コンビニ前でサンタが泣いていた

猫丸

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14.不安の理由と聖人の決意

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 その日の昼、聖人が外出している時に、別のフロアーで働く一人の女性社員が新太の部署に顔を出していた。
 それ自体は日常の光景で特段気にするようなことでもなかったのだけれど。

「あれ?頼まれた資料持ってきたんですけど、柊木さんはまだ外出中ですか?」
 
 一番手前の席に座っていた新太は立ち上がって資料を受け取ろうとする。

「あぁ、ちょっと戻りが遅れているみたいですね。特に遅れるとか連絡も来てないんで、そろそろ戻ってくるとは思いますが…」

 部署内のスケジュール管理ソフトを確認しながら答える。全社員の外出や会議予定を登録するソフトで、会議室の空き状況などもそれで確認予約する。
 部署が違くても全社で見れるはずだから、多分彼女も聖人がいる時間帯を狙って届けにきたのだろう。

「そうなんですね!わかりました!!また後できます!!」

「資料だったら渡しておきますよ?」

「あ、いいです!いいです!また来るので!」

 二度手間じゃないんだろうか?と首を傾げていると、正面に座る営業事務の原がぼそっと言った。

「最近増えましたねー、柊木氏狙いの女子」

「え?」

「この間の以来、柊木氏へアプローチする子が増えたんですよ。メールとかでかまわないのに、ああやって資料とかの業務連絡を口実にしたお誘いが多いみたいですよ」

「そう…なんですか?」

「今まで柊木氏は孤高の存在でしたけど、図らずもああやってプライベートが晒されたわけですし。別れた理由が相手の浮気とあっちゃ、柊木氏を取り囲んでいたバリケードが壊れて、近づこうとする女子が増えてるみたいですよ」

「でも、原さん、柊木さんも浮気してたって言ってたじゃないですか…浮気する男性なんて普通嫌なんじゃないですか?」

 その相手は自分だったのだけれども、聖人の周りに女性を寄せたくなくて発した言葉は、図らずも聖人の悪口になり、ちくりと胸が痛んだ。

「いや、そもそも先に浮気したのは相手の方ですし、柊木氏は近寄り難かったけど以前から人気ありましたからねぇ。もはやあの近寄りがたさを心の傷のせいと解釈し、慰めたい女子社員急増中なんですよ。ほら、柊木氏は幸薄系の美人じゃないですか」

「そんな…」

「さっきの子がもう一回来たときに見てみるとわかりますよ。まぁ、私個人としては春永氏×柊木氏を推していたんですが、いやはや残念です」

 ずり落ちてきたメガネをすちゃっと装着し直し、パソコンの画面に視線を一瞬戻した原は、思い出しだしたように言った。

「あ、春永氏は『鬼の春永』、柊木氏のかつての上司です。剛腕の春永氏に対して、柊木氏は対応が柔らかいのでよい女房役だったんですけどねぇ」

 原の発言は多分腐女子のそれだ。小林は「原さんの話っていっつも意味不明~」なんてよく言っているが、新太には意味がわかる。そして、原が発した『女房役』と言う言葉にも新太は嫌悪感を感じた。仕事でもプライベートでも、自分以外の人を聖人の隣にいさせたくない。

「まぁ、そんな春永氏も3、4年前に結婚して子供さんもいますけどね、はは」

「3、4年前に結婚…?」

 なにかが引っかかった。もやもやした気持ちを抱えたまま、それ以上の会話もなく、パソコンの画面を見るが、集中できない。
 ふと、聖人のかつての告白を思い出した。

―――― 一緒にいるだけでよかった。『子供がほしい』『普通の家庭を作りたい』と言われて別れた。

 恋する人間の勘。それとも先程の原の発言をきっかけにした、ただの嫉妬か。
 聖人のかつての恋人は春永だったのではないだろうか?そんな疑問が新太の心に浮かんで消えなくなった。

 そして、ほどなく聖人が戻ってきた後、待っていたかのように先程の女性が再び現れた。
 原の言うように、ただ書類を渡すだけの用事だったようだが、しつこく話しかけて聖人を食事に誘っていた。
 新太は画面を見つめたまま、二人の会話に耳をそばだてる。
 唇を噛み締め、握る手には力が入っていた。

「ふむ…来栖✕柊木氏もありですねぇ」

 反対の席から送られる原の視線とつぶやきに新太は気づかなかった。


 ◆


「…なんでもないです」

 そんな昼間の出来事を思い出したが言わなかった。
 春永と付き合っていたのかも、聞きたかったが聞くのが怖かった。
 聖人がその女性の誘いに乗ったわけではないし、そもそも彼女のそんな意図にも気づいていない様子だったからだ。
 そして、春永のことは新太の勝手な想像。しかも想像通りだったとしても、何年も前に終わっている相手だ。
 だが、聖人は春永を忘れられなくて、同じ様に女性と付き合ったのではないか。そして写真で脅されて、自分と身体を繋げている。
 

 裸で抱きしめ、首筋に顔をうずめ唇で吸うとまた赤い鬱血痕がついた。聖人の白い肌によく目立つ。自分のものにはならないのに、印をつけるごとに少し安心する自分がいた。

「えっ…と……あのさ…来栖くん、これから暑くなってくるし、その…あまり見えるところに痕とかはつけないでほしいんだけど…」

 付けられた痕に触れながら聖人は言った。

「見せる予定でもあるの?」

「そうじゃなくて…半袖とかも着れなくて…ほら、手首とかちょっと痣になってて…」
 
 聖人の手首は少し紫になっていた。タオルなどで保護していても、無意識に力が加わってしまったのだろう。

「……ごめんなさい…」

 新太は聖人の両手を掴み、少し色の変わってしまった手首にキスをし、悲しそうに目をつむった。

「何か不安とか希望があるなら言ってくれないとわからないよ?」

 切羽詰まったような様子の新太に問いかける。

「不安とか希望?俺に脅されて抱かれているだけの聖人さんに?」

「脅されて…なんて…。違うよ、君と身体を重ねているのは僕の意思だよ?」

 嫌だったらもっと本気で抵抗すれば新太は聖人に従うだろう。そんな優しさは持っている子だ。
 確かに新太のプレイには抵抗がないわけじゃないが、散々みっともない姿を見せてしまっている新太の前だったら、素直に快楽に溺れることができることも事実だ。 

「…だったら…、俺達の関係って何?脅迫している側とされている側じゃないの?」

「……」

 そんなこと聖人にもわからない。上司と部下は間違いないが、このプライベートな関係をなんて表現するんだ。

「…俺、聖人さんに俺のことわかってもらいたいって言ったけど、実際どうしていいのか分かんなくて…せめて身体だけでも、俺じゃなきゃだめなようにしたくて…でも、それでも、聖人さんが誰かに取られてしまいそうで不安で…なんか聖人さんに無茶ばかりするしかできなくて…もう、俺、どうしていいのかわかんなくて…」

「その不安はどうやったら解消するの?僕が君の恋人になればいいの?」

「……でも、俺なんか聖人さんに全然ふさわしい男になれなくて…」

「来栖くんは、来栖くんのままで十分素敵だよ?付き合おう?君の気の済むまで」

「え……」

「毎週末会って、セックスして…普通の恋人同士がすることをしてきたんだ、今更だろ?それとも君にとってはただの性欲処理だった?」

「違う!!絶対そんな事ない!!…聖人さん大好きです!!……大切にします…」

 ぎゅっと抱きしめられながら、涙声で新太が言った。あまえん坊の大型犬みたいで可愛いな、と聖人は思った。自分は貞操帯をつけられたマヌケな姿ではあるけれど。

「…ごめん…聖人さん…嬉しくて、また勃っちゃった…」

 少し鼻をすすりながら新太は告白する。 
 そして、聖人は貞操帯をつけられたまま再び抱かれる。
 自らの両足を両手で抱え、メスイキしか許されない情けない姿も、もはや新太の前だったら構わない。散々みっともない姿を見せてきたのだ。
 そして、聖人が新太から離れられないんじゃなくて、新太が聖人から離れられないように、たくさん甘やかしてあげようと決心するのだった。

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