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第一章 王都パライソにて
12.自由
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魔道具の子宮が定着し、少し寝られるようになって来たことで、図らずも身体は少し楽になった。
少しずつ食事ものどを通るようになり、考える余裕も生まれた。
この部屋に入れられた時は、エロアの長兄のように、養分となり枯れ木のように死んでいくのだと思っていた。
だがどうやらエロアは、リュカに子供を産ませようとしているらしい。
それは、純粋にエティエンヌの跡取りとして子供がほしいのか、リュカのように魔力を得るための養分として産ませたいのかは分からない。
だがリュカはエロアの子供など、当然産みたくもない。例え子供が出来たとして、その子を愛せるかわからないし、自分のような哀れな子供をこれ以上作りたくはなかった。
そもそもリュカには親というものがよくわからなかった。
親と言われて思い出すのは、ヴァレルが生まれる前のヴェルマンド夫妻だけ。口数が少なくいつも忙しそうな養父に、時折リュカをお茶に呼ぶ病弱だけれど優しい養母。それでもリュカにとっては大切な人たちだったし、養母が亡くなった時はとても悲しかった。
でも思い起こしてみても、どんなときも一番大切なのはヴァレルしかいなかった。
◇
近頃のエロアは仕事が忙しいらしく、あまり屋敷に帰ってきていなかった。帰ってきても、終始イライラしていた。
そうかと思うと、じっとリュカを見て、「ありえん」とぶつぶつ言いながら頭を振った。リュカの魔力封じの手錠を何度も確認し、子宮の状態を見ていく。
だが先日、リュカの体内の振動が収まったのを見て、子宮の定着を確信し、安堵の表情を浮かべた。
「そろそろ平気そうだな」というつぶやきをリュカは聞き逃さなかった。
その日は思ったよりすぐにやってきた。
リュカが屋敷に監禁されてからどれだけの時間が経過したのか分からない。通常子宮の魔道具が定着するのには約2~3週間程度かかると言われている。その間、母体の魔力の放出は控えなければならないため、リュカはずっと魔力封じの手錠をされていた。
つまり、今まで1ヶ月に数回行われていた魔力供給が、あの時以来行われていなかったことを意味する。
エロアは魔力の枯渇が耐えられなくなったのだろう。もともとエロアは人より魔力量が多い方ではなかったはずだ。ただ研究熱心なだけの魔法師だった。
師団長まで登りつめたのも、長兄やリュカの魔力を使って増やしていたに過ぎない。
疲労がエロアの警戒心を鈍らせたのか。子宮が定着したことに油断したのか。その日仕事を終えて帰ってきたエロアは、魔力封じの手錠を外し、嬉々としてリュカの体内にペニスを挿入し、背中に歯を立てた。
「くっ……」
久しぶりに背中に傷をつけられ、流れる血。浮かび上がる魔法陣。そして移動し始める魔力。
リュカは魔力の放出を強くイメージする。自らの持つ魔力を思い切りエロアに流れ込ませる。
魔力封じの手錠を付けられ、一切魔力の放出をしてこなかったリュカの身体は魔力に満ちていた。
しかも皮膚接触でなく、粘膜接触。性行為をしながらの魔力供給は通常よりも流れが早い。
始めエロアは気が付いていなかった。
身体の中に流れ込んでくる魔力にご機嫌の様子だった。だが途中から顔色が変わる。
リュカの策略には気づいていない。
畳みかけるように早く大量に。あの時魔獣を倒したときのように。
急激な魔力の減少に、視界が白くぼやけた。だがこのままエロアに飼い殺しにされるくらいなら、ここで死んでもかまわない。
「す、すまんが、今日は体調が悪いようだ……」
「大丈夫ですか? お部屋で休まれては?」
リュカは笑みをこらえ、神妙な顔を作った。エロアは確実に魔力酔いを起こしていた。枯渇しかけていたところに、他人の魔力が急に、しかも大量に入ってきたのだ。
きっとめまいと吐き気で今、なにが起きているのかわかっていないだろう。
エロアの部屋へと続く扉を開かせる。そして肩を貸し連れ添うリュカ。リュカ自身も魔力の放出でフラフラだった。だがここで諦める訳にはいかない。
定着したばかりの子宮に負荷がかかったのだろうか。後孔から血が流れていた。下腹部がひどく痛い。その血が内股を濡らし、床を汚した。
少しめまいがしたが、リュカは(ざまぁ見ろ)と思った。こんなものこのまま流れてしまえばいい。
エロアの遺伝子も、リュカの遺伝子もいらない。
ベッドにエロアを寝かし、「メイドを呼んできますね」と耳元でささやくと、自らの部屋から持ってきていたシーツを広げた。そこにはチェイスから教わった追跡阻害魔法が途中まで描かれていた。
奴隷魔法ですら追跡できなくする禁忌の魔法。その最後の記号を自らの血で書き込み、なけなしの魔力を加える。
屋敷のものにも気づかれないように、更に認識阻害魔法を繰り出した。
生きたいと願っていた。だがこのまま死んでしまうなら、それでも良いとすら思っていた。それくらいの覚悟が出来ていた。
そしてリュカは一筋の可能性に賭けた。
エロアと一緒であればリュカが監禁されている部屋を出入りできることは、メイドの行動からわかった。
そして、エロアの部屋から廊下へと続くドアには、リュカを閉じ込めておくための魔法はかかっていなかった。ここは確認する方法はなかったから一か八かの掛けだった。リュカは賭けに勝ったのだ。
誰にも気づかれず屋敷の外へと抜け出す。大量の魔力放出でリュカの身体も限界に近かった。だが、自由へと向かって踏み出す。
小石が裸足の足に刺さり血が流れても、今は気分が高揚していて気にならない。
生きてここから逃げ出すのだ。
リュカの逃走を助けるかのように、暗い夜だった。
空には重い雲がかかり、星は見えなかった。
リュカは闇の中を一目散に走った。
≪第一章 完≫
少しずつ食事ものどを通るようになり、考える余裕も生まれた。
この部屋に入れられた時は、エロアの長兄のように、養分となり枯れ木のように死んでいくのだと思っていた。
だがどうやらエロアは、リュカに子供を産ませようとしているらしい。
それは、純粋にエティエンヌの跡取りとして子供がほしいのか、リュカのように魔力を得るための養分として産ませたいのかは分からない。
だがリュカはエロアの子供など、当然産みたくもない。例え子供が出来たとして、その子を愛せるかわからないし、自分のような哀れな子供をこれ以上作りたくはなかった。
そもそもリュカには親というものがよくわからなかった。
親と言われて思い出すのは、ヴァレルが生まれる前のヴェルマンド夫妻だけ。口数が少なくいつも忙しそうな養父に、時折リュカをお茶に呼ぶ病弱だけれど優しい養母。それでもリュカにとっては大切な人たちだったし、養母が亡くなった時はとても悲しかった。
でも思い起こしてみても、どんなときも一番大切なのはヴァレルしかいなかった。
◇
近頃のエロアは仕事が忙しいらしく、あまり屋敷に帰ってきていなかった。帰ってきても、終始イライラしていた。
そうかと思うと、じっとリュカを見て、「ありえん」とぶつぶつ言いながら頭を振った。リュカの魔力封じの手錠を何度も確認し、子宮の状態を見ていく。
だが先日、リュカの体内の振動が収まったのを見て、子宮の定着を確信し、安堵の表情を浮かべた。
「そろそろ平気そうだな」というつぶやきをリュカは聞き逃さなかった。
その日は思ったよりすぐにやってきた。
リュカが屋敷に監禁されてからどれだけの時間が経過したのか分からない。通常子宮の魔道具が定着するのには約2~3週間程度かかると言われている。その間、母体の魔力の放出は控えなければならないため、リュカはずっと魔力封じの手錠をされていた。
つまり、今まで1ヶ月に数回行われていた魔力供給が、あの時以来行われていなかったことを意味する。
エロアは魔力の枯渇が耐えられなくなったのだろう。もともとエロアは人より魔力量が多い方ではなかったはずだ。ただ研究熱心なだけの魔法師だった。
師団長まで登りつめたのも、長兄やリュカの魔力を使って増やしていたに過ぎない。
疲労がエロアの警戒心を鈍らせたのか。子宮が定着したことに油断したのか。その日仕事を終えて帰ってきたエロアは、魔力封じの手錠を外し、嬉々としてリュカの体内にペニスを挿入し、背中に歯を立てた。
「くっ……」
久しぶりに背中に傷をつけられ、流れる血。浮かび上がる魔法陣。そして移動し始める魔力。
リュカは魔力の放出を強くイメージする。自らの持つ魔力を思い切りエロアに流れ込ませる。
魔力封じの手錠を付けられ、一切魔力の放出をしてこなかったリュカの身体は魔力に満ちていた。
しかも皮膚接触でなく、粘膜接触。性行為をしながらの魔力供給は通常よりも流れが早い。
始めエロアは気が付いていなかった。
身体の中に流れ込んでくる魔力にご機嫌の様子だった。だが途中から顔色が変わる。
リュカの策略には気づいていない。
畳みかけるように早く大量に。あの時魔獣を倒したときのように。
急激な魔力の減少に、視界が白くぼやけた。だがこのままエロアに飼い殺しにされるくらいなら、ここで死んでもかまわない。
「す、すまんが、今日は体調が悪いようだ……」
「大丈夫ですか? お部屋で休まれては?」
リュカは笑みをこらえ、神妙な顔を作った。エロアは確実に魔力酔いを起こしていた。枯渇しかけていたところに、他人の魔力が急に、しかも大量に入ってきたのだ。
きっとめまいと吐き気で今、なにが起きているのかわかっていないだろう。
エロアの部屋へと続く扉を開かせる。そして肩を貸し連れ添うリュカ。リュカ自身も魔力の放出でフラフラだった。だがここで諦める訳にはいかない。
定着したばかりの子宮に負荷がかかったのだろうか。後孔から血が流れていた。下腹部がひどく痛い。その血が内股を濡らし、床を汚した。
少しめまいがしたが、リュカは(ざまぁ見ろ)と思った。こんなものこのまま流れてしまえばいい。
エロアの遺伝子も、リュカの遺伝子もいらない。
ベッドにエロアを寝かし、「メイドを呼んできますね」と耳元でささやくと、自らの部屋から持ってきていたシーツを広げた。そこにはチェイスから教わった追跡阻害魔法が途中まで描かれていた。
奴隷魔法ですら追跡できなくする禁忌の魔法。その最後の記号を自らの血で書き込み、なけなしの魔力を加える。
屋敷のものにも気づかれないように、更に認識阻害魔法を繰り出した。
生きたいと願っていた。だがこのまま死んでしまうなら、それでも良いとすら思っていた。それくらいの覚悟が出来ていた。
そしてリュカは一筋の可能性に賭けた。
エロアと一緒であればリュカが監禁されている部屋を出入りできることは、メイドの行動からわかった。
そして、エロアの部屋から廊下へと続くドアには、リュカを閉じ込めておくための魔法はかかっていなかった。ここは確認する方法はなかったから一か八かの掛けだった。リュカは賭けに勝ったのだ。
誰にも気づかれず屋敷の外へと抜け出す。大量の魔力放出でリュカの身体も限界に近かった。だが、自由へと向かって踏み出す。
小石が裸足の足に刺さり血が流れても、今は気分が高揚していて気にならない。
生きてここから逃げ出すのだ。
リュカの逃走を助けるかのように、暗い夜だった。
空には重い雲がかかり、星は見えなかった。
リュカは闇の中を一目散に走った。
≪第一章 完≫
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