森の大樹の魔法使い茶寮

灯倉日鈴(合歓鈴)

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88、昔話(3)

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 同胞が起こした事件のせいで、たった独りでこの広大な森を管理することになった魔法使い。

「ところで、その聖域とのいざこざって、いつ頃の話ですか?」

 リルの質問に、レオンソードはこめかみに指を当てて思い出す。

「えーと、あれから十九万回くらい日が昇ったかな?」

「……」

 多分、五百数十年ほど経っていると思われる。

「スイウさんは、自分は八代目の魔法使いだって言ってましたが、その事件って何代目の時に起きたのですか? それとも事件の後から何代目か決めたんですか?」

「三代目だよ。何代目ってのは、元々魔法使い共同体の代表の呼び名だったんだ。前任者が引退した後、一番強い魔力を持つ者がおさを受け継ぐ。諍いを起こした奴は三代目、つまり当時の一番強い魔法使いだった。聖域と取引したのは四代目、そこからは森の魔法使いは一人だ」

「詳しいんですね」

「俺、魔法使いと話すの結構好きだったから」

 風に乱れる髪を耳にかけるレオンソードは、少し淋しげに見えた。

「……レオンソードさんは、森の争いの時どっちの味方についたんですか?」

 魔法至上主義に賛同する側と、反対する側。
 見上げる少女に、人外の青年は秀麗な顔で微笑んだ。

「内緒」

 唇に人差し指を当ていたずらっぽく言う。それ以上語る気はないようだ。リルは話題を変えてみる。

「あと、結界の綻びとか楔のことですが……」

「ああ、それね」

 追加の質問に、彼は明るく返す。

「さっき、四代目の魔法使いが森に結界を張るって聖域と約束したって話しただろ?」

「はい」

「その約束通り、魔法使いは結界を張った。でも、森は広すぎて一人で十分な強度の結界を張るのは難しかったから、住人の助けを借りることにしたんだ」

「助け?」

「そう、魔法使いは四人の精霊と契約を交わし、彼等を『くさび』にすることで結界を創った」

「楔? どっかに打ち付けられてるんですか?」

「いいや、ものの例えだよ。森の中にいる限り自由に動き回れる」

 それなら良かったと、リルは胸を撫で下ろす。この森のどこかに人柱が立っているかと思うと夢見が悪い。

「結界の楔は魔法使いの代替わりの度に新たな契約を結ぶ必要がある。それに、契約を結べたとしても『森の王』の承認が得られないと結界は発動しない」

「森の王!?」

 知らない単語が出てきて、リルは驚きに身を乗り出して……崖から落ちそうになって慌てて仰け反る。

「お……王様がいるんですか? この森に?」

「一応。特に王様らしいことしてないけどね」

 ……この森には、まだまだ私の知らないことが多すぎる。リルは混乱に頭を抱えるが……ふと思い出して顔を上げる。

「じゃあ、楔が一つ欠けたというのは……」

「最近、楔を担ってた奴が一人死んだってこと」

「~~~っ」

 今度こそ、心の許容量を超えたリルは絶叫した。
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