勇者と呼ばれた君たちへ

新しい世界

（どうなってるんだ？）

涙を拭った手で頬を少し触る。感触はリアルだ。
バチッ！！
思いっきり両手で頬を叩く。
バチッ！！バチッ！！
数回連続で頬を叩く。
鈍い痛みが頬を中心にじんじん広がっていく。

（痛い、現実か？、、、！？！母さんは！？死んだはずの父さんが生きているんだ！代わりに母さんが！！）

嫌な予感が脳裏をよぎった。
慌ててドアを開け、廊下の端の階段を降りる。

（昔住んでいた記憶通りなら階段を降りてすぐにリビングとキッチンがあるはずだ！）

階段を降りると正面にキッチンがあり、キッチンには見慣れた母の姿があった。

「はぁ～」

自然と安堵のため息が口から溢れ、力が抜けて階段の一段目に座り込んでしまった。

「？何でそんな所で座ってるの？早く朝食食べなさい。」

叶人の足音に気づた母は、座りこんでいる息子を怪訝な表情で見つめている。

チン！
トーストの香ばしい匂いが漂ってきた。

ぐぅぅ
（昨日は夕飯を食べ損ねたんだ。）

「昨日夕飯抜くからよ。早く食べなさい。」
「ん？お前何してんだ？」

お腹が鳴り恥ずかしそうな息子をクスクス笑う母親と、ワンテンポ遅れて階段に座り混んでいる息子にツッコむ父親。

（状況が分からないけど、今はご飯を食べて考えよう。）

叶人は立ち上がり、父親が既に座ってるテーブルの向かいの席に座る。
すぐに母親がパンを載せた皿をテーブルに置いて、父親の隣の席に座り、3人で朝食を取った。

それはとても些細でありふれた平凡の日常で、叶人がずっと願っていた日常だった。

朝食を食べた後は顔を洗って身支度をする。
クローゼットに見慣れた制服があったので中学校は同じところらしい。

「行ってきます！」

見上げた空はいつもよりも広く澄んでいる気がする。

（よく分からないが、クヨクヨしても始まらない！せっかくなら人生やり直してやる！！）

叶人は元気に家を飛び出して行った。