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140、魔法使い茶寮(5)
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(……なんだかんだいって、私の告白はスルーされちゃったのよね)
魔法使い就任日の回想を終えたリルは、こっそりため息をついた。
あれからスイウは変わらず大樹の家でリルと暮らしているが、二人の関係にもまったく変化はない。
「む~、上手く変化できないぞ!」
「狐の霊獣族は頭に葉を乗せると術が上手くいくという文献を読んだことがある」
「それ、どこの文化だ?」
外に出て形態変化の術を練習するノワゼアとスイウを眺めながら、またため息をつく。
(今は一緒に暮らせるだけで満足しなきゃね)
リルは自分に言い聞かせると、気持ちを切り替えるためにペチペチと両頬を軽く叩いてから、二人の環に合流した。
「私にも鳥になる魔法教えてください!」
「まずはなりたい鳥をイメージして……」
「頭に葉っぱを乗せるといいぞ、葉っぱ」
三人で騒いでいると、
「こんにちはー!」
大きな麻袋を担いだジェレマイヤーがやってきた。
「定期連絡に来ました。リルさん、お変わりありませんか? 相変わらずお美しい」
「ありがとうございます、ジェレマイヤーさん。いつも小麦粉を持ってきていただいて。お茶を淹れますから上がってください」
リルはのほほんと笑ってジェレマイヤーの社交辞令を受け流すが、
「こら、他人の嫁を気安く口説くな」
案の定、ノワゼアが噛みついた。
「美しいものを美しいと言って何が悪いんですか。伴侶を褒められてることを、元魔法使い殿も怒ったりしませんよ」
ねえ? とスイウに水を向けるジェレマイヤーに、リルははてと首を傾げる。
「あの、他人の嫁とか、伴侶とかって……誰の話ですか?」
頭がハテナだらけのリルに、ノワゼアとジェレマイヤーは顔を見合わせて……。
ビシッとリルを指差した。
「ええぇぇぇええ!?」
リルは大げさに飛び上がる。
「わわわっ私がスイウさんの伴侶!? 一体、いつそんな話に!?」
驚いてスイウを仰ぎ見ると、彼はしかつめらしい顔で、
「そのつもりで大樹に残ったのだが……出ていった方がいいか?」
「よくないです! そのつもりで合ってます! 全然問題ないです!!」
首を横に振ったり縦に振ったり、リルは大忙しだ。
「リルー、腹減った。そろそろ飯にしてくれー」
空気を読まず、黒狐が要望を伝えてくる。
「わ、わかった。今作るね」
「手伝おう」
炊事場に向かうリルの手から鱒を奪い、スイウがついてくる。炊事場に彼が来ることなんて滅多にないから、変に緊張してしまう。
「スイウさんが料理を手伝うなんて、珍しいですね」
「魔法使いじゃなくなったから、魔法使いの時にしなかったことをしてみようと思ってな」
まだ現役魔法使いより魔法が巧い元魔法使いが嘯く。
「あの……」
調理台に並んで立つスイウに、リルは躊躇いがちに確認してみる。
「スイウさんて、私のことす……っきなんですか?」
彼は上目遣いに考えて、
「私はあまり多くの人と接してこなかったので、自分の感情を言葉で表現するのが得意ではない。ただ、君のことは他より特別に感じてる。それに……」
「それに?」
聞き返すリルに、スイウは頬を赤く染めてそっぽを向く。
「その時が来たら、最期に口にするのはリルのお茶がいいと思っている」
途端にリルの頬も真っ赤に染まる。
「……まあ、十分ですかね」
自然に笑顔が溢れる。
……彼の言葉は、リルにとって最高の愛の告白だった。
そして今日も……。
碧謐の森の大樹の家では、元気な赤毛の魔女と物静かな伴侶が暮らしていて、美味しいお茶でお客様をおもてなししているのだった。
魔法使い就任日の回想を終えたリルは、こっそりため息をついた。
あれからスイウは変わらず大樹の家でリルと暮らしているが、二人の関係にもまったく変化はない。
「む~、上手く変化できないぞ!」
「狐の霊獣族は頭に葉を乗せると術が上手くいくという文献を読んだことがある」
「それ、どこの文化だ?」
外に出て形態変化の術を練習するノワゼアとスイウを眺めながら、またため息をつく。
(今は一緒に暮らせるだけで満足しなきゃね)
リルは自分に言い聞かせると、気持ちを切り替えるためにペチペチと両頬を軽く叩いてから、二人の環に合流した。
「私にも鳥になる魔法教えてください!」
「まずはなりたい鳥をイメージして……」
「頭に葉っぱを乗せるといいぞ、葉っぱ」
三人で騒いでいると、
「こんにちはー!」
大きな麻袋を担いだジェレマイヤーがやってきた。
「定期連絡に来ました。リルさん、お変わりありませんか? 相変わらずお美しい」
「ありがとうございます、ジェレマイヤーさん。いつも小麦粉を持ってきていただいて。お茶を淹れますから上がってください」
リルはのほほんと笑ってジェレマイヤーの社交辞令を受け流すが、
「こら、他人の嫁を気安く口説くな」
案の定、ノワゼアが噛みついた。
「美しいものを美しいと言って何が悪いんですか。伴侶を褒められてることを、元魔法使い殿も怒ったりしませんよ」
ねえ? とスイウに水を向けるジェレマイヤーに、リルははてと首を傾げる。
「あの、他人の嫁とか、伴侶とかって……誰の話ですか?」
頭がハテナだらけのリルに、ノワゼアとジェレマイヤーは顔を見合わせて……。
ビシッとリルを指差した。
「ええぇぇぇええ!?」
リルは大げさに飛び上がる。
「わわわっ私がスイウさんの伴侶!? 一体、いつそんな話に!?」
驚いてスイウを仰ぎ見ると、彼はしかつめらしい顔で、
「そのつもりで大樹に残ったのだが……出ていった方がいいか?」
「よくないです! そのつもりで合ってます! 全然問題ないです!!」
首を横に振ったり縦に振ったり、リルは大忙しだ。
「リルー、腹減った。そろそろ飯にしてくれー」
空気を読まず、黒狐が要望を伝えてくる。
「わ、わかった。今作るね」
「手伝おう」
炊事場に向かうリルの手から鱒を奪い、スイウがついてくる。炊事場に彼が来ることなんて滅多にないから、変に緊張してしまう。
「スイウさんが料理を手伝うなんて、珍しいですね」
「魔法使いじゃなくなったから、魔法使いの時にしなかったことをしてみようと思ってな」
まだ現役魔法使いより魔法が巧い元魔法使いが嘯く。
「あの……」
調理台に並んで立つスイウに、リルは躊躇いがちに確認してみる。
「スイウさんて、私のことす……っきなんですか?」
彼は上目遣いに考えて、
「私はあまり多くの人と接してこなかったので、自分の感情を言葉で表現するのが得意ではない。ただ、君のことは他より特別に感じてる。それに……」
「それに?」
聞き返すリルに、スイウは頬を赤く染めてそっぽを向く。
「その時が来たら、最期に口にするのはリルのお茶がいいと思っている」
途端にリルの頬も真っ赤に染まる。
「……まあ、十分ですかね」
自然に笑顔が溢れる。
……彼の言葉は、リルにとって最高の愛の告白だった。
そして今日も……。
碧謐の森の大樹の家では、元気な赤毛の魔女と物静かな伴侶が暮らしていて、美味しいお茶でお客様をおもてなししているのだった。
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