12 / 27
第二章 二年生
12.空中回転回し蹴り
しおりを挟む
「いや……まさか、そんなはずは……」
初めてできた友を疑いたくはない。
だが吾輩はあの時この香りを嗅いだ。
ここに入れられて何時間経ったのだろう。周りの状況がわからず不安になってきた頃、監視スペースの先の扉が開き、モルゴスが現れた。パンとスープの簡単な軽食をトレーに乗せている。
ここに何日間も吾輩を留めておく気か!? と頭にきたが、食べ物を見た途端、ぐぅと吾輩の腹の虫が大きな音を立てた。そういえば、昼を食べ損ねたままだった。
「今、使用者から話を聞いていマス……あ、コレハ温かいうちにドウゾ」
モルゴスは吾輩の腹の虫を聞きつけ、仕切りの牢を開けて、テーブルに食事を置いた。吾輩は、遠慮なくそれに手を伸ばした。
「リストが見つかったということか?」
吾輩は格子越しにモルゴスに尋ねた。モルゴスは首を振った。
「幾人かの生徒ハ、持ち物検査で実物を持っていたノデ……」
「そうか、それで?」
「彼らミナ、アナタから買ったと言っています……」
「はぁぁぁぁ!? 何をたわけたことを!!!!」
吾輩の怒鳴り声にモルゴスはビクリと身体を震わせた。
テーブルの上の食器もがちゃんと音を立てる。
だからこのような物々しい牢にいれられたのだ、と合点がいった。ただの使用疑いではなく、始めから吾輩を売人だと疑っていたのだ。
誰かが……多分あやつが吾輩を嵌めようとしている。
「……デヴォールは? デヴォールはどうしている?」
モルゴスはすこしはっとすると、眉をしかめて悲しそうに言った。
「……デヴォールも罪を認めまシタ」
「認めたのか? ならば全て明らかになったんじゃないのか?」
「……デヴォールも、アナタから薬をもらって使ってしまったと……彼も退学が決まりました……」
「はぁっ!? あの男、許せんっ! とんだ食わせ者だったな!」
裏切られた悲しみ、やっぱりという諦め、様々な感情がない混ぜになる。
吾輩は、残っているパンを口の中に放り込むと、モルゴスの胸ぐらを掴み睨んだ。
なぜこの様な時にパンなどを食べているかというと、昔からの習性だ。一度戦になれば次いつ食べられるかわからない。緊迫した事態だからこそ、吾輩は無理矢理飲み込んだ。
吾輩よりも頭一つ分大きなモルゴスが視線を逸らす。そして吾輩の拳を両手でそっと包み、吾輩と視線を合わせると、悲しげに言った。
「セラ……罪を認めるのはツライかもしれないケド、ワタシがアナタを救いマス。薬ヲ抜くのも助ける。ダカラ私の手を取って……ネ? ワタシの天使……いや大王様……」
「そうじゃない!!!! 貴様の脳みそは藁でも詰まっとるのか!? 貴様の良いところは見た目だけなのか!?」
『大王様』と言われ、吾輩も大王スイッチが入ってしまった。
「モルゴス!!!! もういい!!!! どけっ!!!! 吾輩が直接デヴォールを問い詰めるっ!!!!」
「そ、ソレハ出来ません……」
モルゴスが吾輩の手を強く握り、抵抗を示した。
「貴様らは、盗まれた調査資料とリストの在り処を知りたいんだろ? 吾輩を冤罪で捕まえて、真犯人が証拠隠滅でもすれば、貴様の責任だぞ?」
モルゴスがビクリと身体を震わせ、逡巡しているのがわかった。使用者達の証言と吾輩の言葉、どちらが真実かを測りかねているのだろう。
「ここで吾輩を行かせねば、お前はもう友達ではない。もし間に合わなければ、吾輩はお前を一生許さないからな。吾輩が逃亡を心配しているのならお前がついてくれば良い」
「いや、でもそれは……いや、ダメだ! セラ! もしそうだとたら、アナタが危険に巻き込まれてしまう!!!! デヴォールのことはワタシがもう一度確認するから!」
「えぇい、うるさいっ!!!! 今更どの口が言うっ!!!!」
吾輩はモルゴスが掴んでいる手を勢いをつけて外し、その脇を抜け、バンっと格子の扉を開け放した。慌てて止めようとしたモルゴスの頭を、吾輩は空中回転回し蹴りで、540°回転し、パコーンと蹴飛ばした。
「う、うわぁぁっ!?」
足がモルゴスの頭に命中し、テーブルや食器がひっくり返った瞬間、吾輩も少しだけ正気に戻った。
(や、やってしまったーーーー!!!!)
だがもう遅い。モルゴスは武道の達人だし、ちゃんと受け身を取れていたから、大丈夫なはずっ!!!!
そう信じて吾輩は逃走した。
薬の売人という罪に加えて、友好国の王族を蹴飛ばすという罪を重ね、吾輩は走りながらもめまいがしそうだった。この牢の鍵を開けたことですら、きっとモルゴスは吾輩が話せばわかると信じていたからだろう。そして罪を認めて反省してくれると。だが、吾輩はやってもいない罪を認めるほどお人好しではない。
(すまぬ! 今生の両親よっ! 恨むなら、大王の記憶を持たせて生まれ変わらせたエヴァレインを恨め!)
先程まで愛だのなんだのと言っていたことも忘れて、エヴァレインのせいにして、冷静さを取り戻した。
デヴォールを捕まえなくては。
吾輩が始めに『ダクヴァル大王物語』を返してもらった時、生徒会室の扉の向こうから一瞬あの香りが漏れ出たではないか。
吾輩はそれを女性物の香水だと思った。自分がそこでエヴァレインと結ばれたことと結びつけて、デヴォールにも相手ができたのだと思い込んでしまった。
何たる不覚!!!!
「デヴォールめ!!!! 吾輩を欺いた罪は重いぞっ!!!!」
吾輩は、止めに来る教師や警備、生徒等を蹴散らし、疾風のごとく生徒会室へと向かった。
初めてできた友を疑いたくはない。
だが吾輩はあの時この香りを嗅いだ。
ここに入れられて何時間経ったのだろう。周りの状況がわからず不安になってきた頃、監視スペースの先の扉が開き、モルゴスが現れた。パンとスープの簡単な軽食をトレーに乗せている。
ここに何日間も吾輩を留めておく気か!? と頭にきたが、食べ物を見た途端、ぐぅと吾輩の腹の虫が大きな音を立てた。そういえば、昼を食べ損ねたままだった。
「今、使用者から話を聞いていマス……あ、コレハ温かいうちにドウゾ」
モルゴスは吾輩の腹の虫を聞きつけ、仕切りの牢を開けて、テーブルに食事を置いた。吾輩は、遠慮なくそれに手を伸ばした。
「リストが見つかったということか?」
吾輩は格子越しにモルゴスに尋ねた。モルゴスは首を振った。
「幾人かの生徒ハ、持ち物検査で実物を持っていたノデ……」
「そうか、それで?」
「彼らミナ、アナタから買ったと言っています……」
「はぁぁぁぁ!? 何をたわけたことを!!!!」
吾輩の怒鳴り声にモルゴスはビクリと身体を震わせた。
テーブルの上の食器もがちゃんと音を立てる。
だからこのような物々しい牢にいれられたのだ、と合点がいった。ただの使用疑いではなく、始めから吾輩を売人だと疑っていたのだ。
誰かが……多分あやつが吾輩を嵌めようとしている。
「……デヴォールは? デヴォールはどうしている?」
モルゴスはすこしはっとすると、眉をしかめて悲しそうに言った。
「……デヴォールも罪を認めまシタ」
「認めたのか? ならば全て明らかになったんじゃないのか?」
「……デヴォールも、アナタから薬をもらって使ってしまったと……彼も退学が決まりました……」
「はぁっ!? あの男、許せんっ! とんだ食わせ者だったな!」
裏切られた悲しみ、やっぱりという諦め、様々な感情がない混ぜになる。
吾輩は、残っているパンを口の中に放り込むと、モルゴスの胸ぐらを掴み睨んだ。
なぜこの様な時にパンなどを食べているかというと、昔からの習性だ。一度戦になれば次いつ食べられるかわからない。緊迫した事態だからこそ、吾輩は無理矢理飲み込んだ。
吾輩よりも頭一つ分大きなモルゴスが視線を逸らす。そして吾輩の拳を両手でそっと包み、吾輩と視線を合わせると、悲しげに言った。
「セラ……罪を認めるのはツライかもしれないケド、ワタシがアナタを救いマス。薬ヲ抜くのも助ける。ダカラ私の手を取って……ネ? ワタシの天使……いや大王様……」
「そうじゃない!!!! 貴様の脳みそは藁でも詰まっとるのか!? 貴様の良いところは見た目だけなのか!?」
『大王様』と言われ、吾輩も大王スイッチが入ってしまった。
「モルゴス!!!! もういい!!!! どけっ!!!! 吾輩が直接デヴォールを問い詰めるっ!!!!」
「そ、ソレハ出来ません……」
モルゴスが吾輩の手を強く握り、抵抗を示した。
「貴様らは、盗まれた調査資料とリストの在り処を知りたいんだろ? 吾輩を冤罪で捕まえて、真犯人が証拠隠滅でもすれば、貴様の責任だぞ?」
モルゴスがビクリと身体を震わせ、逡巡しているのがわかった。使用者達の証言と吾輩の言葉、どちらが真実かを測りかねているのだろう。
「ここで吾輩を行かせねば、お前はもう友達ではない。もし間に合わなければ、吾輩はお前を一生許さないからな。吾輩が逃亡を心配しているのならお前がついてくれば良い」
「いや、でもそれは……いや、ダメだ! セラ! もしそうだとたら、アナタが危険に巻き込まれてしまう!!!! デヴォールのことはワタシがもう一度確認するから!」
「えぇい、うるさいっ!!!! 今更どの口が言うっ!!!!」
吾輩はモルゴスが掴んでいる手を勢いをつけて外し、その脇を抜け、バンっと格子の扉を開け放した。慌てて止めようとしたモルゴスの頭を、吾輩は空中回転回し蹴りで、540°回転し、パコーンと蹴飛ばした。
「う、うわぁぁっ!?」
足がモルゴスの頭に命中し、テーブルや食器がひっくり返った瞬間、吾輩も少しだけ正気に戻った。
(や、やってしまったーーーー!!!!)
だがもう遅い。モルゴスは武道の達人だし、ちゃんと受け身を取れていたから、大丈夫なはずっ!!!!
そう信じて吾輩は逃走した。
薬の売人という罪に加えて、友好国の王族を蹴飛ばすという罪を重ね、吾輩は走りながらもめまいがしそうだった。この牢の鍵を開けたことですら、きっとモルゴスは吾輩が話せばわかると信じていたからだろう。そして罪を認めて反省してくれると。だが、吾輩はやってもいない罪を認めるほどお人好しではない。
(すまぬ! 今生の両親よっ! 恨むなら、大王の記憶を持たせて生まれ変わらせたエヴァレインを恨め!)
先程まで愛だのなんだのと言っていたことも忘れて、エヴァレインのせいにして、冷静さを取り戻した。
デヴォールを捕まえなくては。
吾輩が始めに『ダクヴァル大王物語』を返してもらった時、生徒会室の扉の向こうから一瞬あの香りが漏れ出たではないか。
吾輩はそれを女性物の香水だと思った。自分がそこでエヴァレインと結ばれたことと結びつけて、デヴォールにも相手ができたのだと思い込んでしまった。
何たる不覚!!!!
「デヴォールめ!!!! 吾輩を欺いた罪は重いぞっ!!!!」
吾輩は、止めに来る教師や警備、生徒等を蹴散らし、疾風のごとく生徒会室へと向かった。
113
お気に入りに追加
248
あなたにおすすめの小説
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
普通の学生だった僕に男しかいない世界は無理です。帰らせて。
かーにゅ
BL
「君は死にました」
「…はい?」
「死にました。テンプレのトラックばーんで死にました」
「…てんぷれ」
「てことで転生させます」
「どこも『てことで』じゃないと思います。…誰ですか」
BLは軽い…と思います。というかあんまりわかんないので年齢制限のどこまで攻めるか…。
美少年に転生したらヤンデレ婚約者が出来ました
SEKISUI
BL
ブラック企業に勤めていたOLが寝てそのまま永眠したら美少年に転生していた
見た目は勝ち組
中身は社畜
斜めな思考の持ち主
なのでもう働くのは嫌なので怠惰に生きようと思う
そんな主人公はやばい公爵令息に目を付けられて翻弄される
侍従でいさせて
灰鷹
BL
王弟騎士α(22才)× 地方貴族庶子Ω(18才)
※ 第12回BL大賞では、たくさんの応援をありがとうございました!
ユリウスが暮らすシャマラーン帝国では、平民のオメガは18才になると、宮廷で開かれる選定の儀に参加することが義務付けられている。王族の妾となるオメガを選ぶためのその儀式に参加し、誰にも選ばれずに売れ残ったユリウスは、オメガ嫌いと噂される第3王弟の侍従になった。
侍従として働き始めて二日目。予定より早く発情期(ヒート)がきてしまい、アルファである王弟殿下と互いに望まぬ形で番(つがい)になってしまう。主の後悔を見て取り、「これからも侍従でいさせてください」と願い出たユリウスであったが、それからまもなくして、第3王弟殿下が辺境伯令嬢の婿養子になるらしいという噂を聞く。
初心者オメガは執着アルファの腕のなか
深嶋
BL
自分がベータであることを信じて疑わずに生きてきた圭人は、見知らぬアルファに声をかけられたことがきっかけとなり、二次性の再検査をすることに。その結果、自身が本当はオメガであったと知り、愕然とする。
オメガだと判明したことで否応なく変化していく日常に圭人は戸惑い、悩み、葛藤する日々。そんな圭人の前に、「運命の番」を自称するアルファの男が再び現れて……。
オメガとして未成熟な大学生の圭人と、圭人を番にしたい社会人アルファの男が、ゆっくりと愛を深めていきます。
穏やかさに滲む執着愛。望まぬ幸運に恵まれた主人公が、悩みながらも運命の出会いに向き合っていくお話です。本編、攻め編ともに完結済。
狼領主は俺を抱いて眠りたい
明樹
BL
王都から遠く離れた辺境の地に、狼様と呼ばれる城主がいた。狼のように鋭い目つきの怖い顔で、他人が近寄ろう者なら威嚇する怖い人なのだそうだ。実際、街に買い物に来る城に仕える騎士や使用人達が「とても厳しく怖い方だ」とよく話している。そんな城主といろんな場所で出会い、ついには、なぜか城へ連れていかれる主人公のリオ。リオは一人で旅をしているのだが、それには複雑な理由があるようで…。
素敵な表紙は前作に引き続き、えか様に描いて頂いております。
兄たちが弟を可愛がりすぎです
クロユキ
BL
俺が風邪で寝ていた目が覚めたら異世界!?
メイド、王子って、俺も王子!?
おっと、俺の自己紹介忘れてた!俺の、名前は坂田春人高校二年、別世界にウィル王子の身体に入っていたんだ!兄王子に振り回されて、俺大丈夫か?!
涙脆く可愛い系に弱い春人の兄王子達に振り回され護衛騎士に迫って慌てていっもハラハラドキドキたまにはバカな事を言ったりとしている主人公春人の話を楽しんでくれたら嬉しいです。
1日の話しが長い物語です。
誤字脱字には気をつけてはいますが、余り気にしないよ~と言う方がいましたら嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる