吾輩は元大王である。

猫丸

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第二章 二年生

6.仲直り

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 エヴァレインは結局その翌日も帰ってこなくて、さすがに吾輩も頭にきた。今日こそは言いたいことを言ってやる。
 執事から頼まれた着替えと差し入れの軽食を持ち、研究棟へと乗り込んだ。
 研究棟で起きた『トラブル』がなんだったのかは知らないが、そのせいか以前来たときよりもチェックが厳しくなっていた。
 
「おいっ! エヴァっ! いい加減にしろっ! 本気で吾輩と別れるつもりか!?」
 エヴァレインの研究室の扉を開け、その姿を捉えると思わず怒りが口をついてでた。
「セラ……」
 隈がひどく、やつれたエヴァレインをみて、さすがに吾輩もびくりと身体を震わせた。そしてふらふらと吾輩の方へとにじり寄ってくる。
「そ、その……さすがにこのままではいかんと思って……。いや、だからといって、吾輩が悪いと思っているわけではなくて、だな……」
 視線をそらしながら、戸惑いがちにいう。
「わかってます。私が悪いって……」
 エヴァレインにしてはひどく弱気だった。
「いや、悪いというか、その……だな……あまり束縛とかは……」
「怖いんです……また貴方がいなくなってしまうような気がして……かつての喪失感をまた味わうのがこわくて……今生は貴方を一度手に入れてしまったから余計……あの……抱きしめてもいいですか?」
「あ、あぁ……」
 エヴァレインは吾輩を抱きしめ、肩口に頬を寄せるとそのままなにも言わなかった。
 吾輩も掛ける言葉がなくて、とりあえず抱きしめられたままソファに座った。本や書類が散らかっているエヴァレインの研究室の、その長いソファだけは毛布しか置かれていなかった。きっとエヴァレインはここで寝泊まりしていたのだろう。
 王の弟なのに。
「昔とは違うってわかっています。私も貴方も……そして彼も……」
『彼』とはモルゴスのことだろうか。
 ふと思った。吾輩が死んだ後、吾輩が治めていた国々は様々な変遷を経て今の形になったということは歴史書で見た。
 影武者であり、対外的にはダクヴァルとして動いていたレビアス。影武者が本当に大王と名乗り、吾輩はそのままレビアスが死ぬまで生きてたことにされたのだった。
 だが本当の大王であった吾輩が死んだことを知っていた側近達は、リディカントを王として新たな国を作った。それが吾輩が今いるエルドラン王国。教科書にはリディカント達が、暴君と化していくダクヴァルに反旗を翻した、となっているが二人の間に本当は何があったのだろう。
 ふと、一年生の時に読もうとした『ダクヴァル大王物語』を思い出した。あまりの気持ち悪さに、はじめだけしか読んでいないあの本。
 歴史的にみれば、反旗を翻し建国したはずのリディカントが、ただひたすらダクヴァル大王を崇拝する言葉を連ねた書物を自らの国で残したというのも奇妙な話だ。
「エヴァ……吾輩の死後、何があったんだ……?」
 返事が返ってこない。見れば吾輩に抱きつきながらエヴァレインは寝ていた。昨日もほとんど寝ていないのかもしれない。少し寝かしてあげるべきだろう。
「じゃぁ吾輩は授業に行くから」
 吾輩は眠りを妨げないように小さな声で伝え、その場を離れた。ソファに掛かっていた毛布を掛け、そっと出ていこうとすると背後からエヴァレインが吾輩を呼び止めた。
 「ま、待ってください! セラ、行かないで!」
 吾輩の体温が消えた瞬間起き上がってきたエヴァレイン。
 そこまで吾輩を思ってくれているのか、となんだか申し訳なくなった。
「授業に行くだけだ。お前が帰ってくればいつでも会える。今日からまた一緒に寝よう……」
「……お願い、します……授業が始まるギリギリまでで良いから……」
 吾輩は戸惑った。いつも強気なエヴァレインの弱った姿は、吾輩にも少しならず衝撃を与えた。
 再び『ダクヴァル大王物語』を読んでみよう。せめて吾輩が死んでから、リディカントがどう記しているのかは知っておくべきだろう。
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