交通量調査物語

がしげげ

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7、ロードリサーチ大島危機

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11時…
最初の休憩が終わり、再度カウントが始まる。
カチカチカチカチ。

昼前ということで先程のような中学生はいない。
歩道の人通りも減り、ちらほら見えるのはビジネスマンや散歩中の高齢者、買い物行き帰りの主婦ぐらいだ。

カウントしている車の交通量も、朝に比べると少なく感じる。

僕はカウントしながら、休憩中の話を考えていた。
高橋氏のチームに入るかどうか、だ。

就活は続けていくが、やはり日々を過ごす中で多少のお金は欲しい。
かといって一般的なアルバイト勤務は出来れば避けたかった。
今さら面接からスタートして、というのも正直面倒だ。
そのため雇用形態を考えると、この交通量調査はやりやすいのかもしれない、などと考えていた。

そんな時。

「お疲れ様です。」

高橋氏とは違った、でも懐かしい、少し威圧感を感じる声がした。

振り向くと、そこには大島氏がいた。
研修で説明していたロードリサーチの人間だ。

「お、お疲れ様です。」

研修中に注意された記憶、威圧的な声、そして突然の展開につい焦ってしまった。

「問題ないですか?」

「は、はい。問題ないです。」

「引き続きよろしくお願いします。」

綺麗な言葉遣い。しっかりした口調。
正確でいて情を感じさせない喋り方だった。

サボるつもりも無かったが、真面目に取り組んでいて良かった、と心の底からホッとした。

僕がカウントしている交差点北側から、
大島氏は西側へ歩いていった。

西側でカウントしている調査員はまだ大島氏に気付いていない様子だ。

あれ…?

西側の調査員、ヘルメット被ってない…?

その時だ。

「何してんすか!!」

「ヘルメット!!」

「帰ってもらいますよ!!」

周囲の人がびっくりするほどの大声で、大島氏は西側の調査員を怒鳴り付けた。
そこにハイエースの方から高橋氏がやって来た。

「高橋さん、困りますね!ちゃんと管理してくれないと!!」

これまた大声で高橋氏を怒鳴り付ける大島氏。

「すみません…。注意致します。」

ただただ、謝る高橋氏。

西側の調査員もヘルメットを被り、なんとかその場は収束した。

カチカチカチカチ。

僕は動揺しながらも調査を続けた。
するとしばらくして、交差点から大島氏が去っていった。

出来ればもう来ないで欲しい…

大島氏の言動や行動は決して間違ったことではないと思う。
正論だ。
ただ、どこか威圧的な雰囲気を纏っており、監督員や僕ら調査員を単なる「駒」として見下しているような気がした。



時間は休憩開始の13時直前。
程よく腹が減っていた。

牛丼チェーンに入るか、コンビニおにぎりか…
ここは少しでも節約しとくか。
コンビニおにぎりで決定だな。

「交代しまーす。」

よし、休憩だ。
少しでも長く休むために、足早にコンビニへと向かった。

コンビニではおにぎり2つと、お茶を買った。
昆布とツナマヨのは僕の中で鉄板だ。
お茶はいつも通り濃い目のやつ。

ハイエースで、とも思ったが、
まだチームに入るかどうか答えも出せていなかったので、近くの小さな公園で休憩することにした。

まさかそこであんな出会いが待っているとは知らずに…
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