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27.新太登場
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朝から野菜の収穫を手伝ったりしながら、なんとなく日々が過ぎていく。
「おもっ…」
「聖人、いくらなんでも体力なさすぎじゃない?その程度で文句言うなんて、孫たちのほうがよっぽど働くわよ?」
小声でつぶやいた愚痴を遠くから聞きつける母親。はじめは気遣ってくれていたのに、数日も経てば日々ぐうたらして過ごしている息子に嫌味の1つもでてくる。
土曜日だけれど、姉は仕事で、母と姉夫の大志さんと一緒に畑仕事を手伝っていた。昼まで手伝っていた甥っ子は、友達と約束があるらしく、お昼ごはんを食べて午後からは遊びにいった。
「はは、お義母さん。聖人くんは病み上がりだから…聖人くん、俺持っていくから、かして」
「いや、大丈夫です。すみません」
腰が痛いな、と思いながら差し出された手を断ると、畑の向こうから甥っ子が呼ぶ声が聞こえた。
「まーくーん、おきゃくさーん!!すっげーかっこいい車に乗ったおにーさーん!!」
見ると畑の向こうに、田舎には似つかわしくない、私服も洗練された男が甥っ子とその友達の隣にいた。
「…新太…」
「聖人くんの知り合い?そろそろ終わる時間だし、それ、運んでおくから、行ってきなよ?」
「…すみません」
畝間を転ばないように歩きながら、泥で汚れた軍手を脱ぎ、新太の方へと近づいていく。
遠くにいる時はじっと見ていたくせに、聖人が近づくと段々視線を下げて気まずそうにしていた。
「まーくん、お兄さんの車、でかくて庭にとめられなかったから、北のりんご畑につっこんであるよー」
「ありがとう。ばーちゃんにもそれ、伝えといてくれる?」
「はーい!!」
元気に甥っ子たちにが去っていくと、気まずそうな表情の新太と二人になった。
「こんなところまで、どうした?」
恋人と接するのとはまた違う、家族と過ごす顔を見られたことに気恥ずかしさを感じて、少し冷たい口調になった。しかも、畑の中に似つかわしくない都会的な雰囲気の新太に対して、聖人は泥だらけのジャージに長靴。軍手を外した手の中も汚れている。
「その…話があって…」
「話?」
「…その前にあの人は?」
「え?誰?…あぁ大志さんのこと?」
新太の視線の先を見ると、甥っ子たちと話している姉夫の姿が見えた。
「たいしさん…?…聖人さん…もしかして…もう…!?」
がっと慌てて肩をつかんでくる新太の手を慌ててほどきながら、畑から5分程度の自宅へ移動する。
家族にはゲイだということは話していない。田舎だし、あまり人に見られたくなかった。
「は?なに想像してるのかしらないけど、姉の旦那さんだよ。甥っ子たちの父親。来栖くん、そういうとこだよ?」
「…すみません。なんかあの人に似てる気がして…それに、聖人さんかわいいから、すぐに誰かに取られちゃうんじゃないかと俺、ずっと毎日不安で…自分がいけなかったってわかってるんですけど…やっぱり気になっちゃって…がまんできなくて…」
「かっ!?かわ…!?こんなおじさんになにを言ってるんだい?」
真っ赤になりながら狼狽える。
「かわいいですよ?前までは『脅している』っていう負い目があったから伝えられなかったけど。…それに、なんか…そんな姿も新鮮で素敵ですね」
こんな洗練された男にいわれても、褒められた気がしない。
「はぁ…お世辞はいいよ。君にこんな着古したよれよれのジャージ姿褒められてもね…」
高校卒業までとは言え、住み慣れた地元にいる安心感なのか、別れた相手に気を使う必要もないからか、以前よりもよっぽど気安い言葉が出てくる。
「ホントなのに…」
*
畑の泥を落として着替え、脱衣所で頭を拭いているところに、仕事を終えて帰宅したらしい姉の声が外から響いた。
そして、慌てている新太の声。
「聖人ー?あの裏の畑のフェラーリなにー?アンタの友達ー?」
「あ…すみません。聖人さんの知人の来栖と申します。あの…お邪魔しております…」
「あらっ!?あらっ!?やだぁ~!!すみません~!!あらっ
?聖人は?お客様お待たせしてすみませんねぇ~」
「姉ちゃん、声でかすぎ…恥ずかしいだろ?」
「あんた、なにお客様待たせてのんきにシャワーなんか浴びてんのよ?さっさとお茶でも出しなさいよっ!気が利かないわね!」
「しょうがないだろ?畑手伝ってる時に急に来たんだから」
「アンタ、ばっかじゃないの?そういう時はお茶を出してからシャワー浴びなさいよ。こんなイケメン相手に!!」
「イケメンは関係なくない?」
今までに見たことのない聖人の口調に新太はぽかんとしていた。
はっと気づいて急に恥ずかしくなって、新太の服の袖を引っ張って連れ出す。
「と、とにかく、ちょっとでかけてくるから!!」
一刻も早くこの場所から新太を連れ出したかったのだが…。
新太のフェラーリの周りには数人集まっていた。その中には、畑から戻ってきた母親と大志さん、甥っ子達の姿も。
「まーくんのお友達、めっちゃ金持ち!!」
「こら!!触ったらだめだよ!!高いんだから!!」
なかなか田舎では見ることのない高級車に群がるうちの家族とお隣さん。
「来栖くん…なんであんな派手な車で来た…?」
こんな田舎道じゃすれ違いも難しいだろう。しかもこんな畑に止めさせられて、車が泥で汚れるし、畑に轍できるし。
聖人の家にも十分広い庭があるのだが、昔からある門塀が邪魔で、こんな大きい車が通れるようになっていない。
「す、すみません。それが、母に『高速乗る』って言ったら、『加速がいいから』ってこの車を貸してくれて…まさかこんなに注目されるとは…」
「はぁ…母さん、ごめん。ちょっとでかけてくるから…車、出していいかな?」
「ああ!!ごめんなさいね!!ほら、こんな高級車、テレビの中でしか見ないから子供達が興奮しちゃって!!あ、ちょうどよかった!!聖人、夕ご飯はお友だちと食べてくるの?」
聖人の母親と知り、新太の背筋が伸びてずいっと一歩前に出てきた。これは紹介しろということだろうか?戸惑っていると、更に前に出てきて勝手に挨拶し始める。
「あの、聖人さんにお世話になっております、来栖新太と申します」
「あら、やだ。すっごいイケメン。芸能人みたいねぇ」
「……母さんも、姉ちゃんと同じ反応とか、もう恥ずかしいからやめてよ…来栖くん、いくよ?」
袖をひっぱり新太を促すが、田舎の好奇心に阻まれた。
「来栖さんお若いのに、すごい車乗ってますねー!!俳優さんとか?今日はお仕事で?市内にお泊まりですか?」
大志がこのタイミングで人懐っこさをみせた。多分若くてフェラーリに乗っている、テレビでしか見たことのない人種に興味津々なんだろう。
芸能人だったら、あわよくばサインをもらって一緒に写真を撮ろうと思っているに違いない。
「いえ…車は母のものなので…。あの俺、聖人さんと同じ職場の部下でして…ちょっと仕事の話で聖人さんにお話があって来たんです。思い立ってきたので、宿泊とかはなにも考えてなくてこれから探そうかと…あの、聖人さんとのお話し次第では明日も聖人さんをお借りしたいんですが、良いでしょうか?」
「仕事の話?どうせ、聖人はごろごろしてるだけだからかまわないけど…宿泊決まっていないんだったら、うちに泊まっていきます?あ、でもこんな田舎の家じゃ嫌かしら?」
「母さん!?なに言って!?」
「だって、わざわざアンタのために、東京から来てくれたんでしょ?悪いじゃない。それにこの辺にホテルないから、町の方いかないといけないし」
「ご迷惑じゃないでしょうか?」
「新太!?」
「おもっ…」
「聖人、いくらなんでも体力なさすぎじゃない?その程度で文句言うなんて、孫たちのほうがよっぽど働くわよ?」
小声でつぶやいた愚痴を遠くから聞きつける母親。はじめは気遣ってくれていたのに、数日も経てば日々ぐうたらして過ごしている息子に嫌味の1つもでてくる。
土曜日だけれど、姉は仕事で、母と姉夫の大志さんと一緒に畑仕事を手伝っていた。昼まで手伝っていた甥っ子は、友達と約束があるらしく、お昼ごはんを食べて午後からは遊びにいった。
「はは、お義母さん。聖人くんは病み上がりだから…聖人くん、俺持っていくから、かして」
「いや、大丈夫です。すみません」
腰が痛いな、と思いながら差し出された手を断ると、畑の向こうから甥っ子が呼ぶ声が聞こえた。
「まーくーん、おきゃくさーん!!すっげーかっこいい車に乗ったおにーさーん!!」
見ると畑の向こうに、田舎には似つかわしくない、私服も洗練された男が甥っ子とその友達の隣にいた。
「…新太…」
「聖人くんの知り合い?そろそろ終わる時間だし、それ、運んでおくから、行ってきなよ?」
「…すみません」
畝間を転ばないように歩きながら、泥で汚れた軍手を脱ぎ、新太の方へと近づいていく。
遠くにいる時はじっと見ていたくせに、聖人が近づくと段々視線を下げて気まずそうにしていた。
「まーくん、お兄さんの車、でかくて庭にとめられなかったから、北のりんご畑につっこんであるよー」
「ありがとう。ばーちゃんにもそれ、伝えといてくれる?」
「はーい!!」
元気に甥っ子たちにが去っていくと、気まずそうな表情の新太と二人になった。
「こんなところまで、どうした?」
恋人と接するのとはまた違う、家族と過ごす顔を見られたことに気恥ずかしさを感じて、少し冷たい口調になった。しかも、畑の中に似つかわしくない都会的な雰囲気の新太に対して、聖人は泥だらけのジャージに長靴。軍手を外した手の中も汚れている。
「その…話があって…」
「話?」
「…その前にあの人は?」
「え?誰?…あぁ大志さんのこと?」
新太の視線の先を見ると、甥っ子たちと話している姉夫の姿が見えた。
「たいしさん…?…聖人さん…もしかして…もう…!?」
がっと慌てて肩をつかんでくる新太の手を慌ててほどきながら、畑から5分程度の自宅へ移動する。
家族にはゲイだということは話していない。田舎だし、あまり人に見られたくなかった。
「は?なに想像してるのかしらないけど、姉の旦那さんだよ。甥っ子たちの父親。来栖くん、そういうとこだよ?」
「…すみません。なんかあの人に似てる気がして…それに、聖人さんかわいいから、すぐに誰かに取られちゃうんじゃないかと俺、ずっと毎日不安で…自分がいけなかったってわかってるんですけど…やっぱり気になっちゃって…がまんできなくて…」
「かっ!?かわ…!?こんなおじさんになにを言ってるんだい?」
真っ赤になりながら狼狽える。
「かわいいですよ?前までは『脅している』っていう負い目があったから伝えられなかったけど。…それに、なんか…そんな姿も新鮮で素敵ですね」
こんな洗練された男にいわれても、褒められた気がしない。
「はぁ…お世辞はいいよ。君にこんな着古したよれよれのジャージ姿褒められてもね…」
高校卒業までとは言え、住み慣れた地元にいる安心感なのか、別れた相手に気を使う必要もないからか、以前よりもよっぽど気安い言葉が出てくる。
「ホントなのに…」
*
畑の泥を落として着替え、脱衣所で頭を拭いているところに、仕事を終えて帰宅したらしい姉の声が外から響いた。
そして、慌てている新太の声。
「聖人ー?あの裏の畑のフェラーリなにー?アンタの友達ー?」
「あ…すみません。聖人さんの知人の来栖と申します。あの…お邪魔しております…」
「あらっ!?あらっ!?やだぁ~!!すみません~!!あらっ
?聖人は?お客様お待たせしてすみませんねぇ~」
「姉ちゃん、声でかすぎ…恥ずかしいだろ?」
「あんた、なにお客様待たせてのんきにシャワーなんか浴びてんのよ?さっさとお茶でも出しなさいよっ!気が利かないわね!」
「しょうがないだろ?畑手伝ってる時に急に来たんだから」
「アンタ、ばっかじゃないの?そういう時はお茶を出してからシャワー浴びなさいよ。こんなイケメン相手に!!」
「イケメンは関係なくない?」
今までに見たことのない聖人の口調に新太はぽかんとしていた。
はっと気づいて急に恥ずかしくなって、新太の服の袖を引っ張って連れ出す。
「と、とにかく、ちょっとでかけてくるから!!」
一刻も早くこの場所から新太を連れ出したかったのだが…。
新太のフェラーリの周りには数人集まっていた。その中には、畑から戻ってきた母親と大志さん、甥っ子達の姿も。
「まーくんのお友達、めっちゃ金持ち!!」
「こら!!触ったらだめだよ!!高いんだから!!」
なかなか田舎では見ることのない高級車に群がるうちの家族とお隣さん。
「来栖くん…なんであんな派手な車で来た…?」
こんな田舎道じゃすれ違いも難しいだろう。しかもこんな畑に止めさせられて、車が泥で汚れるし、畑に轍できるし。
聖人の家にも十分広い庭があるのだが、昔からある門塀が邪魔で、こんな大きい車が通れるようになっていない。
「す、すみません。それが、母に『高速乗る』って言ったら、『加速がいいから』ってこの車を貸してくれて…まさかこんなに注目されるとは…」
「はぁ…母さん、ごめん。ちょっとでかけてくるから…車、出していいかな?」
「ああ!!ごめんなさいね!!ほら、こんな高級車、テレビの中でしか見ないから子供達が興奮しちゃって!!あ、ちょうどよかった!!聖人、夕ご飯はお友だちと食べてくるの?」
聖人の母親と知り、新太の背筋が伸びてずいっと一歩前に出てきた。これは紹介しろということだろうか?戸惑っていると、更に前に出てきて勝手に挨拶し始める。
「あの、聖人さんにお世話になっております、来栖新太と申します」
「あら、やだ。すっごいイケメン。芸能人みたいねぇ」
「……母さんも、姉ちゃんと同じ反応とか、もう恥ずかしいからやめてよ…来栖くん、いくよ?」
袖をひっぱり新太を促すが、田舎の好奇心に阻まれた。
「来栖さんお若いのに、すごい車乗ってますねー!!俳優さんとか?今日はお仕事で?市内にお泊まりですか?」
大志がこのタイミングで人懐っこさをみせた。多分若くてフェラーリに乗っている、テレビでしか見たことのない人種に興味津々なんだろう。
芸能人だったら、あわよくばサインをもらって一緒に写真を撮ろうと思っているに違いない。
「いえ…車は母のものなので…。あの俺、聖人さんと同じ職場の部下でして…ちょっと仕事の話で聖人さんにお話があって来たんです。思い立ってきたので、宿泊とかはなにも考えてなくてこれから探そうかと…あの、聖人さんとのお話し次第では明日も聖人さんをお借りしたいんですが、良いでしょうか?」
「仕事の話?どうせ、聖人はごろごろしてるだけだからかまわないけど…宿泊決まっていないんだったら、うちに泊まっていきます?あ、でもこんな田舎の家じゃ嫌かしら?」
「母さん!?なに言って!?」
「だって、わざわざアンタのために、東京から来てくれたんでしょ?悪いじゃない。それにこの辺にホテルないから、町の方いかないといけないし」
「ご迷惑じゃないでしょうか?」
「新太!?」
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