森の大樹の魔法使い茶寮

灯倉日鈴(合歓鈴)

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102、森の魔法使いのこと(2)

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「空路?」

「そうだ。こうして……」

 言いながらスイウは紙に何かを書きつけ、それを鳥の形に折った。呪文を唱え紙の鳥を宙に投げると、一瞬羽ばたいてからパッと姿を消した。

「き、消えた!? どこに行ったの?」

 驚いてキョロキョロ辺りを見回すリルの耳元に、

『お茶を淹れてくれ』

「きゃ!?」

 いきなり聞き知った声が響いた。

「え? 何? 今のスイウさん??」

 リルは右耳を押さえて呆然とする。だってスイウは目の前にいるのに、耳元で声が聞こえるなんて。

「これが魔法使いの情報伝達方法だ」

 スイウは淡々と説明する。

「用件を魔力に乗せて遠隔地に飛ばす。これは受信相手の所在地が分かっていないと出来ない技だ」

「その魔法で、聖域にジェレマイヤーさんのことを伝えたんですか?」

「聖域は結界で守られているから術が途中で消滅する可能性もあったが、無事に主の元に届いたようだ」

「へぇ……」

 魔法にはいろいろな術があるのだな、とリルは感心する。

「それでヒルデさんは碧謐うちの森まで来たんですね。あの渦みたいのから出てきた魔法は、さっきの情報伝達魔法と同じなんですか?」

 さらなる問いに、魔法使いは「いいや」と首を振る。

「あれは聖女独自の能力だ。人が生きたまま空間を渡るのは危険な行為だ。長距離は特にな。常人ならば負荷に耐えられず肉体が消滅する。聖女は聖域からこの森まで、いくつかの支部教会を経由して負荷を減らし渡ってきたのだろう」

「だから一週間くらい時間が空いたんですね」

 それでも、危険を冒してまで部下に会いに来たのだから、聖女は慈悲深いのだと思う。

「そういえば、ヒルデさんがスイウさんが鍵を開けておいてくれたから来れたって」

「森の結界は強い力を弾く。あらかじめ結界の一部に穴を開けて、聖女が通れるようにしておいた」

「なるほど」

 リルは感心する。

「ヒルデさんの魔力が強いから、普通に森には入れないってことですか?」

「そうだ」

 スイウは頷いてから、

「あと、聖者の能力は魔力とは呼ばず、神霊力と表す。彼等は『魔』という言葉を自分達に使われることを嫌う」

「は、はぁ……」

 思想によってマナーも違う。リルが魔法使いになるのなら、魔法以外にも覚えなければならないルールが山程あるようだ。
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