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10.脅迫
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「結構会社から近いんですね」
結局ファミレスには寄らず、そこから行く先を指示して二人は聖人の住むマンションへと来た。
一人暮らしであること、付き合っている人がいないことを確認したあと、新太の機嫌は少し良くなった。
「…適当に座って…っていっても、ベッドか床しか座るとこないけど…えっとビールと水しかないんだけどどっち?あ、コーヒーも入れられるけど…」
新太は、ベッドを背もたれに、床に座った。もともと狭い一人暮らし用の部屋に背の高い新太が来るといつもより余計狭さと息苦しさを感じた。
「んー、聖人さん?その前に俺になにか言うことないですか?」
スーツのジャケットをハンガーにかけ、冷蔵庫を覗き込んでいた聖人の動きが止まる。
「あ…あぁ、その…あの時は本当にありがとう。助かったよ」
平静を装い、ペットボトルの水2本をローテーブルに置いた。体勢は自然と中腰になり、距離が近くなるが、視線を新太の方へ向けることができない。
「んー、そっちじゃなくて、なんか謝ることないです?」
新太の指先が聖人の首筋に触れた。あの日新太の印がつけられていたところ。思わずびくりと反応し、距離を置く。
新太はゆっくりと立ち上がり、聖人の顔を両手で包んだ。
聖人は後退りしながら、新太を見上げる。新太がじりじりと迫ってきた。
「その…連絡しなかったことは申し訳ないと思ってる。だけど来栖くんのためにもその方がいいと思って…」
「約束破ったことは認めるんですね?俺、まだあの部屋住んでますよ。聖人さんと行き違いになったら困ると思って。通勤は遠いけど」
「そうだよな、その…ごめん」
顔を両手で包まれたまま、視線だけ逸らす。壁まで追い詰められていた。
「わかりました。とりあえず、それは許します。ちゃんと会えたし。じゃぁ次の話…」
びくっと怯えた聖人を新太はぎゅっと抱きしめた。
「はぁ、やっと捕まえた…」
新太は、安堵のため息をつく。
「ちょ…ちょっとまって!!…その、やっぱ同じ会社内ではまずいから…」
聖人は拒絶の言葉を発し、身体をよじって新太の拘束を解こうとする。途端に新太がムッと不機嫌そうに眉を寄せた。
「ふーん?そうですか…」
新太は少し考え、聖人から離れると、ベッドにどかっと座りスマホをいじり始めた。
「そういえば、さっき言ってた写真、気になりません?」
「え?…ああ…その…写真っていうのは…」
「あ、あった。見ます?」
スマホを操作して、見せられた写真には、明らかに情事の後とわかる寝顔で聖人が寝ていた。
首から鎖骨にかけてたくさんの鬱血痕がつけられている上半身裸の写真。
顔こそうまく写っていなかったものの、下半身が写っているものもあって、内股にも独占欲を表すかのように赤い印がついていた。そして後孔から、白い液体を流しているところも。
「いつの間に…」
めまいがした。
「聖人さん、あの時意識失っちゃって、俺身体拭いたじゃないですか」
「だからってこんな写真!!」
「俺だって軽蔑されるのわかっていたし、見せる気ありませんでしたよ?その後、ちゃんと約束守ってくれると思ってたし。聖人さんを手に入れた嬉しさと記念のつもりで、自分だけでひっそり見るつもりだったんです」
あのとき欲望に負けた罰を受けているのか。
こんな写真が社内に出回ったら…。そう思っただけでゾッとして頭を抱えた。
「最悪だ…」
「聖人さんの言い分もわかりますよ。16歳も年下なんて、頼りがいないし、好みじゃないんですよね?だから一晩だけ楽しんで逃げる気だったんだ。あなたは男でも女でもどっちでもいいんですもんね?」
「来栖くん、そうじゃなくて…」
「俺はあなたしかいないと思っているのに。俺を知る努力すらしてくれないなんて」
「それは君がまだ若いからそう思うんであって、すぐにわかるから…」
「そういうのはいらないんで。俺の気持ちのなにがわかるんですか?聖人さん、スマホかしてださい。俺の連絡先入れときますね。ブロックとかしないでくださいね?写真、晒しますよ?」
「来栖くん!!落ち着いて!!君だって、こんな社内で…しかも直属の上司とそんな…やりづらいだろ?いつかきっと後悔するよ?」
「後悔?こんな形で再会できたのは運命ですよ?」
何を言っても聞き耳を持たない新太に逆らうこともできず、いわれるがままスマホを渡した。気がつくと、ベッドの上に座る新太の足元に、聖人は力なくぺたんと座り込んでいた。
完全にこの場の力関係が出来上がっていた。
ビジネスの場ではこんなにも主導権を握らせることなんて絶対にしないのに。新太の前では、惨めな姿ばかりを見せてしまっているせいかペースを掴めない。新太の前にいると、自分が自分でなくなるような怖さもある。聖人は、顔を両手で覆って呻くようにに謝罪する。
「……来栖くん…本当にごめん。あの時、僕はどうかしてたんだ。気持ちも混乱していたし。起きて正気に戻って…何も知らない君にあんなことをするべきじゃなかったって後悔して…。今更かもしれないけど許して欲しい…」
「聖人さん、苦しまないで。俺は何も知らない子供じゃない。自分のことは自分でよくわかってるし、それに、俺はあなたを責めたいわけじゃないんです。ただ、俺の気持ちをわかってもらいたくて」
顔を覆う両手を掴まれる。
「聖人さんに、今特定の相手がいないのなら、俺の気持ちを伝える努力だけでもさせてください。そしてあなたをもっと知りたいんです。ね?いいでしょ?」
その悪魔のような囁きと脅しに聖人は頷くしかできなかった。
結局ファミレスには寄らず、そこから行く先を指示して二人は聖人の住むマンションへと来た。
一人暮らしであること、付き合っている人がいないことを確認したあと、新太の機嫌は少し良くなった。
「…適当に座って…っていっても、ベッドか床しか座るとこないけど…えっとビールと水しかないんだけどどっち?あ、コーヒーも入れられるけど…」
新太は、ベッドを背もたれに、床に座った。もともと狭い一人暮らし用の部屋に背の高い新太が来るといつもより余計狭さと息苦しさを感じた。
「んー、聖人さん?その前に俺になにか言うことないですか?」
スーツのジャケットをハンガーにかけ、冷蔵庫を覗き込んでいた聖人の動きが止まる。
「あ…あぁ、その…あの時は本当にありがとう。助かったよ」
平静を装い、ペットボトルの水2本をローテーブルに置いた。体勢は自然と中腰になり、距離が近くなるが、視線を新太の方へ向けることができない。
「んー、そっちじゃなくて、なんか謝ることないです?」
新太の指先が聖人の首筋に触れた。あの日新太の印がつけられていたところ。思わずびくりと反応し、距離を置く。
新太はゆっくりと立ち上がり、聖人の顔を両手で包んだ。
聖人は後退りしながら、新太を見上げる。新太がじりじりと迫ってきた。
「その…連絡しなかったことは申し訳ないと思ってる。だけど来栖くんのためにもその方がいいと思って…」
「約束破ったことは認めるんですね?俺、まだあの部屋住んでますよ。聖人さんと行き違いになったら困ると思って。通勤は遠いけど」
「そうだよな、その…ごめん」
顔を両手で包まれたまま、視線だけ逸らす。壁まで追い詰められていた。
「わかりました。とりあえず、それは許します。ちゃんと会えたし。じゃぁ次の話…」
びくっと怯えた聖人を新太はぎゅっと抱きしめた。
「はぁ、やっと捕まえた…」
新太は、安堵のため息をつく。
「ちょ…ちょっとまって!!…その、やっぱ同じ会社内ではまずいから…」
聖人は拒絶の言葉を発し、身体をよじって新太の拘束を解こうとする。途端に新太がムッと不機嫌そうに眉を寄せた。
「ふーん?そうですか…」
新太は少し考え、聖人から離れると、ベッドにどかっと座りスマホをいじり始めた。
「そういえば、さっき言ってた写真、気になりません?」
「え?…ああ…その…写真っていうのは…」
「あ、あった。見ます?」
スマホを操作して、見せられた写真には、明らかに情事の後とわかる寝顔で聖人が寝ていた。
首から鎖骨にかけてたくさんの鬱血痕がつけられている上半身裸の写真。
顔こそうまく写っていなかったものの、下半身が写っているものもあって、内股にも独占欲を表すかのように赤い印がついていた。そして後孔から、白い液体を流しているところも。
「いつの間に…」
めまいがした。
「聖人さん、あの時意識失っちゃって、俺身体拭いたじゃないですか」
「だからってこんな写真!!」
「俺だって軽蔑されるのわかっていたし、見せる気ありませんでしたよ?その後、ちゃんと約束守ってくれると思ってたし。聖人さんを手に入れた嬉しさと記念のつもりで、自分だけでひっそり見るつもりだったんです」
あのとき欲望に負けた罰を受けているのか。
こんな写真が社内に出回ったら…。そう思っただけでゾッとして頭を抱えた。
「最悪だ…」
「聖人さんの言い分もわかりますよ。16歳も年下なんて、頼りがいないし、好みじゃないんですよね?だから一晩だけ楽しんで逃げる気だったんだ。あなたは男でも女でもどっちでもいいんですもんね?」
「来栖くん、そうじゃなくて…」
「俺はあなたしかいないと思っているのに。俺を知る努力すらしてくれないなんて」
「それは君がまだ若いからそう思うんであって、すぐにわかるから…」
「そういうのはいらないんで。俺の気持ちのなにがわかるんですか?聖人さん、スマホかしてださい。俺の連絡先入れときますね。ブロックとかしないでくださいね?写真、晒しますよ?」
「来栖くん!!落ち着いて!!君だって、こんな社内で…しかも直属の上司とそんな…やりづらいだろ?いつかきっと後悔するよ?」
「後悔?こんな形で再会できたのは運命ですよ?」
何を言っても聞き耳を持たない新太に逆らうこともできず、いわれるがままスマホを渡した。気がつくと、ベッドの上に座る新太の足元に、聖人は力なくぺたんと座り込んでいた。
完全にこの場の力関係が出来上がっていた。
ビジネスの場ではこんなにも主導権を握らせることなんて絶対にしないのに。新太の前では、惨めな姿ばかりを見せてしまっているせいかペースを掴めない。新太の前にいると、自分が自分でなくなるような怖さもある。聖人は、顔を両手で覆って呻くようにに謝罪する。
「……来栖くん…本当にごめん。あの時、僕はどうかしてたんだ。気持ちも混乱していたし。起きて正気に戻って…何も知らない君にあんなことをするべきじゃなかったって後悔して…。今更かもしれないけど許して欲しい…」
「聖人さん、苦しまないで。俺は何も知らない子供じゃない。自分のことは自分でよくわかってるし、それに、俺はあなたを責めたいわけじゃないんです。ただ、俺の気持ちをわかってもらいたくて」
顔を覆う両手を掴まれる。
「聖人さんに、今特定の相手がいないのなら、俺の気持ちを伝える努力だけでもさせてください。そしてあなたをもっと知りたいんです。ね?いいでしょ?」
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