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最終章 再び王都へ
37.王都の状況
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急いでも半月かかる道のりを、二人は一週間で走った。
途中馬を乗り換え、食事はリュカの固形ポーションを馬上で食べる。
目的地は王都パライソだった。
パライソに着くと一目散に逃げる町民たちとすれ違う。町を守る第三騎士団の姿はあまり見かけなかった。
街中を狂った緑猪が走り回っていた。それをヴァレルが的確に頭蓋骨を叩き割り、仕留めていく。人々が走ってくる先にたどり着くと、火熊と剣を構えたアルシェが対峙していた。
「なんでこんなところに火熊が……」
興奮してはいるものの、凶暴化しているようには見えなかった。
火熊に気づかれないように、ヴァレルは背後からじりじりと距離を詰めていく。アルシェもヴァレルの姿を確認し、頷いた。何年も一緒に魔獣討伐をしてきたのだ。言わなくてもわかるものがあるのだろう。そして、火熊がアルシェへの攻撃体勢に入ろうとした瞬間、ヴァレルの剣が火熊の喉元を切りつけた。
◇
「……すまん……」
アルシェが言うには、マチアスはリュカが出発してすぐ、はじめこそぐずったものの、ずっとがんばって良い子でいたらしい。
だが出発して約1週間後、護衛についた兵士がバヤールに戻ってきて、魔獣に襲われたと騒いだ。
「考えてみれば、護衛のやつが無傷っていうのもおかしな話だったんだけど、その時は慌ててたから、現場に向かうことしか考えてなくて……」
アルシェも背後から襲われ、その隙にマチアスが攫われたという。慌てて追いかけたが魔獣に足止めされたりして、追いつけなかったという。
「さっきの火熊もだけど、ルコス村の森で見てきた狂った魔獣とは違う感じで、明らかに俺を狙って攻撃してくるんだ。 誰かに操られているみたいに……」
リュカとヴァレルは顔を見合わせた。二人共頭に浮かんでいるのは、森で見たパトリスの姿だった。
アルシェに、魔獣を操る魔法があるということ、支援物資の箱がルコルコの木でできていたことを説明する。
「くそっ、道理で!! なんの被害もないバヤールになんで届いたのか不思議だったんだ!! 魔獣に襲わせて、その隙にマチアスを攫う予定だったんだ!! それが、予定が狂ったから俺をおびき出したのか!!」
アルシェはまだ治り切っていないであろう包帯を巻いた右腕でどんっと机を叩いた。
「すまん…… 多分、マチアスはエロアの屋敷だ……」
薄々予想していた名前がでて、リュカはぎゅっと目をつむった。
◇
アルシェのアパートは既に解約されていて、3人でヴェルマンドのタウンハウスに向かう。すぐにでもエロアの屋敷に行きたかったが、ただリュカが捕まるだけだと説得された。
玄関ホールで執事に伝えると、中途半端に鎧をつけたままのバージルが慌てて出てきた。
「リュカ!? ……ヴァレルまで……」
聞けば、王都の兵士は魔物討伐で各地へ散らばっていて、兵士が足りず、バージルも王都に侵入した魔獣討伐に駆り出されているのだという。
「二人の子供が!? ……なんでそんなことに……」
4人で食事をしながら、バージルに事情を説明する。当然食事なんて喉を通るはずもない。
「リュカ。 戦う前に倒れちゃうから、無理にでも食べて」
ヴァレルが、リュカの前に置かれた肉を小さく切って渡してきた。
何度も咀嚼をして無理に飲み込むが、ただ、不快な食感と血の味しかしない。
「あ、もしかして……?」
食事の途中だと言うのに、バージルが立ち上がって部屋を出ていった。そして持ってきたのは紐の切れた青黒白の石がついたネックレス。
「どうしてこれを……?」
「今日、陛下に魔獣の被害状況を報告に行った帰り、回廊でエロアとイニャスが連れていた黒髪の子が落としていったんだ。 一応声をかけてはみたが、エロアに『知らん』と言われて……だが妙に気になって……そうか、あの子が私の孫……あぁ、なんてことだ。 イニャスがエロアの後ろにいた時から嫌な予感はしていたが、あいつはまだ私を恨んでいるんだな……私の孫にまで……くそっ!!」
「イニャスとお知り合いなんですか!?」
アルシェが反応する。イニャスは、バヤールからルコス村への移動で護衛についていた兵士の名前だった。
「イニャスは、ヴァレルが生まれるまで、ヴェルマンドの後継者に予定していた人物なんだ……」
当時子供のいなかったヴェルマンド夫妻は、親戚の子を後継者にする予定にしていた。
それは正式に決まったわけではなかったが、騎士としてある程度腕に覚えがあり、なおかつ血筋を重視する名門の中で、誰もが納得する妥当な選択だった。
だがヴァレルが生まれ、その地位が宙に浮いた。しかもイニャスはヴェルマンドの名を使い、権力を傘に女性への暴行や、ギャンブルやらの問題行動を起こしていた。それが発覚し、破門する方向で動いていた時に、ちょうどヴァレルが火熊で大怪我を負った。万が一のために、ヴァレルのスペアとして残し、更生させるという意見も出ていたのだが、それをバージルが無理矢理破門にしたのだという。
「くそっ、知っていれば!! ……道理で平民の兵士にしては、太刀筋が綺麗だと思っていたんだ!!」
アルシェが悔しがるが、もはやどうしようもない。
「だが、あの子なら多分、明日エロアが王宮に連れてくるはずだ。 こんな状況下だと言うのに、パーティが開かれる。 その場でエティエンヌの後継者をお披露目すると言ってたから……パーティに紛れてうまく連れ出せれば……」
「明日……」
ごくりとつばを飲んだ。
マチアスを取り返すだけじゃない。リュカの最後の戦いが迫っているのをひしひしと感じた。
途中馬を乗り換え、食事はリュカの固形ポーションを馬上で食べる。
目的地は王都パライソだった。
パライソに着くと一目散に逃げる町民たちとすれ違う。町を守る第三騎士団の姿はあまり見かけなかった。
街中を狂った緑猪が走り回っていた。それをヴァレルが的確に頭蓋骨を叩き割り、仕留めていく。人々が走ってくる先にたどり着くと、火熊と剣を構えたアルシェが対峙していた。
「なんでこんなところに火熊が……」
興奮してはいるものの、凶暴化しているようには見えなかった。
火熊に気づかれないように、ヴァレルは背後からじりじりと距離を詰めていく。アルシェもヴァレルの姿を確認し、頷いた。何年も一緒に魔獣討伐をしてきたのだ。言わなくてもわかるものがあるのだろう。そして、火熊がアルシェへの攻撃体勢に入ろうとした瞬間、ヴァレルの剣が火熊の喉元を切りつけた。
◇
「……すまん……」
アルシェが言うには、マチアスはリュカが出発してすぐ、はじめこそぐずったものの、ずっとがんばって良い子でいたらしい。
だが出発して約1週間後、護衛についた兵士がバヤールに戻ってきて、魔獣に襲われたと騒いだ。
「考えてみれば、護衛のやつが無傷っていうのもおかしな話だったんだけど、その時は慌ててたから、現場に向かうことしか考えてなくて……」
アルシェも背後から襲われ、その隙にマチアスが攫われたという。慌てて追いかけたが魔獣に足止めされたりして、追いつけなかったという。
「さっきの火熊もだけど、ルコス村の森で見てきた狂った魔獣とは違う感じで、明らかに俺を狙って攻撃してくるんだ。 誰かに操られているみたいに……」
リュカとヴァレルは顔を見合わせた。二人共頭に浮かんでいるのは、森で見たパトリスの姿だった。
アルシェに、魔獣を操る魔法があるということ、支援物資の箱がルコルコの木でできていたことを説明する。
「くそっ、道理で!! なんの被害もないバヤールになんで届いたのか不思議だったんだ!! 魔獣に襲わせて、その隙にマチアスを攫う予定だったんだ!! それが、予定が狂ったから俺をおびき出したのか!!」
アルシェはまだ治り切っていないであろう包帯を巻いた右腕でどんっと机を叩いた。
「すまん…… 多分、マチアスはエロアの屋敷だ……」
薄々予想していた名前がでて、リュカはぎゅっと目をつむった。
◇
アルシェのアパートは既に解約されていて、3人でヴェルマンドのタウンハウスに向かう。すぐにでもエロアの屋敷に行きたかったが、ただリュカが捕まるだけだと説得された。
玄関ホールで執事に伝えると、中途半端に鎧をつけたままのバージルが慌てて出てきた。
「リュカ!? ……ヴァレルまで……」
聞けば、王都の兵士は魔物討伐で各地へ散らばっていて、兵士が足りず、バージルも王都に侵入した魔獣討伐に駆り出されているのだという。
「二人の子供が!? ……なんでそんなことに……」
4人で食事をしながら、バージルに事情を説明する。当然食事なんて喉を通るはずもない。
「リュカ。 戦う前に倒れちゃうから、無理にでも食べて」
ヴァレルが、リュカの前に置かれた肉を小さく切って渡してきた。
何度も咀嚼をして無理に飲み込むが、ただ、不快な食感と血の味しかしない。
「あ、もしかして……?」
食事の途中だと言うのに、バージルが立ち上がって部屋を出ていった。そして持ってきたのは紐の切れた青黒白の石がついたネックレス。
「どうしてこれを……?」
「今日、陛下に魔獣の被害状況を報告に行った帰り、回廊でエロアとイニャスが連れていた黒髪の子が落としていったんだ。 一応声をかけてはみたが、エロアに『知らん』と言われて……だが妙に気になって……そうか、あの子が私の孫……あぁ、なんてことだ。 イニャスがエロアの後ろにいた時から嫌な予感はしていたが、あいつはまだ私を恨んでいるんだな……私の孫にまで……くそっ!!」
「イニャスとお知り合いなんですか!?」
アルシェが反応する。イニャスは、バヤールからルコス村への移動で護衛についていた兵士の名前だった。
「イニャスは、ヴァレルが生まれるまで、ヴェルマンドの後継者に予定していた人物なんだ……」
当時子供のいなかったヴェルマンド夫妻は、親戚の子を後継者にする予定にしていた。
それは正式に決まったわけではなかったが、騎士としてある程度腕に覚えがあり、なおかつ血筋を重視する名門の中で、誰もが納得する妥当な選択だった。
だがヴァレルが生まれ、その地位が宙に浮いた。しかもイニャスはヴェルマンドの名を使い、権力を傘に女性への暴行や、ギャンブルやらの問題行動を起こしていた。それが発覚し、破門する方向で動いていた時に、ちょうどヴァレルが火熊で大怪我を負った。万が一のために、ヴァレルのスペアとして残し、更生させるという意見も出ていたのだが、それをバージルが無理矢理破門にしたのだという。
「くそっ、知っていれば!! ……道理で平民の兵士にしては、太刀筋が綺麗だと思っていたんだ!!」
アルシェが悔しがるが、もはやどうしようもない。
「だが、あの子なら多分、明日エロアが王宮に連れてくるはずだ。 こんな状況下だと言うのに、パーティが開かれる。 その場でエティエンヌの後継者をお披露目すると言ってたから……パーティに紛れてうまく連れ出せれば……」
「明日……」
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