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118、襲来(1)
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ギシッ……。
リルが微かな床の軋む音で目を覚ましたのは、早朝のことだった。
首筋を撫でる冷たい空気に小さくくしゃみする。天井の梢から差し込む光の具合からしても、まだ夜が明けきっていない。
まだ寝ていられる時間だが……リルは防寒着代わりに毛布を頭から被って自室を出た。
リビングに行くと、先程の音の主はやはりスイウで、彼はお馴染みの深緑色のローブ姿で外出しようとしているところだった。
リルは(こんな時間に出かけるの?)と一瞬だけ眉を顰めたけれど、森の魔法使いが昼夜を気にしないのは今に始まったことではなかったなと思い直す。
それに、最近のスイウは大樹の家にいる時間の方が少ないくらいだ。
「またどこかへ行くんですか?」
……ちょっと嫌味な言い方になっちゃったかな。若干後悔しつつも、リルは尋ねずにはいられなかった。
「いつもどこに行ってるんですか? 私には言えないことですか?」
不満というより理由のわからないもどかしさをぶつけてしまう。どうせ答えは返ってこないのだろうと諦めていたのだが……。
スイウは少しだけ上目遣いに逡巡してから、
「今、大掛かりな術を構築していて、まもなく完成する」
しっかりと回答した。
「術が発動すれば、猶予が伸びる。その間に、君の知りたいことに何でも答えよう」
スイウの言葉に、リルは大きく目を見開いた。
「なんでも? 私の疑問に答えてくれるんですか!?」
確認する少女に、魔法使いはコクリと頷く。
「ただし、その時は……君にも答えを出してもらう」
神妙な声にドキリと心臓が跳ねる。リルが出さなければならない答えは……。
「いってくる」
呆然としていたリルは、踵を返したスイウに、はっと我に返った。
「い……いってらっしゃい」
引きつった愛想笑いで、魔法使いを送り出す。
閉まったドアに、リルは深いため息をついた。
(猶予って、ヒルデさんの言葉と関係あることだよね)
聖女からの伝言は、とっくに伝えてある。
なにかの期限のためにスイウは動いていて、リルはまだそれを知らされる立場にないのだ。
「……」
胸がもやもやする。気持ちが落ち込むと同時に、眠気がすっかり覚めてしまった。
「さて、お茶でも飲もっと!」
少しでも心を浮上させようと、わざと声に出して言うと、リルは倉庫に下りていった。
リルが微かな床の軋む音で目を覚ましたのは、早朝のことだった。
首筋を撫でる冷たい空気に小さくくしゃみする。天井の梢から差し込む光の具合からしても、まだ夜が明けきっていない。
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リルは(こんな時間に出かけるの?)と一瞬だけ眉を顰めたけれど、森の魔法使いが昼夜を気にしないのは今に始まったことではなかったなと思い直す。
それに、最近のスイウは大樹の家にいる時間の方が少ないくらいだ。
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……ちょっと嫌味な言い方になっちゃったかな。若干後悔しつつも、リルは尋ねずにはいられなかった。
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「今、大掛かりな術を構築していて、まもなく完成する」
しっかりと回答した。
「術が発動すれば、猶予が伸びる。その間に、君の知りたいことに何でも答えよう」
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「なんでも? 私の疑問に答えてくれるんですか!?」
確認する少女に、魔法使いはコクリと頷く。
「ただし、その時は……君にも答えを出してもらう」
神妙な声にドキリと心臓が跳ねる。リルが出さなければならない答えは……。
「いってくる」
呆然としていたリルは、踵を返したスイウに、はっと我に返った。
「い……いってらっしゃい」
引きつった愛想笑いで、魔法使いを送り出す。
閉まったドアに、リルは深いため息をついた。
(猶予って、ヒルデさんの言葉と関係あることだよね)
聖女からの伝言は、とっくに伝えてある。
なにかの期限のためにスイウは動いていて、リルはまだそれを知らされる立場にないのだ。
「……」
胸がもやもやする。気持ちが落ち込むと同時に、眠気がすっかり覚めてしまった。
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