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57、天啓(2)

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「ちょ、ちょっと待って、フルール!」

 ぐいぐい詰め寄ってくる令嬢に、王族は後ずさる。

「どうしたのよ、急に……」

「急じゃありません!」

 フルールは必死で訴える。

「わたくし、ずっと探していたんです。自分に何ができるか、自分が何をしたいか。それが……なんです」

 知らない世界に出て、知らないことを知る。それが、フルールのやりたかったことだ。

「お願いします、エリカ殿下。試験があるなら受けます! 資格が必要なら取ります! だからわたくしを使節団の一員として、南側諸国へ連れて行ってください!」

 青い真剣な眼差しに……。

「……試験なんてしなくたって、貴女がどれほど優秀かはよく知っているわ」

 エリカはため息をついて降参する。彼女はフルールの王太子妃教育の師だ。幼い頃から今まで、フルールと同年代でここまで賢い子を見たことがない。
 数カ国の言語に加え、他国の政治経済、歴史にも明るい。それにエリカともウマが合うし、人当たりの良さは集団生活にも向いていて、リーダーシップも取れる。正直、これ以上ない人材だ。

「わたくしだって、できれば貴女に来て欲しいわ。でも……」

 伏し目がちに視線を逸らす。

「貴女はブランジェ家の令嬢。公爵がどう思うか」

 基本的に、貴族の子女に将来の選択肢はない。家長の決定がすべてだ。
 ……だが。

「では、家族を説得できれば、連れて行ってもらえるんですね!」

 その状況が、令嬢の闘志に火をつけた。

「出発はいつですか!?」

「ええと、来月の頭よ」

 もう半月もない。だから先程会ったセドリックはフルールに『エリカに(別れの)挨拶に来たのか?』と訊いたのだ。当然、使節団の件を承知しているという前提で。
 学園卒業後から引き籠もっていて世情に疎くなっていたのが災いした。

「すぐに許可をもらってきます!」

 スカートの裾をつまみ上げ、公爵令嬢は猛然と王従妹の部屋を去っていく。
 廊下を出たすぐ先には、こちらへ向かってくるセドリックの姿があった。待ちきれずに迎えに来たのだろう。

「やあ、フルール。エリカおば様のご用は済んだの?」

「セドリック様、申し訳ありません。お茶はまたの機会に!」

 走るより速い早足歩きで第二王子とすれ違うと、令嬢は脇目も振らず王宮の外へと急ぐ。

「えー! なんで!? フルール!?」

 セドリックの不満の叫びも金髪の後ろ頭には届かない。
 ぶすっと唇を尖らせて、王子は従叔母の部屋に飛び込んだ。

「エリカおば様! フルールはどうしたんですか!?」

 八つ当たり気味に不満をぶつけると、部屋の主はたくさんの荷物に埋もれながら諦めたように天井を見上げた。

「……どうしようもないんじゃないかしら?」
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