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23.つかの間のやすらぎ
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会社近く、新太を除いたチーム3人での飲み会。
新太はあの後、時間休を取りそのまま戻らなかった。
聖人はすこしほっとした。さすがに新太と顔を合わせて飲むのは辛いし、雰囲気も悪くなるだろう。
退職が迫っているというのに、和やかな雰囲気だった。
「小林くんって、中途採用だったよね?他の会社ってどう?」
「んー、前は営業だったんで、比べづらいっすけど、サービス残業は当たり前で、結構体育会系でしたねぇ。土日も呼び出されたりとか?子供が生まれたってこともあって、うちの奥さん、転職をすごく喜んでくれたんっすよ。実際この会社入ってよかったと思いますしねぇ…。そこそこ大きい会社なのに、意外とアットホームだし…。この間の報告会でも、社長とか、俺みたいなぺーぺーで雑用してるだけの人間までちゃんと声かけてくれるじゃないっすか。『さすがだなー』と思いましたよ?そりゃ、顔と名前が一致してたわけじゃないでしょうけど…あれって、報告会の前に参加するメンバー、手伝いまで確認してたってことでしょ?そんな社長なかなかいないですよ!?…だから!!だから、柊木さん、なんでこの会社辞めちゃうの!?って俺、びっくりして!!そんなに体調悪いんっすか!?たしかに最近ずっと顔色悪かったけどっ!!!!てか、今日、お酒飲んで大丈夫っすか?」
自分から誘ってきたのに…と苦笑いする。
「こらこら、小林氏、飲み過ぎです。柊木氏にも事情があるんですから。まぁ、アットホームなのと、福利厚生がよいっていうのは私も同感ですね。忙しい時期はともかく、定時で帰れるのも子持ちには助かりますしね」
「いや、原さんの場合は、定時に帰るオーラがすごいから……」
「はは、残業とかは部署にもよるけどね。うちの部署はちょうど前期末でピークを超えたからちょうど今はのんびりしてるけど…。プロジェクトとか抱えてると、毎日最終だよ。まぁプロジェクトとかは数年単位で大変だけどやりがいはあるよね」
「でも柊木さんが辞めたら、春永さんの新プロジェクト誰が入るんですかねぇ。そもそも『新プロジェクト』って言葉だけが独り歩きして、なにすんだか全くわかんないっすけど」
「僕にもわからないよ。でも、まぁ、僕の代わりはたくさんいるから」
自分で発した『代わり』という言葉につきんと胸がいたんだ。そう、自分の代わりはいくらでもいる。会社でもプライベートでも。
皆がまるで壊してもよい商品のように、聖人を振り回して傷つけた。
「いや、どうでしょう。春永氏は、意外と好き嫌いが分かれますからねぇ。柊木氏のようにうまく春永氏の意図を汲み取って、周りとの調整をしていけるタイプは得難いのではないでしょうか。勇敢な将軍だけでは兵隊は生き残れませんから」
「「原さん…」」
聖人は、原にそんな評価をしてもらえていることに感動した。
「原さんっ!!原さんって無表情で、俺に対しての扱いが雑な、いっっつも訳のわからない事ばっかり言う人だと思っていたけど、ちゃんと人を正当に評価してたんだね!!俺、原さんとこ見直したよっ!!」
「小林氏……貴方はそんな風に私を思っていたんですね?雑に扱われる理由はそういうところですっ!!金輪際、小林氏の経費精算は、期日過ぎたら受け付けませんっ!!経理には自分で持っていってくださいっ!!!!」
「そ、そんなっ!!すみません~!!」
楽しい時間だった。久しぶりにたくさん笑った気がする。
会計が終わり、店の前で立ち話をしていると、酔っ払った小林が、「柊木さん辞めないでぇ~」と抱きついてきた。思わず笑顔になる。惜しんでくれる人がいて嬉しい。
すると、原も「あ、私もいいですか?」と小林を引き離すと、聖人に抱きついた。
「は、原さん…?」
「ひぇっ?えっ!?原さんっ!?もしかして柊木さんのとこ好きだったのっ!?えええぇぇぇ!?原さんそんな素振りありましたぁぁぁ!!??」
驚く聖人と小林に対して、原は聖人から身体を離すと、あっさりと否定する。
「あ、違います。ファンサだと思ってもらえれば」
「「ふぁんさ…?」」
「ファンサービス、ですね。私、最近かなり激アツに『来栖×柊木氏』を推しておりましたので、そのっ!!そのっ!!柊木氏がいなくなるなんてショックでショックでっっっ!!!!今後誰を推したらよいのかっ!!!!」
「「はぁ……」」
新太はあの後、時間休を取りそのまま戻らなかった。
聖人はすこしほっとした。さすがに新太と顔を合わせて飲むのは辛いし、雰囲気も悪くなるだろう。
退職が迫っているというのに、和やかな雰囲気だった。
「小林くんって、中途採用だったよね?他の会社ってどう?」
「んー、前は営業だったんで、比べづらいっすけど、サービス残業は当たり前で、結構体育会系でしたねぇ。土日も呼び出されたりとか?子供が生まれたってこともあって、うちの奥さん、転職をすごく喜んでくれたんっすよ。実際この会社入ってよかったと思いますしねぇ…。そこそこ大きい会社なのに、意外とアットホームだし…。この間の報告会でも、社長とか、俺みたいなぺーぺーで雑用してるだけの人間までちゃんと声かけてくれるじゃないっすか。『さすがだなー』と思いましたよ?そりゃ、顔と名前が一致してたわけじゃないでしょうけど…あれって、報告会の前に参加するメンバー、手伝いまで確認してたってことでしょ?そんな社長なかなかいないですよ!?…だから!!だから、柊木さん、なんでこの会社辞めちゃうの!?って俺、びっくりして!!そんなに体調悪いんっすか!?たしかに最近ずっと顔色悪かったけどっ!!!!てか、今日、お酒飲んで大丈夫っすか?」
自分から誘ってきたのに…と苦笑いする。
「こらこら、小林氏、飲み過ぎです。柊木氏にも事情があるんですから。まぁ、アットホームなのと、福利厚生がよいっていうのは私も同感ですね。忙しい時期はともかく、定時で帰れるのも子持ちには助かりますしね」
「いや、原さんの場合は、定時に帰るオーラがすごいから……」
「はは、残業とかは部署にもよるけどね。うちの部署はちょうど前期末でピークを超えたからちょうど今はのんびりしてるけど…。プロジェクトとか抱えてると、毎日最終だよ。まぁプロジェクトとかは数年単位で大変だけどやりがいはあるよね」
「でも柊木さんが辞めたら、春永さんの新プロジェクト誰が入るんですかねぇ。そもそも『新プロジェクト』って言葉だけが独り歩きして、なにすんだか全くわかんないっすけど」
「僕にもわからないよ。でも、まぁ、僕の代わりはたくさんいるから」
自分で発した『代わり』という言葉につきんと胸がいたんだ。そう、自分の代わりはいくらでもいる。会社でもプライベートでも。
皆がまるで壊してもよい商品のように、聖人を振り回して傷つけた。
「いや、どうでしょう。春永氏は、意外と好き嫌いが分かれますからねぇ。柊木氏のようにうまく春永氏の意図を汲み取って、周りとの調整をしていけるタイプは得難いのではないでしょうか。勇敢な将軍だけでは兵隊は生き残れませんから」
「「原さん…」」
聖人は、原にそんな評価をしてもらえていることに感動した。
「原さんっ!!原さんって無表情で、俺に対しての扱いが雑な、いっっつも訳のわからない事ばっかり言う人だと思っていたけど、ちゃんと人を正当に評価してたんだね!!俺、原さんとこ見直したよっ!!」
「小林氏……貴方はそんな風に私を思っていたんですね?雑に扱われる理由はそういうところですっ!!金輪際、小林氏の経費精算は、期日過ぎたら受け付けませんっ!!経理には自分で持っていってくださいっ!!!!」
「そ、そんなっ!!すみません~!!」
楽しい時間だった。久しぶりにたくさん笑った気がする。
会計が終わり、店の前で立ち話をしていると、酔っ払った小林が、「柊木さん辞めないでぇ~」と抱きついてきた。思わず笑顔になる。惜しんでくれる人がいて嬉しい。
すると、原も「あ、私もいいですか?」と小林を引き離すと、聖人に抱きついた。
「は、原さん…?」
「ひぇっ?えっ!?原さんっ!?もしかして柊木さんのとこ好きだったのっ!?えええぇぇぇ!?原さんそんな素振りありましたぁぁぁ!!??」
驚く聖人と小林に対して、原は聖人から身体を離すと、あっさりと否定する。
「あ、違います。ファンサだと思ってもらえれば」
「「ふぁんさ…?」」
「ファンサービス、ですね。私、最近かなり激アツに『来栖×柊木氏』を推しておりましたので、そのっ!!そのっ!!柊木氏がいなくなるなんてショックでショックでっっっ!!!!今後誰を推したらよいのかっ!!!!」
「「はぁ……」」
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