黒歴史を気安くイジってくる鈴木。(こいつはこんなに社交的なやつだったんだな)と感心する半面、俺は亮太のことが気が気でなかった。
 その後もそれとなく亮太の話を聞き出そうとしたが、鈴木もそれ以上の情報は持っていなかった。別の同級生の話へと話題は展開していき、ある程度のところでお開きとなった。
 
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