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第二章 二年生
5.友情
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お天気も良くて、今日もトビーの食堂へ向かおうと思っていた。
最近なんだか学内の雰囲気がおかしいというのも学校にいづらい理由の一つだった。学食で食べれば、妙に恋人同士の距離が近いような気がする。人前でくっつきすぎじゃないか?
はじめはモルゴスと共に留学してきた数名のレヴァナント人の影響かと思っていた。ちょっと、愛情表現が過剰になっているのかと。
だが、それにしてもこれは……。人前でおっぱじめそうな位いちゃつくやつまでいるのだ。いや、実際に人気のない校舎裏でそういったやつらを見かけたこともあった。
吾輩が欲求不満だから目に付くとか、決してそういうことではないはずだ!!
一体、今の世の倫理観はどうなっているのだ!?
デヴォール! ちゃんとやつらを取り締まれ!
学内の風紀の乱れを嘆きながら、いつものように古塀を飛び越える。
「やぁ、セラフィン。また脱走デスか?」
着地し、走り始めようとしたところで急に声をかけられ、ついつまずきそうになった。恐る恐る声のする方を見ればそこにモルゴスがいた。
「なんでここに?」
「今日こそハ、セラのお気二入リノ食堂二連れて行ってモラおうと思って待ってマシた。デヴォールは生徒会で忙しそうだし、セラはワタシのお世話係」
「いや、でも敷地抜け出すのは校則違反だから……」
「デモ、セラは抜け出してるデショ? ワタシもこの壁越えれたカラ大丈夫」
「そうだけど……」
「ワタシもこの街の食堂行ってミタイ。……それにセラ? ワタシこの間から実は腕痛イ……天使受け止めタせいカナ?」
「……わかったよ」
「脅しているワケではないから誤解シナいで?」
どこがだ! 完全なる脅しだろ?
エヴァレインと行きたいと思っていた店にモルゴスと行くことに、なんとなく罪悪感を感じたが、あの時の事を出されれば断るに断れない。(まぁ、友達だし、深い意味はないから……)と自分を納得させた。
乗り気ではなかったものの、モルゴスは見た目のいかつさに反して紳士だった。会話もスマートだし、貴族なのにトビーに対しても丁寧だった。
「セラはレヴァナスへ来たことアル?」
肉のシチューを頬張りながらモルゴスは言った。口に合ったみたいでおかわりをしている。
「ないけど……でもいつか行ってみたいな……」
それは本心だった。ぼんやりとレヴァナスの景色が脳裏に浮かんだ。
広大な平野にまるで絨毯のように一斉に咲き乱れる真っ赤な一重の花。その花々が風に揺れる。その先の地平線に灼熱の太陽がゆっくりと沈み、空も真っ赤に染まる。そして訪れる沈黙の闇。
それは前世の記憶だ。かつての我が領土から分かれた国々がどうなっているのかこの目で見たい。人々は幸せに暮らしているのだろうか?
「ゼヒ来て? 人も明るくて楽しくて陽気で良い国だよ。ズット住んでイイよ? 色々な所連れて行ってアゲる。約束……ね?」
手を握りられ、瞳を見つめられて言われれば、口説かれている様な気になる。びくりと手を引っ込め、視線を逸らした。
「レ、レヴァナスは米を食べたよね? 海鮮料理も有名だ」
「うん。この店の料理も美味しいけど、レヴァナスの料理も美味しいよ? あ、今度ワタシの屋敷に遊びに来て? 腕の良い料理人連れてキテいるんだ」
レヴァナス料理は魅力的だったが、さすがにそれはすぐに了解することはできなかった。友達の家に行くだけ、と思っていてもエヴァレインの顔がちらつく。
なんだか無性に腹が立ってきた。
(あやつが悪いのに吾輩ばかりこんなに悩まされて……!)
「モルゴスは剣術は得意?」
聞くとモルゴスの顔がぱあっと輝いた。
「大好き! セラも得意デショ?」
久しぶりに対人で剣の練習をした。
今生戦いを知らぬこの身体は、前世ほど思うようには動かないが、神経が研ぎ澄まされ、集中する感覚は楽しかった。
言葉を選ぶ必要がないのも今の吾輩にはちょうどよかった。
モルゴスはの剣術が好きというだけあって、やはり上手だ。大きな身体を巧みに操りながら、上手に避け、巧く吾輩の攻撃を受け止めていた。
「てか、腕痛いとか絶対ウソっ……!!!!」
木刀を打ち合いながら怒鳴る。
「バレましたか?」
モルゴスは笑っていた。吾輩もつられて笑顔になった。
「あれ? エヴァは?」
夕食の時、エヴァレインの姿が見えなかった。隠し事をしたくないし、誤解されたくないからモルゴスの事を話そうと思っていた。
そしてきちんと話し合いたい。今のままでは何も解決しないことをエヴァレインも分かっているはずだ。
身体を動かしたことで、最近のもやもやが少し晴れた気がする。
「研究室でトラブルが起きたらしく、遅くなるそうです」
「そうなのか……」
少しがっかりした。
「セラ様、いい加減殿下と仲直りしていただきたいのですが……」
執事は言った。屋敷の者皆が二人の様子にピリピリしている、と。
「……わかってる。きちんと話すつもりだ」
だがその日、エヴァレインは帰ってこなかった。
吾輩はますます頭にきた。去年、あんなに吾輩につきまとったくせに! 今回は絶対にあやつが悪いのに! なぜ吾輩がこんなに思いをせねばならんのだ!
最近なんだか学内の雰囲気がおかしいというのも学校にいづらい理由の一つだった。学食で食べれば、妙に恋人同士の距離が近いような気がする。人前でくっつきすぎじゃないか?
はじめはモルゴスと共に留学してきた数名のレヴァナント人の影響かと思っていた。ちょっと、愛情表現が過剰になっているのかと。
だが、それにしてもこれは……。人前でおっぱじめそうな位いちゃつくやつまでいるのだ。いや、実際に人気のない校舎裏でそういったやつらを見かけたこともあった。
吾輩が欲求不満だから目に付くとか、決してそういうことではないはずだ!!
一体、今の世の倫理観はどうなっているのだ!?
デヴォール! ちゃんとやつらを取り締まれ!
学内の風紀の乱れを嘆きながら、いつものように古塀を飛び越える。
「やぁ、セラフィン。また脱走デスか?」
着地し、走り始めようとしたところで急に声をかけられ、ついつまずきそうになった。恐る恐る声のする方を見ればそこにモルゴスがいた。
「なんでここに?」
「今日こそハ、セラのお気二入リノ食堂二連れて行ってモラおうと思って待ってマシた。デヴォールは生徒会で忙しそうだし、セラはワタシのお世話係」
「いや、でも敷地抜け出すのは校則違反だから……」
「デモ、セラは抜け出してるデショ? ワタシもこの壁越えれたカラ大丈夫」
「そうだけど……」
「ワタシもこの街の食堂行ってミタイ。……それにセラ? ワタシこの間から実は腕痛イ……天使受け止めタせいカナ?」
「……わかったよ」
「脅しているワケではないから誤解シナいで?」
どこがだ! 完全なる脅しだろ?
エヴァレインと行きたいと思っていた店にモルゴスと行くことに、なんとなく罪悪感を感じたが、あの時の事を出されれば断るに断れない。(まぁ、友達だし、深い意味はないから……)と自分を納得させた。
乗り気ではなかったものの、モルゴスは見た目のいかつさに反して紳士だった。会話もスマートだし、貴族なのにトビーに対しても丁寧だった。
「セラはレヴァナスへ来たことアル?」
肉のシチューを頬張りながらモルゴスは言った。口に合ったみたいでおかわりをしている。
「ないけど……でもいつか行ってみたいな……」
それは本心だった。ぼんやりとレヴァナスの景色が脳裏に浮かんだ。
広大な平野にまるで絨毯のように一斉に咲き乱れる真っ赤な一重の花。その花々が風に揺れる。その先の地平線に灼熱の太陽がゆっくりと沈み、空も真っ赤に染まる。そして訪れる沈黙の闇。
それは前世の記憶だ。かつての我が領土から分かれた国々がどうなっているのかこの目で見たい。人々は幸せに暮らしているのだろうか?
「ゼヒ来て? 人も明るくて楽しくて陽気で良い国だよ。ズット住んでイイよ? 色々な所連れて行ってアゲる。約束……ね?」
手を握りられ、瞳を見つめられて言われれば、口説かれている様な気になる。びくりと手を引っ込め、視線を逸らした。
「レ、レヴァナスは米を食べたよね? 海鮮料理も有名だ」
「うん。この店の料理も美味しいけど、レヴァナスの料理も美味しいよ? あ、今度ワタシの屋敷に遊びに来て? 腕の良い料理人連れてキテいるんだ」
レヴァナス料理は魅力的だったが、さすがにそれはすぐに了解することはできなかった。友達の家に行くだけ、と思っていてもエヴァレインの顔がちらつく。
なんだか無性に腹が立ってきた。
(あやつが悪いのに吾輩ばかりこんなに悩まされて……!)
「モルゴスは剣術は得意?」
聞くとモルゴスの顔がぱあっと輝いた。
「大好き! セラも得意デショ?」
久しぶりに対人で剣の練習をした。
今生戦いを知らぬこの身体は、前世ほど思うようには動かないが、神経が研ぎ澄まされ、集中する感覚は楽しかった。
言葉を選ぶ必要がないのも今の吾輩にはちょうどよかった。
モルゴスはの剣術が好きというだけあって、やはり上手だ。大きな身体を巧みに操りながら、上手に避け、巧く吾輩の攻撃を受け止めていた。
「てか、腕痛いとか絶対ウソっ……!!!!」
木刀を打ち合いながら怒鳴る。
「バレましたか?」
モルゴスは笑っていた。吾輩もつられて笑顔になった。
「あれ? エヴァは?」
夕食の時、エヴァレインの姿が見えなかった。隠し事をしたくないし、誤解されたくないからモルゴスの事を話そうと思っていた。
そしてきちんと話し合いたい。今のままでは何も解決しないことをエヴァレインも分かっているはずだ。
身体を動かしたことで、最近のもやもやが少し晴れた気がする。
「研究室でトラブルが起きたらしく、遅くなるそうです」
「そうなのか……」
少しがっかりした。
「セラ様、いい加減殿下と仲直りしていただきたいのですが……」
執事は言った。屋敷の者皆が二人の様子にピリピリしている、と。
「……わかってる。きちんと話すつもりだ」
だがその日、エヴァレインは帰ってこなかった。
吾輩はますます頭にきた。去年、あんなに吾輩につきまとったくせに! 今回は絶対にあやつが悪いのに! なぜ吾輩がこんなに思いをせねばならんのだ!
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