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104、森の魔法使いのこと(4)
しおりを挟む「ぐわぁ~~~~~~っ!」
自室のベッドにダイブし、枕に顔を埋めてバタ足で泳ぐ。ただいまリルは独り反省会を絶賛開催中だ。
「なんであんなこと言っちゃったんだろう……」
いくら腹が立ったからとはいえ、話を『大っ嫌い』で打ち切るなんて、あまりにも幼稚だ。
「……でも、あれはスイウさんが悪いと思わない? 全部事実でも伝え方ってもんがあるじゃん」
寝返りを打って仰向けになり、枕を抱きしめたまま呼びかけるけど、天井の梢はそよともしない。……大樹は家の中の事象を全て把握しているはずなのに。
「魔法使いは絶えない……か」
声に出して呟く。
その言葉が本当なら、リルが去っても新たな適任者が自動的に現れるというのだろうか。
「……それは嫌だなぁ」
自分が替えの効く存在だなんて知りたくなかった。
「ねぇ、私は魔法使いに向いてると思う?」
尋ねてみても、大樹は答えない。
……リルが森に留まるか、それとも出ていくかは、彼女以外の誰も答えをくれない。
枕を抱えてしばらくゴロゴロした後、リルは「よし!」と気合を入れて起き上がった。
倉庫に下りると甘めの茶葉を四つ見繕って合組する。それからリビングに戻ってティーセットの用意。
準備が整うと奥の部屋に向かう。ドアをノックする手が躊躇う。リルは深呼吸して、精一杯平静を装って声をかけた。
「スイウさん。お茶がはいりましたよ」
それだけ言って、返事も聞かずにリビングに戻った。
(さっき魔法使いの手紙で『お茶を淹れてくれ』って言ってたもんね)
それはただのこじつけだったが、この気まずい状況を打開する為の苦肉の策だ。
ティーポットに湯を注ぎ茶葉を蒸らすと、華やかな甘い香りが室内に広がっていく。蒸らし時間が終わるタイミングでスイウが自室から出てきた。
無言で椅子に座る彼に内心安堵しつつ、リルはティーカップにお茶を注いだ。
多分スイウは怒ってないから、リルも言葉では謝れないけど……お茶に籠めた想いは伝わると思う。
二人は対面に座り、労るような甘い風味のお茶を暫し味わう。一杯目のお茶が空になる頃、ティーポットに新しい湯を挿しながらリルからさり気なく切り出した。
「スイウさんは、どうして魔法使いになったんですか?」
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