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14、聖女の手紙

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「ああ、美味しかったぁ!」

 いっぱいお肉食べてお腹がはちきれそう。
 ロック達ファステ村青年団主催のバーベキューパーティーは、本当に楽しかった。
 みんなが笑顔で、充実しているって感じだった。

「魔王は、国王様とお話して、どうするつもりなの? この国を支配したいの?」

 魔王城に帰った私は、彼に尋ねてみた。

「人を治めるのは人だ。余ではない。余は人の王と話し、人の王が自身の民草の声に耳を傾けるようになればいいと思うておる」

「王様が国民に?」

「そうだ。余は税制を悪いものだとは思わぬ。力なき大勢の者が金品を預け、大きな者が大勢の利益の為に使うという制度は理にかなった物だ。ただ、使わねばならぬ時に使われず、搾取だけするのは如何なものかと」

 ……それは、水害の時に援助もせず、税を取り立てたことを言っているのだろう。
 全員がってわけじゃないけど、自分の利益ばかりを優先する悪辣な貴族は多い。そして、そういう人達ほど、強い権力を持っている。
 魔王は権力者ばかりに優位なジャスティオ王国の制度に口を出そうとしている。
 ……部外者の魔王に自国の政治を引っ掻き回されたら堪らない。それに、もし魔王に屈して税制度の改正を求めるなんて事態になったら、貴族達への国王の面子は丸つぶれだ。
 そりゃあ、国王は対話に応じないわよね。
 でも……約束だから、やるしかない。

「協力は一度だけよ。私は国王に手紙を書く。返事がなかったら諦めて」

「解っておる。無事にそなたを人の里に返すことも約束する。だが、我軍を引くこともせぬ」

 ジャスティオ王国の三分の一は、すでに魔王軍の占領下だ。穏便に対話が取り付けられなければ、魔王は武力で『対話せざるを得ない状況』を作る気だ。
 そうなる前にきっと……魔王は勇者と戦うことになる。

(ジェフリー……)

 つい昨日、フラれた恋人を思い出す。
 私のこと、心配してくれてるかな?

「……私は結婚まで待ってっていっただけなのに、簡単にヤラせてくれる方を選ぶなんて……」

「どうした? 聖女。独りでブツブツ申して」

 思い出して怒りを再燃させる私を、魔王が不思議そうに覗き込んでくる。

「な、なんでもない!」

 いけない。今は王国(+勇者)と魔王軍の全面戦争を回避しなくっちゃ。

「じゃあ、私は手紙を書くわね」

「うむ、頼むぞ。書き上がったらバルトルドに渡すがいい。半日で届けてくれる」

 へえ、王都からモンストル山脈までは馬車で一週間は掛かるのに。

「手紙の中身は確認しないの?」

 私がまったく別の内容を書いたら、どうするつもりなんだろ?
 尋ねる私に、魔王は薄く笑った。

「そなたを信じておるぞ、聖女」

「……!」

 そんなこと言われたら……下手なことできないじゃない。
 私は今朝目覚めた部屋に戻って、手紙を書いた。
 途中、メイドのセレレが夜食の紅茶とクッキーを持ってきてくれたりで、至れり尽くせりだった。

「じゃあ、お願いね」

「御意」

 書いた手紙を執事に渡すと、彼は翼猫に姿を変えて飛び立っていく。
 かなり夜遅いけど、魔族は夜の方が力が漲るし、日常的にあまり寝なくてもいいんだって。便利ね。
 でも、人間の私は一日連れ回されて疲れた。
 さっさと寝ちゃおう。
 ……と思ってベッドに入ったんだけど。

「うう、眠いけど、なんか寝つけない」

 体力は限界なのに、気分が高揚してる時ってあるよね。今日は情報量が多すぎて、頭の整理が追いつかないみたい。

「子守唄、歌いましょうか」

 うだうだと寝返りを打つ私に、羽耳のメイドが訊いてくる。

「私の歌を聴くと、みんな寝ちゃうんですよ。船が沈んじゃうくらい」

 ……そうか、セレレの正体はセイレーンか。
 船は困るけど、ベッドに沈むのは問題ないよね。

「うん、お願い」

 鈴の音のような綺麗な歌声を聴きながら、私は目を閉じる。
 私の手紙で、人族と魔族の諍いが終わればいいな、と思いながら。

 ……だけど。

 その期待は、最悪な形で裏切られた。
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