吾輩は元大王である。

猫丸

文字の大きさ
上 下
21 / 27
第二章 二年生

10.冤罪

しおりを挟む
 ふと腹が減ったな、と思った。塀を飛び越えられなかったせいで、お昼を食べ損ねていた。
 それに昨夜散々鳴かされたせいで、朝はパン粥くらいしか食べていなかったことを思い出した。
「急げば間に合うかな」
 すると向こうからアカデミーの教師と警備員がバタバタとやってきて吾輩に言った。
「セラフィン=アステリオン、ポケットの中身を出せ!」

 吾輩はそのまま外から鍵のかかる個室へと連れて行かれた。
 吾輩が拾った物は『媚薬』だった。それも中毒性のある。
 吾輩はあの香りを思い出した。
 エヴァレインがパーティーで飲まされたのはこれだったのだ。そして、前世の死の間際にも嗅いだ香り。
 そんなことにも気づかないなんて、本当に浮かれすぎていたらしい。
 幸せボケか!? 平和ボケか!? しっかりしろ、吾輩!!
 吾輩は自分の頭をぽかぽかと叩いた。
 それでもまだ気持ちに余裕があったのは、本当にやましいことが何もないから。すぐに疑いは晴れるだろうと思っていた。
 だが入ってきた調査担当の男は言った。
「残念だけど、君の言っている女子生徒は知らないと答えているよ」
「そんなはずは……ならばもともとあの場に落ちていたんじゃないですか?」
「あの少し前に通りかかった人物は、そんなものはなかったと言っている。それに君はあの場で度々目撃されているし、君からあの媚薬独特の香りを嗅いだ人がいるんだよ。それで君の周辺を警戒してしたところだったんだよ」
「はっ? ……吾輩を警戒、だと……?」
 思わず素がでた。
「ワタシが説明しマス」
 扉が開いてモルゴスが現れた。
「モルゴスが?」
 バタバタと廊下を走る足音が扉の前で止まり、続いてエヴァレインも現れた。
「セラッ!!!! なにがあったんですか!? どうしてこんなことに!?」
「エヴァレイン。アナタにも使用疑いがアルのだから、ここへは入れません」
 扉の前で止められる。
「調査に加われないのは、貴様もだろ!? モルゴス! これは立派な内政干渉だ! レヴァナス国に抗議するぞ!」
「残念ながら、ワタシには権利がアル。ワタシは、調査員として派遣されている」
「「……は? 調査員?」」
 思わず間抜けな声が出た。留学生じゃないのか? 吾輩の正面に座る男を見るとうんうんと頷いているから、どうやら冗談ではないらしい。
 以前エヴァレインが飲まされた媚薬は、レヴァナスから密輸された物だった。それを受けて、エルドラン国とレヴァナス国の二国合同で秘密裏に調査組織が作られた。モルゴスはそのレヴァナスの代表だというのだ。
「だからなんだ! 貴様の国がちゃんと薬物の管理をしていないから、このような自体になったのだ! そもそも私は被害者で、セラは私を助けてくれた恩人で恋人だ! 我々がそんな薬なんぞを使っているわけがないだろう!?」
 いつも冷静なエヴァレインが激昂している。
「ワタシもソレヲ信じたい……ケド、最初のキッカケはなんであれ、アナタは常習性が疑われている。それにワタシの使にそれを使った疑いもアル」
「天使?」
 皆の目が吾輩に向けられた。吾輩は『天使』という言葉を否定し、首を横にふる。
 モルゴスが近づいてきて、吾輩の首元に手を伸ばした。
 吾輩はモルゴスが何をしようとしているのかわからず、ただされるがまま、じっとしていた。制服のシャツの上部を少し開けられる。
「ほら……普通コンナに痕付ける? アナタ、セラに薬飲ませてセックス強要してるでしょ?」
 吾輩の服の下は昨夜の情事のせいで、たくさんの赤い痕がついていた。鎖骨付近を見ただけで吾輩がどれだけ抱かれたのか分かる。
 吾輩は、エヴァレインはただの絶倫なのだと思っていた。本当は違うのか? 吾輩は少し不安になった。
「……エヴァ、お前、薬、抜けてなかったのか……?」
「貴方まで!! そんな訳ないでしょう!? 私は貴方のことを愛しているだけなんですっ!!」
「そ、そうだよな? ……モルゴス、濡れ衣だ! こやつはただの絶倫だ!」
 皆の前での堂々としたエヴァレインの告白に吾輩は真っ赤になったが、疑いを晴らすためにモルゴスに向かって叫んだ。
「あぁ、ワタシの天使……かわいそうに……アナタはデショ?」
 どういう意味だ? と言葉に詰まると、モルゴスは吾輩の頬をせつなそうに撫でた。
「モルゴス、はお前の天使などではない。勝手にさわるな。 それに、自分の恋人に印をつけて何が悪い? お前のように人の恋人ものを奪おうとする輩から自分の恋人を守るためのお守りだ」
 エヴァレインが怒ってモルゴスに向かって怒鳴る。
「ワタシの天使は、残念なことに異性愛者ヘテロセクシャリティだ。同性を好きになるハズがナイ。媚薬を飲ませたんダロ? かワイそうに……昨日はソノせいでセラ、禁断症状で苦しんでタ……」
「昨日……? なんのことだ?」
 吾輩は首を傾げた。
「午後の授業中、ずっと股間沈めヨウとしてイタ……」
「ち、違うっっっ!!!! それはっ!!!!」
「わかッテいる、セラ。アナタは、ワタシが守る」
 モルゴスがすべてわかっているとばかりに頷き、エヴァレインから吾輩を隠すように立ちふさがった。
 見られていたことも死ぬほど恥ずかしいのに、媚薬の禁断症状だと思われていたとは!
 吾輩、エヴァレインと仲直りできたのが嬉しかっただけで、本当に違うのだ!
「本当に違うのだーーー!!!!」
 誰にも聞き入れてもらえない叫びが虚しく室内に響き渡った。
 
しおりを挟む
感想 17

あなたにおすすめの小説

いつかコントローラーを投げ出して

せんぷう
BL
 オメガバース。世界で男女以外に、アルファ・ベータ・オメガと性別が枝分かれした世界で新たにもう一つの性が発見された。  世界的にはレアなオメガ、アルファ以上の神に選別されたと言われる特異種。  バランサー。  アルファ、ベータ、オメガになるかを自らの意思で選択でき、バランサーの状態ならどのようなフェロモンですら影響を受けない、むしろ自身のフェロモンにより周囲を調伏できる最強の性別。  これは、バランサーであることを隠した少年の少し不運で不思議な出会いの物語。  裏社会のトップにして最強のアルファ攻め  ×  最強種バランサーであることをそれとなく隠して生活する兄弟想いな受け ※オメガバース特殊設定、追加性別有り .

ある日、人気俳優の弟になりました。

雪 いつき
BL
母の再婚を期に、立花優斗は人気若手俳優、橘直柾の弟になった。顔良し性格良し真面目で穏やかで王子様のような人。そんな評判だったはずが……。 「俺の命は、君のものだよ」 初顔合わせの日、兄になる人はそう言って綺麗に笑った。とんでもない人が兄になってしまった……と思ったら、何故か大学の先輩も優斗を可愛いと言い出して……? 平凡に生きたい19歳大学生と、24歳人気若手俳優、21歳文武両道大学生の三角関係のお話。

風紀委員長様は王道転校生がお嫌い

八(八月八)
BL
※11/12 10話後半を加筆しました。  11/21 登場人物まとめを追加しました。 【第7回BL小説大賞エントリー中】 山奥にある全寮制の名門男子校鶯実学園。 この学園では、各委員会の委員長副委員長と、生徒会執行部が『役付』と呼ばれる特権を持っていた。 東海林幹春は、そんな鶯実学園の風紀委員長。 風紀委員長の名に恥じぬ様、真面目実直に、髪は七三、黒縁メガネも掛けて職務に当たっていた。 しかしある日、突如として彼の生活を脅かす転入生が現われる。 ボサボサ頭に大きなメガネ、ブカブカの制服に身を包んだ転校生は、元はシングルマザーの田舎育ち。母の再婚により理事長の親戚となり、この学園に編入してきたものの、学園の特殊な環境に慣れず、あくまでも庶民感覚で突き進もうとする。 おまけにその転校生に、生徒会執行部の面々はメロメロに!? そんな転校生がとにかく気に入らない幹春。 何を隠そう、彼こそが、中学まで、転校生を凌ぐ超極貧ド田舎生活をしてきていたから! ※11/12に10話加筆しています。

婚約破棄の甘さ〜一晩の過ちを見逃さない王子様〜

岡暁舟
恋愛
それはちょっとした遊びでした

【BL】男なのになぜかNo.1ホストに懐かれて困ってます

猫足
BL
「俺としとく? えれちゅー」 「いや、するわけないだろ!」 相川優也(25) 主人公。平凡なサラリーマンだったはずが、女友達に連れていかれた【デビルジャム】というホストクラブでスバルと出会ったのが運の尽き。 碧スバル(21) 指名ナンバーワンの美形ホスト。博愛主義者。優也に懐いてつきまとう。その真意は今のところ……不明。 「僕の方がぜってー綺麗なのに、僕以下の女に金払ってどーすんだよ」 「スバル、お前なにいってんの……?」 冗談? 本気? 二人の結末は? 美形病みホスと平凡サラリーマンの、友情か愛情かよくわからない日常。

イケメン幼馴染に執着されるSub

ひな
BL
normalだと思ってた俺がまさかの… 支配されたくない 俺がSubなんかじゃない 逃げたい 愛されたくない  こんなの俺じゃない。 (作品名が長いのでイケしゅーって略していただいてOKです。)

むしゃくしゃしてやった、後悔はしていないがやばいとは思っている

F.conoe
ファンタジー
婚約者をないがしろにしていい気になってる王子の国とかまじ終わってるよねー

俺が、恋人だから

休憩E
BL
俺の好きな人には、恋愛以外のすべてを満たす唯一無二の相手がいる。 バスケ部の絶対的エース男子高校生×家庭環境問題ありありの男子高校生の短編連作です。 エースの彼には、幼馴染でずっと一緒にバスケをしてきた絶対的に信頼しあっている相棒がいます。 『恋人』という形ではあるけれど、 彼の心の中の唯一無二は自分ではない――…みたいな切ないお話です。 続きも書けたら楽しいです。 読んでくださる方が、少しでも楽しんでくれたら嬉しいです。

処理中です...