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18.こじれていく関係
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聖人はため息をついて立ち上がった。
心を落ち着かせている間に定時は過ぎていて、帰宅する社員とすれ違う。部署に戻ると小林と新太が聖人を待っていた。
「柊木さん、お疲れ様っす。遅かったですねぇ。原さん、子供さんのお迎えあるって帰っちゃったんですけど、資料印刷どうします?俺やりましょうか?」
「ごめん、待たせちゃったね。ちょっと直したいところもあるし、あとは僕がするからいいよ」
「そうっすか?その資料以外は、明日の準備、全部できてるんで確認お願います」
「あぁ、ありがとう。もう定時過ぎたし、小林くんも自分の仕事が終わっていれば帰っていいよ…その…来栖くんも…」
小林はさっさと帰り支度を始めたが、なにか言いたげに見つめる新太は帰る用意をしていなかった。
「ほら、来栖くんもさっさと帰りなよ。この時期に定時過ぎて残ってると上の人うるさいから。じゃ、すんません。お先失礼しまーす」
ノロノロと帰る準備をし始めた新太から隠れるようにため息をつく。春永との過去を新太に知られて、嫌われたくない。
複合機で出した資料を持って、印刷室へ向かう。
既に同じフロアーにはほとんど人もいなくて、そのままフロアーで印刷しても他の人に迷惑をかけることはなさそうだが、すこし量が多かったのと、新太の視線に耐えられなくて出てきてしまった。
「俺も手伝います」
帰り支度を済ませた新太が背後から現れた。
その声に不自然にビクッと反応してしまった。
印刷が始まったら終わるのを待つだけでなにもすることはないのだが、新太の声は有無を言わさない響きがあった。
「聖人さん、今日うちくる?」
印刷の音が狭い室内に響いていた。新太は聖人の耳元でささやきながら、印刷機に置かれた聖人の手の上に指を絡ませ尋ねる。
お互い下の名前で呼ぶ時は、恋人モードの時。誰かに見られたら、と聖人は焦って手を引いた。ドキドキと心臓が高鳴る。
「今日は……さすがに無理かな…明日報告会だし、早めに出社したいから家に帰るよ」
「じゃぁ、俺が行くのは?何もしないから…ね?」
聖人に逃げられた手で、聖人の腰を抱き、優しく問う。年下の恋人の甘えに聖人は頷いた。
「う……ホントに、何もしないよ?」
「わかってますって。ご飯食べるだけ。約束…」
新太の口調は優しいのだが、なにか冷ややかな雰囲気を漂わせていた。
*
明日の報告会の準備を終えて帰ると、ご飯の準備を終えて待ち構えていた新太に風呂に入れられ、無言でゴシゴシと身体を洗われた。
「…新太、なんか怒ってる…?」
風呂からあがると、新太は再び無言で聖人を抱きしめる。新太の大きな胸板に抱きしめられるとさっきの不快な気持ちも少し和らいだが、今度は無言の恋人の様子が気になる。
「臭かった…」
「えっ!!あ、ごめんっ!!えっと…」
汗臭かった?それとも加齢臭?真っ赤になり距離を取ろうとすると、新太が慌てて強く抱きしめ直す。
「違うっ!!聖人さんじゃなくて!!」
「…?」
「…春永さんの香水…」
新太の口から春永の名前が出てきて、思わずびくっと反応すると、抱きしめている恋人にはそれが伝わったのだろう。不機嫌な口調で聞いてきた。
「……匂いがつくくらい近づいて何してたの?」
「いや、なにもしていないっ!!!!ただ…パソコンを隣で見てたから…その…せいかな?」
「ふーん?それだけ?」
「それだけって…え?なんで?」
「なんでもない…」
「新太、春永さんとは明日の話をしただけだよ。本当に隣りに座っただけだから」
「ん、わかった。……ごめん、ごはんにしようか」
納得いっていない表情だったが、聖人もそれ以上春永の話をしたくなくて黙る。
新太はちらちらと時折様子をうかがうように聖人を見たが、特になにも言ってはこず、気まずい食事になった。
聖人は会議室で春永に抱きしめられた姿を、締められた縦型ブラインドの隙間から新太に見られていたことには全く気づいていなかった。
心を落ち着かせている間に定時は過ぎていて、帰宅する社員とすれ違う。部署に戻ると小林と新太が聖人を待っていた。
「柊木さん、お疲れ様っす。遅かったですねぇ。原さん、子供さんのお迎えあるって帰っちゃったんですけど、資料印刷どうします?俺やりましょうか?」
「ごめん、待たせちゃったね。ちょっと直したいところもあるし、あとは僕がするからいいよ」
「そうっすか?その資料以外は、明日の準備、全部できてるんで確認お願います」
「あぁ、ありがとう。もう定時過ぎたし、小林くんも自分の仕事が終わっていれば帰っていいよ…その…来栖くんも…」
小林はさっさと帰り支度を始めたが、なにか言いたげに見つめる新太は帰る用意をしていなかった。
「ほら、来栖くんもさっさと帰りなよ。この時期に定時過ぎて残ってると上の人うるさいから。じゃ、すんません。お先失礼しまーす」
ノロノロと帰る準備をし始めた新太から隠れるようにため息をつく。春永との過去を新太に知られて、嫌われたくない。
複合機で出した資料を持って、印刷室へ向かう。
既に同じフロアーにはほとんど人もいなくて、そのままフロアーで印刷しても他の人に迷惑をかけることはなさそうだが、すこし量が多かったのと、新太の視線に耐えられなくて出てきてしまった。
「俺も手伝います」
帰り支度を済ませた新太が背後から現れた。
その声に不自然にビクッと反応してしまった。
印刷が始まったら終わるのを待つだけでなにもすることはないのだが、新太の声は有無を言わさない響きがあった。
「聖人さん、今日うちくる?」
印刷の音が狭い室内に響いていた。新太は聖人の耳元でささやきながら、印刷機に置かれた聖人の手の上に指を絡ませ尋ねる。
お互い下の名前で呼ぶ時は、恋人モードの時。誰かに見られたら、と聖人は焦って手を引いた。ドキドキと心臓が高鳴る。
「今日は……さすがに無理かな…明日報告会だし、早めに出社したいから家に帰るよ」
「じゃぁ、俺が行くのは?何もしないから…ね?」
聖人に逃げられた手で、聖人の腰を抱き、優しく問う。年下の恋人の甘えに聖人は頷いた。
「う……ホントに、何もしないよ?」
「わかってますって。ご飯食べるだけ。約束…」
新太の口調は優しいのだが、なにか冷ややかな雰囲気を漂わせていた。
*
明日の報告会の準備を終えて帰ると、ご飯の準備を終えて待ち構えていた新太に風呂に入れられ、無言でゴシゴシと身体を洗われた。
「…新太、なんか怒ってる…?」
風呂からあがると、新太は再び無言で聖人を抱きしめる。新太の大きな胸板に抱きしめられるとさっきの不快な気持ちも少し和らいだが、今度は無言の恋人の様子が気になる。
「臭かった…」
「えっ!!あ、ごめんっ!!えっと…」
汗臭かった?それとも加齢臭?真っ赤になり距離を取ろうとすると、新太が慌てて強く抱きしめ直す。
「違うっ!!聖人さんじゃなくて!!」
「…?」
「…春永さんの香水…」
新太の口から春永の名前が出てきて、思わずびくっと反応すると、抱きしめている恋人にはそれが伝わったのだろう。不機嫌な口調で聞いてきた。
「……匂いがつくくらい近づいて何してたの?」
「いや、なにもしていないっ!!!!ただ…パソコンを隣で見てたから…その…せいかな?」
「ふーん?それだけ?」
「それだけって…え?なんで?」
「なんでもない…」
「新太、春永さんとは明日の話をしただけだよ。本当に隣りに座っただけだから」
「ん、わかった。……ごめん、ごはんにしようか」
納得いっていない表情だったが、聖人もそれ以上春永の話をしたくなくて黙る。
新太はちらちらと時折様子をうかがうように聖人を見たが、特になにも言ってはこず、気まずい食事になった。
聖人は会議室で春永に抱きしめられた姿を、締められた縦型ブラインドの隙間から新太に見られていたことには全く気づいていなかった。
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