6 / 27
第二章 二年生
6.仲直り
しおりを挟む
エヴァレインは結局その翌日も帰ってこなくて、さすがに吾輩も頭にきた。今日こそは言いたいことを言ってやる。
執事から頼まれた着替えと差し入れの軽食を持ち、研究棟へと乗り込んだ。
研究棟で起きた『トラブル』がなんだったのかは知らないが、そのせいか以前来たときよりもチェックが厳しくなっていた。
「おいっ! エヴァっ! いい加減にしろっ! 本気で吾輩と別れるつもりか!?」
エヴァレインの研究室の扉を開け、その姿を捉えると思わず怒りが口をついてでた。
「セラ……」
隈がひどく、やつれたエヴァレインをみて、さすがに吾輩もびくりと身体を震わせた。そしてふらふらと吾輩の方へとにじり寄ってくる。
「そ、その……さすがにこのままではいかんと思って……。いや、だからといって、吾輩が悪いと思っているわけではなくて、だな……」
視線をそらしながら、戸惑いがちにいう。
「わかってます。私が悪いって……」
エヴァレインにしてはひどく弱気だった。
「いや、悪いというか、その……だな……あまり束縛とかは……」
「怖いんです……また貴方がいなくなってしまうような気がして……かつての喪失感をまた味わうのがこわくて……今生は貴方を一度手に入れてしまったから余計……あの……抱きしめてもいいですか?」
「あ、あぁ……」
エヴァレインは吾輩を抱きしめ、肩口に頬を寄せるとそのままなにも言わなかった。
吾輩も掛ける言葉がなくて、とりあえず抱きしめられたままソファに座った。本や書類が散らかっているエヴァレインの研究室の、その長いソファだけは毛布しか置かれていなかった。きっとエヴァレインはここで寝泊まりしていたのだろう。
王の弟なのに。
「昔とは違うってわかっています。私も貴方も……そして彼も……」
『彼』とはモルゴスのことだろうか。
ふと思った。吾輩が死んだ後、吾輩が治めていた国々は様々な変遷を経て今の形になったということは歴史書で見た。
影武者であり、対外的にはダクヴァルとして動いていたレビアス。影武者が本当に大王と名乗り、吾輩はそのままレビアスが死ぬまで生きてたことにされたのだった。
だが本当の大王であった吾輩が死んだことを知っていた側近達は、リディカントを王として新たな国を作った。それが吾輩が今いるエルドラン王国。教科書にはリディカント達が、暴君と化していくダクヴァルに反旗を翻した、となっているが二人の間に本当は何があったのだろう。
ふと、一年生の時に読もうとした『ダクヴァル大王物語』を思い出した。あまりの気持ち悪さに、はじめだけしか読んでいないあの本。
歴史的にみれば、反旗を翻し建国したはずのリディカントが、ただひたすらダクヴァル大王を崇拝する言葉を連ねた書物を自らの国で残したというのも奇妙な話だ。
「エヴァ……吾輩の死後、何があったんだ……?」
返事が返ってこない。見れば吾輩に抱きつきながらエヴァレインは寝ていた。昨日もほとんど寝ていないのかもしれない。少し寝かしてあげるべきだろう。
「じゃぁ吾輩は授業に行くから」
吾輩は眠りを妨げないように小さな声で伝え、その場を離れた。ソファに掛かっていた毛布を掛け、そっと出ていこうとすると背後からエヴァレインが吾輩を呼び止めた。
「ま、待ってください! セラ、行かないで!」
吾輩の体温が消えた瞬間起き上がってきたエヴァレイン。
そこまで吾輩を思ってくれているのか、となんだか申し訳なくなった。
「授業に行くだけだ。お前が帰ってくればいつでも会える。今日からまた一緒に寝よう……」
「……お願い、します……授業が始まるギリギリまでで良いから……」
吾輩は戸惑った。いつも強気なエヴァレインの弱った姿は、吾輩にも少しならず衝撃を与えた。
再び『ダクヴァル大王物語』を読んでみよう。せめて吾輩が死んでから、リディカントがどう記しているのかは知っておくべきだろう。
執事から頼まれた着替えと差し入れの軽食を持ち、研究棟へと乗り込んだ。
研究棟で起きた『トラブル』がなんだったのかは知らないが、そのせいか以前来たときよりもチェックが厳しくなっていた。
「おいっ! エヴァっ! いい加減にしろっ! 本気で吾輩と別れるつもりか!?」
エヴァレインの研究室の扉を開け、その姿を捉えると思わず怒りが口をついてでた。
「セラ……」
隈がひどく、やつれたエヴァレインをみて、さすがに吾輩もびくりと身体を震わせた。そしてふらふらと吾輩の方へとにじり寄ってくる。
「そ、その……さすがにこのままではいかんと思って……。いや、だからといって、吾輩が悪いと思っているわけではなくて、だな……」
視線をそらしながら、戸惑いがちにいう。
「わかってます。私が悪いって……」
エヴァレインにしてはひどく弱気だった。
「いや、悪いというか、その……だな……あまり束縛とかは……」
「怖いんです……また貴方がいなくなってしまうような気がして……かつての喪失感をまた味わうのがこわくて……今生は貴方を一度手に入れてしまったから余計……あの……抱きしめてもいいですか?」
「あ、あぁ……」
エヴァレインは吾輩を抱きしめ、肩口に頬を寄せるとそのままなにも言わなかった。
吾輩も掛ける言葉がなくて、とりあえず抱きしめられたままソファに座った。本や書類が散らかっているエヴァレインの研究室の、その長いソファだけは毛布しか置かれていなかった。きっとエヴァレインはここで寝泊まりしていたのだろう。
王の弟なのに。
「昔とは違うってわかっています。私も貴方も……そして彼も……」
『彼』とはモルゴスのことだろうか。
ふと思った。吾輩が死んだ後、吾輩が治めていた国々は様々な変遷を経て今の形になったということは歴史書で見た。
影武者であり、対外的にはダクヴァルとして動いていたレビアス。影武者が本当に大王と名乗り、吾輩はそのままレビアスが死ぬまで生きてたことにされたのだった。
だが本当の大王であった吾輩が死んだことを知っていた側近達は、リディカントを王として新たな国を作った。それが吾輩が今いるエルドラン王国。教科書にはリディカント達が、暴君と化していくダクヴァルに反旗を翻した、となっているが二人の間に本当は何があったのだろう。
ふと、一年生の時に読もうとした『ダクヴァル大王物語』を思い出した。あまりの気持ち悪さに、はじめだけしか読んでいないあの本。
歴史的にみれば、反旗を翻し建国したはずのリディカントが、ただひたすらダクヴァル大王を崇拝する言葉を連ねた書物を自らの国で残したというのも奇妙な話だ。
「エヴァ……吾輩の死後、何があったんだ……?」
返事が返ってこない。見れば吾輩に抱きつきながらエヴァレインは寝ていた。昨日もほとんど寝ていないのかもしれない。少し寝かしてあげるべきだろう。
「じゃぁ吾輩は授業に行くから」
吾輩は眠りを妨げないように小さな声で伝え、その場を離れた。ソファに掛かっていた毛布を掛け、そっと出ていこうとすると背後からエヴァレインが吾輩を呼び止めた。
「ま、待ってください! セラ、行かないで!」
吾輩の体温が消えた瞬間起き上がってきたエヴァレイン。
そこまで吾輩を思ってくれているのか、となんだか申し訳なくなった。
「授業に行くだけだ。お前が帰ってくればいつでも会える。今日からまた一緒に寝よう……」
「……お願い、します……授業が始まるギリギリまでで良いから……」
吾輩は戸惑った。いつも強気なエヴァレインの弱った姿は、吾輩にも少しならず衝撃を与えた。
再び『ダクヴァル大王物語』を読んでみよう。せめて吾輩が死んでから、リディカントがどう記しているのかは知っておくべきだろう。
135
お気に入りに追加
248
あなたにおすすめの小説
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
【連載再開】絶対支配×快楽耐性ゼロすぎる受けの短編集
あかさたな!
BL
※全話おとな向けな内容です。
こちらの短編集は
絶対支配な攻めが、
快楽耐性ゼロな受けと楽しい一晩を過ごす
1話完結のハッピーエンドなお話の詰め合わせです。
不定期更新ですが、
1話ごと読切なので、サクッと楽しめるように作っていくつもりです。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
書きかけの長編が止まってますが、
短編集から久々に、肩慣らししていく予定です。
よろしくお願いします!
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
愛され末っ子
西条ネア
BL
本サイトでの感想欄は感想のみでお願いします。全ての感想に返答します。
リクエストはTwitter(@NeaSaijou)にて受付中です。また、小説のストーリーに関するアンケートもTwitterにて行います。
(お知らせは本編で行います。)
********
上園琉架(うえぞの るか)四男 理斗の双子の弟 虚弱 前髪は後々左に流し始めます。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い赤みたいなのアースアイ 後々髪の毛を肩口くらいまで伸ばしてゆるく結びます。アレルギー多め。その他の設定は各話で出てきます!
上園理斗(うえぞの りと)三男 琉架の双子の兄 琉架が心配 琉架第一&大好き 前髪は後々右に流します。髪の毛の色はご想像にお任せします。深い緑みたいなアースアイ 髪型はずっと短いままです。 琉架の元気もお母さんのお腹の中で取っちゃった、、、
上園静矢 (うえぞの せいや)長男 普通にサラッとイケメン。なんでもできちゃうマン。でも弟(特に琉架)絡むと残念。弟達溺愛。深い青色の瞳。髪の毛の色はご想像にお任せします。
上園竜葵(うえぞの りゅうき)次男 ツンデレみたいな、考えと行動が一致しないマン。でも弟達大好きで奮闘して玉砕する。弟達傷つけられたら、、、 深い青色の瞳。兄貴(静矢)と一個差 ケンカ強い でも勉強できる。料理は壊滅的
上園理玖斗(うえぞの りくと)父 息子達大好き 藍羅(あいら・妻)も愛してる 家族傷つけるやつ許さんマジ 琉架の身体が弱すぎて心配 深い緑の瞳。普通にイケメン
上園藍羅(うえぞの あいら) 母 子供達、夫大好き 母は強し、の具現化版 美人さん 息子達(特に琉架)傷つけるやつ許さんマジ。
てか普通に上園家の皆さんは顔面偏差値馬鹿高いです。
(特に琉架)の部分は家族の中で順列ができているわけではなく、特に琉架になる場面が多いという意味です。
琉架の従者
遼(はる)琉架の10歳上
理斗の従者
蘭(らん)理斗の10歳上
その他の従者は後々出します。
虚弱体質な末っ子・琉架が家族からの寵愛、溺愛を受ける物語です。
前半、BL要素少なめです。
この作品は作者の前作と違い毎日更新(予定)です。
できないな、と悟ったらこの文は消します。
※琉架はある一定の時期から体の成長(精神も若干)がなくなる設定です。詳しくはその時に補足します。
皆様にとって最高の作品になりますように。
※作者の近況状況欄は要チェックです!
西条ネア
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる