森の大樹の魔法使い茶寮

灯倉日鈴(合歓鈴)

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86、昔話(1)

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「今よりちょっと昔、この森には魔法使いがたくさんいたんだ」

 強い風が癖のある長い前髪を跳ね上げ、額の傷が露わになる。そんなことを気にも留めず、レオンソードは歌うように語る。

「魔法使いは俺等のような『力ある存在もの』を視て声を聴いて、人ならざる力を行使する者。異端な彼等は人里を離れ、精霊の多い地で暮らすのが常らしい」

 リルも森や山に住む魔法使いの話は聞いたことがある。

「魔法使い達は森の中にそれぞれ居を構え、魔法の知識に研鑽を重ねてきた。その技術で度々里の人間を救うこともあったという」

 畏怖の対象でありながらも、森の魔法使いと里の人間は絶妙な均衡を保ちながらお互いの生活を守ってきた。

「しかし……ある魔法使いの出現が、穏やかな森の空気を一変させた」

 レオンソードは唇の端を皮肉げに歪めた。

は『何故、優れた我等が凡庸な里の人間共に迫害され、暗い森に押し込められねばならないのだ!』と声高に訴えた。そしてそれは、そいつに賛同する者と、反する者との諍いに発展した」

「魔法使い同士がケンカを始めたんですか?」

 驚愕するリルに、

「内輪もめで済めば良かったんだけどね」

 レオンソードはニヤリと笑う。

「魔法使い至上主義の連中は反対派を捻じ伏せる為、そして自分の力を誇示する為に、精霊を操り魔物を従え、瘴気を生み禍物を創り出した。勿論、無関係な森の住人も巻き込まれて大乱闘だ」

「ちょっ!!」

 リルは思わず悲鳴を上げた。

「なんですか、その地獄の釜が開いた状態は。大惨事じゃないですか!」

「うん、結構阿鼻叫喚だったよ」

 レオンソードはあっさり肯定する。

「その戦いで魔法使い達はほとんど死んだし、元凶の魔法使いも死んだ。森は瘴気に穢されたし、近くの人里も魔物に襲撃された上に疫病まで蔓延した」

「そんな……」

 真っ青になったリルは震える唇で問う。

「で、でも、今は森は無事じゃないですか。近くに大きな街だってあるし……」

「そりゃあ、聖域の介入があったからね」

 レオンソードは、やっとここまでたどり着いたと凝った肩を回す。そして、

「魔法使いがごっそり死んで森の住人も疲弊しきった時、奴等はやって来たんだ」

 苦々しく吐き捨てた。
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