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12.仕事とプライベート

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 ゴールデンウイーク中、聖人はずっと新太と過ごした。
 ほとんどの時間を聖人の部屋で過ごし、時々二人で食材などの買い物に出かけるだけ。本を読んだり、映画を見たり。意外と映画や好きな小説の話も似ていたし、聖人の読んだビジネス書なんかにも興味を示したり、会話が尽きない。
 聖人は学生時代に戻って友達と過ごしているような気分になった。

 違うのは、新太のスイッチが入るとなぜか合図のように毎回手首とペニスを縛られ、聖人が「出させてくれ」と泣いて懇願するまでひたすら中イキさせられること。
 さんざん抱き潰され、力尽きて横になってしばらくすると、ご飯が出来上がり一緒に食べる。その繰り返し。まるで軟禁されているようだったが、それが不思議と嫌ではなく自分でも不思議だった。

 一度新太が自分の部屋へ着替えを取りに帰った。
 脅されている聖人にとってはもはや拒絶する余地もなく、戻った新太を迎え入れる。戻ってからは、毎回手首を拘束していたものが手錠に変わった。
 もはや抵抗する気なんてないのに、なんのためにこんなことをするのだろう。
 手首に付けられた手錠を見ながら聖人は思った。新太の趣味なのだろうか。

 休み中もともと何の予定も入れていなかったから、困ることもなかったが、仕事が始まるとそうはいかない。明日からの仕事のために、最終日にやっと一人になった時、聖人はほっと一息ついた。
 新太と二人の数日間は、全く嫌ではなかったが、若さゆえの性欲の強さに、流石に体力の限界を感じていた。それに、ずっと刺激されていた穴も乳首も度重なる摩擦で少し赤くなり熱を持っていた。全身には再び新太のつけた赤い印がある。
 手首はタオルなどで保護していたものの、さすがに長時間の拘束により、すこし擦れていた。

 聖人は手首を回しながらため息をついた。
 これからずっとこんな関係が続くのだろうか。
 何度も新太を説得したが、あの写真を削除するのは難しそうだ。
 どうせ今後も誰かと付き合う気もないし、写真なんかなくても新太が飽きるまで身体の関係を続けてもよい、そんな気にすらなってきた。なにより新太との行為は気持ちがいい。

 本能と理性のぶつかり合い。身体をつなげている時は流されてしまいそうな自分と、一人になったときには捨てられる未来への恐怖とが、聖人の頭の中をぐちゃぐちゃに混乱させていた。
 実際、更に敏感になった後孔は、新太が帰って数時間だというのに、すでに肉棒を求めて疼いている。

 「はぁ……」
 新太は再び深いため息を付いた。
 明日からなんでもなかった顔して普通に仕事ができるのだろうか。
 新太は若いから良い。だが、新太に気を許してしまったら、きっと最後に泣くのは自分だ。
 身体が疼いても、気持ちだけは守らなければ。
 聖人は自分の両頬をぱちんと叩いて気合いを入れた。

  *

 心配をよそに新太は、仕事はきちんと一線を引いていた。
 休みの期間中の執着が嘘のようにきちんと部下として接してくれた。
 入ったばかりの新入社員は、どうしても雑務が多いが、嫌な顔せず何事にも一生懸命に取り組み、好感の持てる部下だった。

 そうなると聖人だけが意識しているようで戸惑うが、反面ホッとした。
 仕事にも影響するようなら、そして写真が人目につくことがあれば、いつか覚悟を決めなきゃいけない日がくる、と万が一のために用意した退職願はそっと机の奥底にしまった。

 長く働いていて、それなりに居心地の良い職場をやめたくはない。だが、それだけ新太の撮った写真は聖人にとって致命的であったし、なにより発覚した時の好奇の目にさらされ、耐える自信がなかった。
 大きな会社とは言え、さまざまな噂が飛び交う社内では、きっとあの人の耳にも入るに違いない。
 『子供が欲しい』と聖人を捨てた相手。その後浮気された話はきっと彼の耳にも届いていることだろう。そして今は部下から写真で脅されて体の関係を持っている。そして聖人だけが夢中になってまたフラれたら?それが社内で再び噂になったら?
 もはや過去の相手に対して未練はないが、彼女が浮気し会社で大騒ぎした時の周りの憐れむような目、腫れ物に触るかのような態度は辛かった。これ以上惨めな思いをするのは、流石に聖人のプライドが持ちそうにない。

 仕事上では全くそんな素振りを見せなかった新太だが、その後も毎週末当たり前のようにやってくる様になった。
 初めて新太の家に行った時に、ナポリタンスパゲティを作ってくれたときから思っていたが、新太は料理上手だった。自ら材料を買ってきて、道具もなにも揃っていない上に、狭いキッチンをうまく使いながら手際よく料理を作ってくれる。
 そして狭いベッドで聖人を抱く。それは、彼女と住んでいたときより同棲っぽくて。歯ブラシや着替え、だんだん新太のものが増えていくことにも慣れてきている自分がいて。
 毎週末新太が来るなら、もう少し広い部屋に引っ越そうかと、不動産屋の前を通る度、自然とファミリー物件の広告に目がいってしまう自分に気づき気持ちを引き締めた。

 新太と生活は居心地が良い。
 不満があるとすれば、毎回手を拘束されることと、前でイクことを限界まで制限されること。
 いや、それは不満というより、ひたすらイクことに集中させられて、この快楽に溺れていく恐怖のほうが強い。
 新太は「自分のことわかってほしい」といっていた。ならばこれも新太が聖人に理解してもらいたいと思う性癖なのだろうか。

 二人は長い時間一緒に過ごしたが、新太はあまり自分のことは語らなかった。一度家族の話を聞くと、父親が小さい頃病気で亡くなったという話を少ししたが、それ以上話すのを嫌がった。ただ、学生時代から住んでいるマンションや服装、買い物を見てもお金には困ってなさそうな印象を受けた。
 父親のような存在を求めるが故に年上男性が好きのだろうか。二人でいる時はどこか不安気で必死な新太の態度に、聖人はいつも強く拒めなかった。
 身体はこんなに繋がっているのに、気持ちの上では深い溝があるままだった。
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