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117、嵐の前(2)
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険悪な男性二人に挟まれ、愉快なお茶会は続行される。
「リルさんのお茶はいつ飲んでも美味しいですね。心が洗われるです」
「我のために淹れられた茶だからな。格別美味しいのだ」
「ははは……」
バチバチ飛ぶ火花を前に、リルは乾いた笑いしか出てこない。二人とも、もう少し大人になればいいのにと思う。
リルが内心ため息をついていると、
「時にリルさん」
ジェレマイヤーが切り出してきた。
「魔法使い殿はどちらに?」
「今は外出中です」
リルの返事に、ジェレマイヤーは唇に手を当て、「困ったな」と呟いた。
「聖女様から言付けがあって参ったのですが」
「ヒルデさんから?」
聖域からの伝言なんて、きっと大切なことなのだろう。しかし、スイウを呼び戻す手段をリルは持っていない。情報伝達魔法はまだ練習中で、上手く届く保証がないのだ。
「私が聞いてスイウさんに伝えられたらいいのですが……そんなわけにもいきませんよね?」
聖域と碧謐の森の管理者のトップ会談に素人が割って入るなどおこがましい。リルはそう思ったのだが……、
「構いませんよ」
あっさり許可が下りた!
「え? いいんですか? 私、一般人ですけど!?」
驚いて確認するが、ジェレマイヤーは平然としている。
「貴女は魔法使い殿に一番近しい森の住人ですから。確実に伝言が届くのなら、聖女様もお許しになるでしょう」
「は、はあ」
意外と大雑把だった。
「じゃあ、ノワ君はちょっと席を外して……」
「むっ。我だけのけ者か?」
リルに退出を促されて不満そうに鼻を鳴らすノワゼアに、ジェレマイヤーは苦笑する。
「いてもらって構いませんよ。どうせ理解できない」
「なんだと!?」
途端に噛みついてくるノワゼアを、ジェレマイヤーは手を挙げて制する。
「『貴方が』ではなく、この場にいる『全員が』理解できないという意味です。聖女様の神託は難解で、その事象が起こってからしか真意が分からない」
……ややこしいパズルのようだ。リルはそう思った。
ジェレマイヤーは姿勢を正し、静かに息を吸い込んだ。
「『今は待つ。しかし、猶予はあまりない』」
抑揚のない声で淀みなく語ってから、彼はふっと肩の力を抜いた。
「……以上です」
ジェレマイヤーの言葉に、リルとノワゼアはぽかんとする。
「それだけか? 他には?」
「これだけです」
ノワゼアは不満げに唇を尖らせた。
「つまらん。意味不明だし。待つとか猶予とか偉そうに。結局何が言いたいんだよ?」
「さあ? 僕にも分かりません。ただ、届いた人にはそのうち意味が解る。それが聖女様の神託です」
「使えん使者だな。聖女も不親切だ」
「僕のことはいいですが、聖女様を侮辱することは許しませんよ。剣の錆にしてやりましょうか?」
「おう、上等だ。表に出ろ!」
またも始まる諍いを前に、リルは押し黙ったまま動かない。
(”猶予”って……)
その言葉だけが、妙に心に引っ掛かった。
「リルさんのお茶はいつ飲んでも美味しいですね。心が洗われるです」
「我のために淹れられた茶だからな。格別美味しいのだ」
「ははは……」
バチバチ飛ぶ火花を前に、リルは乾いた笑いしか出てこない。二人とも、もう少し大人になればいいのにと思う。
リルが内心ため息をついていると、
「時にリルさん」
ジェレマイヤーが切り出してきた。
「魔法使い殿はどちらに?」
「今は外出中です」
リルの返事に、ジェレマイヤーは唇に手を当て、「困ったな」と呟いた。
「聖女様から言付けがあって参ったのですが」
「ヒルデさんから?」
聖域からの伝言なんて、きっと大切なことなのだろう。しかし、スイウを呼び戻す手段をリルは持っていない。情報伝達魔法はまだ練習中で、上手く届く保証がないのだ。
「私が聞いてスイウさんに伝えられたらいいのですが……そんなわけにもいきませんよね?」
聖域と碧謐の森の管理者のトップ会談に素人が割って入るなどおこがましい。リルはそう思ったのだが……、
「構いませんよ」
あっさり許可が下りた!
「え? いいんですか? 私、一般人ですけど!?」
驚いて確認するが、ジェレマイヤーは平然としている。
「貴女は魔法使い殿に一番近しい森の住人ですから。確実に伝言が届くのなら、聖女様もお許しになるでしょう」
「は、はあ」
意外と大雑把だった。
「じゃあ、ノワ君はちょっと席を外して……」
「むっ。我だけのけ者か?」
リルに退出を促されて不満そうに鼻を鳴らすノワゼアに、ジェレマイヤーは苦笑する。
「いてもらって構いませんよ。どうせ理解できない」
「なんだと!?」
途端に噛みついてくるノワゼアを、ジェレマイヤーは手を挙げて制する。
「『貴方が』ではなく、この場にいる『全員が』理解できないという意味です。聖女様の神託は難解で、その事象が起こってからしか真意が分からない」
……ややこしいパズルのようだ。リルはそう思った。
ジェレマイヤーは姿勢を正し、静かに息を吸い込んだ。
「『今は待つ。しかし、猶予はあまりない』」
抑揚のない声で淀みなく語ってから、彼はふっと肩の力を抜いた。
「……以上です」
ジェレマイヤーの言葉に、リルとノワゼアはぽかんとする。
「それだけか? 他には?」
「これだけです」
ノワゼアは不満げに唇を尖らせた。
「つまらん。意味不明だし。待つとか猶予とか偉そうに。結局何が言いたいんだよ?」
「さあ? 僕にも分かりません。ただ、届いた人にはそのうち意味が解る。それが聖女様の神託です」
「使えん使者だな。聖女も不親切だ」
「僕のことはいいですが、聖女様を侮辱することは許しませんよ。剣の錆にしてやりましょうか?」
「おう、上等だ。表に出ろ!」
またも始まる諍いを前に、リルは押し黙ったまま動かない。
(”猶予”って……)
その言葉だけが、妙に心に引っ掛かった。
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