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最終章 再び王都へ
41.その後
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死を覚悟した、エロアとの戦い。
結果、エロアやその一派には死者もいたが、王側の人間は大怪我をしつつも皆、生きていた。生き残ったエロア派の人間も、速やかに反逆罪として粛清された。
どうして助かったのかリュカに記憶はない。
周りが言うにはマチアスがリュカを見て泣き叫び、金色の光を放ったという。
その後、どんなに魔力を出させようとしても首を傾げるばかりで出せないから、本当に奇跡なんだろう。
マチアスは、離れていた期間のせいか、ショックのせいか、その後、リュカのそばから離れようとしなかった。
だが、パトリスが言うにはマチアスの魔力が近くにあるから、リュカの回復も早いのだという。そして、マチアスに奴隷魔法が効かなかったのはリュカがかけた守護魔法が効いていたのだろう、と。
「いや、あの……マチアスはわかるにしても、皆はなんで……?」
リュカのベッドの周りに常にいる皆。
「そりゃ、リュカとマチアスがここにいるから!!」とヴァレル。
「私は孫がここから離れないから、だな。 ほら、マチアス~♡ お菓子はいるかい?」と、お菓子で釣ってマチアスを抱っこしようとするバージル。
「ぼ、僕はルーの魔力がちゃんと戻るまで、見届ける責任がある!!」とパトリス。
「俺も医者もいるから貴方はいなくていいんですよ?」とヴァレルに言われても、部屋から出ていかない。
騒動の直後は「また、ルーにもマチアスにも触れられなくなった!!」と泣き叫び、ヴァレルに「必要ないでしょ?」と冷たくあしらわれていたが、吐きながらルコルコの実を食べて、なんとか浄化したらしい。
魔力を持った時と平常時のパトリスの人格のギャップには皆、苦笑いしていて、パトリスの気が大きくなっていたら、ルコルコの実を食べさせよう、と話しているらしい。
「お、俺はマチアスに連れて来れられて……すみません……」と申し訳なさそうなノア。相変わらずマチアスはノアが大好きだ。
「ワシは、一人で酒を飲んでてもつまらんからなぁ」と、ヴェルマンド家のワインセラーから、高級ワインを持ってきて朝から飲んでいるジュルジュ。
「ジュルジュさん、アナタ息子さん家族が城下にいるじゃないですか!!そちらに行ったらいいじゃないですか!!」とパトリスがいえば、「だって、息子嫁がワシの酒をとりあげるんだもん。それにうちのばーさんにもチクるしさっ」と拗ねる。
「あははー、僕はなんか楽しそうだから!!」とギー。
「俺は銀狼と、チェスの勝負中だ」とアルシェ。朝はヴァレルや銀狼とともに、ヴェルマンドの騎士に混じって汗を流していたらしい。
「私は、王に話があってな」と盤を見つめながら言う銀狼。
「ん? ワシに話? なんだ?」とフレデリック王。
「「「「「てか、陛下っ!? 貴方が一番、なんでここにいるんですかっっっ!?」」」」」
皆の声が揃う。
リュカの寝室に並べられた陛下用のベッド。フレデリック王はリュカ以上に重症だったものの、なんとかその一命を取り留めた。ずっとエロアに盛られていた毒も、ルコルコの実の生薬を飲んで排出した。
独身のフレデリック王には、子供がいない。今回の一件で、急ぎ後継者を選定するよう、バージルや大臣らも大忙しらしい。「ヴァレルはどうだ?」というフレデリック王の提案を、ヴァレルもバージルも却下し続けているという。
大規模に破損した王宮の建物は、現在急ぎ修復中で、別荘で治療するかと思われたフレデリック王は、王宮医を引き連れてヴェルマンドの屋敷へ現れた。王曰く「ここが一番安心」だと言う。それもあって、どんなに否定しても「次の王はヴェルマンドから出る」という噂が消えない。
「しかも、リュカとマチアスの近くだと治りが早いんだろ?」と、周りの心労を無視して言っている。
「さて、フレデリック王よ。 我々は長くどこの国にも所属せず遊牧してきたが、それをやめ、できることなら貴殿の国民になりたいと思っている。 その相談だ」
銀狼が、改まってフレデリック王に話しかける。
「貴殿らだったら大歓迎だ。 金狼の娘の件は、知らなかったとはいえ、申し訳ないことをした……」
銀狼がちらりとリュカを見た。
「その件だが、リュカ。 お前はエロアの子供ではないと思うぞ」
「え……?」
エロアの子供だということは、騒動の後もリュカの心に棘のように突き刺さっていた。妄執のような一方的な思い込み。自分もああなってしまったらどうしようという恐怖。体内を流れている血ですら汚らわしいもののように感じた。ヴァレルは「リュカとエロアは別の人間だから関係ない」と言ってはくれるが、自分に対する嫌悪感は拭えなかった。
「金狼の娘は誘拐された時、すでに妊娠していたはずだ。 金狼の娘は王国の男と駆け落ちしたんだが『その娘がいなくなった』と、男が我々のところへ来たことがある。『一族の元へに戻ってきていないか』とな。 その男の話では娘は妊娠初期だと言っていた。 その時の子が流れてないのなら、時期的にはお前だと思う。 といっても、真偽の程は知らんがな。 気になるならエロアの記録を調べてみればわかるかもしれん」
「……ありがとうございます」
◇
「さて、帰るとするか」
ヴェルマンドの町屋敷の前。来た時の荷馬車は王宮の大広間で大破して、フレデリック王に新しいものを買ってもらったジュルジュ。
荷台には、パトリスとノアと銀狼が乗っていた。新しいルー族の村は、ルコス村の近くに作るらしい。
「パトリスさん、本当に良かったんですか?」
リュカが尋ねる。エロアが亡くなり、パトリスが生きていることがわかったのだ。エティエンヌの当主はパトリスになる。
だが、パトリスはエティエンヌの名前を国に返上し、財産もすべて国に寄贈した。
先代達が様々な魔術を施した屋敷は、魔塔の研究対象となっている。
「いいよ。 僕にエティエンヌの名は元々重かったんだ。 それに、僕がバヤールに戻らなかったら、ルーから教わった湿布薬を、ジョルジュさんの奥さんに作る人がいなくなっちゃうだろ?」
少し寂しそうに言うパトリスの背中を、ジョルジュがどんっと叩く。
「そうだ!! それでこそワシが拾ってきた男!! さぼっていた分もばんばん働けよ!?」
「そういうお義父さんも、お義母さんが『北に行ったはずが、気がつきゃ王都で遊び呆けて!! 帰ってきたらこき使ってやる!!』っておっしゃってましたよ?」と門の外から見知らぬ家族が声をかけてきた。
「ひぃ!! お前たち!! なんでここに!?」と驚くジョルジュ。
「そりゃ、親父がいつまでも帰ってこないから、おふくろから頼まれたんだよ。 さっさとバヤールに帰せって」
「へ、陛下!!!! すまんが、この荷馬車にサインを貰えんかのう? うちのばーさんを黙らせるにはもはやこの手しか……」
「ひっ!! へ、へ、へ陛下っ!!!! 親父っ!! 陛下になんてこと頼んでんだよっ!!」
ジョルジュの息子はひたすら平伏しながら、ジョルジュの背中をバシバシ叩いた。
車椅子に座っていたフレデリック王は、笑いながら筆とインクを持ってこさせ、荷馬車に大きく書いた。
『ジョルジュがこの国を救った証としてこの荷馬車を贈る。 彼は最も優秀な騎士の一人である。 フレデリック王』
「おぉ!! ありがてぇ!! ありがてぇ!! これでうちのばーさんも大人しくなるわ!! それに俺も立派な騎士になれたって、親父とおふくろの墓に見せにいかなきゃなんねぇな!! いかなきゃなんねぇ!! ……が、ちょっとまて、陛下っ!! こんなデカデカとかかれたら、野菜を運びずれぇ!!!!」
「お、親父っ!!!! いいかげんにしろよっ!!!! へ、陛下申し訳ありません!!!!」
「はは、たしかにそれもそうだ。 もう一つ新しいのをバヤールに届けさせるよ」
王直筆のサイン入りの馬車に乗って、4人は去っていった。
「今度バヤールに来た時は、温泉つかってけよ!!」「ルコス村にも遊びに来てね!!」と、言い残して。
◇
皆それぞれの場所へ帰って、日常が戻ってくる。
リュカにとっては、今までとは違う日常。「魔塔に戻ってこないか」とフレデリック王からは誘われているが、しばらく休んでから考えることにした。
ケイスの絵はすべて消失してしまい、浮かび上がった最後の魔法陣についてはリュカの記憶の中のみ。だがその記憶も怪しい。ただ覚えているのは、血まみれの絵の中に星が見えたということだけ。
本当にケイスが隠していた魔法陣だったのかも、全ては不明なまま。
ふとお話を思い出す。あの絵本の二人は悪い魔法使いから逃げてどこへ行ったのだろう。ちゃんと自分のように幸せになれただろうか。
そんなことを考えながら、窓から星を眺めていたリュカを、ヴァレルが声を潜めて呼んだ。
「リュカ。 マチアス寝たみたい。 リュカも風邪引くといけないからこっちにおいで」
振り返るとヴァレルの腕の中にはすやすやと眠るマチアス。首元には4人おそろいの4つの石のネックレスがある。
隣に潜り込むと、大きな腕に抱かれた。リュカを包み込む二人分の体温。リュカも抱きしめ返す。
「やっと、手に入れた……」
マチアスの頭上で、ヴァレルの唇がリュカの唇に重なった。
思わずこぼれ落ちる涙。見るとヴァレルの目も潤んでいた。
「ヴァレル、僕を諦めないでくれてありがとう……」
今度はリュカの方から、唇を重ねた。
空には北極星がいつもより一際明るく輝いていた。
≪北極星に手を伸ばす 完≫
最後までお読みいただきましてありがとうございました!!!!
18:40に投稿予約してある、あとがきと最終章のまとめに、いただいたFAもアップしております。
素敵な作品ですので、ぜひそちらもご覧いただけると嬉しいです♡
結果、エロアやその一派には死者もいたが、王側の人間は大怪我をしつつも皆、生きていた。生き残ったエロア派の人間も、速やかに反逆罪として粛清された。
どうして助かったのかリュカに記憶はない。
周りが言うにはマチアスがリュカを見て泣き叫び、金色の光を放ったという。
その後、どんなに魔力を出させようとしても首を傾げるばかりで出せないから、本当に奇跡なんだろう。
マチアスは、離れていた期間のせいか、ショックのせいか、その後、リュカのそばから離れようとしなかった。
だが、パトリスが言うにはマチアスの魔力が近くにあるから、リュカの回復も早いのだという。そして、マチアスに奴隷魔法が効かなかったのはリュカがかけた守護魔法が効いていたのだろう、と。
「いや、あの……マチアスはわかるにしても、皆はなんで……?」
リュカのベッドの周りに常にいる皆。
「そりゃ、リュカとマチアスがここにいるから!!」とヴァレル。
「私は孫がここから離れないから、だな。 ほら、マチアス~♡ お菓子はいるかい?」と、お菓子で釣ってマチアスを抱っこしようとするバージル。
「ぼ、僕はルーの魔力がちゃんと戻るまで、見届ける責任がある!!」とパトリス。
「俺も医者もいるから貴方はいなくていいんですよ?」とヴァレルに言われても、部屋から出ていかない。
騒動の直後は「また、ルーにもマチアスにも触れられなくなった!!」と泣き叫び、ヴァレルに「必要ないでしょ?」と冷たくあしらわれていたが、吐きながらルコルコの実を食べて、なんとか浄化したらしい。
魔力を持った時と平常時のパトリスの人格のギャップには皆、苦笑いしていて、パトリスの気が大きくなっていたら、ルコルコの実を食べさせよう、と話しているらしい。
「お、俺はマチアスに連れて来れられて……すみません……」と申し訳なさそうなノア。相変わらずマチアスはノアが大好きだ。
「ワシは、一人で酒を飲んでてもつまらんからなぁ」と、ヴェルマンド家のワインセラーから、高級ワインを持ってきて朝から飲んでいるジュルジュ。
「ジュルジュさん、アナタ息子さん家族が城下にいるじゃないですか!!そちらに行ったらいいじゃないですか!!」とパトリスがいえば、「だって、息子嫁がワシの酒をとりあげるんだもん。それにうちのばーさんにもチクるしさっ」と拗ねる。
「あははー、僕はなんか楽しそうだから!!」とギー。
「俺は銀狼と、チェスの勝負中だ」とアルシェ。朝はヴァレルや銀狼とともに、ヴェルマンドの騎士に混じって汗を流していたらしい。
「私は、王に話があってな」と盤を見つめながら言う銀狼。
「ん? ワシに話? なんだ?」とフレデリック王。
「「「「「てか、陛下っ!? 貴方が一番、なんでここにいるんですかっっっ!?」」」」」
皆の声が揃う。
リュカの寝室に並べられた陛下用のベッド。フレデリック王はリュカ以上に重症だったものの、なんとかその一命を取り留めた。ずっとエロアに盛られていた毒も、ルコルコの実の生薬を飲んで排出した。
独身のフレデリック王には、子供がいない。今回の一件で、急ぎ後継者を選定するよう、バージルや大臣らも大忙しらしい。「ヴァレルはどうだ?」というフレデリック王の提案を、ヴァレルもバージルも却下し続けているという。
大規模に破損した王宮の建物は、現在急ぎ修復中で、別荘で治療するかと思われたフレデリック王は、王宮医を引き連れてヴェルマンドの屋敷へ現れた。王曰く「ここが一番安心」だと言う。それもあって、どんなに否定しても「次の王はヴェルマンドから出る」という噂が消えない。
「しかも、リュカとマチアスの近くだと治りが早いんだろ?」と、周りの心労を無視して言っている。
「さて、フレデリック王よ。 我々は長くどこの国にも所属せず遊牧してきたが、それをやめ、できることなら貴殿の国民になりたいと思っている。 その相談だ」
銀狼が、改まってフレデリック王に話しかける。
「貴殿らだったら大歓迎だ。 金狼の娘の件は、知らなかったとはいえ、申し訳ないことをした……」
銀狼がちらりとリュカを見た。
「その件だが、リュカ。 お前はエロアの子供ではないと思うぞ」
「え……?」
エロアの子供だということは、騒動の後もリュカの心に棘のように突き刺さっていた。妄執のような一方的な思い込み。自分もああなってしまったらどうしようという恐怖。体内を流れている血ですら汚らわしいもののように感じた。ヴァレルは「リュカとエロアは別の人間だから関係ない」と言ってはくれるが、自分に対する嫌悪感は拭えなかった。
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「さて、帰るとするか」
ヴェルマンドの町屋敷の前。来た時の荷馬車は王宮の大広間で大破して、フレデリック王に新しいものを買ってもらったジュルジュ。
荷台には、パトリスとノアと銀狼が乗っていた。新しいルー族の村は、ルコス村の近くに作るらしい。
「パトリスさん、本当に良かったんですか?」
リュカが尋ねる。エロアが亡くなり、パトリスが生きていることがわかったのだ。エティエンヌの当主はパトリスになる。
だが、パトリスはエティエンヌの名前を国に返上し、財産もすべて国に寄贈した。
先代達が様々な魔術を施した屋敷は、魔塔の研究対象となっている。
「いいよ。 僕にエティエンヌの名は元々重かったんだ。 それに、僕がバヤールに戻らなかったら、ルーから教わった湿布薬を、ジョルジュさんの奥さんに作る人がいなくなっちゃうだろ?」
少し寂しそうに言うパトリスの背中を、ジョルジュがどんっと叩く。
「そうだ!! それでこそワシが拾ってきた男!! さぼっていた分もばんばん働けよ!?」
「そういうお義父さんも、お義母さんが『北に行ったはずが、気がつきゃ王都で遊び呆けて!! 帰ってきたらこき使ってやる!!』っておっしゃってましたよ?」と門の外から見知らぬ家族が声をかけてきた。
「ひぃ!! お前たち!! なんでここに!?」と驚くジョルジュ。
「そりゃ、親父がいつまでも帰ってこないから、おふくろから頼まれたんだよ。 さっさとバヤールに帰せって」
「へ、陛下!!!! すまんが、この荷馬車にサインを貰えんかのう? うちのばーさんを黙らせるにはもはやこの手しか……」
「ひっ!! へ、へ、へ陛下っ!!!! 親父っ!! 陛下になんてこと頼んでんだよっ!!」
ジョルジュの息子はひたすら平伏しながら、ジョルジュの背中をバシバシ叩いた。
車椅子に座っていたフレデリック王は、笑いながら筆とインクを持ってこさせ、荷馬車に大きく書いた。
『ジョルジュがこの国を救った証としてこの荷馬車を贈る。 彼は最も優秀な騎士の一人である。 フレデリック王』
「おぉ!! ありがてぇ!! ありがてぇ!! これでうちのばーさんも大人しくなるわ!! それに俺も立派な騎士になれたって、親父とおふくろの墓に見せにいかなきゃなんねぇな!! いかなきゃなんねぇ!! ……が、ちょっとまて、陛下っ!! こんなデカデカとかかれたら、野菜を運びずれぇ!!!!」
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王直筆のサイン入りの馬車に乗って、4人は去っていった。
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◇
皆それぞれの場所へ帰って、日常が戻ってくる。
リュカにとっては、今までとは違う日常。「魔塔に戻ってこないか」とフレデリック王からは誘われているが、しばらく休んでから考えることにした。
ケイスの絵はすべて消失してしまい、浮かび上がった最後の魔法陣についてはリュカの記憶の中のみ。だがその記憶も怪しい。ただ覚えているのは、血まみれの絵の中に星が見えたということだけ。
本当にケイスが隠していた魔法陣だったのかも、全ては不明なまま。
ふとお話を思い出す。あの絵本の二人は悪い魔法使いから逃げてどこへ行ったのだろう。ちゃんと自分のように幸せになれただろうか。
そんなことを考えながら、窓から星を眺めていたリュカを、ヴァレルが声を潜めて呼んだ。
「リュカ。 マチアス寝たみたい。 リュカも風邪引くといけないからこっちにおいで」
振り返るとヴァレルの腕の中にはすやすやと眠るマチアス。首元には4人おそろいの4つの石のネックレスがある。
隣に潜り込むと、大きな腕に抱かれた。リュカを包み込む二人分の体温。リュカも抱きしめ返す。
「やっと、手に入れた……」
マチアスの頭上で、ヴァレルの唇がリュカの唇に重なった。
思わずこぼれ落ちる涙。見るとヴァレルの目も潤んでいた。
「ヴァレル、僕を諦めないでくれてありがとう……」
今度はリュカの方から、唇を重ねた。
空には北極星がいつもより一際明るく輝いていた。
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