130 / 140
130、森の王(2)
しおりを挟む
「追い出されたって、何があったの?」
「解らぬ。ただスイウの看病をしていたら、いきなり枝が伸びてきて妾に巻き付いたかと思うと、外に放られたのじゃ」
「大樹の仕業ってこと?」
リルは疑問でいっぱいになりながらも、大樹のドアに手をかけた。
「ただいま! 帰ってきたよ。開けて!」
呼びかけながら引っ張ってみても、ドアは固く閉ざされたままでびくともしない。リルはヒメ皆を振り返った。
「ヒメちゃん、なにか大樹の機嫌を損ねることしたの? 火を使ったとか」
「まさか!」
ヒメミナは憤慨しながら首を振る。
「妾は水の精ぞ。火を消せても点けることはできん」
「それなら、どうして……」
言いかけた、その時。
「あらあら、また拗ねちゃったの?」
艶のある声が響いた。赤橙色の長い髪を掻き上げながらやってきたのはルビータだ。
「新しい楔が揃った頃かと思って見に来たら……、懐かしい顔があるじゃない」
真っ赤な唇の端を上げ、炎の美女が優美に笑う。
「やるわね、リル。暴れ獅子を手懐けるなんて」
「げっ。火の姐さん、まだ消滅えてなかったのかよ」
たじろぐレオンソードに、ルビータは余裕の笑みを返す。
「あんたこそ、とっくにどこかで野垂れ死んでると思ってたわ」
リルには事情がさっぱり飲み込めないが、火の精霊と二角翼獅子が旧知の間柄というのは窺えた。……というより、レオンソードは森の至るところで色々と黒歴史を作っていたのだろう。
彼らの過去も気になるところだが、今はそれより優先することがある。
「ルビータさん、大樹が中に入らせてくれない理由を知ってるんですか?」
リルが訊くと、ルビータは困ったように頬に手を添える。
「昔もあったのよね。何代か前の魔法使いの代替わりの時、役目を終えて森を出ていこうとする魔法使いを、大樹が中に閉じ込めちゃったの」
「えぇ!? なんでですか?」
食いつくリルに、ルビータは苦笑する。
「その魔法使いのこと、気に入ってたみたい」
あっさり回答されて、リルはかくんと顎を落とす。
「だから、大樹が魔法使いの代替わりを阻止しようとしたんですか? その魔法使いと離れたくなくて?」
確認するリルに頷いて、ルビータは大樹を見上げる。その瞳には敬愛が宿っている。
「気難しいくせに、情念が深いのよね。……森の王サマは」
「解らぬ。ただスイウの看病をしていたら、いきなり枝が伸びてきて妾に巻き付いたかと思うと、外に放られたのじゃ」
「大樹の仕業ってこと?」
リルは疑問でいっぱいになりながらも、大樹のドアに手をかけた。
「ただいま! 帰ってきたよ。開けて!」
呼びかけながら引っ張ってみても、ドアは固く閉ざされたままでびくともしない。リルはヒメ皆を振り返った。
「ヒメちゃん、なにか大樹の機嫌を損ねることしたの? 火を使ったとか」
「まさか!」
ヒメミナは憤慨しながら首を振る。
「妾は水の精ぞ。火を消せても点けることはできん」
「それなら、どうして……」
言いかけた、その時。
「あらあら、また拗ねちゃったの?」
艶のある声が響いた。赤橙色の長い髪を掻き上げながらやってきたのはルビータだ。
「新しい楔が揃った頃かと思って見に来たら……、懐かしい顔があるじゃない」
真っ赤な唇の端を上げ、炎の美女が優美に笑う。
「やるわね、リル。暴れ獅子を手懐けるなんて」
「げっ。火の姐さん、まだ消滅えてなかったのかよ」
たじろぐレオンソードに、ルビータは余裕の笑みを返す。
「あんたこそ、とっくにどこかで野垂れ死んでると思ってたわ」
リルには事情がさっぱり飲み込めないが、火の精霊と二角翼獅子が旧知の間柄というのは窺えた。……というより、レオンソードは森の至るところで色々と黒歴史を作っていたのだろう。
彼らの過去も気になるところだが、今はそれより優先することがある。
「ルビータさん、大樹が中に入らせてくれない理由を知ってるんですか?」
リルが訊くと、ルビータは困ったように頬に手を添える。
「昔もあったのよね。何代か前の魔法使いの代替わりの時、役目を終えて森を出ていこうとする魔法使いを、大樹が中に閉じ込めちゃったの」
「えぇ!? なんでですか?」
食いつくリルに、ルビータは苦笑する。
「その魔法使いのこと、気に入ってたみたい」
あっさり回答されて、リルはかくんと顎を落とす。
「だから、大樹が魔法使いの代替わりを阻止しようとしたんですか? その魔法使いと離れたくなくて?」
確認するリルに頷いて、ルビータは大樹を見上げる。その瞳には敬愛が宿っている。
「気難しいくせに、情念が深いのよね。……森の王サマは」
11
お気に入りに追加
114
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】悪役令嬢は3歳?〜断罪されていたのは、幼女でした〜
白崎りか
恋愛
魔法学園の卒業式に招かれた保護者達は、突然、王太子の始めた蛮行に驚愕した。
舞台上で、大柄な男子生徒が幼い子供を押さえつけているのだ。
王太子は、それを見下ろし、子供に向って婚約破棄を告げた。
「ヒナコのノートを汚したな!」
「ちがうもん。ミア、お絵かきしてただけだもん!」
小説家になろう様でも投稿しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
義理姉がかわいそうと言われましても、私には関係の無い事です
渡辺 佐倉
恋愛
マーガレットは政略で伯爵家に嫁いだ。
愛の無い結婚であったがお互いに尊重し合って結婚生活をおくっていければいいと思っていたが、伯爵である夫はことあるごとに、離婚して実家である伯爵家に帰ってきているマーガレットにとっての義姉達を優先ばかりする。
そんな生活に耐えかねたマーガレットは…
結末は見方によって色々系だと思います。
なろうにも同じものを掲載しています。
若奥様は緑の手 ~ お世話した花壇が聖域化してました。嫁入り先でめいっぱい役立てます!
古森真朝
恋愛
意地悪な遠縁のおばの邸で暮らすユーフェミアは、ある日いきなり『明後日に輿入れが決まったから荷物をまとめろ』と言い渡される。いろいろ思うところはありつつ、これは邸から出て自立するチャンス!と大急ぎで支度して出立することに。嫁入り道具兼手土産として、唯一の財産でもある裏庭の花壇(四畳サイズ)を『持参』したのだが――実はこのプチ庭園、長年手塩にかけた彼女の魔力によって、神域霊域レベルのレア植物生息地となっていた。
そうとは知らないまま、輿入れ初日にボロボロになって帰ってきた結婚相手・クライヴを救ったのを皮切りに、彼の実家エヴァンス邸、勤め先である王城、さらにお世話になっている賢者様が司る大神殿と、次々に起こる事件を『あ、それならありますよ!』とプチ庭園でしれっと解決していくユーフェミア。果たして嫁ぎ先で平穏を手に入れられるのか。そして根っから世話好きで、何くれとなく構ってくれるクライヴVS自立したい甘えベタの若奥様の勝負の行方は?
*カクヨム様で先行掲載しております
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
魅了の魔法を使っているのは義妹のほうでした・完
瀬名 翠
恋愛
”魅了の魔法”を使っている悪女として国外追放されるアンネリーゼ。実際は義妹・ビアンカのしわざであり、アンネリーゼは潔白であった。断罪後、親しくしていた、隣国・魔法王国出身の後輩に、声をかけられ、連れ去られ。
夢も叶えて恋も叶える、絶世の美女の話。
*五話でさくっと読めます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。
藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった……
結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。
ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。
愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。
*設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
*全16話で完結になります。
*番外編、追加しました。
元貧乏貴族の大公夫人、大富豪の旦那様に溺愛されながら人生を謳歌する!
楠ノ木雫
恋愛
貧乏な実家を救うための結婚だった……はずなのに!?
貧乏貴族に生まれたテトラは実は転生者。毎日身を粉にして領民達と一緒に働いてきた。だけど、この家には借金があり、借金取りである商会の商会長から結婚の話を出されてしまっている。彼らはこの貴族の爵位が欲しいらしいけれど、結婚なんてしたくない。
けれどとある日、奴らのせいで仕事を潰された。これでは生活が出来ない。絶体絶命だったその時、とあるお偉いさんが手紙を持ってきた。その中に書いてあったのは……この国の大公様との結婚話ですって!?
※他サイトにも投稿しています。
子持ちの私は、夫に駆け落ちされました
月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる