森の大樹の魔法使い茶寮

灯倉日鈴(合歓鈴)

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130、森の王(2)

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「追い出されたって、何があったの?」

「解らぬ。ただスイウの看病をしていたら、いきなり枝が伸びてきて妾に巻き付いたかと思うと、外に放られたのじゃ」

「大樹の仕業ってこと?」

 リルは疑問でいっぱいになりながらも、大樹のドアに手をかけた。

「ただいま! 帰ってきたよ。開けて!」

 呼びかけながら引っ張ってみても、ドアは固く閉ざされたままでびくともしない。リルはヒメ皆を振り返った。

「ヒメちゃん、なにか大樹の機嫌を損ねることしたの? 火を使ったとか」

「まさか!」

 ヒメミナは憤慨しながら首を振る。

「妾は水の精ぞ。火を消せても点けることはできん」

「それなら、どうして……」

 言いかけた、その時。

「あらあら、また拗ねちゃったの?」

 艶のある声が響いた。赤橙色の長い髪を掻き上げながらやってきたのはルビータだ。

「新しい楔が揃った頃かと思って見に来たら……、懐かしい顔があるじゃない」

 真っ赤な唇の端を上げ、炎の美女が優美に笑う。

「やるわね、リル。暴れ獅子を手懐けるなんて」

「げっ。火の姐さん、まだ消滅えてなかったのかよ」

 たじろぐレオンソードに、ルビータは余裕の笑みを返す。

「あんたこそ、とっくにどこかで野垂れ死んでると思ってたわ」

 リルには事情がさっぱり飲み込めないが、火の精霊と二角翼獅子が旧知の間柄というのは窺えた。……というより、レオンソードは森の至るところで色々と黒歴史を作っやらかしていたのだろう。
 彼らの過去も気になるところだが、今はそれより優先することがある。

「ルビータさん、大樹が中に入らせてくれない理由を知ってるんですか?」

 リルが訊くと、ルビータは困ったように頬に手を添える。

「昔もあったのよね。何代か前の魔法使いの代替わりの時、役目を終えて森を出ていこうとする魔法使いを、大樹が中に閉じ込めちゃったの」

「えぇ!? なんでですか?」

 食いつくリルに、ルビータは苦笑する。

「その魔法使いのこと、気に入ってたみたい」

 あっさり回答されて、リルはかくんと顎を落とす。

「だから、大樹が魔法使いの代替わりを阻止しようとしたんですか? その魔法使いと離れたくなくて?」

 確認するリルに頷いて、ルビータは大樹を見上げる。その瞳には敬愛が宿っている。

「気難しいくせに、情念が深いのよね。……うちの王サマは」
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