5 / 19
5、初心者にとっての最大の敵
しおりを挟む
カチカチ。
カチカチカチカチ。
交通量調査デビューから30分が経った。
少し寒いものの、事前にトイレに行ったのでそっちは大丈夫。
仮に雨が降ってきても、雨具がある。
カチカチカチカチ。
既に慣れてきた感じだ。
意外と楽勝?とさえ思い始めた。
気持ちに余裕が出てきたのか、視野が広くなってきた。
ん?
人通りが増えていることに気付いた。
時間は8時35分、通勤や通学のピークである。
カチカチカチカチ。
ジロジロ…
目線を感じる…
横目のためしっかりは見えていないが、僕の横を通り過ぎるビジネスマンが確実にこっちを見ていた。
次は前方から女子中学生が1人歩いてきた。
おとなしそうな雰囲気で、メガネをかけている。
やはり、チラチラとこちらを見ているのが分かる。
嫌だった…
なぜ、そんなに見られないといけないのか…
見世物ではない。
ただ、仕事をしているだけなのに…
でも、逆の立場だったらどうだろう。
交通量調査のことを知っていても、知らなくても、道路や歩道の上でパイプ椅子に座っている人がいたら、かなり目立つだろうな。
道路上でパトカーや救急車が停まっていたり、空き缶をビニール袋パンパンに集めたおじさんが自転車に乗っている光景よりも、交通量調査をしている風景は「非日常的な光景」なんだと思った。
そんなことを考えながらカウントを続けていたとき、前方から6人組の男子中学生が歩いてきているのが見えた。
かなり遠い時点から、盛り上がっている話し声や笑い声が聞こえている。
茶髪、金髪、ピアス…
少しやんちゃな見た目をしている。
頼む、こっちに来ないでくれ。
そこの曲がり角を曲がってくれ。
願い虚しくその6人組は全ての曲がり角をスルーし、ここまで到達することを確定させた。
カチカチカチカチ。
50mぐらいの距離になったとき、1人の男子中学生がこちらを指差しているのが見えた。
気付いたのだろう。
カチカチカチカチ。
その場を離れるわけには行かず、カウントを続けるしかない。
どうしようもない状況。
極力無心になること。
この作戦しかなかった…
その距離約10m。
無心になりきれず、会話がはっきりと聞こえてしまう。
「あれ何?」
「なんで座ってるん?」
「バイト?何計ってるん?」
「お前話しかけてみろって~(笑)」
「俺ああいうの無理やわ~。恥ずいやん(笑)」
「何書いてんねやろ。」
…
なぜこんな惨めな思いをしなければならないのだろうか。
カチ…カチ…
カウンターを押す力も弱くなっているのが分かった。
大学の友人たちは、同じようにこんな思いをしているのだろうか。
やはり就活で成功しなかったことが、この結果なのだろうか。
どこで…僕は間違えたのだろうか…
交通量調査の難しさは、車種を見分けることでも、カウンターを間違いなく押すことでも、調査表に転記することでもなく、
「周りの目に耐える」
これこそが1番難しいことなのかもしれない。
ふと顔を上げてみる。
前方から6人組どころでない人数の集団がこちらに向かってきていた。
男子、女子、複数グループがたまたま固まったのか、その数約30人。
僕の自尊心は、この集団の通過により在庫ゼロになってしまうかもしれない。
いや、確実になるだろう。
この際、給料無くてもいいからこの場から逃げ出そう、
とも考えた。
その時。
「前田さん、問題ないですか~?」
振り向くと、高橋氏がいた。
カチカチカチカチ。
「も、問題は無いのですが…」
「何かありました??」
「人通り、結構ありますね…」
心情までは言わなかったものの、人通りというワードをつい発してしまった。
高橋氏は全てを察したのか、
「慣れですよ(笑)私も最初は嫌でした。」
「でも、別に悪いことやってないし、むしろこの調査データって道路作りに活かされるんですよ。」
「感謝してもらわないと!」
と、明るく僕に話してくれた。
確かに…
悪いことはやってないし、恥ずかしがることもない。
見られるのは嫌だが、耐えれないことも無さそうな気がしてきた。
すると、高橋氏との話と、カウントに集中していたためか、
集団が通り過ぎたことに気づかなかった。
僕は、夕方の下校時間が来ることは少し憂鬱に感じながらも、とりあえず8時~10時の2時間、調査を続けることを達成した。
カチカチカチカチ。
交通量調査デビューから30分が経った。
少し寒いものの、事前にトイレに行ったのでそっちは大丈夫。
仮に雨が降ってきても、雨具がある。
カチカチカチカチ。
既に慣れてきた感じだ。
意外と楽勝?とさえ思い始めた。
気持ちに余裕が出てきたのか、視野が広くなってきた。
ん?
人通りが増えていることに気付いた。
時間は8時35分、通勤や通学のピークである。
カチカチカチカチ。
ジロジロ…
目線を感じる…
横目のためしっかりは見えていないが、僕の横を通り過ぎるビジネスマンが確実にこっちを見ていた。
次は前方から女子中学生が1人歩いてきた。
おとなしそうな雰囲気で、メガネをかけている。
やはり、チラチラとこちらを見ているのが分かる。
嫌だった…
なぜ、そんなに見られないといけないのか…
見世物ではない。
ただ、仕事をしているだけなのに…
でも、逆の立場だったらどうだろう。
交通量調査のことを知っていても、知らなくても、道路や歩道の上でパイプ椅子に座っている人がいたら、かなり目立つだろうな。
道路上でパトカーや救急車が停まっていたり、空き缶をビニール袋パンパンに集めたおじさんが自転車に乗っている光景よりも、交通量調査をしている風景は「非日常的な光景」なんだと思った。
そんなことを考えながらカウントを続けていたとき、前方から6人組の男子中学生が歩いてきているのが見えた。
かなり遠い時点から、盛り上がっている話し声や笑い声が聞こえている。
茶髪、金髪、ピアス…
少しやんちゃな見た目をしている。
頼む、こっちに来ないでくれ。
そこの曲がり角を曲がってくれ。
願い虚しくその6人組は全ての曲がり角をスルーし、ここまで到達することを確定させた。
カチカチカチカチ。
50mぐらいの距離になったとき、1人の男子中学生がこちらを指差しているのが見えた。
気付いたのだろう。
カチカチカチカチ。
その場を離れるわけには行かず、カウントを続けるしかない。
どうしようもない状況。
極力無心になること。
この作戦しかなかった…
その距離約10m。
無心になりきれず、会話がはっきりと聞こえてしまう。
「あれ何?」
「なんで座ってるん?」
「バイト?何計ってるん?」
「お前話しかけてみろって~(笑)」
「俺ああいうの無理やわ~。恥ずいやん(笑)」
「何書いてんねやろ。」
…
なぜこんな惨めな思いをしなければならないのだろうか。
カチ…カチ…
カウンターを押す力も弱くなっているのが分かった。
大学の友人たちは、同じようにこんな思いをしているのだろうか。
やはり就活で成功しなかったことが、この結果なのだろうか。
どこで…僕は間違えたのだろうか…
交通量調査の難しさは、車種を見分けることでも、カウンターを間違いなく押すことでも、調査表に転記することでもなく、
「周りの目に耐える」
これこそが1番難しいことなのかもしれない。
ふと顔を上げてみる。
前方から6人組どころでない人数の集団がこちらに向かってきていた。
男子、女子、複数グループがたまたま固まったのか、その数約30人。
僕の自尊心は、この集団の通過により在庫ゼロになってしまうかもしれない。
いや、確実になるだろう。
この際、給料無くてもいいからこの場から逃げ出そう、
とも考えた。
その時。
「前田さん、問題ないですか~?」
振り向くと、高橋氏がいた。
カチカチカチカチ。
「も、問題は無いのですが…」
「何かありました??」
「人通り、結構ありますね…」
心情までは言わなかったものの、人通りというワードをつい発してしまった。
高橋氏は全てを察したのか、
「慣れですよ(笑)私も最初は嫌でした。」
「でも、別に悪いことやってないし、むしろこの調査データって道路作りに活かされるんですよ。」
「感謝してもらわないと!」
と、明るく僕に話してくれた。
確かに…
悪いことはやってないし、恥ずかしがることもない。
見られるのは嫌だが、耐えれないことも無さそうな気がしてきた。
すると、高橋氏との話と、カウントに集中していたためか、
集団が通り過ぎたことに気づかなかった。
僕は、夕方の下校時間が来ることは少し憂鬱に感じながらも、とりあえず8時~10時の2時間、調査を続けることを達成した。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
1
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる