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19.新太の暴挙

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「新太っ!!これ何っ…!?」

 二人はご飯を食べ、聖人の家に泊まり、約束通りなにもせず眠った。
 だが、朝目覚めると聖人の股間には貞操帯がつけられていた。

「こんなんつけて、報告会とかホントムリだから!!お願いだから外してっ!!」

 めずらしく声が荒ぶる。ただでさえ人前で話すのが苦手なのに、こんなものをつけていたら絶対にムリだ。
 力任せに引っ張り、なんとか壊そうとするが、ただ自分の指と股間が痛くなっただけで終わった。
 早く会社に行って、報告会のシュミレーションをしておきたいのに、なんだってこんな…。

「聖人さんは俺のだから。心配だから浮気防止のためにつけただけです」
 
 聖人を抱きしめながら、平然と言い放つ新太に、聖人の目の前は真っ暗になった。これをつけて会社にいけと?しかも人前に立つというのに?考えていることが理解できない。
 自然と涙が出てきた。

「浮気なんてするはずない…新太…お願いだから……頼む…外して…」

 スーツに着替え、会社へ行こうとする新太にすがる。
 だが、新太は冷たい表情のまま、ぐずる聖人の身支度を整え連れ出した。

「仕事遅れますよ?行きましょうか?」

「新太…お願い…」


 *


 頑なな新太を見て、それほど春永の匂いがついていたのが嫌だったのか、とため息をつく。
 だが、自分のせいではないし、仕事といわれればどうしようもない。

 家から出てしまったらもう覚悟を決めるしかなかった。
 バレたらという恐怖で鼓動は荒く、ペニスは縮こまり、痛さはなかったが、違和感がひどい。
 意識しないように、全神経を報告会に向ける。

 幸いプロジェクトは順調に走っていたので、数字の報告と簡単な確認だけで、難しい質問などもなく、上層部も満足の様子だった。次回の報告会からは、今回の報告書をベースにしてゆけばよいだろう。

「うん、いいね。柊木くん、さすがだね。お疲れ様。他の皆もお疲れ様…えっと、小林くんと来栖くんかな?」
 
 資料に目を落としながら話す社長の言葉に、聖人がぺこりと会釈をした。続いて聖人のサポートをしていた二人も続く。隣に座る常務が社長に話しかけると、何かに気づいたように声が大きくなった。

「あぁ、君が新太くんか!あぁ、そうか、そうか。確かに似てるね!それは、それは、ご苦労さま。柊木くんの下なら勉強になるから、まぁ頑張ってよ」

 社長が新太の下の名前を確認するように呼んだ。新太は気まずそうに無言でお辞儀をした。社長と知り合いなのだろうか?

「あとは、春永くんの方からなんかあるかい?例のプロジェクトの件は柊木くんにはもう話した?」

「いえ、まだ…」

「じゃぁ、その件は直接春永くんから伝えてもらうとして…あ、くれぐれも情報公開前に外部に漏らさないように気をつけてね」

 社長と春永のそんな会話とねぎらいの言葉が最後にあって報告会は終わった。
 社長と新太の関係、春永との会話、疑問が残ったが、聖人はもはやそれどころではなかった。

 役員たちが席を立ち、3人で片付けを始める。

「柊木さん、大丈夫っすか?すっごく顔色悪いですけど」

「え…あぁ、そうだな…ちょっと風邪気味で…」

 新太がちらりとこっちを見たが、自分が原因だという自覚があるのか、会話に入ってこなかった。



「おい、聖人!お疲れ様!」

 一旦役員たちと出ていった春永が戻ってきた。あからさまに嫌そうな顔をした新太の顔が視界の端で見えた。

「いえ、春永さんも今日はありがとうございました」

「いいって、それより最後に社長が話してた件なんだけど、お前、まだ時間ある?早めに説明しておこうと思って。えっと小林くんと来栖くんだっけ?片付けてるとこ悪いけど、聖人借りるわ」

「えっ、ちょっ!!!!」

 報告会が長引いたときのために、このあとに予定が入れていないことをわかっていたのだろう。肩を抱いて、強引に別の会議室に連れ込まれた。
 敏感になっている身体は、触れられるだけで過剰に反応してしまう。
 空いている会議室に入ると、春永はすぐに本題に入った。

「今度俺が任されるプロジェクトに、お前を引っ張ろうと思ってんだけどいい?かなりでかい案件だから、お前みたいに仕事丁寧で、慣れてるやつのほうが俺も安心だからさ」

「……」

 下半身の拘束と緊張とで、聖人の神経は限界で、頭痛がひどかった。吐き気までしてきて、返事ができない。その無言を過去への怒りと捉えたのか、春永は言葉を続ける。

「そりゃ、お前とは色々あったけどさ、仕事の話はまた別だろ?…それに…俺、近いうちに離婚するかも。やーっぱり、お前じゃなきゃダメなんだよなぁ。結婚して、つくづく思ったわ……なぁ、あの時は悪かったよ。その…俺達やり直さないか?」

 春永の手が、膝の上においていた聖人の手の上に置かれた。意識が朦朧としていた聖人は、乗せられた手の感触で正気に戻り、恐怖におののいた。
 貞操帯がバレてしまったら?触れられればその下着とは違う違和感に気づかれてしまうかもしれない。

「やめてくださいっ!!!!」

 思わず立ち上がり拒絶する。立った瞬間激しい頭痛で視界が揺らいだ。

「おい、大丈夫か?顔、真っ青だぞ?」

「大丈夫なんで、触らないでください…」

 よろよろと会議室から出ていく。誰にも気づかれずに報告会を終えることができ、緊張が解けて気持ちが限界だった。
 ちょうど片付けを終え、荷物を持った新太達と鉢合わせた。壁によりかかり身体を支えていたが、ずるずると身体が崩れ落ちた。

「聖人!?」
「聖人さんっ!?」

 駆け寄ってくる新太の姿がほんやりとした視界の中に見えた。

「鍵…よこせ…」

 辛うじてそうつぶやくと、新太はおずおずと取り出し、人には見えないように聖人に小さな鍵を握らせた。
 それを受け取ると、ほっとして聖人の視界が暗転した。
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