88 / 140
88、昔話(3)
しおりを挟む
同胞が起こした事件のせいで、たった独りでこの広大な森を管理することになった魔法使い。
「ところで、その聖域とのいざこざって、いつ頃の話ですか?」
リルの質問に、レオンソードはこめかみに指を当てて思い出す。
「えーと、あれから十九万回くらい日が昇ったかな?」
「……」
多分、五百数十年ほど経っていると思われる。
「スイウさんは、自分は八代目の魔法使いだって言ってましたが、その事件って何代目の時に起きたのですか? それとも事件の後から何代目か決めたんですか?」
「三代目だよ。何代目ってのは、元々魔法使い共同体の代表の呼び名だったんだ。前任者が引退した後、一番強い魔力を持つ者が長を受け継ぐ。諍いを起こした奴は三代目、つまり当時の一番強い魔法使いだった。聖域と取引したのは四代目、そこからは森の魔法使いは一人だ」
「詳しいんですね」
「俺、魔法使いと話すの結構好きだったから」
風に乱れる髪を耳にかけるレオンソードは、少し淋しげに見えた。
「……レオンソードさんは、森の争いの時どっちの味方についたんですか?」
魔法至上主義に賛同する側と、反対する側。
見上げる少女に、人外の青年は秀麗な顔で微笑んだ。
「内緒」
唇に人差し指を当ていたずらっぽく言う。それ以上語る気はないようだ。リルは話題を変えてみる。
「あと、結界の綻びとか楔のことですが……」
「ああ、それね」
追加の質問に、彼は明るく返す。
「さっき、四代目の魔法使いが森に結界を張るって聖域と約束したって話しただろ?」
「はい」
「その約束通り、魔法使いは結界を張った。でも、森は広すぎて一人で十分な強度の結界を張るのは難しかったから、住人の助けを借りることにしたんだ」
「助け?」
「そう、魔法使いは四人の精霊と契約を交わし、彼等を『楔』にすることで結界を創った」
「楔? どっかに打ち付けられてるんですか?」
「いいや、ものの例えだよ。森の中にいる限り自由に動き回れる」
それなら良かったと、リルは胸を撫で下ろす。この森のどこかに人柱が立っているかと思うと夢見が悪い。
「結界の楔は魔法使いの代替わりの度に新たな契約を結ぶ必要がある。それに、契約を結べたとしても『森の王』の承認が得られないと結界は発動しない」
「森の王!?」
知らない単語が出てきて、リルは驚きに身を乗り出して……崖から落ちそうになって慌てて仰け反る。
「お……王様がいるんですか? この森に?」
「一応。特に王様らしいことしてないけどね」
……この森には、まだまだ私の知らないことが多すぎる。リルは混乱に頭を抱えるが……ふと思い出して顔を上げる。
「じゃあ、楔が一つ欠けたというのは……」
「最近、楔を担ってた奴が一人死んだってこと」
「~~~っ」
今度こそ、心の許容量を超えたリルは絶叫した。
「ところで、その聖域とのいざこざって、いつ頃の話ですか?」
リルの質問に、レオンソードはこめかみに指を当てて思い出す。
「えーと、あれから十九万回くらい日が昇ったかな?」
「……」
多分、五百数十年ほど経っていると思われる。
「スイウさんは、自分は八代目の魔法使いだって言ってましたが、その事件って何代目の時に起きたのですか? それとも事件の後から何代目か決めたんですか?」
「三代目だよ。何代目ってのは、元々魔法使い共同体の代表の呼び名だったんだ。前任者が引退した後、一番強い魔力を持つ者が長を受け継ぐ。諍いを起こした奴は三代目、つまり当時の一番強い魔法使いだった。聖域と取引したのは四代目、そこからは森の魔法使いは一人だ」
「詳しいんですね」
「俺、魔法使いと話すの結構好きだったから」
風に乱れる髪を耳にかけるレオンソードは、少し淋しげに見えた。
「……レオンソードさんは、森の争いの時どっちの味方についたんですか?」
魔法至上主義に賛同する側と、反対する側。
見上げる少女に、人外の青年は秀麗な顔で微笑んだ。
「内緒」
唇に人差し指を当ていたずらっぽく言う。それ以上語る気はないようだ。リルは話題を変えてみる。
「あと、結界の綻びとか楔のことですが……」
「ああ、それね」
追加の質問に、彼は明るく返す。
「さっき、四代目の魔法使いが森に結界を張るって聖域と約束したって話しただろ?」
「はい」
「その約束通り、魔法使いは結界を張った。でも、森は広すぎて一人で十分な強度の結界を張るのは難しかったから、住人の助けを借りることにしたんだ」
「助け?」
「そう、魔法使いは四人の精霊と契約を交わし、彼等を『楔』にすることで結界を創った」
「楔? どっかに打ち付けられてるんですか?」
「いいや、ものの例えだよ。森の中にいる限り自由に動き回れる」
それなら良かったと、リルは胸を撫で下ろす。この森のどこかに人柱が立っているかと思うと夢見が悪い。
「結界の楔は魔法使いの代替わりの度に新たな契約を結ぶ必要がある。それに、契約を結べたとしても『森の王』の承認が得られないと結界は発動しない」
「森の王!?」
知らない単語が出てきて、リルは驚きに身を乗り出して……崖から落ちそうになって慌てて仰け反る。
「お……王様がいるんですか? この森に?」
「一応。特に王様らしいことしてないけどね」
……この森には、まだまだ私の知らないことが多すぎる。リルは混乱に頭を抱えるが……ふと思い出して顔を上げる。
「じゃあ、楔が一つ欠けたというのは……」
「最近、楔を担ってた奴が一人死んだってこと」
「~~~っ」
今度こそ、心の許容量を超えたリルは絶叫した。
7
お気に入りに追加
114
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】断罪ざまぁも冴えない王子もお断り!~せっかく公爵令嬢に生まれ変わったので、自分好みのイケメン見つけて幸せ目指すことにしました~
古堂 素央
恋愛
【完結】
「なんでわたしを突き落とさないのよ」
学園の廊下で、見知らぬ女生徒に声をかけられた公爵令嬢ハナコ。
階段から転げ落ちたことをきっかけに、ハナコは自分が乙女ゲームの世界に生まれ変わったことを知る。しかもハナコは悪役令嬢のポジションで。
しかしなぜかヒロインそっちのけでぐいぐいハナコに迫ってくる攻略対象の王子。その上、王子は前世でハナコがこっぴどく振った瓶底眼鏡の山田そっくりで。
ギロチンエンドか瓶底眼鏡とゴールインするか。選択を迫られる中、他の攻略対象の好感度まで上がっていって!?
悪役令嬢? 断罪ざまぁ? いいえ、冴えない王子と結ばれるくらいなら、ノシつけてヒロインに押しつけます!
黒ヒロインの陰謀を交わしつつ、無事ハナコは王子の魔の手から逃げ切ることはできるのか!?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
魅了の魔法を使っているのは義妹のほうでした・完
瀬名 翠
恋愛
”魅了の魔法”を使っている悪女として国外追放されるアンネリーゼ。実際は義妹・ビアンカのしわざであり、アンネリーゼは潔白であった。断罪後、親しくしていた、隣国・魔法王国出身の後輩に、声をかけられ、連れ去られ。
夢も叶えて恋も叶える、絶世の美女の話。
*五話でさくっと読めます。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
私が、良いと言ってくれるので結婚します
あべ鈴峰
恋愛
幼馴染のクリスと比較されて悲しい思いをしていたロアンヌだったが、突然現れたレグール様のプロポーズに 初対面なのに結婚を決意する。
しかし、その事を良く思わないクリスが・・。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
義理姉がかわいそうと言われましても、私には関係の無い事です
渡辺 佐倉
恋愛
マーガレットは政略で伯爵家に嫁いだ。
愛の無い結婚であったがお互いに尊重し合って結婚生活をおくっていければいいと思っていたが、伯爵である夫はことあるごとに、離婚して実家である伯爵家に帰ってきているマーガレットにとっての義姉達を優先ばかりする。
そんな生活に耐えかねたマーガレットは…
結末は見方によって色々系だと思います。
なろうにも同じものを掲載しています。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
【完結】6人目の娘として生まれました。目立たない伯爵令嬢なのに、なぜかイケメン公爵が離れない
朝日みらい
恋愛
エリーナは、伯爵家の6人目の娘として生まれましたが、幸せではありませんでした。彼女は両親からも兄姉からも無視されていました。それに才能も兄姉と比べると特に特別なところがなかったのです。そんな孤独な彼女の前に現れたのが、公爵家のヴィクトールでした。彼女のそばに支えて励ましてくれるのです。エリーナはヴィクトールに何かとほめられながら、自分の力を信じて幸せをつかむ物語です。
父が転勤中に突如現れた継母子に婚約者も家も王家!?も乗っ取られそうになったので、屋敷ごとさよならすることにしました。どうぞご勝手に。
青の雀
恋愛
何でも欲しがり屋の自称病弱な義妹は、公爵家当主の座も王子様の婚約者も狙う。と似たような話になる予定。ちょっと、違うけど、発想は同じ。
公爵令嬢のジュリアスティは、幼い時から精霊の申し子で、聖女様ではないか?と噂があった令嬢。
父が長期出張中に、なぜか新しい後妻と連れ子の娘が転がり込んできたのだ。
そして、継母と義姉妹はやりたい放題をして、王子様からも婚約破棄されてしまいます。
3人がお出かけした隙に、屋根裏部屋に閉じ込められたジュリアスティは、精霊の手を借り、使用人と屋敷ごと家出を試みます。
長期出張中の父の赴任先に、無事着くと聖女覚醒して、他国の王子様と幸せになるという話ができれば、イイなぁと思って書き始めます。
命を狙われたお飾り妃の最後の願い
幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】
重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。
イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。
短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。
『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる